次の日の朝、俺は昨日の話を諏訪子に説明していた。それと、勝手に話を進めてしまったことへの謝罪もした。
「大和の神と私が一騎討ちぃ!?」
「あぁ、そうだ。」
案の定、驚いている。 体を軽く仰け反り、開いた口はワナワナと動いている。本当に申し訳ない。
「そ、そんなぁ…私、勝てる気がしないよ。て言うか勝てないよ。」
「そうだな。」
「少しは否定してほしかったなぁ。まぁ、事実だけどさ。」
聞くところによると、相手は乾を創造する能力があるらしい。『乾』とは天を意味し、諏訪子の『坤』と相手の『乾』は相反する能力だ。須佐之男はそこをついたのだろう。
「だから、負けない為にこれから鍛えるぞ。」
「いやだよー、めんどくさいよー。」
「自分の信仰が無くなれば死ぬぞ?」
「死にたくないよー。」
「じゃあ決まりだな。」
諏訪子は駄々をこねるように床に寝そべった。ブーイングをすることは勝手だが、決定した事だ。
だが、あれから冷静に考えたのだが、諏訪子は負けたとしても死ぬことは無い。諏訪子、もとい、
諏訪子は祟り神だから、祟られないように苦労をして信仰している。苦労してきた分、それが水の泡と化すようなことをするはずもない。
つまり、結果がどうあれ、諏訪子は死なないと俺は予想している。恐らく、我が儘な能天気駄神の須佐之男は自分を過信しているあまりこれに気が付いてない。哀れな神だ。
しかし、これは良い機会だ。これは諏訪子を立派な神に鍛えさせるチャンスだ。この事は諏訪子には内緒にしておき、訓練を受けさせる。単純に万が一に備えてということもあるが。
「兎に角、鍛えるぞ。一騎討ちは受けると言うことでいいな?」
「嫌だけど良いよ。」
「分かった、そう伝えておく。」
とりあえず、方向性は決まった。後は、訓練するのみ。
「早速、始めようか。」
「やだなぁ…」
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初めて諏訪子の力を見た時の草原で訓練を行うことにした。今日も風が心地よく、天気もいい。なんて良い訓練日和なのだろう。
嫌々な表情を見せる諏訪子を無視して、俺は彼女の前で腕を組み仁王立ちをする。
「いいか?まず、基礎からやるぞ。」
「うん。」
「まず、飛ばされた時の受け身だ。教えるからそこに仰向けになってくれ。」
永琳の助手をやっていた頃は、都の兵士にこのような体術などを教えて貰っていたが、まさか教える側になるとは、人生何があるか分からない。効率よく教えてもらっていたのを鮮明に思い出す。あの時の教官を真似て、スムーズに教えることが出来たように思える。
「へぇ~、結構受け身って使えるね。」
「あぁ、受け身は日常で転んだ時とかにも使えるし、これは最初に覚えるべきだ。」
どうやら、諏訪子もやる気が出てきたようだ。きっと鬼のような訓練を強いられると思っていたのだろう。全く、そんなわけがない。それは明日からだ。
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暫く基礎練を行い、気が付けば夜は更けていた。今日は訓練を終え、汗まみれの体を洗い、諏訪子は泥のように眠った。それを確認し、俺は一人で大和に向かう。
昨日と同じく大きな扉の前まで瞬間移動をして、その扉をゆっくりと開く。今日も奴は酒を飲んでいた。
「昨日の今日で決まったのか?」
「あぁ、一騎討ちで決めるということに御社宮司は賛成した。」
「そうか、それじゃあ…1年だ。1年後にそっちに向かう。」
丁度、俺が諏訪の国を去る時期だ。しかし、決して長い期間では無い。これは明日からのメニューをより厳しくしなくてはいけないな。可哀想だが、諏訪子には死ぬ気で訓練してもらわなくてもらう。
「良いだろう。一騎討ちの時はズルをするなよ。部下にも言っておけ。」
「フン、誰が雑魚にイカサマをするものか。」
「ズルを一つでもしたら、俺がソイツを殺す。それは『お前も含む』からな。」
部下がズルをすると言うより、コイツが一番信用ならない。その言葉に殺気や怒り等を込め、須佐之男に言い放つ。しかし、ソイツはそれを聞くととても愉快そうに、腹を抱えて笑った。
「我も含むのか、それは困ったものだなッ!ハッハッハッ!!」
今すぐ殺してやりたいが、どちらに転んでも諏訪子は生きることとなる考えに至らなかった可哀想な頭に免じて許してやるとする。
それに、諏訪子を鍛え上げてそっちの神を叩きのめさせるから、それで今の侮辱も白紙にしてやろう。
俺は奴に何の反応も示さず、その場を去った。
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「ただいま。」
当たり前だが返事はない。一応、寝てるか確認するため、寝室の戸を少し開ける。
中には相変わらず寝相の悪い諏訪子が、露呈した腹を掻いていた。そのまま寝かせるわけにもいかず、寝巻きを綺麗に着せて布団を直し。
「明日も頑張るか。諏訪子も頑張れよ?」
そう言うと、偶然とは思うが「うん…」と返事が来た。思わず笑みをこぼす。戸を閉め、俺も明日に備えて寝ることにした。