中将「強いぞ」副官「嘘ですよ」   作:偽馬鹿

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流れには乗っておく主義でもあるので。


中将「最強だぞ」副官「クソ雑魚ですよ」

○月○日晴れ

日誌を書けと言われたので書く。

今日は暇だった。

基本的に暇な方がいいんだよな、俺の仕事。

だって海賊が出ないわけだし。

 

というわけで今日は平和。

なんか海賊が出たって聞いてるけど、平和平和。

あー■■(インクの染みが広がっている)

 

 

○月◇日曇り

今日は近くの刑務所まで護送の任務だ。

昨日出くわした海賊を捕まえて引き渡しである。

何だかんだ強いのだ、俺は。

多分な。

東の海では中々いないんじゃない?

これだけの強さの海兵って奴は。

 

追記

副官ちゃんに俺のおやつをとられた。

 

 

○月▲日雨

刑務所に辿り着き、引き渡しも完了。

特に問題もなく、適当に終わらせる。

強いから当然ではあるが、俺は将官である。

それなのに何故か東の海で燻っている。

おかしい。

何かの陰謀だろうか。

 

……気のせいか。

副官ちゃんは優秀だからな。

俺が気付かないことにも気づいてくれるしな。

 

追記

副官ちゃんがお昼寝してた。

 

 

◇月◇日晴れ

紹介が遅れたが、俺は悪魔の実の能力者である。

名前は忘れた。

ちなみに俺の名前はルシフである。

みんながふーさんって呼んでくる。

別に気にしてはいないが、俺のことを気楽に呼び過ぎてない?

愛称で呼ばれる将校ってやばい?

 

追記

副官ちゃんが言うにはセーフだそうだ。

安心した。

 

 

◇月●日晴れ

何か最近凄い海賊が出てきたらしい。

名前は忘れた。

嘘だが。

麦わらのルフィ。

海賊王になるらしい。

多分だが。

何か忘れている気がするが、まあ思い出せないってことは細かいことなんだろう。

だからきっと大丈夫。

 

追記

何故か副官ちゃんに怒られた。

 

 

▲月◇日雨

なんだかボロボロの海賊団に出くわすなど。

なんだったか。

思い出せないや。

とりあえず捕縛して刑務所にリリース。

死者を出さないことに関しては一流だぞ。

何せ俺は強いからな。

 

追記

副官ちゃんにアイス取られた。

 

 

 

▲月●日晴れ

何だか麦わら帽子をかぶった海賊旗を掲げた海賊船に出会うなど。

何故か急速旋回して逃げ出したが。

こっちが。

なんで?

負けないんだが???

賞金3000万ベリーだろうと勝てるんだが???

 

何故か副官ちゃんに怒られるなど。

理不尽。

 

 

□月〇日晴れ

今日は眠いので寝る。

と思ったら何か騒がしいので部屋を出ると副官ちゃんが怒ってた。

なんか俺の扱いに不満があるらしい。

電々虫に抗議していた。

いいぞいいぞ。

もっと強い海に送ってもいいんだぞ?

 

追記

いきなり偉大なる航路……だと……?

 

 

□月▲日雨

新しい職場に出勤してみると、なんかいかつい連中がたくさんいる。

雑魚が……とか言われたけど多分俺の方が強い。

多分な。

仲間同士で戦うとか無駄の極みだからやらないが。

そもそも覇気出せてないじゃんこいつら。

 

追記

副官ちゃんが褒めてくれた。

何もしてないんだが。

 

 

□月〇日晴れ

アラバスタなる島で警護の仕事に就くなど。

なんだかここでは海軍よりも海賊のクロコダイルがもてはやされているらしい。

困った。

誰も尊敬してくれてない。

子供からも役立たず呼ばわりである。

なんだと、俺は強いんだぞ。

将校だぞ。

 

追記

子供と喧嘩するなと副官ちゃんに怒られた。

 

 

▽月◇日晴れ

何か反乱軍が出たらしいので鎮圧しに行った。

俺強過ぎ。

死者無しで反乱軍を一網打尽だぜ。

実は俺天才なのでは?

