東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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諏訪信仰の蛙 Ⅴ 『一騎』

 地獄のような日々を諏訪子に与え続け、1年の月日が流れた。約束の一騎打ちの日が訪れた。

 

「この日がやっと、来たか。」

 

 一騎討ちをする会場で、諏訪子は仁王立ちしながらそう呟いた。1年前と比べ、諏訪子の神力は約50倍にも膨れ上がっていた。さらに戦闘技術なども兼ねて、諏訪子は確実に成長をしていたのだ。

 大和の神達が諏訪子と建御名方(タテミナカタ)御社宮司(ミシャグジ)建御名方(タテミナカタ)の一騎討ち。ある程度のオーラを纏う諏訪子を見て、相手方の応援陣も少しどよめいている。しかし、対戦相手自身は眉ひとつ動かさず、また諏訪子自身も堂々とした風格で睨み合っていた。

 

「私の名は御社宮司!またの名を洩矢諏訪子!」

「我が名は建御名方!またの名を八坂神奈子!」

 

 双方が名乗った。そして、2人は口を閉じた。相手方の応援陣も、予想していなかった緊迫がその場を制する。沈黙の音が鳴る。

 2人は同時に息を吸い、息を吐く。読んで字のごとく、息を合わせた。双方が殺気を解き放つ。

 

「いざ、参らん!」

 

 諏訪子と神奈子の一騎討ちが始まった。

 諏訪子はチャクラを、神奈子は御柱(おんばしら)を出し、その2つが神力を纏って衝突した。鈍い音が先に響き、衝撃波がその地に轟いた。

 力の差は対等だろうか。次は、速さ比べとして武器と武器がまるで超高速の舞のように美しい軌道を描いていた。互いに、一歩も譲らぬ戦い。一つのミスも犯してはならぬ戦い。そんな状況であるはずなのに、2人は思い切り口の端を吊り上げて笑っていた。

 

「頑張れ、諏訪子!」

「建御名方!何をしている?遅い、遅いぞォ!」

 

 須佐之男が焦っている。少し神奈子とやらが押され始めてているのだ。持久の面で諏訪子よりも若干劣っていたようだ。

 諏訪子は今でも風格を保っている。このまま行けば諏訪子は勝てる。

 さて、須佐之男はどんな顔をしているのか。間抜けな面を見ようと、その男の顔を見る。しかし、なぜか奴はニヤついていた。なにか、おかしい。

 俺は脳波を飛ばし、奴の思考を覗き見ることとした。この500年で新たに得た技だ。

 

「『ディア』。アイツの考えを読む。」

 

 須佐之男が何を考えているのか、それを覗き見る。その内容を知った瞬間、俺はこの神の薄っぺらいプライドの強さを侮っていたと後悔した。

 

「『ナビゲーター』ッ!」

 

 帰ってきた波形からそれらしい気配を確認する。すると1人、怪しい動きをしている神が、俺の反対側の応援陣にいた。しかし、これでは間に合わない!

 

「ッ!?」

 

 いきなり、目眩が諏訪子を襲った。視界が歪み、世界が回る。その一瞬に、神奈子の御柱が諏訪子の小さな体を吹き飛ばす。

 

「オラアアアッ!」

 

 諏訪子は辛うじて受け身をとるが、全身の骨は折れてしまっているようだ。体を動かすことが出来ない。

 神奈子は転がっている諏訪子にゆっくりと近付き、頭上に巨大な御柱を創る。

 

「お前は中々の勇者だった。挑発することもなく、本気で我が力に挑んできた。お前のような戦士は久しぶりに戦った。感謝するぞ。そして、お前はここで死ぬ運命なのだ。」

 

 神奈子は頭上の御柱を振り下ろす───

 

「ギャアアアアアアアッッ!?」

 

 その直前に、ある大和の神が悶え苦しむような叫び声を会場に響かせた。全員がその方向を見る。目線の先には、目を抉られ地面で悶えている神と、息の荒い零が立っていた。

 

「スサノオォォォッ!!」

 

 怒りに身を任せた殺気に、周囲にいた神の数柱が気絶し、その場に倒れた。いくら須佐之男でも、この威圧に恐怖する。

 

