全てを揃えて初めて才能は発揮され、天才は活躍できる。
…用意できなければ?
凡人か、無能になり下がるだけだよ。
朝一番箒片手に棒立ちをしていたのは、晴れて喫茶リコリコの新人店員となっためぐみである。
「…なぜ、こんなことに?」
深夜特有のテンションそのままに元気よく挨拶するめぐみを一同は呆然と見つめていた。
「……お久しぶりです」
「やっぱりここがリコリスの支部ってことでいいのよね?」
「…えぇまぁ」
「よかったぁ…持ってきた荷物の置き場が見つかって何よりだよぉ…中入ってもいい?」
おずおずと返すたきなの言葉によって肩が軽くなったのか、大きく息を吐いて膝に手を当てる。
「えぇ、どうぞ」
「ちょいちょい!」
「はい?」
体をずらしながら奥を見ようとしたとき、プラチナブロンドのミドルヘアーを被って左側を小さく結った髪型の千束を目に入れた瞬間、千束もその後ろをまとめてレンズの大きい丸眼鏡を掛けた容貌を目に入れていた。
「…あ」
「…あ」
2人は見つめたまま固まる。
そして、
「あ゛!!」
ベイカーベイカーパラドックスからやっと抜け出せた反動で叫びながら件の女性を指さす。答えが目の前にあったおかげである。
「思い出した!!!あんためぐみでしょ!?」
「…お久しぶりです」
「どこいってやがったんだこんにゃろう…!!」
「え!?ちょっやめてくださ痛い痛い!!!」
若干引き気味に答えているその油断だらけのめぐみの体を、千束は持ち前の身体能力を駆使して瞬時に関節を外れるギリギリまで極める。その光景をただ画面の向こうを見るような目で見続けながらクルミがたきなに訊く。
「…なぁたきな」
「はい?」
僅かに震える指で見事なチョークスリーパーを決められている件のリコリスを指差して、
「そいつが?」
「はい」
「…本当なの?」
今度はミズキが問うなか、二人はいまだに信じられない様子で固まっている。
「本当なのか、ミカ」
「…あぁ、そろそろ解いてやりなさい」
追随するクルミに対して少し小さく、結構投げやりに返してミカは千束を窘める。
首を回しながら気道を確保するめぐみに手を出す。
「…久しぶりだな、めぐみ」
「え、ミカさん?お久しぶりです…」
「とりあえず荷物を下ろしてきなさい。コーヒーを淹れよう」
「あ、はい」
引っ張り上げながら少し感慨深そうに初めの挨拶を切り出す相手にふわふわと返事をして、ゆっくりと周囲にぶつけないようにめぐみは慎重に自分の荷物を運んでいく。
「手伝いますよ」
「いいの?」
「…今はいいですよ」
「じゃあこの鞄だけでも持ってって」
そういって左手に持つ
(重い?)