知ってたが。

 

追記

俺の生ハムメロンが副官ちゃんに取られた。

 

 

●月〇日晴れ

何か色々ときな臭いらしい。

唐突にジト目で睨んできた副官ちゃんにおやつを差し出して機嫌を取った。

クロコダイルがなんか怪しいことをしているとかしていないとか。

そんな噂は欠片もないのだが、副官ちゃんは怪しんでいる様子。

まー多分そうなんだろうな。

副官ちゃんが間違ってたことはないしな。

そういうことにしておこう。

皆にも警戒していてもらおう。

 

追記

副官ちゃんがデレた。

 

 

●月◇日晴れ

内通者がいるらしい。

なんと、副官ちゃんが本当にクロコダイルの尻尾を掴んできた。

つよい。

いや俺の方が強いが???

そして内通者というのがこの女性。

うん、美人さんだね。

ところで副官ちゃんが怒ってるんだけど何か知ってる?

 

追記

おやつがない。

 

 

●月●日晴れ

何だかえらいことになっているらしい。

反乱軍が大きくなって、どんどん勢力を増しているとかなんとか。

仕方がないので俺が出張って何とかしているが、副官ちゃんの顔はあんまりよろしくない。

まあ俺が負けるわけがないから気にする必要はないのだが。

そう言うとちょっとだけ笑った。

任せろ。

俺なら負けない。

 

追記

今日はちゃんとおやつがあった。

 

 

☆月○日晴れ

何やら見覚えのある海賊船を見つけた。

確か麦わらの一味。

東の海で会ってから生き残ってここまで来たのか。

強いな。

まあ俺の方が強いが。

 

と、意気込んでいたら戦う必要はないと副官ちゃんに言われた。

なんだ、そうなのか。

気合いが空回りした。

今日はやる気が出ないな。

ご飯食べよ。

 

追記

ご飯の量が少なかった気がする。

 

 

☆月◇日晴れ

反乱軍がやばいことになった。

何だか王様がやばいことを言ったらしくて、それが火種になって爆発したらしい。

らしい、というのは副官ちゃんが違う違うって言っているからだ。

ということは、違うのだろう。

俺は強いからな。

信頼できる方を信頼する。

 

反乱軍は殺さない。

国王軍も殺さない。

麦わらの一味とは戦わない。

 

つまるところ。

クロコダイルと戦えばいいのでは?

 

追記

副官ちゃんが怒った。

 

 

☆月×日晴れ

クロコダイルは殺す。

 

 

○月○日晴れ

勝った。

何だか麦わらのルフィが頑張ったらしい。

結局クロコダイルと戦うことはなかったが、暴れたので満足した。

副官ちゃんも無事である。

さて。

寝るか。

 

追記

起きたら副官ちゃんの顔が目の前にあった。

 

 

 

 

―――――中将ルシフ。

東の海に何故か存在している海軍将校。

その副官を務めているのが私、ツルギ。

 

姓はない。

彼に拾われた私は、血の滲むような努力をして彼の副官へと就いた。

心底危ない所だった。

 

とにもかくにもこのルシフ中将、のんきである。

当人に特別な何かがあるわけではなく、ただ強いという面倒臭い人。

後ろ盾がないから利用されまくり暗殺されまくりなので、こちらが何とか対処しなければならない。

 

……いえ、全て返り討ちなんですが。

 

「むむ……」

 

海賊と出会ってしまった。

これはまずい。

あまり中将に手柄を上げてほしくはないのだ。

危険な場所に出向させられる可能性があるからだ。

それは避けたいのである。

 

「しかし、今日は数が多い……」

 

東の海の海賊は基本的に弱く、海賊船一隻に対してこちらも一隻で事足りることが多い。

だが、そうなると戦力的にルシフ中将に出てもらう必要が出てくるのだ。

困った。

兵の練度は悪くはないが、所詮は東の海の海兵。

そこそこ強い海賊が出てくると勝てないだろう。

 

ぽちゃん。

船が揺れて、液体がこぼれる音。

どうやらインクをこぼしてしまったらしい。

ルシフ中将、基本的に不器用なのよね。

 

「出るぞ」

「………………………はい」

 

