数学において、1+1=2であるというのは前提としている場合が多く、本来なら証明しなければならないものだ。
なら、人間関係において…1+1は、何になるのだろうか?
ある喫茶リコリコの定休日のお昼前。
その地下室では3人が的に向かって銃を向けていた。
1度、2度と各々の手から出る銃声が立て続けに鳴り響く。
そうして引き金がマガジンの中身が空になったことを知らせてくれたことでそれぞれが耳当てを外して各々の的を近づける。
「…ま、実弾ならこんなところかな」
千束の的には数弾が1,2㎝のブレがあれど、ファーストリコリスらしく脳・心臓部分に全弾がしっかりと風穴が空いている。
「……今日は調子が悪いみたいですね」
たきなの的には胸の中心部分には6発ほど入っているが、残りが肩や腹の部分へと飛んで行っている。しかし全弾が体に命中しているのはさすがセカンドリコリス、といったところか。
「……はぁ」
「めぐみ、どうだっ……た」
そうして覗き込んだめぐみの的の中には風穴が2つしかなかった。
「めぐみ…全弾撃ったの?」
「ん……よいしょ」
めぐみは前の机を越えてかつて的があった場所のさらに奥の方へと向かっていく。
その間にたきなもめぐみのいたブースに入ると、目を細めていた。
奥から戻ってきためぐみは机の上に握っていた手を解く。
「ちょっと近すぎたからかも」
そう言ってめぐみの手から零れた銃弾の数はマガジンの容量と同じ10個だった。
「…まじ?」
「マジです」
「…相変わらずですね」
ずっと顔と銃弾と的を往復している千束とは対称に、たきなは手を添えた頭を軽く振っていた。
「向こうまでの距離は一応有効射程距離ギリギリに設定しているはずですが…まぁ解っていました」
「正直まだ信じられないんだけど…たきな、これが普通なの?」
「はい。私にとっての
「そうかー」
千束の眼は白みだしてている。
「多分、問題はこれからだと思いますけどね」
「…え」
そうして元の場所にある新しい的に向ける銃に装填された銃弾は、千束愛用にしてmade byミカのフランジブル弾(非殺傷弾)である。
そうして発砲の音が立て続けに続く。
「…まぁ、こんなもんよね」
マガジンが空になったのを確認して再び的を寄せる。
「…うわぁ」
「…酷いですね、これは」
そこには頭、肩、胸のあるべき場所の中心の点からそれぞれ5㎜ほどの場所に全弾外れる事なくしっかりと風穴を空けていた。二人してめぐみの射撃精度の高さをまざまざと見せられたことで感嘆の息しか吐けていなかった。
しかし当のめぐみの手は変な気持ち悪さを感じていた。
「…使いづらい」
「その一言で済ませるんだ。やばいね」
銃を置いて両手を軽く振りながら千束の方に向きながら言う。
「…もしかして、わざと?」
「バレた?」
気まずさの欠片もないにやけけた顔にある口元には舌を小さくチラつかせていた。
「なんとなくですけど、どうして?」
「まぁ、私のわがままなだけ」
「『いのちだいじに』だそうですよ」
たきなの言葉を聞いて箱に残っていた赤い弾頭の銃弾を手に取る。
「…敵もってことね」
「ま、そうゆうこと」
「たきな、よく認めたね」
「まぁ……
これまでの過去を思い出したのかもじもじと指を遊ばせるたきなを背中から茶化す千束の副音声を聞きながら赤い弾頭の銃弾をつまんでじっと見つめる。
そうして空のマガジンに持っていた銃弾を詰めながら口を開く。
「ちさと、いくつかもらっていい?」
「もちろん!あ、あんまり使わないでね。高いから」
「私のよりかは安いでしょ?」
「「あ~…」」
反論の余地がない故の間延びした声を漏らす二人であった。
「で、実際どうなんだ?」
天井にあるカメラから一連の会話の流れを見ていたクルミから質問が出てきた。
「…黙秘だ」
「沈黙は肯定と取るからな」