自分の物よりもいささか重く感じたが、特に気にすることもなく運んでいく。
「あたしも手伝おうか?」
「…ではキャリーケースお願いします」
「まっかせなさ~い」
千束は奪うように右側にあるキャリーケースの取っ手を引っ張る。
しかし千束はつんのめってしまう。
「ちょっ!?」
後ろを振り向いて取っ手を両腕で掴み、体重を掛けながら引っ張ることでなんとかキャリーケースを慣性から脱出させることができた。
赤色の抜けない顔のままめぐみを睨み、
「あんたこんなの運んできてたの!?」
「…だって、自分のだもん」
「…少し持たせてもらっていいですか?」
いじけるめぐみを他所に僅かばかりの興味から千束に訊く。
「やめた方がいいよ」
「…そんなにですか」
「うん。多分下手したら一畳オシャカになるから」
「そんなにですか」
「クルミの入ったキャリーケースの方が断然軽いよ」
「比較対象がおかしくないか?」
…想像しただけで顔が青くなっていく予感がした。
主に経理担当としての自分が自分に向けてNOを突き付けていた。
クルミはクルミで引き合いに出されたことで若干目が据わっていた。
その後指示されるままに三人は6畳間の端の方に優しく置いて、カウンター前に戻って三方向から挟まれる形でカウンター席に座ってミカがコーヒーを淹れる姿を見ていた。
「…もう夜中だよ?」
「ノンカフェインにする方法はいくらでもある」
めぐみの前に湯気から香ばしさ漂うカップが一つ置かれる。
「冷めないうちに飲みなさい」
「…いただきます」
ミカが僅かに押したカップを手にとって、少し傾ける。
「……にがい」
「第一声がそれですか」
「…悪い?」
「私の顔見て言える?」
たきなに対して呟いていたら反対方向から黒い圧が掛かる。
「…シロップか砂糖いただけます?」
「もちろん」
紳士的な笑顔と共に渡されたシュガーポットから軽く2杯ほど入れて軽く混ぜてもう一度口に付ける。
「…うん、いい感じ」
「良い感じなら、そろそろ教えてもらっても良いですか?」
「何であんたここにいるかをね」
首を振って二人の顔を交互に見ると、両側から逃がさないという睨みを利かされたせいで若干カップを持つ手が震えてきているのはご愛敬といった所だろうか。
「…今日の16時にいきなり辞令が出たんです」
「いきなり?司令が?」
「…はい」
「具体的には?」
「『予算上の都合により本日16時よりお前を喫茶リコリコの配属とする』…だそうです」
「「「「あー…」」」」
全員の脳内には『お前に予算を割きすぎているきらいがあるのでしばらく左遷する』という副音声が楠木司令の声で脳内に響く。まわりの威圧感は消えたものの、次第に同情の色の濃ゆい視線が届き始める。尚更いたたまれなくなっためぐみは持っているカップを口に付ける。
「…お疲れさま、だったな」
「慰めはいらないです…!」
「じゃあ何が欲しいんですか?」
「銃弾」
「どのような?」
「……」
バツが悪そうに顔を俯かせる様子のめぐみに対して、
「オスミウムコアのフルタングステンジャケットAP弾」
「なんだろ?」
頭を上げて裏切者を睨むが、ミカは意に返さないままである。
「…馬鹿じゃないんですか?」
「馬鹿だね」
「聞いていた以上のバカだな」
「馬鹿ね~」
「うぅ~…」
目の前の
若干見るに堪えない姿を晒しながらめぐみは空になったカップをソーサーに乗せてゆっくりと前に持ち上げると、ミカは手に取ってカウンター席の4人に言う。
「今日はもう遅い。詳しくは明日にしなさい」
「…はぁ~い」
「……分かりました」
「はいは~い」
「ま、そうだな」
4人は重くなった腰を上げて、リコリスの二人とミズキは、各々の鞄を持ってトボトボと出口に向かっていき、クルミはゆっくりと奥の和室へと向かった。
「めぐみはクルミについていきなさい。クルミ、予備の布団一式の場所を教えてやってくれ」
「オーケーだ」
「…はい」
足取りが怪しい中、クルミの後を連いていく。
「詳しくは明日言うが、ここでは普通に店員として働いてもらうからな」
「はい………え?」
ミカの最後の言葉によって、めぐみは今日一番の驚き様を見せるのであった。
戻って現在。
「めぐみさんがここに配属されたからですよ」
めぐみの独り言に対して、朝日が差し込む窓ガラスを拭きながら何の気もなく返してきたたきなの背中を見つめる。視線を移すとカウンターではミカがカップを磨いていて、レジ近くでは千束が何かやってる。クルミ?さんの姿は見えないがミズキ?さんは2階のテーブルを拭いているらしい。
喫茶店員として働くときは皆さんそれぞれの丈に合わせた特注の着物をたすき掛けした姿に変わっている。特注ゆえに予備もなく、急に
…いつ測られたのか?というより、着物ってそんなに早く出来上がるものなの?
