それは、人間が最期まで求めてやまない実現不可能な泡沫の夢。
ある作品では、人類の可能性の到達点に達した者同士であればそれが適うと説き、
またある作品では、心の壁を超えた魂の開放による対話によってなされると説いた。
現実では、恥も外聞ない言葉・肉体の応酬の末に到達するだろうとされている。
実際はそれすらも叶わないほどに、人は他者に対する理解をすることはないことの方が多い。
なぜかって?
人間は…理解してしまえばすぐに崩れ去ってしまうくらい、硬く脆く醜いモノを後生大事に持っているからだよ。
夜が明けて白みだした空の東側から優しい光が差し込んでくる。
旧電波塔にもいる彼女にも光が当たってもぞもぞと体をよじり始める。
「…ぁあ……あさかぁ…?」
そう言って懐からスマホを出して時間を見る。
「七時……さむ」
そう言って体を起こして周りを見る。任務を終わらせた後に寝たせいでランチャーとライフルが放置したままになっている。かつて顔があった場所の横には汚らしい残骸が残っている。
気付いてはいたが…口の中も気持ち悪い。
「…片付けて、お風呂にいこ」
ガチャガチャと独り言を口にしながらライフルたちを
そうしてゴルフバッグにいい感じに仕舞い込んだ後に、肩に担いで立ち上がってその場を後にする。
超高層からやっと地に降りためぐみは再度スマホを見る。
「…まだ3週間以上はかかりそう、かな」
「まずはお風呂…銭湯開いてるかな?」
とりあえず地図アプリを開いて目的地を探しながら歩き回る。
少し歩いていたらちょうどいい場所に営業中の銭湯が見つかった。
「お、ラッキー♪」
少々軽くなった足取りのまま中に入り、必要な分のお金を払って奥に入って制服や下着・髪留めを籠の中へと雑に入れる。
軽くなった体と共に借りたタオルと風呂桶を持って浴室の中に入る。
少々賑やかな雰囲気を感じながら並んでいる鏡の内の一つの前に座る。
そうしてシャワーヘッドを持って蛇口を回してお湯の気持ちいい温度を探す。
(ん~…これこれ)
ヘッドを自身に向けて髪と体を濡らしていく。
ある程度お湯で体が温まったところでいったん蛇口を閉めてシャワーヘッドを置く。
眼鏡を桶の中に入れたらシャンプーを二度ほど押し込んで泡立て、脳天を中心に徐々に周りを指でマッサージするように押し込みながら洗っていく。
(うん~気持ちいい…)
でも多分他の人にやってもらった方がよっぽど気持ち良いんだろうなぁ…なんて考えながら髪と頭を洗っていく。そうして再びお湯の出ているシャワーヘッドを持って髪に付いている泡を流す。
(髪も伸びたね…でも切るのも面倒だし、いいか)
理容室へ行く金があるなら漫喫に行った方がお金の無駄にならなくて済むし。
曇った眼鏡をお湯で飛ばして再び掛けた後に、手で泡立てたボディソープを体中に滑らせるように洗っていく。
腕・首・背中と手を這わせていくうちに、
「…ちょっとは大きくなったかな…?」
依然として己の平坦な胸に対して呼びかけるが、答える声もなく
「…ちょっとくらい、大きくなってほしいな」
そう言って泡と一緒に這わせた手からは僅かにも感じない斜面を幻想しながら、腹や脚へと手を滑らしていく。
そうして体にあった泡を落としつつ髪を上にまとめためぐみはついに湯気の立ちのぼる浴槽に体を浸ける。
「んん~…!きもちぃ~…」
温かさによって芽生える睡魔から欠伸を二度三度繰り返して、優しい暖かさが全身に染み渡っていく快感に酔いしれる。
お風呂の心地よさを満喫しためぐみは、着替えや髪を乾かすのに時間を費やして再びゴルフバッグを担いで外に出るまでに1時間強かかっていた。
「風呂は命の洗濯。いいこと言うよね~…だいじだいじ」
大きく背を伸ばしていったあとふとスマホの時計を確認すると短針は12時を、長針は既に下を指している。
