東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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苦い血液を啜る離脱症状 Ⅶ 『溺愛』

 直人がレミリアに自身の考えを伝えた、フランは普通の少女であるという考えを。するとレミリアはそれを知っていると言っていた、その上で幽閉していると。

 彼女はフランが自身より優秀だから、自分の地位の確立の為に行ったと話したが、直人は彼女に確信めいてそれを否定した。

 あんなにも誰かの為に必死になった彼を、あたいは見たことがなかった。彼にとって、フランはどんな存在なのだろう。目の前の悪魔は貴方を殺そうと、あんなにも憎悪にまみれた妖力を放っているというのに。

 

「こいしさん!!」

 

 直人は避けようとするわけでも、反撃しようとするわけでも無く、さとり様の妹であるこいし様の名前を叫んだ。全く訳が分からなかったが、次の瞬間には直人もレミリアもその場に倒れてしまった。

 先程のドロドロとした黒い妖力が嘘のように消え失せていた。

 

「お嬢様!!」

 

 しかし、すぐに沈黙は破られた。後ろにいたメイド長が主の安否を確認しようと混乱気味の叫び声を上げる。私は反射的にそちらに目を向ける。

 そのメイドはヒステリックな表情をして、どこから出したのか、数本のナイフを寝転がった直人に向かって投げた。このままでは、彼の脳天にそれが刺さってしまう。

 

「ダメッ!!」

 

 あたいは、何も考えずにナイフの射線をあたいの身体で遮った。

 

____________________________________________

 

 無意識の世界。目の前には体育座りをしてすすり泣く少女が1人、そして僕の横にはいつものようにこいしさんが得意げな顔をしていた。

 

「今回、私大活躍だね!」

「そうですね、ありがとうございます。」

 

 目の前の少女に顔を向け、ゆっくりと近付く。僕の存在には気がついているとは思うが、反応はない。僕は彼女と同じ目線になれるよう、しゃがんで彼女のつむじに話しかける。

 

「レミリアさん、貴女はフランをあの部屋に閉じ込めた理由は、先程僕が言った事で合っていますか?」

 

 反応はなかった。

 

「フランはとても優秀だった。貴女のご両親は貴女よりもフランに多く愛情を注いだ。偏りが出てしまった。それが意識的にか無意識的にか、いずれにしろ貴女にとっては面白くなかった。」

 

 やはり反応はなかった。

 

「貴女はご両親を殺したとおっしゃっていた。しかし、妙です。なぜ、フランは殺さないのでしょう。聴くところによると、フランを閉じ込めていたのはここ数年なんかでは無い。大雑把に言って500年程らしい。部屋を壊して出ることもできるフランが貴女の言葉に従順なら、いくら自分より優秀とは言え彼女を殺すことの出来る機会はあったはず。」

 

 どうしても反応はなかった。

 

「…これから僕が言うのは僕の勝手な想像です。証拠なんてものはありません。ただ、貴女達を見て考えたシナリオに過ぎない。」

 

 僕は深いため息を吐く。同じように、彼女も震えるため息を吐いた気がする。

 

「貴女は、本当はフランを憎みつつも愛しているのでは無いでしょうか。自分の妹を殺すことが出来ないが、この館を支配する主は居ない。ならばフランを幽閉してしまえば殺さなくとも貴女がここの主になれる。」

 

 彼女のすすり泣く声が、静かな部屋に流れる。

 

「しかし、妹も殺せない貴女がご両親を殺すことができるでしょうか。果たして、有り得るでしょうか?」

 

 彼女のすすり泣く声が、消えた。彼女は理解したようだ、僕の言葉が。いや、心当たりがあると言った方がいいだろう。

 

「ご両親を殺したのは、()()()()()()()()()()()?」

 

 初めて、沈黙が生まれた。そこからどうしようもなくそれは続いた気がした。そして漸く、彼女はその顔を上げた。

 彼女の顔は返り血を浴びた様に、所々赤く染っていた。

 

「…フランはご両親を知らない様子でした。見たこともないとすら言っていました。しかし貴女はフランはご両親に愛されていたと言う。どちらも本当だと考えると、フランはご両親を忘れているのかもしれない。そして、貴女はあえてその状態のまま彼女の中で時を止めている。殺してしまった事実を、ご自身に擦り付けて。」

「…そんな美しいものじゃないわ。」

 

 レミリアさんは僕の目を見て否定した。しかし、それは内容を否定するものではなく、飽くまで表現の問題のようだ。つまり、それは僕の垂れ流したシナリオが当たってしまっていたということだ。

 

「私はただ、誰かに愛されたかっただけ。でも、もう私を愛する人はいない。それはあの子の能力からなる事故によって。何故、私だけがこんな目に遭わなくちゃならないの?恨みからよ、あの子を閉じ込めたのは。でも、あの子が可愛いのも事実よ。私はあの子を中途半端に生かしてしまった、どうしようもなくダメな姉よ。」

「そう思うのならば、貴女はフランを愛してあげてください。どうしようもなくダメな姉なら、どうしようもないなりに愛してあげてください。貴女は、ご両親にどんなことを言われたかったんですか?」

「私は…」

 

 レミリアさんは少し考え、震える声で話し始めた。

 

「私は、お母様に可愛いって言って欲しかった。お父様によくやったって褒めて欲しかった。二人から『愛してる』って言って欲しかった…」

 

 彼女はまた大粒の涙を流して、まるで子どものように泣き叫んだ。いや、もしかするとこれが本来の姿なのかもしれない。なんの装いもない、まっさらな状態の彼女。

 

「…やってくれるわね、カウンセラー。フランのみならず、この私までも貴方に分析されるとはね。」

 

 赤い眼を腫らしながら小気味よい笑顔を僕に向ける。何とかなった、のだろうか。

 全部確信的な証拠のない僕の想像でしか無かったのに、どうやら事実だったのだ。なんだか、僕にとって都合がいいとすら思える。

 

「いいわ、貴方のことを信頼してこれからは積極的にあの子へ接することにするわ。」

「ありがとうございます。そうしていただけると幸いです。フランのためにも。」

 

 もう大丈夫だろう。僕はこいしさんの方を見て、小さく頷く。こいしさんはそれを受け取って、何かを唱える。そして、いつものように頭痛が薄れていく。

 現実世界。僕はゆっくりと起き上がる。後ろを振り返ると地べたに寝転がるお燐の姿があった。

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