「…めぐみ、仕事仕事」
「・・・!」
不意に千束に声を掛けられたので我に返って、慌てて箒で床を掃きながら塵取りのところへと集めて、軽い金属音を鳴らしながら塵を中に入れていく。それからしばらく経って室内の床は粗方掃き終わったので次の仕事場に向かう。と言っても扉前の掃き掃除のことである。
「外、掃いてきますね」
「「「「は~い」」」」
4色の明るい声を聞いて、全員の確認が取れたようだと判断しためぐみは竹箒と塵取りを持って外に出る。見回すと扉の前のコンクリのところから縁石手前、芝生の上や背付きベンチの座るところにチラホラと赤や黄色の葉が見える。
「意外に枯葉があるもんなんだね…」
独り言をつぶやきながら端からしっかりと枯葉を塵取りの口の近くに集めていく。
芝生の上の枯葉がそろそろなくなりそうになっているときに、ドアから千束が出てきた。
「おぉ結構綺麗になってる~」
「何かあったの?」
「そろそろ店明け前の朝礼だからさ、いこっか」
「…わかりました」
言われるがままに掃除セットを持ってまた店内に戻る。
その後全員が集まって軽い業務連絡や確認が終わって、
「さて、後はめぐみをどうするか…だな」
「聞けばかなりの無能らしいが…どうするんだ?」
いつの間にかめぐみが無能であるという共通認識が全員に得られていることに内心戦慄しているなか、本人を置いてけぼりにして話し合いは進んでいく。
「そもそもどの程度の無能なのよ?」
「そうですね…めぐみ」
「なに?」
そう言いいながらたきなはいつの間にか持っていたB5サイズ紙をめぐみに渡す。そこには算数の問題が10問ある。
「これを解いてください」
「…分かった」
沸き上がる苦手意識を抱えたまま、めぐみはカウンター席に座って問題に向き合う。次第に首を傾げたり、指の折り曲げを繰り返したり、天井を何度も見つめたりと体が忙しなく動く。
時間が経つこと10分程して、
「…これでいい、かな?」
「見せてください」
たきなは顔色一つ変えることなく採点に入ることでペンが走る音が妙に大きく響くなか、少しの緊迫感が店の中に漂う。
「終わりました」
そういってめぐみ以外の全員がその紙を見て回す。
そうすると、
「「えぇ…」」
二人は信じられないものを見る目を、
「うそん…」
一人はあり得ないものを見た顔を、
「はぁ…」
一人はそれ見たことかと手を添えた頭を振り、
「…」
一人は何も見なかったと目を覆うように手を乗せて顔を天に向ける。
五者五様の呆れようをめぐみに見せたのであった。
呆れから戻らないままクルミが独り言ちる。
「…計算式はどうなっているんだ?」
「何がどうしたらこうなるのよ?」
「いや~…これは…ね」
「めぐみ」
「どうだった?」
「自分としての感覚はどうでしたか?」
「私なりには頑張ったよ?同じマークが全部につくようには」
「では…どうぞ」
そうして手渡されたものを見て…手が震える。
「……0点」
「…そうね、間違ってなかったわよ」
「全部に×マークがついていたんだからな」
追い打ちをかけられた後に頭を抱えてその場をうずくまるめぐみを尻目にたきなは他のメンバーの方に向いて、
「こういうことです」
「…たきな」
「はい?」
「めぐみはさ、どうやって
「…さぁ?」
「えぇ…」
巡らせる頭の中には思い当たる節が一つもなく、真相は闇の中となったのであった。
「まずレジは無理だな」
「ホールスタッフならどうかな?注文を聴いてメモして運ぶくらいなら…」
「ではやってみましょうか。ね?めぐみ」
いまだにうずくまるめぐみと同じ視座に立って言う。
ゆっくりと頭を上げて、
「…クビにしない?」
「そこは頑張りますって言ってくださいよ」
たきなの瞳は冷たかった。
その後、
「次はこれ!」
「はい…」
めぐみは何も乗っていないお皿2枚が乗ったお盆を両手に持っていったら、