「…もうこんな時間?」
グゥ~…
お腹からの可愛い悲鳴が鳴く。
「…そりゃお腹も空くよね」
「仕事が来ないうちに腹ごしらえしなきゃ」
どこかいいお店あるかな…と眼鏡を押し上げながらスマホを見て、また歩き出したのであった。
今日も今日とで喫茶リコリコは優しい賑やかさに包まれていた。
「「いらっしゃいませ~」」
掛け声とともにお客様の要望に応えるべく脚を細かく動かしている
その片方の声が調理室から響く。
「クルミぃ~!あんたも働きなさいよね~!!」
「解っているさ。でももう少しボクの体に配慮してくれてもいいだろ」
「それは分かっているわよ!」
「ブレンドコーヒー3杯、完成だ」
「了解、持っていこう」
あんたねぇ…という言葉をかき消すようにそう言って精一杯背伸びしながらカップをソーサーと共にお盆に載せて運んでいく。
そのいたいけな姿で少し不安そうに歩いてくる様子を見て一部のお客さんは胸を掴んでいた。
愛くるしさも売りの喫茶リコリコである。
それに気づくこともなくクルミはお客様にサーブしていく。
「おまちどうさま、ブレンドコーヒー三つだ」
それを後ろから眺めながらスイーツをミズキに渡す。
「それで?二人は今何してるのよ?」
「あぁ、今のうちに説明しておこうか」
そう言って約5時間前を思い起こしながら話し始める。
それは店を開けてから1時間後、客足が少なくなった頃を見計らってたきながミカに話しかけるところから始まった。
「ミカさん、提案があります」
「…在庫の話か?」
「はい。正直ここだけでは消費しきれないと思います」
「…続けて」
「はい。なので、移動販売なんてどうでしょうか?」
「…キッチンカーを使うつもりか?」
「はい。調べたらできないことはなさそうだったので」
詳しくはこちらに、と言ってタブレットを渡されて中身をスクロールしながら見る。
「最悪リコリスの力を使えば何とかなると思ってます」
「…悪くなったな」
「赤字にしないためです」
にこやかに己の仄暗い腹を見せたたきなの顔を見つつミカは頭の中で軽く逡巡して、
「責任者は誰にするつもりだ?」
そいうとたきなは赤色に身を包む金髪少女を指差して、
「看板娘あってこそでしょう?」
「…それもそうだな」
毒気の抜けた声で答えて千束と名前を呼ぶ。
「なぁに~先生?」
「たきなと一緒に外に営業に行ってみるか?」
「え!?どうやって?」
「キッチンカーだ。準備が良ければ今からでもいけるぞ」
「ほんとに~!やったぁ!」
そう言って小躍りしながらよりテキパキと座布団を置いて回っている。
「もちろんたきなもいっしょだよね!?」
「もちろん、手綱はしっかりと持っておかないといけませんから」
「いや私は犬か何かか?」
「?」
「さも当然かのように返さないでくれないかな!?」
首をかしげながらキョトンとした顔を返すたきなにムキになって追撃する。
しかし効果はさほど発揮しないことで、さっきまでの勢いは消失して若干遅くなったテキパキさで準備を続ける。
さほど気にすることなくたきなは電話中のミカに訊く。
「
「
「分かりました。お借りします」
そうしてたきなが奥の倉庫に足を運んでいる間にミカは受話器を置いて、
「千束」
「…なぁに?」
「向こうの用意ができたそうだ。取りに行けるな?」
「…もち!」
不貞腐れた顔を笑顔で塗りつぶして答えた千束は、いつの間にか着替えた自前の私服で出入り口を颯爽と出ていった。
ちょうど入れ違いで戻ってきたたきなは金色の髪を探して首を振る。
「…千束は?」
「車を取りに行ったところだ」
「そうですか」
そうして千束が戻ってくる間にたきなは『喫茶リコリコ』と大きく書かれた貼り紙に立て看板とチョークやその他使いそうな演出道具を倉庫から引っ張り出してコンパクトにまとめていた。
