「強くなる方法を、教えて欲しいと?」
「はい!」
生えている牛を絞め殺していると、ルシフさんが小さい女の子と一緒にいた。
事案か! とも思ったけど、別にそんな雰囲気はなかった。
というかそんなのご主人様が可哀そうすぎる。
ルシフさんがロリコンだから最初から勝ち目がなかっただなんて!
「痛い……」
無言で殴ってきたご主人様も一緒に、物陰からルシフさんを観察する。
話を聞いていると、どうやら女の子が強くなってドラゴン様の役に立ちたいと言っているようだ。
ドラゴン様、かあ。
なし崩し的にドラゴンの手伝いをしている感じではあるが、やはり人格面では信用していない。
一応ご主人様が好きになったルシフさんの恩師だから、という理由で好意的な感情はある。
とはいえ直接的なそれではない。
というわけで、あたしとしてはあの子が騙されてるんじゃないかと疑っています。
好意的な感情?
あったとしてもあんな女の子に戦わせようとする男がまともなわけがない。
いや、戦いたがっているのは彼女本人の希望なんだけど。
女の子の年齢的は15~16歳くらいかな。
あたしより一回りくらい下か。
ロングのボサボサした金髪に金色の瞳。
やや褐色の肌に、痩せ過ぎた身体。
これは栄養不足が原因かもしれない。
とりあえず、この状態では戦うとか以前の問題だ。
ちゃんと成長しないといけないのに、そんなことに労力を割いている時間と余裕はないのだ。
「まずは……これだ」
「え……? わわっ」
ルシフさんが女の子に手渡したのはちょっと短めの剣だった。
あの子にとっては重いはずだ。
その証拠に、今手渡された剣を持っているだけで倒れそうになった。
「これを振るえるようになるまで、身体を作るんだな」
「えー!」
「貴様は弱い。だから強い身体を作る必要がある」
……うん、言い方は相変わらずだけど、合っている。
根本的に、あの子は戦えるような身体ではない。
まずは成長しなくては始まらない。
「とにかく強くなるんだな」
「おにーさんも弱かったの?」
「俺は強かったぞ」
ルシフさんの返答に、思わず頭を抱える。
どうしてそこで矛盾が発生してしまうのか。
「そも生命としての
「おおー……」
……確かに、ルシフさんは強いのだけど。
神かどうかは置いておくとして。
とにかく、あの子が無茶をしないように見て回らなくちゃいけない。
あたしは訓練を指南する立場にあるけれど、基本的には自由だ。
勿論手を抜くことはない。
というか恩を受けた身でそんなことできないし。
となるとご主人様が見ていてくれると助かるのだけど……。
「……」
ぼうっとしている。
ルシフさんしか見えていないっぽい。
「はぁ……」
仕方ない。
あたしが何とかしなくちゃいけないんだよね、これ。
「というわけで、手伝ってね!」
「あいよ船長!」
「子守りなら任せな!」
あたしが選んだのは、かつてのクルーたちを頼ることだった。
当然のように了承してくれたが、ちょっと不安でもあった。
だってあたし、一度奴隷になってるからね。
もしかしたら……っていうことも考えていた。
まあそれもないようだし、安心して任せられる。
「―――――見て! ちゃんと振れるようになったよ!」
一週間後、そこには元気に剣を振るう女の子の姿が!
……。
じっとクルーたちを見る。
「仕方ねえよ。あんな無邪気に教えてくれって言われたらさ」
「基本を教えるくらいなら平気かなって思ったんだよ」
「変な癖が突いたら大変だもの」
正論だった。
しかし、問題はそこじゃなくて。
「あたしは思ったの」
「はい」
「あの子にはまだ戦いは早すぎるって」
「でも船長もあのくらいの年で棒握って突っ走ってましたよね?」
「うぐ」
若気の至りである。
……じゃなくて!
「とーにーかーくー! まだ早いの!」
「そっすか……」
やる気がない……!
このままでは幼気な少女がドラゴンに手籠めにされてしまう!(謎の思考)
あたしも頑張るけどルシフさんもどうにか戦うのをやめさせてね!!!
「かみさまー! 戦い方教えてー!」
「ん、いいぞ」
!?
この前まで渋っていたのに、いつの間にか篭絡されている!
どうして?
まさか本当にロリコンだったの!?
「かみさまー」
「かみさまー?」
「かみさまー!」
殴られた頭を冷やしながら暫く観察していると、どうやらあの子はルシフさんのことを神様と言うようになったっぽい。
だからか。
ルシフさんは自身が神様であることを自負していて、それを認めてくれる人間に優しいのだ。
だから女の子にもあんなに親身になって戦い方を教えているのだろう。
「かみさまー!」
「そうだ。そこをそうやってこう。最後にこうだ」
「はい!」
素直……!