葛藤したが、出てもらう必要はあった。

何せ100人単位の海賊団だ。

戦力として、ルシフ中将が戦わなければならないだろう。

 

「ふん」

 

不機嫌なようなそうでないような顔。

私からしてみればいつも通りのんきにおやつの事でも考えているのだろうと分かるのだが。

 

 

 

「あー海賊。降伏したまえ」

「ああ!?」

 

絶対に相手が降伏する余地のない台詞。

よく真顔で言えますね。

頭が痛いです。

 

「馬鹿が! 誰が降伏するかよぉ!」

「では捕縛だ」

 

そして抜刀。

……したサーベルが手から滑って宙へと飛んだ。

ざざんと船が揺れる。

 

海賊どもが笑っている。

それはそうだ。

最初にこの動作を見た人間は誰しもがそう思う。

馬鹿め、武器も満足に使えないのか、と言ったように。

 

 

 

しかしそれは違う。

サーベルは回転しながら孤を描き海賊船の中央へと着弾し、即座に爆発した。

 

「ぐえええなんだ一体!?」

「船長! 船の底が抜けてます!」

「はあ!?」

 

そう、サーベルはこのために放り出したのだ。

そして、爆発したのではなく甲板をぶち抜いて船底まで一気に貫通したのでそう見えるだけなのだ。

 

まあ単純な話。

ルシフ中将が持つサーベルは、とても重いのだ。

推定10トン。

それが空中を舞って落ちてくるのだ。

その威力は推して知るべし。

 

 

 

―――――ツヨツヨの実。

ただ単純に身体能力が高くなるだけの、本当に悪魔の実なのかも分からない謎の悪魔の実。

それを食べたルシフ中将は、とにかく強い。

 

強いのだが……地味だ。

それこそ覇気を使っても使ってなくてもとりあえず強いという要素のせいで訳が分からないのである。

存在が面倒臭いと言っても過言ではない。

 

 

 

とまあ、冗談は置いておく。

今は転覆している船から這い出てくる海賊たちを一網打尽にする作業だ。

 

 

 

「これでよし……と」

 

団員は全員捕縛。

死者はなし。

あの大惨事で死人が出ないのは意外だが、ルシフ中将は自慢げに「強いからだぞ」と言って聞かない。

その理屈はよく分からないのだけど。

 

一応、念のために大破している船をズタズタに引き裂く。

これも計画の内だ。

ルシフ中将を危険から遠ざけるための。

 

 

 

そう。

全部私がやったことにすればいい。

そうすれば、ルシフ中将は大丈夫だ。

最悪飛ばされるのは私だけ。

名ばかりの中将など、戦場には不要なのだから。

 

 

 

 

 

 

「おい」

「っはい?」

 

暫くして。

急に声をかけ有られた。

まさかおやつを勝手に食べたのがばれたのだろうか。

ルシフ中将の食べるおやつ、美味しいんだよなぁ。

 

ではなく。

何やら聞きたいことがあるらしい。

耳を傾ける。

 

「皆が俺をフーさんと呼ぶが、おかしくはないか?」

「別に?」

「そうか……」

 

それだけだった。

なんだ、バレたわけではなかったのか。

一安心である。

 

みんながフーさんと呼ぶ理由は特にない。

特にないが、そうした方が周りからは弱そうに見られる。

そうすることで危ない現場から遠ざけるのだ。

 

……いやまあ、既に中将まで来てしまっているから、今更かもしれないが。

 

それでもだ。

わずかでも可能性があるのならばやっておいて損はないだろう。

ルシフ中将は私たちの恩人なのだから。

 

 

 

 

 

ふと、今自分が見ているものが夢だと気付いた。

何故ならば、そこにはなにもなくて。

赤くて熱くて苦しくて。

そんな中、颯爽と現れた影が私を救い上げるのだ。

その姿は―――――

 

 

 

「……ん」

 

目が覚めた。

どうやら微睡んでいたらしい。

事務作業がひと段落した辺りだったか。

 

背伸びをして、そのまま資料を片付ける。

さあて、後は備品確認である。

それとルシフ中将のおやつも盗んでしまおう。

今度のおやつは一体何だろうか。

楽しみである。

 

 

 

 

 

「駄目です」

「ん?」

 

数日後、私はルシフ中将が読んでいた手配書を無理矢理取り上げた。

それは間違いなく麦わらのルフィのもの。

これはまずい。

ルシフ中将が興味を持ってもらっては困るのだ。

 

麦わらのルフィはこの世界の主人公だ。

その世界に存在する海軍というのは、所謂敵、もしくはわき役である。

そんな存在が目の前に立ちはだかれば、一体どうなる?