千束が真っ白なキッチンカーと一緒に帰ってきてからは、演出道具と
そうして目に見えて棚からスイーツがなくなっていくのを確認することなく二人はシートに座って、
「それでは行ってまいりま~す!」
「あぁ、気をつけてな」
サムズアップで答えると同時にアクセルを踏んでキッチンカーは喫茶リコリコを離れていく。
「なぁるほどねぇ…」
そう言ってカウンター席に寄り掛かるようにしながら頬杖を突くミズキの目の前でスイーツを完成させながら続ける。
「二人には負担をかけるが、よろしく頼む」
「まぁ私は別にいいけど…いつまでやるつもりなのよ?」
「たきな曰く、週末までらしい」
思わず目を見開く。
「案外短いのね。てっきり2週間くらいかと思ってた」
「たきななりに何か考えがあるんだろう」
「…めぐみをどうにかするためってことよね?」
「きっとな」
そう言ってカウンターの上段に二つのスイーツを置く。
「団子三兄弟2つだ。目の前のそれと一緒に持って行ってくれ」
「りょーかい。忙しさは変わらないのね~」
軽い小言と共に3つのお皿を器用に客が座っている席へと運んでいく。
ヴヴヴ
懐にあるスマホが着信特有の震えを伝えてくる。
画面を見た後に通話を開始する。
「どうした千束?」
『先生~!ちょっとヤバいの!』
「何がどうヤバいんだ?」
『持って行った在庫がもう売り切れちゃった!』
そうして相槌を打ちながらしばらく会話が進んでいくと、ミカの顔が不思議そうな表情に変わる。
「本当か?」
『ホントホント!だから今から戻りま~す!』
ピッ
そうして通話が切れたスマホをそっと懐に戻したところでクルミが寄ってくる。
「どうかしたのか?」
「持って行った分が完売したそうだ」
「…本当か?」
「戻ってきてから改めて聞けばいい」
そうして30分弱が過ぎて、店の扉が勢いよく開く。
店の中にいる全員の視線が集中するが、お構いなく中に入っていく二人。
「たっだいま~!!」
「ただいま帰りました」
片方は大股で元気よく、もう片方はいつも通りの様子のまま帰ってきた。
しかし両方とも自前の瑞々しい肌が温まっているせいなのか少し赤らんでいる。
「お帰り、二人とも。アイスコーヒーでいいか?」
「まだいいかな!追加で積み込みに来ただけだし!」
ミカは少し驚いた様子を一瞬見せるが、すぐに笑みを浮かばせる。
「そうか」
「うん!たきなは次どこに行きたい?」
「そうですね…」
うちのメニューのレパートリーから言って…と口を動かしながら倉庫の中に入っていく。
「…手応え、かなりあったみたいね」
「あの様子じゃあ疑いようがないな」
二人の顔は少々の疲れを見せながらも魅力的な笑顔のままであった。
「ねぇたきな~和菓子はどうするの~?」
「明日以降でいいでしょう」
「おっけ~!」
といった言葉を交わしながら二人は忙しなく車と倉庫を往復していく。
最初と同程度以上の在庫を積み込んだ二人はそのまま車を走らせに行ったのであった。
そうして二人のキッチンカーによる出張店が稼働して5日後の正午。
倉庫部屋には喫茶リコリコのメンバーの内で
各々の眼がキラキラと輝いている中、たきなは大きな握りこぶしを振り回して、顔からにじみ出る笑顔を止めずにはいられなかった。
「やりました…!!」
「まさかここまでとは…」
そう、たきな考案の喫茶リコリコ2正面作戦によって在庫の消費は飛躍的に上昇し、キッチンカーによる遊撃型の販売方法によって都内の周知性も急激に上昇した。例の
その影響もあって本店の喫茶リコリコの集客にも+に働いたことで、さらに売り上げが伸びた=在庫の消費が増えたことで、現在のスイーツの在庫が残り2割5分に迫っていた。
ほぼ
