今日は世界の情勢が大きく変わる一日だ。
そう。
今日この日が、エース処刑当日である。
ルシフさんが大将相手に戦い、生き残ったのは記憶に新しい。
もし白ひげに味方すれば、エースが生き残る可能性もある。
だがしかし。
そうなる可能性もあるけれど。
もしかしたら、ルシフさんが死んでしまうかもしれない。
何せあの大混戦だ。
誰がどうとかではなく、死ぬ可能性があるのだ。
その中にルシフさんを放り込むなんて、私にはできない。
ルシフさん本人が勝手に飛び出さないように、情報は断絶してあった。
当日送られるであろ電伝虫による映像に関しては遮断するのは難しいが、新聞などは渡さないように注意していた。
エースのことは嫌いではない。
しかしルシフさんとは比べるまでもない。
頼むからそのまま大人しくしていて欲しい。
「……ふむ。拾いに行くか?」
「やめてください」
「だが戦力として」
「やめて」
「むう……」
……こうなるだろうなと、考えていた通りになったからだ。
恐らく単なる思い付きで、戦力とかは二の次。
ただ何となく気になったから、で子猫を拾ったこともあった。
ちなみにその子猫は私の部屋でのんびりしている。
素直な子で私たちのマスコットのような存在だ。
たまに消えるけれど。
それはともかく。
私の心配もよそに、ルシフさんは適当なことを言って困らせてくる。
今回もそうだ。
どうせ有名っぽいから、とかいう感じの理由だろう。
「いや、今回は違うぞ」
「?」
「
そして、こういう風に言う時は大抵当たっている。
何せ世界の均衡が崩れる瞬間だ。
嫌な予感もするだろう。
だけど、だからこそ向かわせるわけにはいかない。
命を盾にしてでも止めてみせる。
「しかしそうか。今回は動くのをやめておこう」
しかし、私がいざ命を賭けようとしたところで動くのをやめた。
あっさりと引き下がったルシフさんに困惑する。
何か理由があるのだろうか。
「そちらの方が
「……?」
「気のせいだといいが……」
無視できないセリフだ。
何かが引っかかっているのだろう。
それを理解できていない辺りがルシフさんらしいが。
「やることも山積みだからな。もうひとつ島を作ってしまおうか」
「やめて」
「―――――というわけで! 堕天海賊団一同! お世話になります!!」
「「「なりまーす!!!」」」
「……???」
数日後の話。
海賊船が現れたと思ったら、既に懐柔済みだった。
先行して海賊船に飛び込んだルシフさんに聞いてみたが、首を横に振る。
どうやらわからないようだ。
「みんなーよろしくー!」
「「「はーい船長ー!」」」
そして、それを笑顔で受け入れるリーア。
なるほど、彼女の仕業か。
そういえば、彼女の能力についてはあまり詳しく知らない。
内緒と言われてしまった以上、詮索はしないけれど。
悪魔の実の能力者ではないことは確かだ。
さっき泳いでたし。
とはいえそれもまだ早いか。
もう少し仲良くなってからにしよう。
なに、時間はいくらでもあるのだ。
「む、今日はジャガイモができたぞ」
「この岩の中にできたんですか!?」
「ああ、ツヨツヨだ」
……何やら規格外な野菜が誕生しているけれど、無視する。
ちょっと理解が追い付かない。
「雨も降らせることが出来るぞ」
「……そうですか?」
「ああ、風下にある場所には雨が降らなくなるが……」
「禁止です」
「え?」
「禁止です」
最近、ツヨツヨの実の力を使うようになったルシフさんの突拍子のない行動に振り回されて頭が痛くなってきた。
そうですね、今のセリフの内容で分かる通りダンスパウダーを人の力で起こしてしまいましたね。
存在が禁止薬物……!
頭が痛い。
「ちなみにこのツヨツヨの実は新陳代謝などもツヨツヨにする」
「……何が言いたいんですか?」
もったいぶるような言い方だ。
何がどうなるというのだろうか。
「肌艶が良くなる」
「!?」
そのセリフに、私は固まった。
肌艶が良くなるということは、肌艶が良くなるということ。
つまり肌荒れと無縁の生活が送れるということ。
「本当ですかー!?」
「リーア」
「どうした」
それを聞きつけたのか、リーアまでやってくる。
それはそうだ。
こんな話題、女なら誰でも食いつく。
というかそうか、ルシフさんの肌がいつも艶々なのはツヨツヨの実の副産物だったのか。
欲しい。
スベスベの実の次くらいほしい。
「その効能……他の人にも使えたりします?」
「ああ」
「「!!」」
その答えに、私たちに衝撃が走った。
これは……まずい!
他の女性メンバーに知られてしまえば、まず大変なことになる。
……大変なことになる!
