※微修正しました。
強くなるためにはどうすればいいのか。
それを考えながら、私たちはシャボンディ諸島への航路を進む。
ルシフ中将は勘違いをしているが、シャボンディ諸島は実際のところ島ではない。
とある植物の上にできた街である。
なのでログはたまらないし、ログを使って進むこともできないのであった。
麦わらの一味の一味が海賊である以上、魚人島を通るならシャボンディ諸島に進むしかない。
と進言してシャボンディ諸島を目指すことになったのだった。
しかし。
ルシフ中将と天竜人と近付けるのは心配である。
騒ぎを起こしそうな気がしてならないのだ。
けれど、上官の命令に逆らうわけにもいかない。
いや1度逆らってしまったのだけど。
これ以上逆らうのは得策ではないことはわかる。
なので、どうにかルシフ中将を天竜人に会わせないようにしつつ、暫くの間シャボンディ諸島に滞在するのだ。
難易度が高い。
しかもだ。
ルシフ中将は天竜人に会いたがっている。
誰がルシフ中将に天竜人について吹き込んだのか。
いやまあ多分ドラゴンなのだろうけど。
「駄目ですよ」
「む……」
「駄目です」
「そうか……」
天竜人に会うならば私の屍を越えていけと言ったら諦めてくれた。
ちょっと泣いた。
嘘泣きだけど。
ひとまずは安心。
ルシフ中将はこういうのに弱い。
だから心配なのだけど。
そして、私も強くなる必要がある。
どうする?
マリージョアはすぐ近くだ。
しかしそれには何か意味はあるだろうか。
戦力面で凄いという話は聞いた覚えがない。
ならばレイリーか。
海軍に助力してくれる可能性が皆無。
そもそも会えるだろうか。
難しい。
ならば魚人島か。
魚人空手でも習えというのか。
能力者の私では難しいだろう。
何か。
何かないか。
ちょっとくらいなら裏道に進む覚悟はある。
あんまり行き過ぎるとルシフ中将に顔向けできないので、ちょっとだけだ。
ふと職業斡旋所という看板が目に入る。
まあ本当は奴隷販売業者だ。
何かあるわけでもない。
……いや。
もしかしたらだ。
私の求めるものがあるかもしれない。
「というわけで。買いました、奴隷」
「よっろしくおねがいしまーす!」
部下たち、無言。
というよりも絶句だろうか。
それは仕方がない。
海軍が奴隷を買う。
その外聞の悪さ。
「……どうするんですかツルギさん。怒られますよ」
「でもこの子が1番優秀だったんですよ」
「優秀……?」
そう、優秀だった。
私が求めていた能力の全てを持っていたのだ。
シルクの様に艶やかなロングヘアも。
オパールのように輝く瞳も。
すらりとした体形でありながらしっかりと主張している胸も。
関係ないほどの優秀さだった。
……私よりも胸があるが、些細な問題だ。
「というわけで、あたしは覇気について教えればいいんだよね?」
「そうですね。その間の衣食住は保証します。あとあなたの仲間も探しましょう」
「捕まえないでねー」
「はい」
数か月前に現れたルーキーである彼女が率いる海賊団がここに来たのが一月前。
恐らくは彼女が戦闘の主軸となっていたのだろう。
彼女が捕まった海賊団の取った行動は、逃走であった。
しかし、彼らは奪還の機会を伺っている様子。
近隣で彼女が率いていた海賊船を見かけたという報告があった。
……可能性としては、影を奪われて放り出された、というものがある。
そうでなければ、奪還を目的とした彼らが暴れない理由がない。
勿論、奴隷として売られる彼女を助ける手段がないという可能性もあるが。
「とりあえずはこの辺りで訓練をしたいと思います」
「はーい」
そうして探し出した場所は、諸島から外れた場所にあるとある島だ。
彼女が再度人攫いに攫われないように注意は払う。
それに人に見られるのも困るのだ。
「ところで」
「はい?」