それによって年長組(特に某二十歳女性)はそれはそれは嬉しそうに顔を緩ませていた。体重計に乗る恐怖から解放されたせいでもあるのだろうが。
「二人ともやるじゃない!」
「月末決算はこのままでも黒色確定だ」
「よくやったな、千束、たきな」
「まぁ?看板娘の私の力もあるけど…」
三人からの黄色い声に対して千束は少し胸を張って言いながらも、たきなを後ろから肩を抱いて、
「今回はたきなのおかげだよ!!」
「ちょ、千束…」
「いいじゃん今回はたきなの大手柄なんだし!!」
「……もう」
そう言って顔をほのかに朱く染めたたきなの体は千束の揺らすがままにされる。
そうしてある程度満足した千束はたきなの方から手を外すと、たきなは口を開く。
「さて、ようやく準備が整いました」
その言葉に年長組が訝しむ。
「…なにするつもりだ?」
「在庫を運ぶんですよ」
「どこに?」
「千束、少し持ち上げてくれますか?」
「合点承知!」
と言いながら並んである何も乗っていない棚の一つの柱を5cmほど持ち上げて、たきながその間に手を滑らせる。
「いいですよ」
「おっけ~」
二人は浮かせた柱の間に手を滑らせてまた下ろしてを3度繰り返す。
「…なにしてんの、あんたたち?」
「これを取っていたんですよ」
そう言って4人に見せたのはかなり薄い正方形上のシートだった。
「なんだそれは?」
「仮説ですが…重量感知系のシートかと」
「なぜそう思うんだ?」
「めぐみからの返信をもう一度見てください」
そう言って千束は自分のスマホ、めぐみとの会話の履歴画面を見せながら話し始めた。
「よく考えたらさ、“売り切れるまでストしますので、”っておかしくない?」
「それは…確かに」
たきなが続ける。
「この文章から察するに、売り切れたかどうかが向こう側で判断が付く何かがあるということです」
「でも、ここ倉庫よ?」
「こんな場所に監視するためのカメラの部類は…まさか」
ミカとクルミの脳内に考えが走る。
「だから、重さか」
「はい。めぐみは自分がどれくらいの重さのスイーツを作ったのかを計算できるほどの頭はありません…ですが」
「いくら作っても
二人がそう言い切った後におぉ…という声が3人の口から漏れる。
「悪知恵が働くというか…」
「機転が利く…というべきか?」
「…それが事実なら、ほかの棚にも仕込んでるってことだな」
「そう。ということで…
「めぐみが戻ってこらざるを得ない状況にするためにも必要なことなので」
視線の先の二人に目を向ける。
「分かった」
「仕方ないわね~」
二人が袖を捲って軽く息を吐きながら答える。
そうして4人がかりで柱の下に挟まっているシートを取り始める。
棚を軽くするために乗っているものを移し、四方の柱を持ち上げて下のシートを取ってその棚に在庫を移すのを繰り返していく。
そうして乙女たちの肉体労働が40分くらい続いて全部の柱の下のシートを取り終えた彼女たちはカウンター席でミカが入れてくれたアイスコーヒーを啜っていた。
「っはぁ…やっと終わった~」
「そうですね…これで、めぐみも観念してくれるといいのですが」
「あんたたち…体力…あるわね」
「「リコリスですから」」
「途中から休ませてくれたことには感謝するぞ」
「体格のアドバンテージ…ですって…!?」
何の気なしに答えた3人に対する返事がこれである。
「あとは向こうからの連絡…」
「クルミ、これって逆探知できる?」
「ボクを誰だと思ってるんだ?通話開始から10秒で特定してみせるさ」
そう言いながら自前のノーパソと千束のスマホを有線で繋いで色々といじる。
「繋いでいいぞ」
その言葉に従ってスピーカーをオンにして通話を開始する。
「もしもぉ~し、めぐみぃ~元気ぃ~?」
開始早々から煽り声全開で話し始める。