やや素早く首を壁に向けるミカ。
「…まぁいいさ。それで?ミズキは何をしているんだ?」
反対側のカウンター席でパソコン画面を睨みつけてキーボードを乱打しているミズキに質問の矢が飛ぶ。
「別にいいじゃないなんでもぉ!」
ヤケクソの返事である。
向こうは向こうで
「お疲れさまだな。ちなみにそいつ、反社とつるんでるぞ」
「嘘!?…ってなんであんたが知ってるのよ!」
「ボクだぞ?」
「プライバシーくらい守りなさいよ!!」
「興味ないね」
「アンタも歳の一つくらい聞かれたくないでしょうが!」
「ボクはアラフォーだ。これでいいかアラサー?」
「ムカつくこいつ!!」
そう言って右手に引っ掴んでいた一升瓶を煽る。
とたんに顔を赤く染めてしゃっくりを連発しながら愚痴をやたら長く溢し続ける。
「ミズキ、それぐらいにしなさい」
「…でもぉ~」
「中に入っているのが水とはいえ、飲みすぎはよくないぞ」
「…味が薄いとは思ったけどなにしてくれてんのよ!!」
「それは俺がやった」
そっと手を挙げて自己主張するミカを睨みつけるが特に何もなかった悔しさゆえに一升瓶をラッパ飲みする。
「それで?依頼は来ていたか?」
「プハァ…3件来たわよ。それぞれの報酬は相場相応かそれ以上、ただ分割報酬ってのが面倒なところよね。裏取りはどうなのよ?」
「特に問題はない。其々の宛先から辿っていった結果的には反社から一つ、近隣地域から2つといった感じだな。ミカ、どうするつもりだ?」
クルミの問い掛けから顎を指で挟むようにして考えながら口を開く。
「それぞれの内容は?」
「一つ目の「反社からのやつだな」…それの内容は、撤退済みのアジトに相手が奇襲が来るらしいからそいつらを何とかしてほしいって。返信期限は今日まで、奇襲は明日の22時。ちなみに
「ん~よく撃った~…なに?依頼の話~?」
瓶を振り回しながら言う内容に反応したのは地下から戻ってきた3人の中で唯一の金髪少女だった。
そうだ、と返しながらミカが問う。
「実際はどうなんだクルミ?」
「なぁに、よくあるケンカの後始末を任されてるだけだ。向こうが騙そうとしてる訳でもなさそうだし、このレベルならリコリスに依頼するほどの物じゃないと思うがな」
三人の少女と一人のドレッド頭が微妙に傾いていく。
「…そうか、残り二つはなんだ?」
「二つとも明後日の予定なんだけど、保育士の欠員補充と語学学校のチューターよ。気にすることはないわ」
「…普通だ」
そうして次の日の夜、短針がⅨの方向を向こうとしている頃、常連の方々には悪いと思っているが早めに店を閉めさせてもらったあとの少女3人はネオン光の眩しい街に出ていた。
『復唱するが、今回の依頼は襲撃相手の撃退または捕縛。
「「了解」」
ミカの言葉に息ぴったりに返事するコンビの後ろをついていくめぐみ。
そうしてたきなが横にいる相棒に訊く。
「千束、場所はどこなんですか?」
「そろそろだけど…あ、あそこだ」
そうして指差す先には閉店後なら当たり前なくらいの暗さで佇むビルがあるが、周りが明るい分余計にその暗さが目立って見えている。
その物々しさにめぐみが呟く。
「…普通、ですね」
「まぁ反社だしね。入ろうか」
そう言って正面から入っていって会談で目的の階へと昇っていく。
そうしてドアがスマートに開く先には、ブラインドカーテンがすべての窓に降ろされて、中央には艶やかさのある革製の黒いソファが大理石のテーブルを挟んで二人掛けと一人掛けが二つ対面に並んでいる。棚にはお高そうな壺や観葉植物が置かれていて、壁には綺麗めの絵画が数点と、見事な達筆具合で書かれた四文字熟語が壁の額縁の中で鎮座していた。
引きで見ればまさにスタンダードなヤクザの事務所の見た目をしていた。
「いかにもって感じだね」