「ここまで頑張るのはそのルシフって言う人のため?」
「はい」
特訓を始めて暫く。
私よりも年下だというその少女は、何故かひそひそと小さな声で聞いてきた。
「……随分素直に言っちゃうんだねー」
「隠すことではありませんから」
今は休憩中である。
ルシフ中将の動向は部下たちに逐一報告してもらっている。
ぬかりはない。
万が一天竜人が近づいて来たという話があれば、私のいる島へと呼べとも言ってある。
凄く怒られるだろうけれど、まあ大丈夫。
……嫌われたらやだなぁ。
「とりあえず、武装色の覇気はなんとかなりそうだね」
「ありがとうございます」
「まあご主人様だしねー」
それから更に経って。
私の武装色の覇気はある程度形になった。
勿論これだけでこの先ついて行けるか、と言われると不安であるが、それでもないよりはましだ。
「とにかく、助かりました」
「いいよー。できればこの枷を外してくれると嬉しいけど」
「いいですよ」
「え?」
「え?」
「え?」
外してほしいというので、外した。
鍵は私が持っているのだ。
外してほしいと言われたら外す。
「いやいやいや。普通外さないでしょ!」
「私が外して、失敗したのならば仕方ありません。運命だと断じます」
「……えぇー」
「何より、あなたは海賊としてはお人よしだと思いました。私を殺すことはないでしょう」
これまでの言動から考えて、恩人を殺すような人間ではないだろう。
それだけではない。
ルーキーというには若干低い懸賞金。
そして、何よりも仲間を心配するような言動。
これだけ揃えば命を懸ける理由にはなる。
「あなたの仲間も、こちらに向かっているそうですよ。ここに来ることができない理由があったみたいですね」
「……そうなんだ」
十中八九、影を取られていたのだろう。
そして、麦わらの一味がそろそろシャボンディ諸島に到着することも意味する。
間に合った、というべきだろうか。
「……」
「どうしましたか?」
「あーえっとね。自由なんだーって思って」
ぼうっとしている少女を見て、私は少し笑う。
そう、自由だ。
少女がどうして海賊行為を行うことを選んだのかは分からないが、彼女は自由だ。
勿論海軍に追われることに変わりないが、きっと彼女はこれから先も自由だ。
「それではシャボンディ諸島に向かいましょう。ルシフ中将が心配です」
「……あたしとしては、そんなに強い人が死ぬとは思えないんだけどねー」
「あの人は天竜人に喧嘩を売りそうなので」
「考えなし!?」
部下が言うには天竜人とぶつかったという話は聞かないが。
それでも、そろそろ天竜人がシャボンディ諸島に現れる頃だ。
早く合流しなければ。
そして、私がルシフ中将と出会ったのは。
ルシフ中将の腕の中に血まみれの男が抱えられていて。
ルシフ中将がブチ切れる瞬間だった。
「おい」
「ん?」
ああまずい。
あれは本当に切れる直前だ。
サーベルは漆黒に染まっているし、全身がブレている。
黒く染まる兆候だ。
間に合え。
この瞬間をやり過ごせば、あの天竜人を殴り飛ばすのは麦わらの一味だ。
そうなればルシフ中将があの天竜人を殴る理由が少なくなる。
だからもうちょっと待って欲しい。
振り上げられるサーベル。
ざわりと騒ぎ始める周囲。
そして。
「ぎゃあああああ!!」
天竜人を斬り裂いたのは。
サーベルではなく、黒い鎌だった。
後ろを見れば、何かを投げたような姿をしているリーアの姿。
恐らく能力者だったのだ。
その能力を使って攻撃したということだ。
「あはは。やっちゃった……」
「まさか」
「黙って。今からあなたとは無関係だから」
それはきっと無意識の行動だったのだろう。
少女の身体には大量の汗。
そして恐怖に震える身体。
もう助からない。
そう思っているからだ。
「ルシフ中将!」
「副官。何をしていた」