『なにしたんですか!?』
「なによ~そんな大声出して~」
『一体どうやったらあれだけの量のスイーツを消費したっていうんですか!?』
「あぁ~…それはぁ~ウチの潜在能力が高かったからかもねぇ~!」
唐突にパソコンから通知音が出る。
そうしてまるで高速連弾ピアノを弾くかのようにクルミの指がキーボード上で踊りだす。
後ろから3人がのぞき込むと、画面上にはリコリスの制服を着ためぐみがゴルフバッグを抱えるように座ってスマホに向かって叫んでいた。
「割れたぞ、原宿だ。タピオカ片手に休憩中のようだ」
「ミズキ、車を」
「あたしの扱い…ま、いいけどね」
そう言ってキー片手にミズキは外へ出ていく。
『嘘なんでしょ!0㎏なんて表示…まさか!』
「そうで~す!あんたの仕込みはぜぇ~んぶバレてま~す!残念でした~!」
「たきなが運転しながら推理するシーンは特にカッコよかったよ~」
褒められなれてないが故に赤く染まった顔を俯かせることしかできないたきなであった。横で意地の悪い顔でひゅ~ひゅ~と煽るクルミに軽くチョップして何とか落ち着きを取り戻したりしているなか、二人の会話は続いていく。
『ぐぬぬ…どうせ全部売り切ってないんでしょ!』
「さぁてどうだろうね~私からは何とも言えないな~」
『卑怯な!』
「あんたの方が散々卑怯でしょうが!」
『元はと言えばそこの労働環境が劣悪なのが悪いのよ!?』
「“あんな事”そうそうあるわけないじゃん!」
『だったらなんだって“あんな事”が起きたっていうのよ!』
「知るか!」
この物言いに電話の向こう側にいるめぐみでさえも「えぇ…」と引いてしまった。
「とにかく、あんた今原宿にいるんでしょ」
『…え?なんでそれw「逃げないでよ?」…』
そうして答えるまでに数秒の時間が経つ。
そして、
『やってやろうじゃん!?』
ブチッ
ヤケクソの啖呵の後にめぐみとの通話は切られた。
ゆっくりとスマホに繋いでいたコードを外して、
「やってやろうじゃん!?」
めぐみとまんま同じトーンで叫ぶ。
「ミズキ行ける!?」
「乗るなら早くしなさーい」
「よぉしいま行く!」
そう言ってリコリスバッグ片手にドアに駆け寄って出ていこうとするが顔だけを店の中に残して、
「クルミ!ナビと
「分かった」
それじゃよろしくぅ!!と外から聞こえた声は踏み込みすぎたアクセル音によってかき消された。
「…こんなにくだらないバイトは初めてだ」
パソコンに向かいながらクルミは独り言ちる。
それに対するミカの返答は、
「…今回は出す」
疲れの残る声で、そう答えたのであった。
さて、その切った方であるめぐみはというと…
「…どうしよ?」
正直詰んでいる。
居場所はバレた。自分の移動手段は徒歩or
さらに向こうには電子系に強い人がいるらしい…誰だろう、ミズキさんあたりかな?
ともかく、現代社会でそんな人を相手にして勝てるわけがない。
やはり詰みである。
「でも…!」
啖呵を切った以上、やるだけやってみよう!というかやるしかない。
労働者はいつだって役員に楯突くのが使命みたいなものだってテレビで見たもん!*1
一度頭を振ってタピオカを啜ってもちもち触感を味わいながら考える。
(でもどうしよ、ほんとに詰んでる…)
(ひとまず、人の少ないところに行く?それともあえて人の込み合っている所でやり過ごす…?)
(…とにかく、歩こう)
ベンチから立ち上がってゴルフバッグを背負って人混みをかき分けながら歩いていく。持っている荷物のおかげで通行人が多少避けてくれるので比較的快適に前に進める。
そうしてある程度進んだところで狭い通路を目指して右折する。
色々な要因から体が熱くなっていくことを気にしないように足を速めていく。
(どうしよう…どこにいけばいいんだ?)