「まぁ元とはいえアジトですからね。ここだけですか?」
『2階上まで向こうの持ち物だったらしいが、撤収済み故に何もないらしい』
「じゃあ入ってもいいってこと?」
『
「粋だねぇ」
「…行ってみますか?」
「だね」
そう言って3人で上の階に向かう。
そこには机も椅子も何もない、あるのが窓しかないという、とても
「…なにも、ないですね」
「ほんとに何もないんだ」
「…二人とも、上行く?」
「「一応
そうして上の階に足を運ぶが、さっきの階の光景と全く同じだった。
「…ここまで行くともはや芸術じゃない?」
「徹底的とは、このようの事なんでしょうね」
「…まぁ、そうだね」
そうして物の残っている階に戻って腕に流時計を見ると、長針が30を向くころだった。
「…結局さ、どうするんですか?」
「どうするって?」
「正面から行くのか、挟み撃ちするのか、後ろから袋叩きにするのか、ってことなんですけど…」
「私たちしかいないので、挟み撃ちにするのが一番効率的だと思います」
「たきなはどっちにつくの?」
「待ち伏せ役か蓋役か、どっちにするの?」
「…二人はどっちなんですか?」
何言ってるの?という顔でめぐみと千束は首を傾げながら言う。
「「
「決定事項なんですね」
「だって私、動けないし」
かなり明白な理由だった。
そうして脳内で逡巡した後、
「そうですね…私も待ち伏せの方にします」
「おっけい。じゃあめぐみは私から連絡するまで外で待ってて」
「分かった」
合図よろしく~と言いながらめぐみは階を降りてビルを出て少し離れる。
その間、残った二人はというと…
「さてと、たきなはここで待ち伏せでいいよね?」
「はい。これだけ遮蔽物があれば対処は可能です
「よし、あたしは上に行ってるから」
「どっちですか?」
「一番上」
「分かりました。済んだら通信くださいね」
「もちろ~ん」
そう言って千束は階段を上っていく。
「こちらたきな、様子はどうですか?」
通信を開くと向こうから高めの声が響く。
そうして銃の最終点検を行いながら話を聞く。
『特に問題ない。順調にビルに接近中だ』
「数は?」
マガジンに問題なし、リロードの滑らかさも許容範囲。
『23人。サーモグラフィー越しに見れば全員持ってるぞ。まぁ重火器を持っているようではないみたいだがな』
「場所は?」
一旦マガジンを抜いた後に鞄を開けてサプレッサーを取り出す。
『8割くらいがショルダーホルスターみたいだ。楽に御せると思うが、真面目にな』
キュルキュルと銃身から音を鳴らしながら話が続く
「真面目じゃないあなたに言われたくはないですね」
『仕事は真面目に行うに決まってるだろ。ボクはプライベートがルーズなだけだ』
しっかりと装着したのを確認して改めてマガジンを差し込む。
「そう思うことにしますよ…めぐみの方はどうですか?」
『めぐみです。こっちでも目視で確認したよ。ビルに間もなく到着って感じ』
「そうですか」
『はい。なので千束、合図忘れないでくださいね』
『はいはい、忘れませんよ~』
相変わらずの陽気な声が届いてくることに少し日常感を感じてしまう。
『さて、ビルに入り込んでいったぞ』
そうしてそれから10分後・・・
「…もう勘弁してください」
その言葉を最後に男はたきなによってとどめを刺されて意識をぶっ飛ばされた。
周りを見ると、さっきまでの整頓されていた事務所は刳り貫かれたような弾痕がそこかしこに残っていた。
それぞれの弾痕の横には拘束用銃によって手首足首が壁や床、机に縫い付けられていた。
「任務完了、全員の捕縛を完了しました」
『こっちも任務完了っと…クリーナー呼ばなきゃね』
「…めぐみ、そっちはどうですか?」
『ふぅ…こっちも終わったよ。けど手足を縛っていってる途中だから回収するなら早くしてほしいかな』
「…?どういうことですか?」