「おぉッとぉ!?」
何もないところで足が絡まって乗った皿が壁に向かって飛んで凹ませた。
「なぜそうなる」
「…修理費、大丈夫ですか?」
「…なんとかなる」
重々しく答えるミカの声が聞こえないように千束が声を張る。
「ぐぬぬ…じゃあ次!!」
「はい!」
やけっぱちにめぐみは答える。
同じように皿を2階に運ぶように言われてやると、
「登りは大丈夫なんじゃん!」
「…意外です」
「後が怖くなるやつだな」
心底意外そうな顔のたきなはクルミの一言にハッとしつつ小さく首肯した。
「降りてきて~!」
「はい!」
元気よく答えて階段を下る時に
「きゃああぁあ!?」
階段を踏み外して皿とカップが千束めがけて吹っ飛んだ。
「危な!?」
「…避けながらキャッチできるんですね」
「千束らしいわね~」
「やはりですか…」
「いだい…」
「まぁ~登りなら大丈夫って分かったから!次行こう!」
「…あい」
赤くなった鼻をさすりながら勢いの減った声で答える。
皿洗いをしろと言われてやると、
「あぁ!?」
手を滑らせて皿がミズキ目掛けて吹っ飛んだ。
「危な!?」
「大丈夫ですか!?」
「食器が見るも無残な姿に…」
ミズキが間一髪で躱したことで床には欠片となった陶器の残骸が。
「ミズキ、受け止めろよ」
「乙女の肌に傷をつけろと!?」
「怪我しようがないじゃないか」
クルミの視線は豊かさを包んでる方の着物に向かっていた。
「どこ見て言ってんのよあんたは!」
揉めている年上女性二人を無視しつつ、只今自身の不始末に追われるめぐみを見ながら3人は考えていた。
「…掃除はできるんですよね」
「外でもそうだったし…多分大丈夫なんじゃない?」
「料理を運ぶだけなら2階の登りだけとカウンター前に限定するべきだな」
…そんなホールスタッフは即刻クビにするべきだろうが…残念ながらリコリス支部としての体裁をとる為にもなんとか使ってやらないといけないという認識は言葉を交わさずとも共有していた。
「…キッチンはどうでしょうか?」
「色々と滑らせそうだけど…」
刃物が飛んでいく光景が3人の頭によぎる。
どう終わった~?という千束の声を聴いて、いそいそとゴミ袋と床掃除セットを持って3人に近づいてくるめぐみ。自覚があるようで既に顔が青い。
「…クビになりませんよね?」
「現状、雇いたくはないですね」
「そんなぁ…」
姿勢がぐにゃりと縮こまるように座り込む。
「たきな、何とかならない?」
「ちなみに料理作れますか?」
「…レシピある?」
「これだ」
ミカから手渡されたメニューのレシピをじっと見つめる。
顔をレシピから離して、
「キッチン、借りれます?」
「もちろん」
「私がつきます」
「じゃアタシが味見する~」
そういって千束がカウンター席に着いていがみ合っている二人を見て笑っているなか、キッチンでは元同期の二人が立っていた。
「たきなはそこにいるだけ?」
「はい。何かあった時に向かい側にいたのでは遅いので」
「信用してくれ…ないよね」
「もちろんです」
信頼のされ所がちがうよね…と小言を挟みながら腕をまくって料理を始める。
過ぎること15分と少々。
その間に小競り合いはミズキの息切れによって決着し、4人はカウンター席に着いていた。皿を持って出てきたのはめぐみではなくたきなであった。上にはいつも見ているスイーツと同じもの、漂う匂いはいつもカフェの中で香るものだったので、第一印象としては一同揃って感心しながらも一抹の不安を取り除けないままでいた。
「…たきな、どうだった?」
「…食べてみてください」
顔を伺いながら訊くが、持ち前のポーカーフェイスによって邪魔されて解らず終いのままである。
ミカがゆっくりと4つに切り分けて爪楊枝を刺して皿を横に滑らせる。取ったままスイーツを見つめた後、各々が各々に目配せをする。