ルシフさんの無理難題を突破して、あの子はメキメキと強くなっていく。
というかあたし負けそう。
……いや、まだ覇気を使えない以上、あたしの方が上!
多分!!!
と思っていると、さっきルシフさんとぺしぺし木剣で叩き合っていた女の子がこちらへと寄って来た。
何だろうと思っていたら、突然小さな紙を渡された。
「おねがいします!」
「んー?」
紙は二つ折りになっていて、開くと無駄に綺麗な文字で
『覇気を教えろ』
とだけ書いてあった。
「んもー!!!」
あの男、面倒臭くなってあたしに押し付けたな!?
「リーアさん! できましたー!」
「おーよしよし! よく頑張ったねー! はい、アイス」
「わーい!」
ルシフさんから辞令が下ってから一週間。
リーアは既に篭絡されていた。
「まさかこんな簡単に……」
彼女が出したアイスの分を給料から差し引きつつ、私は色々と考え始める。
彼女があれだけ親身になってあの子を世話するのは、妹分が出来たと考えれば妥当なのかもしれない。
何せ海賊団の船長だったのだ。
周りの人間も年上ばかりだったはずだ。
甘えることなどできなかったはずだ。
それが今になって妹分、弟分が出来たことで、その子たちに逆に甘えることが出来るようになってきた。
それは彼女にとって、とても嬉しいことなのだろうと思った。
「とはいえ……彼女も生き急いでいるような……」
私は疑問に思ったことを口にする。
そうだ。
あの女の子は急いでいる。
何故だろうか。
強くなりたいだけならば、ゆっくりと地力をつけていけばいい。
ドラゴンを手助けしたいならば、何も戦闘力だけを求める必要はない。
何か理由があるはずだ。
「ちょっと」
「? はーい」
なので、当人から直接聞くことにする。
どうせ身内なのだ。
何時か知ることになるだろう。
それが早くなるだけだ。
「質問です。今麦わらの一味は何人ですか?」
「え? ええと8……いや、7人!」
「そうですか」
ほとんど悩むことなく答える女の子。
これは確定か。
この女の子は
そうでなければ、ルーキーのひとりでしかない麦わらのルフィについてここまで詳しくないだろう。
というか私もそこまで詳しくない。
「あっ……!」
そして、今の質問を答えたことで気付いたのだろう。
私もその知識を持っていると。
「あのっ!」
「いいですか」
いつも以上に明るい顔で話し始めようとした女の子を制して、私は離し始める。
「ルシフさんに害が及ばなければ、好きに生きてください。それだけです」
「え、あ、はい」
釘を刺す。
それだけは、そこだけは譲れないのだ。
例えリーアであろうとも、この一線を越えさせるわけにはいかない。
そう考えての発言だったが、女の子は思いついたかのように言う。
その顔はどことなく、いたずらを思いついた子供のようだった。
「あの人のことが好きなんですね!」
「ええはい。好きです」
「お、おおー……!」
即座に返事をすると、驚いたような感心したような声を上げる女の子。
そんなに、即座に返事をしたことが意外だったのだろうか。
「とにかく。ルシフさんとリーアは
「はーい!」
「よろしい」
危惧していたことは回避できただろう。
というよりも、ここに私以外に知識を得ている人間が現れるとは思わなかった。
異世界から現れる人間がいるという可能性はあったのだけど。
流石に3人目が現れることはないだろう。
多分。
というわけで私はルシフさんの元へ行く。
最近話している時間が少ない気がするのだ。
埋め合わせをしてもらわなくてはならない。
そう思っていたら、服の裾をきゅっと握られた。
振り返ると、女の子がじっとこちらを見ていた。
「あのですね……」
「はい」
「こういうこと、相談できる人がいなくてですね……」
「……なるほど」
女の子は私をある意味仲間だと認識した様子。
それはそうでしょう。
何せ、自分しかいないと思っていた存在を見つけたのだ。
その事実や苦悩を吐露する相手を欲してもおかしくはない。
「いいですよ。私の部屋は防音性です」
「……! はい!」
そう言うと、女の子はぱあ、と顔を明るくした。
いやまあ、子供というのは卑怯である。
笑顔だけで相手の緊張を解きほぐす。
しかし
これだけ親しい関係になるのだ。
名前くらいは教えておかなければならないでしょう。
「私の名前は
「え、あ。はい! わたしの名前はフィロート・D・ベルです! ベルって呼んでください!」
Q:斬鉄できます?
A:? 枝でやりましょうか?
これくらいの腕前です。