『逆にたきなたちはどうやって鎮圧してるの?』
そうしていると低い声がインカムから耳に届く。
『千束、渡すように言ったはずだぞ』
『え…あ』
あれ~…え~と…という独り言が漏れ出ているなかでしばらくすると、
『ごめんめぐみ~…捕縛用のワイヤー銃渡すの忘れてた』
『あるなら行ってよ!!私だけ無駄に銃弾使っただけになってない!?』
『ごめ~ん今からいくから許して~』
階段の方へと近づいていくと、
「あ,たきな。代わりにクリーナーに連絡してくれない?」
あっという間に千束は一階に向かって階段を降っていく。
「……はぁ」
小さくため息をつきながらスマホを手に取って、
「もしもし、回収をお願いしたいのですが…」
「ほんとにごめん!忘れてた!」
一階まで走りこんでいった千束の目に映っていたのは、ガタイのでかい男たちの四肢をしっかりと紐で雁字搦めにしていた。
「渡すものはちゃんと渡してよね!逃げだしてきたやつなんだろうけどやたらとゴツイ奴しか来なかったから逆に怖かったんだけど!?」
「次からは気を付けるってば、はいこれ」
縛り終わって立ち上がるめぐみに自分の頭の後ろを掻きながらワイヤー銃を渡す。
ありがと、そう言いながら受け取った銃で地面に気絶している男たちの四肢を床に縫い付けていく。その顔を見ると、全員の顎下が
「正確だね、お見事」
「千束も頑張ればこれくらい行くと思いますけど?」
めぐみの持ち場を改めて見回すと、薬莢の落ちている場所が部屋の中ではあちこちに散乱しているのに対して、エントランスの自動ドア前にまとまって落ちている。
「私よりもたきなの方が適正あると思うなぁ」
「そうなの?」
「多分ね」
「ふ~ん」
そうしていると階段から靴の叩く音が響いてきてたきながエントランスに降りてきた。
「たきなもお疲れさま~。連絡ありがとね」
「お疲れ様です。早めに撤収しましょうか」
「そうだね。めぐみの方も扱いは慣れた?」
「ん~。まぁ、多分」
『お疲れさま、あと20秒後にミズキが車で迎えにくるから乗っていきなさい』
インカムを付けていないほうの耳からタイヤの擦れる音が近づいてくる。
「お待たせ~。待たせたとは言わさないわよ?」
「いえ、来てくれてありがとうございます」
そう言ってたきなは後ろのドアノブを引っ張って開けて中に入っていく。
千束はたきなについていって、めぐみは助手席に乗って走り出す。
「あんたらの家に送っていくけどいいわよね?」
「「「お願いします」」」
「今日のやつは楽だったね~」
「そうですね…そういえば、めぐみはどうやって制圧したんですか?」
「あぁ~たきなはボクシングとか知ってる?」
「まぁ、人並みには」
「相手をダウンさせるときに顎に掠らせて気絶させるヤツあるじゃん?」
ボクシングのみならず、格闘技系全般で相手を気絶させる方法として衝撃を与えて脳震盪を起こさせることができるため、顎を狙うための技を開発されることが往々にしてある。
「そうですね」
「あれを銃弾でやった」
普通ならどんな銃弾でも顎に直撃させれば顎は砕けるか貫通して脳髄にまで入り込むかしかない所を、めぐみはあろうことか相手全員を傷一つ付けることなく気絶させるという絶技をしたことを何の気なしに言っているのだ。
「…異常ですね」
「……私ってことで許して」
そのどことなく力のない言葉が千束の耳に少し引っかかるが、任務終わりということもあって気にしないことにした。
そうして自分のセーフハウス3号近くの街並みを見つけたので、
「ミズキ~、ここで降りるから寄せて」
「オッケー」
信号を前にして4人の乗る車が左端に寄る。
「お疲れさま~、明日もよろしく!」
半開きのドアの向こう側からそう言うと耳に圧を感じるほどに勢いよく閉まる。
また走り出した車は青になった信号の下をくぐっていく。
