東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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ハルシネーションの星屑
ハルシネーションの星屑 Ⅰ 『巫女』


 吸血鬼姉妹の専属カウンセラーという荷が重い役割を終え、僕は愛しのベッドに寝転がっていた。太陽が当たらないというデメリットはあるものの、いつしかこの薄暗い世界に安心していた。僕の体はここをホームだと認識したようだ。

 あの後、レミリアさんは改めて僕らに対して礼をし、今度のパーティーに招待すると言ってくれた。神田零が嫌いな者同士、親交を深めていけるのならば地を這ってでも参加したいところだ。パーティーが行われる数週間前には手紙を送っていただけるらしいが、少なくとも一ヶ月程後に開催されるとの事だ。そこでは噂の『博麗霊夢』さんも参加するらしいから、そこで顔を合わせておきたい。この幻想郷で神のような存在らしい神田零と敵対するということは、博麗霊夢さんとも敵対することになるはずだ。ならば、相手を知る必要がある。

 とりあえず、向こう一ヶ月くらいはゆったりと過ごしてもいいだろう。ここ最近は忙しかった。今日は温泉の番台も休みだし、夢の中だけで一日を───

 

「直人ーーー!!」

 

 そんな貴重な休日に喧しい猫の鳴き声。

 

「なに…?」

「地上に行きましょ!!」

「日向ぼっこしたいだけだろ?一人で行ってくれ。」

「一人だと怖いじゃない。」

 

 なんと身勝手な。

 最近、地上に出ることにハマったらしい。それだけなら別に構わないのだが、どうして僕を連れ出そうとする。妖力は兎も角、戦闘面ではきっと僕よりも強い妖怪なはずなのに、何がそんなに怖いのか。

 

「兎に角、僕は寝るのに忙しい。君みたいに外に出かけることが休みになる妖怪が全てだと思うな。」

「何それ。とりあえず行くよー。」

 

 そう言って、彼女は最愛の毛布を剥ぎ取り僕の手を取って引き摺る。自重が僕の顔を削り取ろうとするため、仕方なしに立ち上がる。

 

「分かったから、引っ張るな!!」

 

 その満足そうな顔を引き剥がしてやりたい。

 

____________________________________________

 

 眩しさに目を細める。すっかり外の空気に慣れたお燐は行く当てもなく歩く。それの後ろにノソノソと付いていくだけの退屈な僕は、少し猫背になって網膜を地面に逃がす。

 ちょくちょく話しかけてくるが、それも適当に返すだけ。本当ならば、僕はふかふかの毛布にくるまってノンレムの世界へと潜っていたというのに。

 

「それにしても、紅魔館のパーティーに誘われたの本当に嬉しいのよね〜。美味しいものいっぱい食べれるもんね。」

「そうだな。」

 

 呑気なヤツめ。僕はそんなことより如何に仲間に丸め込めるかを勝負しに行くというのに。

 …知ったこっちゃないか。

 

「ねー、さっきから適当じゃない?」

「そうだな。」

「やっぱり。悪かったね、無理矢理連れてきちゃって。」

「分かってんなら帰っていいな。」

「それはダメ。」

 

 心の底から出る溜め息を大きく吐く。また顔を削られては困るので、仕方なく後ろに付いて行く。

 いつか痛い目を見せてやる。などと考えていると、前を歩くお燐の足が止まる。

 

「どうした?」

「神社だ…」

 

 お燐の目線の先に目を向ける。気の遠くなるほど続く階段の天辺に朱色の鳥居が小さく見えていた。それを見るや否や、お燐は顔を明るくして階段の登り始めて。この大腿筋を鍛えるために造ったであろう階段を登らなくてはならないのか。

 恐らく百段は余裕で超えているだろう。何故、休みの日にまでこんな目に遭わなくてはならないのだ。僕は泣く泣く、その苔むした一段目を踏むことにした。

 

____________________________________________

 

「着いたー!!」

 

 取り憑かれたかのように登るお燐に着いてきて数分、息を切らしながらもやっと鳥居の前まで辿り着いた。もう二度と登りたくない。

 膝に手を着いて額に滲む汗を拭う。

 

「な、なぁ…なんでここに登ったんだ?」

「いやぁ、会いたい人がいるからさ。直人が来る前に起きた地霊殿での異変の時に会った人なんだけど。」

 

 地霊殿でも異変が起こったことがあるのか。全く知らなかったが、それよりも異変時に会うということと神社で会える人ということを考えると、恐らく博麗霊夢だ。パーティーで会うことになるだろうと思っていたが、より早く会えることになるとはな。

 何も準備をしていなかった焦りなど露知らず、猫はズカズカと鳥居を潜る。個別の行動になればより怪しい。仕方なく僕は彼女を追った。

 

「静かだね…」

「そうだな。」

 

 とはいえ人の気配がない。木の葉が擦れるサラサラとした音が、静寂をより一層際立たせる。

 

「とりあえずお賽銭入れよっか。」

 

 そういうと、お燐は目の前の賽銭箱に向かって銭をアンダースローで入れる。木製の乾いた音が響いた。お燐はそのままの鈴を鳴らそうと、上から垂れている太い縄を握る。

 その時だった。

 

「…?なんかドタドタ音が聞こえる。」

「何も聞こえないぞ?」

「いや、本当に。ちょっとこっち来て。」

「あぁ…?」

 

 そして僕がお燐よりも前に来ると、確かに遠くの方でドタドタと何かが走るような音が聞こえる。音は次第に大きくなっていくことから、こっちに向かってきているということだ。

 どうやら、神社に人が居たよう───

 

「カネェェェェエエ!!!」

 

 賽銭箱の奥の戸が突然、蹴破られた。その白の靴下を履いた足は僕の顔面に一直線に突撃してくる。僕は理解する間も無く後方へと吹っ飛んでいき、鳥居の下まで体を転がす。

 全身が痛い。気が付いたら青い空に朱色に塗られた木材が視界にあったのだ。身体をゆっくりと起こすと、賽銭箱に頭を突っ込んで奇声を上げている巫女が居た。

 

「…お燐、まさか会いたかった人ってその変質者じゃないよな?」

「…この変質者よ。」

「誰が変質者よ!!」

 

 その賽銭箱に食われている人だ。

 

「あら、お燐じゃない。どうしたの?」

「散歩してたら神社に着いたから寄ってみたんだ。」

「ふーん。で、そこの男は?」

 

 まるで動じない、と言うより恥がない。せめて僕の顔面を蹴ったことに対して謝ってほしい。

 

「上嶋直人です。地霊殿でお世話になっている外来人です。」

「あぁ、紫から聞いてるわ。確か、性格も見た目も悪い死んだ魚の目をしたクズっていう話だったけど。」

 

 八雲紫は神田零よりも前に殺すことが確定した。

 

「話で聞くよりも、なんか普通ね。なんの特徴もないわね。」

「それなら何よりです。」

「目が死んでいるのは納得出来たけど。」

 

 悔しい。

 

「まぁ、いいわ。とりあえず上がりなさい。折角来たのだからお茶でも出すわよ。」

「ありがとう霊夢!」

「すみません、ではお言葉に甘えて…」

「待った。」

 

 僕の目前に手の平を広げる。何やら、お燐は良くて僕は駄目らしい。しかし、何故?

 

「あの…?」

「賽銭の音、一回しか聞こえてこなかったわよ?」

 

 鋭い視線で僕を見る。なんだか、予想とは大きく外れた性格の巫女だ。僕は苦笑いをして財布から出した銭を賽銭箱に投げた。

 一日に二回も、笑顔に対して苛立ちを覚えたのは初めての経験だった。

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