そう、倒されてしまう。

 

それは駄目だ。

いけない。

許されない。

ありえない。

あってはならない。

絶対ダメ。

 

なので敵対する要素を排除するのである。

相対する可能性を排斥するのである。

関わらないでくださいお願いします。

 

 

 

と言っていた矢先に遭遇するなど。

 

「いいですか、退避です」

「了解しましたー」

 

ルシフ中将にバレないように、ひっそりと退避。

敵対も関係を持つことも危ない存在だ。

さっさといなくなって欲しい。

私たちからルシフ中将をとらないで。

 

 

 

「え……? ど、どうしてですか!?」

 

本部からの電話などなかった。

いや、今までなかったというべきか。

それが今、私の元にかかってきていた。

 

『分かるだろう。ルシフ中将、遊ばせている余裕がなくなったんだ』

「……」

『君たちが暗躍しているのも知っている。故に命令は一つだ。行け』

「っ……!」

 

どうしたらいい。

このままではいなくなってしまう。

ルシフ中将が。

私たちの傍から。

近くから。

隣から。

 

「わか……り、ました……!」

 

歯をギリギリ。

吐きそうになりながらも返答する。

 

どうして。

どうしてルシフ中将を偉大なる航路へと行かせなければならないのだろうか。

そんな必要があるのだろうか。

いや、ないはずだ。

強さで言えば私だけでも十分なはずなのだ。

 

……いや。

もしかしたら。

私の知りえない何かがあるのかもしれない。

 

そんな思惑に乗らなくてはならないだなんて。

頭が痛い。

胸が苦しい。

どうしたらいい?

どうしたら、ルシフ中将を守れる?

 

 

 

「……え?」

「ん」

 

すると、頭にポンと手の平が乗った。

温かい手の平だ。

私を救い上げた手の平だ。

 

「気にするな」

 

そう、言ってくれているような気がする。

気のせいかもしれないけれど。

それでも、心はとても楽になった。

 

 

 

ありがとうございます、と心の中で呟く。

多くは語らない背中。

それを見ながら、私は決意を新たにする。

そう、必ずルシフ中将を守り抜くのだ。

 

 

 

 

 

「ふん……」

「む……」

 

私は今、不機嫌である。

何故ならば、この場にいる全員がルシフ中将を下に見ているからである。

格下からも侮られている。

ぷんぷんのぷんである。

 

確かにルシフ中将の身長は190cm前後。

低いと言えば低いというこの世界のサイズ感は異常。

それに比較的細身である。

だがそれにしても上の人間への敬い方とかがいただけない。

 

ここでルシフ中将の本気を見せてやればいいのか。

そう頭の中でグルグル考え始めていると、ルシフ中将が唐突にチョコを食べ始めた。

あ、そのチョコ東の海の高級ブランド。

 

手を伸ばすとくれた。

ありがとうと声に出すと、何だか心が温かくなった。

えらいぞーと小さく呟いた。

自分あてである。

 

 

 

 

 

「アラバスタ……!?」

 

勤務先を聞いて、驚きで頭が真っ白になるところだった。

 

アラバスタ。

麦わらの一味が大暴れする、砂の王国。

いやまあそこまではいい。

よくないが。

 

そこでは王下七武海のサー・クロコダイルが暗躍しているのだ。

変に有名になりそうな中将が出てきたら危ない。

何とかしなければ。

どうにか目立たないように……。

 

「お前何者だ! クロコダイル様がやっつけてやるぞ!」

「ほぅ……」

 

目立ってる。

凄く目立ってる。

困った。

もうどうしようもないではないか。

 

「駄目です」

「む」

 

軽く上げられた右手を掴んで止める。

その手でげんこつでもするつもりだったんですかルシフ中将。

人が死にます。

 