「そういえばさ…あんたら結構よく知る仲みたいだけど、実際いつからの知り合いなのよ?」
唐突にミズキが口を開きだす。
「どうしたんですか急に」
「な ん と な く よ。それでどうなの?」
大げさな言い方で聞かれる中で最初に口を開いたのはたきなの方だった。
「初めて配属された時以来、ですね」
「同期なんだよね。私たち」
「へぇ、意外ね」
「今までずっとコンビを組んでたわけじゃないんでしょ?」
「そうですね…」
そう言ったきり続きが出てこないのでバックミラー越しに見た時に、たきなは言いにくそうに指を弄っていたのでこちらから切り出すことにした。
「たきなの方が聞き訳が良かったから、じゃないかな」
「なに?めぐみは命令違反でもしたわけ?」
「……まぁ、そんなとこかな」
再び力のないめぐみの声が出る。
それ以降会話の波は収まって、その間にたきなの住処の近くに車は止まってたきなが降りる。
「お疲れさまでした」
「「お疲れさま」」
そう言って車が走り出す。
喫茶リコリコに着くまで、二人の間に会話が始まることはなかった。
そうして喫茶リコリコに着いてめぐみが外に出て、
「今日はありがとうございました」
「別に良いのに、あんたらの方がよっぽど重労働だったでしょ?」
「そんなことないですよ?」
「真顔で言わないで。ぞっとするわ」
「冗談ですよ」
「大人をからかうんじゃありません」
「次からは気を付けますよ」
「はいはい。明日も頑張んなさいよ~」
なぁなぁな返事と共にそんなことを言いながらエンジンを軽く吹かせて車が離れていく。
「…ただいま帰りました」
そうするとカウンターではミカが純白のクロスでグラスを磨いていた。
「お帰りめぐみ、浴槽にお湯は入れてある。入りたければ入りなさい」
「分かりました。お言葉に甘えます」
そうして鞄を部屋に下ろして着替えと共に浴室に向かって汚れを落として体を温めたりしながら体の疲れを取っていく。
時計が回って、一部界隈では25時などとも言われる時間帯になる。
そろそろ寝ようとする直前に催す喉の渇きを潤すためにクルミが襖を開くと、常夜燈の下の六畳一間では重い金属音を静かに響かせてめぐみが分解した自分の銃を丁寧に掃除していた。
「あ…もしかして、起こしちゃいました?」
「いや、喉が渇いただけだ」
「そうですか」
こちらに振り向くことなく分解された銃を見つめたままのめぐみの眼をクルミは横から引きで見る。
「…寝ないのか?」
「まぁ、はい。この子
「…そうか」
そう言って部屋の外へと出て行って冷蔵庫の中にちゃっかり置いているお気に入りの缶を
部屋に戻ってめぐみの左側に置いて、
「いらなかったら、冷蔵庫に戻しておいてくれ」
「…ありがとうございます」
一瞬缶のほうに目を向けるが、また留め具の方へと戻す。
登ったあとに襖を閉めて、自前の機械を寝る態勢に移行させながら暗闇の天井を見つめながら缶を傾ける。
中身を飲み干していざ寝ようと目を瞑っても、横向きに体制を変えてもなかなか寝付けず、襖の向こうから断続的に金属同士のぶつかり続ける音が妙に耳に残る。
重いようで軽く、短いと思えば長く、断続的で急に止まったり始まったりする音。
それは決してうるさくなく、だからと言ってASMRのように心地よい音かと言われると間違いなく否と言える、そんな奇妙な音がずっと聞こえる。
変に気になったからこそクルミは訊いた。
「…いつもやっているのか?」
一瞬、音が止まる。
が、声が聞こえるとともにまた聞こえてくる。
「……そうですね、ここに来る前は毎日」
「綺麗な方がいいのか?」
「…もちろん。長持ちしますし、異常が早く見つかりやすいですから」
鞄の中にしまったかと思えば、別のファスナーを開けて中から取り出してまた分解を始める。
