騒がしくなった僕の休日は、もう元には戻れないのだろう。ならば、仕事として今日を考えて生きよう。とりあえず、僕が飲んでいたお茶を飲み干しやがった目の前の魔女に挨拶でもしよう。
「初めまして、上嶋直人と言います。」
「おう、よろしくな!私は『霧雨魔理沙』だ。」
差し出された手を握る。すると魔理沙さんは満足そうに笑う。
「それで、直人は霊夢の恋人か何かか?」
「ぶへぇ!?」
突然の彼女の発言に、霊夢さんは思わず口に含んでいたお茶を霧吹きのように噴射した。汚いので反射的に離れる。お燐は逃げ遅れたため、お茶の風味を纏ってしまった。あまりの衝撃に思考が止まっている。
「違いますよ。今、びちょ濡れになった猫の付き添いです。」
「ふぅん?つまんねぇな。」
「アンタ、突拍子もないことを言わないでくれる?お燐が可哀想でしょ!?」
「それはお前の所為だろ。」
思考停止していたお燐が、やっと瞬きをした。そして漸く自分の状況を理解し始める。その身をプルプルと震わせ始める。
「うぁ…」
「温泉入る?」
「入る…」
「案内するわ、付いてきなさい。」
霊夢さんはその場に立ち上がり、萎びたお燐を連れていく。魔理沙さんと一緒に部屋に残された僕はなんとも言えない気まずさに、空の湯呑みを覗いている。
そんな僕に彼女は関係なく話しかけてくる。
「お燐の付き添いってことは、地霊殿の妖怪か?」
「え?まぁ、そうですね。」
「へぇ、お前みたいなヤツいたかなぁ?」
「地霊殿に訪問されたことが?」
「まぁ、異変解決にね。」
異変解決は博麗霊夢のみが行うわけではないのか?別に彼女が虚言癖で嘘を振り撒いているとも考えてもいいが、後で事実確認をしておこう。少なくとも今は、本当のことであると踏んで、話を聞いていく必要がある。
「実は僕、外の世界から来た元人間の妖怪なんです。」
「なんだそりゃ。随分と波乱な人生だな。」
全くだ。
「それで、その地霊殿で起きた異変というものがどういった内容の異変なのかを知らなくてですね。もしよろしければ教えていただけませんか?」
「お、いいぜ。まずは、あれはこの神社で霊夢と炬燵の中で26番煎じのお茶を飲んでいる時のことだった。」
既に恐ろしい情報が聞こえたが、聞かなかったことにしよう。
「いつもと変わらない、普通の日常に雪だるまを乗せて優雅に過ごしていただけだ。それが突然、外から爆音と共に地面が揺れたんだ!」
妙に詩的に話そうとするな、この魔女。
「急いで外を見たよ。するとそこには、真っ白な柱が立っていた。実を言うとそれは間欠泉だった。」
スッと言えよ。本当に何だこの魔女。
「良かったじゃないですか。あ、地霊殿の温泉ですか?」
「そうそう、実際それで今の霊夢は商売繁盛。前よりは良い生活が送れているよ。」
「あれでか…」
「あれで、だ。」
幻想郷のために生きているのに、下手をしたら幻想郷の中でも上位に君臨するほどに貧しいのではないだろうか。
「しかし、それだけなら良かったんだが、間欠泉と同時にあるものも湧き出たんだよ。」
「あるもの?」
僕がリアクションをすると、魔理沙さんは右の口角を二ィっと吊り上げる。
「地霊だよ。」
「…地霊?」
「おぉーい!地霊殿に住んでんだろ?知ってろよそんぐらい。」
「え、すみません。」
一々大きな反応を見せる。苦手なタイプな気がするが、まだ分からない。ただ、万が一苦手なタイプだったらこの人を仲間に引きずり込もうとするのはやめておこう。面倒だ。
「地霊っていうのは、地底に住む怨霊とかそこら辺のなんかだよ。」
コイツもあやふやじゃねぇか。
「ところで、お燐ってどんな妖術を使うと思う?」
「さぁ?」
「霊を操るんだよ。」
そういうとニヤニヤと薄ら笑みを浮かべる。非常に不愉快な笑い方だが、言いたいことは理解出来た。
「お燐が間欠泉と一緒に地上へ霊を送っていたってことですか。」
「ご名答!」
嬉しくもない正解だ。
「まぁ、なんでそんなことしたかって言うと、お空がスーパーパワーを手に入れて調子に乗ってたから、地上に知らせるためにやったんだとよ。」
「お空が?」
あの脳みそのシワがなさそうなお空に、お燐がわざわざ地上に助けを求めるほどの力があったのか。これは、帰ったら仲良くしておこう。利用のしがいがあるかもしれない。
「それで私と霊夢が異変解決に行ってきたわけさ。」
「へぇ、そうだったんですね。知りませんでした。」
割とどうでもいい話だったが、お空にそんな力があると知ることができたのは良い収穫だ。
「それにしても…お前って戦えんの?」
「いえ、全く。」
「にしては妖力が豊富だな。」
流石、異変解決をするだけあって妖力なんて容易に感じ取れるのか。僕は人差し指で頭を少し掻き、苦笑いをする。
「あるだけですよ。」
「あ、本当に沢山あるのか。適当に話してただけなのに。」
「…」
早く帰りたい。