「しかしだな」

「駄目です」

 

反論しようとするルシフ中将を黙殺する。

いやもう駄目とは言え、これ以上目立つのはもっと駄目だ。

なのでここで抑えてもらう。

 

 

 

じっと顔を見つめると、そのまま手をゆっくりと下ろしてくれた。

一安心である。

 

 

 

反乱軍の鎮圧などを地道にこなすルシフ中将。

しかし、その間にも刻々と時間が迫っている。

そう、クロコダイルの計画の終結がだ。

 

どうする。

何かした方がいいのか。

それとも、何もしない方がいいのか。

自分やルシフ中将という不確定因子がある以上、どうなるか分からない。

 

悩む。

悩んで悩んで悩んで。

クロコダイルは怪しい、とルシフ中将の近くで漏らした。

 

「そうか」

 

すっ……とブランドチョコを差し出してくるルシフ中将。

そんな罠に釣られる私ではないんですよ。

ありがたくいただきますが。

 

美味しい。

またあそこの新作ですか。

何時買ってるんでしょうか。

 

……。

まあいいでしょう。

今日は気分がいいので、ちょっと頑張りたいと思います。

 

 

 

 

 

「ということで、内通者との伝手を手に入れました」

「よくやった」

 

とても大変だったが、クロコダイル暗躍の手がかりを掴むにはこの手しかなかった。

 

ポーネグリフ。

この単語を出せばのこのこついてくると思っていた。

しかし、私よりも頭のいいであろうニコ・ロビンのことだ。

逃げ出す方法などいくらでもあったはず。

それをしないということは、それだけポーネグリフの情報は大きい物なのだろう。

 

「ふむ」

「何かしら?」

 

ルシフ中将がじっとニコ・ロビンを見ている。

まさか。

いやそんなはずはない。

ルシフ中将の好みは把握していないが、こういうタイプの女性を選ぶ可能性は低いはずだ。

いや資料は欠片も見つからなかったのだが。

ベッドの下には何もなかったのである。

 

「ふふっ」

「!」

 

なんだその余裕は。

やってやるぞ。

こちとらズタズタの実の引き裂き人間だぞ。

その花ズタズタに引き裂いてやる。

 

「ふむ」

 

ポンと頭を軽く叩かれる。

痛くはないが、怒られたらしい。

ちょっと反省である。

だがついつい反抗的な態度をとってしまう。

そうじゃない。

でも、何だか勝手にそうなってしまう。

もどかしい。

 

「貴方はとても優秀な猟犬を飼っているのね?」

「?」

 

かあ、と頬が熱くなるが、ルシフ中将はスルーしている。

平常心、平常心。

そうだ、平常心だ。

これがなければルシフ中将を守れない。

落ち着いた。

 

というわけで。

いつかぎゃふんと言わせてやるから覚悟しておけニコ・ロビン。

 

 

 

 

 

反乱軍の人員が確実に増えている。

こちらの海兵たちにも負傷者が出てきている。

どうにか一緒に戦えているが、限界が近いか。

 

「大丈夫ですよ。みんなでフーさん守りましょう」

「そうそう。あの人放っておけないですからね」

 

強がりだ。

それでも、その声で若干だが気持ちが持ち直した。

 

そうだ。

護らなくては。

放っておくわけにはいかないのだ。

 

だって。

もし手の届かない場所でルシフ中将が……。

 

「俺は負けない」

 

唐突に、ルシフ中将が呟く。

それにふと思い知らされる。

きっとルシフ中将にはお見通しなのだろう。

きっと私を元気づけようとしてくれているのだ。

 

何をやっているんだ。

私はルシフ中将の副官だぞ。

気持ちで負けるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

船だ。

何の変哲もない船だ。

そこに麦わら帽子の海賊旗が掲げられていなければ。

 

「戦うのか?」

「必要ありません」

「そうか」

 

そう、敵対する必要がない。

何せ目的はほぼ同じだ。

クロコダイルさえ何とかしてしまえば、あとはどうこうできるはず。

麦わらの一味から離れることができれば万々歳だ。

 

どうにかここで中途半端な評価を引き出したいところだ。

……正直、兵たちは限界だ。

私とルシフ中将が前面に立って何とかしているような状況だ。

 

 

 

お願いします。

何とかこの事態を乗り越えさせてください。

 

 

 

だからクロコダイルと正面衝突だけはやめてくださいね!!!!!