「これは第一級極秘事例となります」
「はい、ご主人様!」
「誰にも知られてはなりませんよ」
「了解しましたー!」
「……ふむ。誰にも言わないようにしよう」
「これから着く船に移住者が乗っている」
「え?」
「元奴隷だ」
「……え?」
「ドラゴンからの頼みだ」
「え? え? え?」
急な話だった。
何せジャガイモ(岩を突き破る)と木の実(塩水でも育つ木)を収穫した直後のこと。
気が抜けていたということもある。
しかもドラゴン。
ドラゴンと来たかー。
リーアちゃん、もう何が起きても驚かないつもりだったけど驚いちゃいました。
「内緒ですよ」
「言ったら即逮捕ですよぉ!」
「それはそうですね」
ご主人様は役に立たない。
ルシフさんに毒されている。
これでは正常な判断ができるわけがない。
……いやまあ、あたしもちょっと怪しくなってきたけど。
「それはともかく!」
「どうした」
「ご飯事情ですよ! ご飯事情!」
今現在、あたしたちの持っている食料はジャガイモと木の実だけだ。
海王類の肉を食べるという手もあるけれど、最終手段にしたい。
毒とかありそうだし。
それなのに、この上に奴隷を招き入れるというのだ。
食料が足りないのである。
「ツヨツヨの実」
「最近頼り切りなので駄目です」
「そうか」
流石にそればかりに頼るわけにもいかない。
何故ならそれはルシフさんに命の全てを預ける行為だからだ。
いやまあ、別にいいんだけど。
そればかりでは気が引けるというかなんというか。
「とにかく! ご飯事情を何とかしないといけません!」
「牛が生えてきたぞ」
「んもー!!!」
あたしも怒った。
牛が生えたってなんだ!
もうわけがわからない!
抗議しようとご主人様の方を見ると、何だか諦めたような顔。
ああ、諦めちゃったか―。
仕方ない。
これはわけわかんないもん。
「じゃあ、はい。解決しました。後は草生やしてください」
「任せろ」
「結局こうなってしまうのよね」
ご主人様、早く止めてください。
あたしじゃ制御できません。
「……」
「……」
「よく来たな。ゆっくりしろ」
何故か元奴隷たちに尊大な対応をするルシフさん。
今更どういう風の吹き回しなのか。
よく分からない。
「……あの!」
「どうした」
そのルシフさんに、少女が一人立ちあがる。
勇者か。
あの男に向かい合って話をする気になるなんて。
あたしはごめんである。
「ごはん、食べてもいいんですか?」
「いいぞ」
ぱあ、と明るくなる少女の顔。
「お洋服、着てもいいんですか?」
「いいぞ」
「じゃあじゃあ、毎日お水飲んで良いんですか!?」
「好きなだけ飲め」
「わあ……!」
それは。
どれだけ苦しめられてきたのかを知るのに十分な情報だった。
ああ、あの子たちに比べれば。
あたしの境遇なんて幸せだ。
なにせ売られる前には栄養面も気を使われていた。
食事はあったし、水ももらえた。
見た目だって綺麗にされた。
しかし、目の前にいる子たちはそうじゃない。
水を飲んで、ご飯を食べて、服を着る。
そんなことすら許されていなかったのだ。
「……」
「一つだけ言う」
「……ルシフさん」
ルシフさんがきりっとした表情をしている。
いつもならなんかむすっとしているし、何か唸っている気もする。
そんな様子が欠片もなかった。
ただ、目の前の人達のことをじっと見ていた。
「俺はお前たちを救ったわけではない。勝手に助かれ」
それは。
なんとも不思議な言い回しで。
あたしにはちょっと難しい話をしているようだった。
恩がある。
義もある。
そして愛がある。
そんな人間に救ってもらいたい。
そう思うのはおかしいことだろうか。
それなのに、ルシフさんは突き放す。
何故そんな言い回しをするのか、あたしには理解できなかった。
「―――――命を拾っただけでは、救われたことにならない」
「え……?」
急に、ご主人様が話し始める。
その顔はとても穏やかで、何かを思い出しているかのようだった。
「命だけでは何も成せない。生きて初めて生命になる」
それは誰の言葉だろう。
その言葉は、あたしの中にもすっと入ってくる。
「生きるということは、生活するということ。生活するには、活きなくてはならない」
とても厳しい言葉だ。
命だけでは足りない、生命を。
生きるだけでは足りない、生活せよ。
そんな言葉を、誰が発したのか。
そして、誰がご主人様に言ったのか。
「―――――多分、これがルシフさんの言いたいことです」
そう言って、にっこりと笑うご主人様。
ああいや。
もう誰が言ったとか言わないとか関係ない。
感動した。
ちょっと泣いた。
あっちの人達も泣いてるし、こっちの人達も泣いてる。
号泣だ。
横を見ると、ふんぞり返っているだけのルシフさんが見える。
……誰が言ったとか関係ないとか言ったけど、やっぱり気になったりする。
この人が本当にそんなことを言えるのだろうか。
「これは俺の友の言葉だ。それを代弁してもらった」
友。
友と申したか。
この男に友がいると。
驚いた。
まさかこんな変な奴に友達がいるとは。
ご主人様も驚いて振り返っている。
知らなかったんだ……。
「俺ができることと言えばそれくらいだ。あとは勝手に助かれ」
その顔は、とても穏やかで。
いつものむすっとした顔とはまるで違った。
ああ、こういうギャップでご主人様は落とされたんだな、と思いました。
まる。
友は後で出します。