太陽に近づいた男 作:ドチャシコスキー
――夢を見ている。
その考えが浮かんだのは、目の前の景色を見てすぐだった。
目の前には夥しい数の"鬼"がもう一人の"私"と屋敷を取り囲んでいる様子だ。
鬼たちは我先にと"私"に飛びかかるが、その手は虚しく空を切り首が宙に舞う。
あるものは特殊な液を飛ばしたり、不可視の斬撃を飛ばしたり、腕を伸ばすが"私"がそのすべてを凌ぎ、弾いて、叩き落とし逆に首を切って落としてている。
沢山いた鬼は片手で数えられる程度に収まった頃、"私"は汗を滝のように流し肩で息をする。
満身創痍だが、その目に灯す光は決して衰えず鋭く睨んでいた。
残された鬼たちは"私"の様子をじっくりと見ながら、あるものは場を凍らせ、あるものは糸を伸ばす。
その攻撃に合わせるかのように一体の鬼が飛びかかる。
その鬼は素手ではあるが、その突きは凄まじいほど鋭く、蹴りは風圧で屋敷に罅を入れて見せた。
そんな猛攻を掻い潜りながら、"私"は屋敷の中に飛び込み徒手を得意とする鬼と小競り合いを繰り返す。
だが、鬼たちもそんな様子をただ見ているわけはなく、屋敷を完全に破壊し"私"を炙り出した。
"私"は片腕がだらりとぶら下がっており、僅かに片足が正しく地面に着いていない。
対して徒手の鬼は両腕を斬り落とされ、片足をズタズタにされていたがゆっくりと再生していく。
鬼たちは驚いた。
決して再生したことではなく、その再生に要する時間に対してだ。
氷を操る鬼がちょっかいを出してみるが無駄に終わり、場を更に凍らせるだけで終わり。
糸を操る鬼が瓦解した屋敷の破片を"私"にぶつけてみるが、すぐに破壊され周囲に糸を張るだけで終わり。
この膠着状態が生まれて、どうするべきかと両者ともに考えた時最後の鬼が刀を抜きゆったりと"私"に向かって歩んでくる。
その出で立ちは正しく"侍"のようだったが、その貌は異形そのものだった。
6つの目で"私"を睨み、異様な刀をこちらひたすらに振るい続け"私"を傷つけていく。
"私"は鬼の斬撃を何とか捌いているが、じりじりと追い詰められて万事休すとなった時、"私"が突然笑い出しその場で刀を地面に突き刺した。
鬼たちは怪訝な表情で睨み続けるが、すぐに状況が変わる。
地面が爆発したのだ。
その爆発から少し離れたところにいた鬼が突如、全身に細かな傷がついた。
突然の爆発に驚いたが、なにより驚いたのは傷ついた箇所の再生が遅かったのだ。
何故と鬼たちが思考するも屋敷の敷地内至る所から爆発が起こり、謎の破片が飛んでくるのを必死になって塞いだ。
だが、それだけではない。
"私"が爆発が続く中を突っ切り、鬼に向かって斬りかかる。
"私"にもその破片は降り注ぐが、なんのそのと鬼の四肢を切り落とし、頸を狙うが横から一本の刀が飛んできた。
"私"もその侍風の鬼も爆風を受けながら、殺陣を演じる。
残された鬼たちはその場から脱し、既に敷地から消え去っていった。
殺陣を演じながらも、時には真下からの爆発を受け、時には"私"の斬撃でその身に傷を受けるも、鬼は眉一つ動かさず"私"の斬撃を受け流し、返す刀で鋭い斬撃を繰り出す。
そうして、何千何百という数を切り結んだとき遂に"私"が両膝を地に付けた。
爆発はとっくに納まり、黒に染まっていた空は僅かに白くなっている。
鬼は片腕を失い、その貌に数本の深い傷を残している。
対して"私"は全身を自身の血で染めてしまい、白い部分が見えてしまっている。
鬼が"私"に対して何かを語り掛けるが、"私"は笑いながら大きな声で何かを叫ぶ。
鬼はポツリと呟き、その手に持っている刀を振り上げ、降ろそうとした瞬間。
"私"が突然見えない何かに引っ張られるように、後ろに飛ばされた。
鬼は何事かと視線を先に向けた時、"私"がいた場所から一筋の煙が上がっているのを見つけた。
鬼は自身の感覚を信じ、その煙を見てすぐその場から離れようと後ろに飛んだ。その直後、屋敷の敷地を飲み込むほどの大爆発が起き、辺りの景色がぼやけていく。
そこで自分の身体が引っ張られていく感覚を感じた。
――どうやら、夢は終わったようだ。
そう認識してすぐに、身体がふわりと浮くような感覚を感じその身を任せた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――目が覚めた。
そう認識した時、近くの窓から入り込んでくる光に心地よさと優しさを感じた。
しばらくはこうしていたいと思うが、ここが何処なのかを知るためにその身を起こそうとするが、ピクリともしない。
足を動かそうとも、体をよじろうとも、指先に至るまで動かない。
声を出そうとも、かすれた空気しか押し出されない。
嫌な予感を感じ、冷や汗が流れてきた。
不安感に押し潰されそうになった時、足音が聞こえてきた。
足音が次第に大きくなり、私の部屋の前で音が止まった。
そして、一人の女性が部屋に入ってきて、私が目を覚ましたことに驚き、走って何処かへ行ってしまった。
目麗しい女性だった。
頭がまだ混濁しているのか、名は出てこないが懐かしく感じる顔だった。
とにかく、記憶に思い当たる人がいると言う事が分かり、内心とても安堵し女性が帰ってくるまでゆっくりと、混濁した脳を正常にするために目を閉じた。