「やりたくてやっているのか?」
止まる、中々に長く。
だが、また始まる。
「はい。まだ落ち着けますから」
「…落ち着けないことがあるのか?」
止まった。今度は完全に。
めぐみは持っていた部品をタオルの上にゆっくり置いて天井の動かない蛍を見つめる。
「……深夜のノリ、ですからね」
クルミは何も応えずに黙る。
そうして数秒の後、めぐみが口を開く。
「…正直、ここの居心地は最高です。
めぐみは
こくっこくっ、と飲み込んでいって大きく息を吐く。
「おいしいな…まぁ、そんな感じで楽しく過ごせていますよ」
そうしてまた缶を傾けるめぐみ。
その間に言葉を挟むことおなく、クルミは襖の方に向き直すだけに留めていた。
軽く深呼吸をしてから、また口を開く。
「そんな毎日を送っていると、忘れそうなんですよ」
そう言って静かになる。
何秒経っても続きを言わないことに勘付いたクルミは小さく口に出す。
「リコリスであることを、か?」
「……………………自分のことを、です」
そうして水面に映る自分を見つめながら言葉を続ける。
「私はリコリスです。最弱で、無能で、処分されるべきリコリスランキングで8年連続1位を取り続けているような、そんなリコリスです」
「私は女です。胸は育たないけど月のものは来るし、髪だけがやたらと長くなるし、変に筋肉質な、そんな女なんです」
少し、缶が軋む。
「…その、はずなんですよ」
言い切って余韻が解けたころに、僅かに歪んだ水面を口に付けてまた飲んでいく。
「ぷはぁ…ま、そういうわけで、私はこうして銃を綺麗にしてます」
言い切った後、返しがあるかと思ったらそんなこともなく唯々静寂さが満ちる。
「…寝ちゃったのかな?」
そうして空になった缶を横に置いて、銃の手入れを再開する。
十数分経って、
「…よし、いい感じ」
残りの銃も綺麗になって満足しためぐみは畳んでいた布団を伸ばして中に入る。
(今日はなぜか私のことをよく聞かれたな…通過儀礼的なモノなのだろうか)
天井を見ていてふと目に入った景色の中にちらつく髪を弄りながら、
「…あぁ、また赤くなっていく」
そう言ってめぐみは眠りへと体を預けた。
襖の奥で目を瞑ったまま、クルミは缶に手を伸ばしてその中身を味わう。
「…ボクじゃ無理だな。共感できない」
飲み込んだ口でそう溢して、意識を手放す。
その舌に残る味は、前よりも薄かった。
一方で廊下に一人壁に背を預けて立ち続けている人もいた。
杖を突く音を消しながら、その場を立ち去っていくのであった。
読了ありがとうございます!
最近毎週投稿を頑張っているつもりなのですが、思いの他どうのようなオリジナル展開にしようかと悩んでいて遅れております…すみません。
(山場までの繋ぎをどうしようか的な悩みなんですよね…難しい)
なので毎回一日二日前後すると思いますが許してください。
寛容な心で気長にお待ちいただけると嬉しいです。
感想・評価どしどしお待ちしています!
オリ主は前世で何歳の誕生日で死んだと思う?
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A歳:トラックに轢かれて
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1B歳:いじめの末に
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2C歳:就活失敗による絶望の末に
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3D歳:仕事の過労によって
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お前の勝手にせぇ!(ノブ風味)