ポケットら取り出して歩きスマホを敢行する。
地図アプリを開いて良い場所がないかを探しはじめる。
(う~ん…どこに行こうか…)
そうして指を滑らせ続けて、ある一つの場所を見つける。
「ワンチャン…あるかな」
画面を見続けること数十秒経って、
「…信じてみようかな」
スマホをポケットに再度入れ、一滴ほどの希望を信じて歩く向きを変える。
『向こうが動き始めた』
クルミからの通信を耳に受ける3人を乗せた車は高速道路を爆走中である。
「どこに向かってるか分かる?」
『特に理由もなく歩いているようだ。当面は原宿駅に向かって直進するといい』
「だって。ミズキ、よろしく」
「あいよ~!取っ手はよく握ってなさいよ!」
そう言ってより一層アクセルを踏み込む。
慣性で後ろに引っ張られながら千束が聞く。
「
『予想通りだ。具体的な内容は破棄されていたがログは引っ張り出せたぞ』
共有しようか?という声に答えようとするが一瞬開いた口を閉じて、
「…いい。ありがと」
『報酬は緩いシフトでいいぞ』
「変にがめついわね…」
『曲がりなりにも匿ってもらってる身だからな』
その言葉で吹き出す3人。
『動きがあったらまた連絡する』
それを最後にクルミとの通信がスリープ状態に切り替わる音が入ってすぐにたきなが口を開く。
「…やはり、でしたか」
「…そだね」
「何がよ?」
ミズキがハンドルを左右に回しながら訊く。
「…前にミズキ言ってたよね、DAから依頼が来てないって」
「あ~そうね。今も変わらないけど…前にミカと言い合いしてたあれの話でしょ?」
「そうです。めぐみが関連してるんのではないかと思ったので、クルミに調べてもらうことにしたんです」
「世界一のスーパーハッカーへの依頼してはえらくショボいわね…おっと」
巧みなハンドルとアクセル捌きで3台ほど抜かしていく。
「で、結果は?聞いてた限りだと二人の予想は当たってたみたいだけど?」
「…そうですね。めぐみが私たちへ向けたDAの依頼を肩代わりしていたことは間違いないみたいです」
「そう。千束はどう思ってるの?」
バックミラーの向こう側に移る千束と一瞬目を合わせる。
視線を外の流れる風景に移した千束はぽつぽつと話し始める。
「正直、ありがた迷惑かな」
「どうして?楽できるじゃない」
「…ミズキ、わざと言ってるでしょ」
「そうでもしないと吐き出せるもんも出ないじゃない」
そう言ってミズキと、横で黙っていたたきなは千束が口を開き始めるのを待つ。
「…めぐみは、なんか遠い」
「…遠い、ですか?」
「そう。一本線を引いているわけでも…あるかもしれないけど。とにかく、めぐみはめぐみで“なにか”抱えてるような気はしてる」
「「…!」」
彼女特有の観察眼を知る二人は少々の驚き故に何も言うことができないでいた。
彼女の言葉は続く。
「私にとってのめぐみのイメージは、私が7歳のころに1度だけ会ったときのものだけど…10年前のめぐみとまるで変ってない。あの頃のめぐみがそのまま大きくなったような印象しかない…感じがする。だから、めぐみの好きなものとか趣味とかみたいな新しい一面はめぐみが来てからたくさん知れたのは私的には嬉しかった。けど、やっぱりどこか変わってない気がする」
語られる言葉に対して、たきなは少し衝撃を持っていた。
(千束の言う『変わっていない』とは、どういうことでしょうか?あまりに抽象的で全体を掴めませんが、ひとつ確実なのは『変わっていない』ということだけ…それは私の知るめぐみの変なところ、異常なところも変わっていない…ということなのでしょうか)
ちらつくように出てくる異常な景色と不可解な出来事を思い出す。
(しかしここで問うたところで、千束自身に明確な答えを持ち合わせているわけではありませんから…今はこのあたりで留め置いた方が賢明でしょうね)
そう言って大きく息を吐いて外の景色を見る。
なるほどね…と口にしながらミズキの言葉は始まる。
「あたしからしたら千束、アンタにしては随分と奥手じゃない」
「…え?」
いやいや…と半ば呆れの混じる声で続ける。
「アンタはいつだって周りをひっかき回すか引っ張り回すタイプじゃない。考えたようにやって、分かんなかったら知ってる人に突撃精神で何とかする、できなければ助けられる代わりに後で助ける…そんな感じでしょ?」
そろそろ最後のジャンクションね…とアクセルの吹かし具合を絶妙に調節しながら話は続く。
「それに千束はあの子に再会してまだ半月じゃない。たきなのことを考えてみなさいよ」
「…え?」
不意に自分のことを話し始めたことに変な声が出る。