「逃げますよ」
この場を離れる。
きっとルシフ中将はすぐ気付いてしまうから。
「あたしが! 天竜人を斬った!」
泣きながら。
あの少女は叫ぶ。
私が関わらなければ。
彼女があのような行為に出ることはなかっただろう。
幸せとは言えなかっただろうが、生きることができたかもしれない。
その可能性を潰した。
私が悪い。
私のせいだ。
「だから逃げますよルシフ中将!」
「……」
ルシフ中将は動かない。
どうして。
こうなったのは私のせいなのに。
ルシフ中将は関係ないのに。
「あたしを恐れなさい! あたしは堕天海賊団船長! リーア!!!」
それは世界政府への反逆であり。
世界への反逆である。
きっと彼女は想像を絶する絶望に満ちている。
それを救えない。
助けることができない。
歯がゆい。
どうしようもないのか。
助けたい。
だがそれは。
ルシフ中将を巻き込んでしまうのだ。
それだけは。
それだけは駄目なのだ。
「殺せ!!!」
天竜人が叫ぶ。
周囲の人間も叫ぶ。
少女はその場から逃げ出す。
当然だ。
こんな場所にいるなんてできない。
だが、どこに逃げても一緒だ。
海軍大将が出てくる。
それが誰でも、彼女は死ぬしかない。
ふとルシフ中将を見る。
先程から喋らないのだ。
何か、何か変なことを考えていないだろうか。
「あの少女を保護する」
……。
……考えていた!
「―――――遺言はあるか」
いた。
少女と相対しているのは大将サカズキだ。
一番相手をしたくない相手だ。
「世界はクソ!」
そう啖呵をきる少女。
ああ、本当に全てを諦めたのか。
そんなことまで言えてしまうのか。
「ならば死ねぇい!」
マグマだ。
圧倒的火力。
そして威力だ。
そんなものを喰らえば、骨すら残らない。
しかし。
そこに割り込む馬鹿がいる。
「お主……また上に逆らうか」
「少し言いたいことができた」
その馬鹿はルシフ中将。
いや、もうやめるのかもしれない。
この状況下で、大将サカズキを止めるということは、政府に仇なすことと同義だ。
そうなれば、海軍としてやっていけないに決まっている。
ならばどうする。
ルシフ中将のやることは決まっている。
神になることだ。
その手段として使うつもりだった海軍を捨てて、どうするつもりなのか。
「―――――俺は、神になることにした」
ああ、言ってしまった。
これは天竜人に対する反逆宣言だ。
お前たちは神ではないと言っているようなものだ。
仕方ない。
私はついて行くにしても、他の部下はどうだ。
ついてきてくれるのか。
いや、そこは問題ではない。
問題は。
一番聞かれたくない相手に聞かれたことだ。
「そういうことは、当人に向かって言え」
「後でそうする」
ルシフ中将は本気だ。
黒く染まり、戦闘体勢をとっている。
「リーア」
「え、ごしゅ……じゃなかった」
「ツルギでいいですよ。動かないように」
リーアは既に満身創痍だ。
今手当をしなければ間に合わないかもしれない。
「任せろ」
「ルシフ中将?」
ルシフ中将がそう言うと、リーアの身体が青く光る。
すると、致命傷に等しかった傷がみるみる消えていくではないか。
治療をすることもできるのか、ルシフ中将の能力は。
「貴様は世界に歯向かう大馬鹿者じゃ。何か言うことはあるか?」
「神は偉ぶっている馬鹿にはなれないぞ」
「ぬかしよるわ……!」
瞬間、衝突。
強烈なエネルギーが全てを吹き飛ばす。
勿論私たちもだ。
「ツルギ副官!」
「貴方たち……?」
「私たちもルシフ中将について行く所存です」
ああ、馬鹿が増えてしまった。
まあ私も大馬鹿者であるが、そこは大目に見て欲しい。
「逃がさんゆうちょろうが!」
「逃げるさ」
ルシフ中将の12枚羽が展開される。
その1枚1枚に力が漲り、覇気が漲り、全てを破壊する!
「