「…いただきます…!!」
意を決して言った千束の声が号令となって全員が揃って口に入れる。
5秒…10秒と時間が過ぎていく。
「どうでしょうか?」
静寂に我慢ができずに声を出すものの、答える声がない。
「…千束」
「…先生も思った?」
「…アタシもよ」
「僕もだ」
「あの…みなさん?」
全員が端によって私に聞こえないように何やらこそこそと談合している。小さくて早口で言っているのでとてもじゃないが聞き取りようがない。蚊帳の外に置かれる感じをまざまざと見せつけられているような気がしていよいよクビを宣告されるのかと半ば薄暗い将来を描き始めていた。
「めぐみ」
変に神妙な顔をしたたきなに呼ばれる。やはり美味しくなかったのだろうか…。
「…はい」
「キッチン専属とします。いいですよね」
『異論なし』
「・・・え?」
そう言われてたきなから残りメニューのレシピを渡される。
「とりあえず20人前の下ごしらえお願いしますね」
「あ、はい」
開店時間まで残り少なくなっているなか言われるがままに無心で料理の拵えを続けていたらあれよあれよという間に、
「「「「「いらっしゃいませー!」」」」」
そこからは怒涛だった。
「三兄弟とコーヒーセット二つよろしく!」
「これ持ってって!」
「了解です。あと煎茶一つ追加入りました」
「バーガー一つとおはぎ、どっちも煎茶セットだ」
「どっちも今すぐ!」
「コーヒーのみ三杯よ~」
「ミカさ~ん!」
「そろそろだ」
「お会計ですね、伝票をお見せください」
「ホットチョコパフェ四つ入りまぁ~す!」
「お茶濁していてくれますか!?」
「かしこまり~」
「ご来店ありがとうございました」
『またのお越しを!(お待ちしております!)』
一人が届ければ一人が回収し、その間に一人がオーダーが入っている間に一人がお会計の金額をレジに打ち込んでいる裏で一人が流れる汗を気にすることなくチョコホイップを絞るというように、微かな休憩を挟む暇もなく一人を除いて全員が入れ替わり立ち代わりでスイーツと皿と皿が運ばれていく。
「ご注文はなんでしょうか?」
「バーガーおはぎの煎茶セットできました!」
「私が届けます」
「ミズキさん今手空いてる!?」
「今皿とオーダーと一緒に降りてるから待ってなさい!」
「クルミさんチョコパフェ!」
「了解だ」
「コーヒー三杯も持って行ってくれ」
「お皿が!」
「今拭いてます」
「私のエレガントパフェ二つもだって!見る目ありますねぇ~!」
「千束さんがやってくださいよ!!」
「はぁ~い!少々お待ちを~」
キッチン横を通って出ていこうとするたきなに思わず訊く。
「ねぇ!ここじゃこれが普通なの!?」
「たまにですね」
「これが…社畜?」
扉を開けながら素っ気なくこぼしただけで終わった。横に顔を向ければルンルンでホイップを絞る千束。
あぁ、明るい彼女もついに社会の歯車になってしまったというの?…ないか、千束に限っては。
そこにミズキの声。
「はいお皿!あと三兄弟と煎茶、おはぎとコーヒーのセットよ~」
「今すぐ!」
「…うん!いい感じ!」
「あたし運ぶから千束はそれ洗ってなさい!」
「えぇ~わたしが運びたい~!」
「文句は聞きませ~ん」
そう言って仰々しいビジュアルをしたパフェを掠め取って歩き出すミズキの背中に小言を投げつけながらも手は皿を洗っていた。
和気藹々とした雰囲気のなかでそれぞれが忙しく慌ただしく働いていたら…
「あら、今日休みよ?」
気が付いたら着いていた喫茶リコリコ店内で更衣室に向かおうとしている途中でミズキが不意に言った一言で、私は目覚めた。
「…え?」
「知らなかったのか?」
「知ってるも何も、私今日で17日目なんですけれど…?」
答えた瞬間に全員が顔を背けた。理不尽すぎませんかね?