そうして千束の視線がたきなにぶっ刺さる。
「…あ」
「私の言いたいこと、分かった?」
「…そうだね!ミズキにしてはなかなかやるじゃん」
「“にしては”って何よ!年上にはそれなりに敬意を持てっての!」
やり返しとばかりにかなり踏み込んでいるアクセルをさらに沈み込ませると、不意にクルミからの通信が届く。
『連絡だ。移動先を変えたみたいだぞ』
「どこですか?」
『面倒くさい場所だ』
「だからどこだって聞いてるのよ!」
『代々木公園だ』
「…本当に面倒じゃん」
『予測上二人が代々木公園に着くまでにあと10分と少しくらいだろう。だからほぼ確実にめぐみは公園に到着する』
「鬼ごっこの次はかくれんぼということですか」
「腕が鳴るねぇ!」
「とりあえず代々木ICに向かえってわけね」
『そうだ。詳しい場所は君たちが着いてから伝える』
そこに引っかかりを覚えたたきな。
「…ドローンは墜とされてないんですか?」
『そうだ。理由は知らないが…なんだミカ』
その言葉の後に新しい声が入ってくる。
『ミカだ。一応の情報だが、めぐみはリコリスのカバンを置いて行ってる』
「ということは」
「撃ち落とされる可能性はない、ってわけだ」
『可能性としてはな』
「ミズキ!急ぐよ!」
「あいよ~!」
3人はまた慣性に引っ張られながら高速道路を駆け抜けていく。
一方のめぐみは予想通りに代々木公園の中を歩き回っている。
時間帯としては比較的に少ない人通りではあるが、楽しく走り回っている子供やピクニックをしている様子のカップルや家族がチラホラといる。
そしてめぐみの耳に小さくプロペラ音が届いている。
故に気付いている。
「見られてるなぁ…」
やけにでかい池の前で早めの黄昏に浸っているめぐみは湖面越しに映る黄色い浮遊物を見ていた。
(広いから撒いて逃げ切れると思っていたら
「こんな所じゃ拳銃なんて出せないし…って、そもそも持ってないし…」
「ホントにどうしよ…」
頭を抱え込むしかなくなる状況の中で考え込んだ末に、めぐみはただ目の前の池をぼぉっと見つめていた。
脳内は完全に諦めムードである。
「綺麗だな…空が」
そうしていると、なんとなく手が寂しくなったのでゴルフバッグのポケットを漁って長い紐の輪を取り出して両方の親指と小指に掛けて掌と紐との隙間に指を引っ掛けていく。
その後も中指、親指、小指、とそれぞれの指に糸を掛けては解いてを繰り返していく様子はそれぞれの指が意識を持って動いているようにも見える。
「
誰に聞かせるでもなく呟いて解く。
少し絡まったところを解きながら次の技を考える。
「…ベタな奴でいいか」
そう言って最初の基礎の形に戻してまた指にかけ始める。ダイヤモンドからゴム、飛行機、兜、ネクタイ、テール、そして最後は解けるマジック。
その一連の連続技を飽きるまで何度も繰り返す。
「…指痛くなってきたな」
もういいかな、そう思い始めていた時に、
「おねぇさん、なにしてるの?」
隣から声が掛かる。
向けばおおよそ7歳頃だろう女の子が私の手をじっと見つめていた。
「何って…これのこと?」
「そうそう、け糸でなにしてたの?」
「これはあやとりっていうの。知らなかった?」
「うん。はじめてしった」
そうなんだ…と震えた声で言いながらめぐみは自身と隣の幼女とのジェネレーションギャップにわずかに戦慄していた。
「そのあやとり?ってどうやるの?」
「それはね…」
そうしてめぐみは解いた毛糸の輪を幼女の両指に掛けてあやとりの技を教え始めた。
箒から始まって川、ゴム、九つのダイヤといった比較的に簡単な技を、言葉や指で教えながらゆっくりを教えていく。
「こう?」
「そうそう、いい感じ」
「えへへ…」
「次は小指をここに通して…」
そうして幼女は時には辺に指に引っ掛かり時には絡まった糸を解くのに時間が掛かったりと可愛らしい四苦八苦を経験した末に、
「できた~!」
「おぉ~!」
綺麗な四段の梯子までできるようになったところで幼女の両親が寄ってきてお互いに頭を下げ合って、
「おねぇちゃんまたね~!」
「えぇ、また会えたら…ね」
そう言って幼女が前を向くまで手を振っていた。
「…さて、どうしようかな」
「そうだね、どうするの?めぐみ?」
「ちなみに選択肢は、2つだけですよ」
どこかで聞いたことのある声が二つ、後ろから聞こえると同時に背後から恐ろしくどす黒い威圧感が肩にのしかかる。
「その選択肢って具体的には?」
「ここで説教か、帰ってみっちり説教か、ですね」
「優しいねぇたきなは」
後ろの会話のあまりの恐ろしさで顔から滝のように汗が流れ出る。