 

 

 

 

 

 

「―――――っあ」

 

目が覚めた。

眠っていたらしい。

 

身体を起こすと、全身に激痛が走る。

そうか。

私はクロコダイルに暗殺されかけたのか。

 

 

 

思い出すだけでも思い知らされる。

相手は国を相手取った頭脳犯だ。

それだけの知力があれば、私を蹴散らすなど簡単だっただろう。

それをしなかったのは、恐らくルシフ中将への牽制などが理由だろうか。

 

しかし残念だが、それは悪手だ。

ルシフ中将のことを思い返す。

あの人は身内に優しく、敵に厳しい。

というか敵と判断した相手には容赦がない。

 

 

 

どうなったんだろうか。

ルシフ中将は、アラバスタは。

そしてこの世界は。

 

 

 

「……」

「……っ!」

 

気配がしたので、その方向へと視線を向けると、何かがいた。

トナカイの角、青い鼻。

チョッパーかな?

やはりマスコットが似合うよ君は。

 

となると、この傷の治療は彼がしてくれたのだろうか。

うちの船医の腕も悪くないが、流石に比較対象が悪すぎる。

丁寧な縫合で傷も残らないだろう。

 

……まあ、昔ついた傷は消えないが。

 

 

 

「あ、待て! まだ安静にしてなくちゃだめだ!」

「大丈夫。私は強いから」

 

恐らく戦いは終わっている。

ならルシフ中将もどこかにいるだろう。

探さなくては。

勝手に迷子になられては困る。

 

 

 

部屋をいくつか。

庭をいくつか。

そこそこ長い廊下を渡って。

ルシフ中将を発見した。

 

「……寝てる」

 

傷一つない身体で、眠っていた。

その様子に一安心。

そして、この戦場を駆け巡ったであろう人間が無傷でいることへの戦慄。

やばい、この人本当に強かったんだ。

舐めていた。

 

 

 

「……あら、お邪魔かしら」

「ニコ・ロビン……?」

 

ふと気付くと背後にニコ・ロビンがいた。

何か話すこともあっただろうか。

 

「一応救われた身としては、挨拶でもと思ったのだけど」

「いらないわ」

「でしょうね」

 

苦笑するのも様になっている。

それがちょっとイラっとする。

美人はずるいな、と思っただけだ。

 

「ポーネグリフ」

「?」

「麦わらの一味について行けば、多分見つかるわ」

 

一応のお礼。

そして当然の対価を。

本来であれば自身で調べた情報を伝えたかったが、手に入ったのはゴミクズのような情報だけ。

だからせめて。

彼女の向かう先が幸せに近づくように。

 

「そう。ありがと」

「それじゃあさようなら」

「ええ、ルシフさんにもよろしくね」

 

なんだか含みがあるな。

問い詰めようとしたところでいなくなってしまった。

仕方ない。

もう会うこともないだろうし、放置。

 

「……ふふっ」

 

そして、ルシフ中将の寝顔を見る。

無駄に美形なのよね、この人。

言い寄る人間も少なくなかったけれど、気付けばいなくなっていた。

理由は不明。

女の影ができたという噂は私が全力で調査した結果ただの噂に過ぎなかった。

 

 

 

「……ん」

 

すっと身を引いて構える。

そろそろ起きるだろう。

そう判断したからだ。

そして、その判断通りにルシフ中将が起きる。

 

 

 

「……おはようございます」

「ああ、おはよう」

 

 

 

色々なことがあって、大変だったけれど。

ルシフ中将が生きている。

それだけが、私にとって最高の報酬なのであった。




ルシフ中将
イケメン。
ツヨツヨの実の能力者。
なんか強い。

ツルギ副官
女。
おやつを盗む常習犯。
凄い努力家。
ズタズタの実の引き裂き人間。

海兵さんたち
2人の動向を見守るために頑張っている。
不純である。

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