「ここって定休日はないんですか!?」
「うちはシフト制だ」
「私が働いてるとき全員出勤してましたよね!?」
各々が鳴りもしない口笛を吹きながら作業を再開する。やはり理不尽すぎるのでは?理不尽の原因を探るべく、後ろに振り向いて生真面目な彼女に問い詰めることを決意する。
「たきな!どういうこと!?」
「在庫の調達分が届く日ですし、今日は定休日ですので」
「先週休みだったの!?」
「そうだよ~」
「じゃあなんで休日返上で働いているんですか!?」
「なんでって…ねぇ?」
そういって全員が目配せをする。相変わらず教えてくれない状況に全く慣れない。
「ボクは本業外労働がないだけマシだ。最近新しくボードゲームを作ったんだ。テストプレイでもしようじゃないか」
そう言って余りある袖で手作り感がほのかに漂う道具の数々を器用に持ってきていた。
「おぉ~!やろうやろう!ルールは!?」
そうだな~と言いながら結構強めに座卓を叩く千束のほうにみんなが寄っていく。
「めぐみも入りなよ!ほらほら!」
手招きする千束を見て、私はあることを決心した。
この邪知暴虐の所業を何とかしなくてはいけないと。
…行動開始は、夜だ。
組み上がっていく脳内タイムスケジュールを返答する笑顔の中に一旦畳んで、純粋にテーブルゲームを楽しんだ。
そして、夜。
「…よし、やろう」
暗い景色の中、めぐみが握っているのは…包丁だった。
今日も今日とで遅刻ギリギリの時間に千束は持ち前の陽気さと共にリコリコのドアを開けていた。
「おはよう諸君!今日も元気に…どしたの?」
「…見ればわかる」
そういって皆が見つめる方向には、一枚の紙がマスキングテープで雑に貼り付けられていた。
『仕事はしました。探さないで下さい』
「…どういうこと?」
「家出だ」
「…へ?」
「子供らしいっちゃらしいのかもね…」
「…連絡は?」
「部屋にはなかったが、電源を切っているようだ」
「千束、問題はここからですよ」
「…どうゆうこと?」
「裏を見に行ってみてください」
「…分かった」
言われるままに裏に行くと、そこにはリコリコで売ってるスイーツがあった。それもすぐに出せるくらいに美味しくできている。
しかし只あるだけではなかった。右もスイーツ、左もスイーツ、その奥もスイーツと、山のように所狭しと積み上がっているスイーツの景色しか言えない。ありえない景色と、そのスイーツの量の多さに圧倒されすぎて少し後ろに下がってしまう。
そうすると横からたきなの声が届く。
「…作られた量は休日返上で一か月間で売り切れるかどうか、ですね」
「ここだけじゃなく地下にも置いてあるからな、それ以上かもしれないぞ」
「しかも味とか食感とかが変化しないようにちゃんと処理してるところが憎めないのよね~」
「…まず、売り切ることを考えるべきだろうな」
聞きたくないことをつらつらと述べられるとどうなるか。
ただ叫ぶしかできなくなるものである。
「…なんじゃこりゃああぁぁぁあああ!?」
読んでいただいてありがとうございます!
今まで全く来なかったのに急に知らない数の評価や感想、お気に入り、しおり、UAなど……皆さまからの期待が数字に表れていて若干恐怖を感じております((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
良ければぜひ感想やお気に入りなどをお寄せください!多ければ多いほど制作への活力と責任感と恐怖が筆者の中に沸き上がってきますので。
あ、誤字報告ありがとうございます!
誤字の内容に対してちょくちょく前後の内容を添削していますが、全体への影響はゼロになるようにしていますのでご安心を。
では、続きをお待ちくださいませ!
オリ主は前世で何歳の誕生日で死んだと思う?
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お前の勝手にせぇ!(ノブ風味)