圧力と恐怖感から何とか逃げ出そうと足を踏み込むが、いつの間にか掴まれた両肩はびくともせず動くこともままならなくなっていた。
「動きがない…どうしようか。ねぇたきな君」
「そうですね…」
ねぇ二人とも、平和的に話し合おうよ。そう言葉にして言おうとしながら振り向こうとしたその瞬間、
「えい」
「キュウン」
首に一発峰打ちをかまされてめぐみの意識は吹っ飛んだ。
「逃げられないようにしましょう」
「…前言撤回。鬼よりひどいよたきな」
倒れこむめぐみの体を抱えて言った言葉に千束は少しビビったのだった。
気絶しためぐみと荷物を二人はミズキの車に乗せて喫茶リコリコまで運んでいった。
その気絶しためぐみが目を覚ました後に待ち受けていたのは、
およそ4時間ノンストップで繰り広げられていたお説教の最後の締めの言葉は、
「……明日からは、シフトを緩く設定しますから」
地獄に仏を見ためぐみであった。
めぐみによるハチャメチャ逃走劇(笑)から数日後。
今は店の扉周りの枯葉を箒で集めているところである。
カランコロン、と店の扉についているベルの鳴る音がすると、
「どう?」
「千束…さん」
「千束でいいのに。そこ座ろ?」
指先はさっき掃いたばかりのあのベンチを指していた。
軽い足取りで奥のほうに座ると、にこやかに右手でポンポンと隣をたたく。
「…では、失礼して」
そう言って体を縮ませてできる限り最小面積を心掛けながらベンチに腰を下ろす。
「硬いな~。もっとフランクでいいのに」
「まぁ、貴女とは色々ありましたから」
「……そうだね。昔からね」
「…えぇ」
…そよ風が耳を掠める音が響くほどの静寂が続く。
その中で先に口を開いたのは千束のほうだった。
「
「……自分としては悪くない、と思います…よ?」
「なんで疑問形なのさ~?」
「だって、数日前まで…やらかしてましたから」
「…あぁ~それもそうだったね~」
そういって両腕と背を大きく伸ばす。満足したのか腕を下ろして顔は空のほうを向いていた。
「もう十年経つんだね」
「そうですね…あの頃が懐かしかったりするんですか?」
「もちろん!
「笑顔で答えないでくださいよ…あの時は貴女がとにかく怖かったんですから」
「そこは自業自得ってことで」
「どこがですか!?」
「アハハハ!」
ツボに入ったのか中々収まる気配がないままに変わらず快活明朗な様子で笑う千束の姿は、真新しくて…懐かしく感じてしまう。
落ち着き始めた頃合いを図って訊く。
「…ねぇ」
「……なに?」
「今、楽しい?」
「もち!」
サムズアップを決めて言うと、勢いよく立ち上がってドアの方に向かいながら、
「めぐみも今から楽しめばいいよ!」
「…なら」
めぐみもベンチから経って千束の方に寄って、
「面白いイベントの一つくらい考えてくださいよ?」
「言ったな~!!」
このこの!!と並んだ肩を指で
喫茶リコリコは、今日も開店の札が掛かっている。
読了ありがとうございます!
まず第一に…
遅 れ て す み ま せ ん !
正直オチは2話が上がった時にはすでに考え着いていたんですが、オチまでの過程がものすごく難産でした…物書きはこういう時が一番つらいですね。
でも、待ってくれている(と勝手ながら思っている)人がいるから頑張れるんだ!
第二に、
アンケートに回答ありがとうございます!
大変多くの方からご回答をいただきました!
回答内容が使われるまで投票可能状態にしていくつもりですので、新しく読まれた方やまだ投票されていない方はぜひ投票ください!
今後の展開の参考にさせていただきますので!
…完全オリジナルを書けって、みなさん鬼畜ですね…さすがです。
さて、どんな話を書こうかな~(五里霧中&暗中模索)
第三に、
ラストのシーンでEDの入りの幻聴が聞こえているといいな…
オリ主は前世で何歳の誕生日で死んだと思う?
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A歳:トラックに轢かれて
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1B歳:いじめの末に
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2C歳:就活失敗による絶望の末に
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3D歳:仕事の過労によって
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お前の勝手にせぇ!(ノブ風味)