「言ったよなぁ?ズルをするなと…言ったよなぁぁッッ!」

「ふ、ふん…知らぬ。そこの祟り神が負けるのは絶対の確信を持っていた。そんなこと、この須佐之男がするわけがなかろうが。無いことを真実にしようなど出来ぬのだ。見苦しい悪あがきを見せて、滑稽だな。」

 

 白を切るつもりだ。とことん、そのプライドの薄っぺらさには呆れる。

 

「『こいつ、何故分かったのだ』っと、完全一致で思っている。」

「なに!?」

 

 須佐之男は驚いた、本当に完全一致で思っていたためである。その動揺に、周囲の神々も本当のことなのだと認め始める。

 

「いいか?俺は心を読める。そんなこと分かるんだよ!神奈子とやら!諏訪子の首筋を見てみろ、何がある!?」

 

 あまりの殺気に足が少し退きながらも、神奈子は諏訪子の首筋を見る。首筋には痺れの毒が塗られた矢があった。それは小さく、針のような形状をしていた。目を潰された神を見る。その近くには吹き矢が転がっていた。

 

「針が、刺さっている!」

「建御名方!貴様ァァァッ!」

 

 須佐之男は持っていた剣で神奈子に急接近した。諏訪子と神奈子との戦いとは比にならないスピードで、剣を振りかざす。

 

「お前はこの戦いに関わった全ての者を侮辱した。」

 

 金属と金属がぶつかる高い音が鳴り響く。青い鉄、否、ダイヤモンドのような物体が手袋のように零の右腕を覆い、須佐之男の剣を握っていた。

 

「ッ!?この手、まさかッ!」

 

 その覆われた、青く輝く手を見た須佐之御は突然笑いだす。

 

「ついに見つけたぞォ!お前を()()()()()()!!」

 

 捜していた。そう、口走ったのだ。こんな虫けらの残骸のような男に捜されなくてはいけないのだ?

 

「お前を倒せば、俺が最高神だァ!天照(アマテラス)なんか屁でもないぞ!」

「気でも違ったか、須佐之男。」

「何億と探し求めた物が目の前じゃあ誰でも狂うぞォ!!」

 

 何億もの間、俺のことを捜していたのか。全くもって心当たりがない。少なくともコイツよりは。

 

「部下に嫌われてちゃあ、上司失格だな。」

 

 そう忠告してあげると同時にの須佐之男の後ろから、神奈子が御柱で殴りかかった。須佐之男は地面に血が吹き出た頭を付ける。

 

「侮辱しやがって…お前のことを尊敬していた私を殴り殺してやりたいわッ!」

「き、貴様ァ…ガハァ!?」

 

 吐血した。頭全体が赤黒い血で染まり、滑稽な顔を大和の神に晒す。愚かで、無様だ。

 怒り狂った神奈子が、もう一度須佐之男を御柱で殴ろうとする。しかし、その柱は乱切りされる。

 

「お前の柱など、我が剣で絶ち斬ってやろうぞッ!」

「なッ!?」

「オラアッ!!」

 

 腐っても最高神に近い神。その実力は紛い物ではなく、一瞬にして剣は光を置き去りにした剣筋を魅せる。俺にも、その軌道を確認出来なかった。

 神奈子は両腕を切り落とされ、その場に崩れ落ちる。

 

「裏切った罪は苦しみながら償え!安心しろ、後でちゃんと首を飛ばしてやる!!」

 

 俺は急いで、須佐之男に攻撃しようとした。しかし、気が付くと、俺は虚空に腕を振りかざしていた。これは...まさか『瞬間移動』か?

 

「そこには誰も居ないぞ?」

 

 背後をとられた。急いで振り返るが、既に振りかざされた剣は俺の頭上を僅か一寸空けて迫っていた。

 

「死ねぇ!!」

 

 この一瞬、時の流れ全てがゆっくりに見えた。いつまで経っても振りかざされた剣が俺の額を割らない。なんだ、これは?

 次第に冷静になり、俺は永琳達の研究を思い出した。生き物は死ぬ際、物事が全て遅く動いてあるように見えるとか。

 つまり、俺は死ぬのだろうか。この命、無くなるのだろうか。永琳に再会が果たせないまま。露と消える。

 水を掴んでも、切っても、地面に行く運命のように、人生が終わる。

 

────────────

 

「君はやはり、何も出来ない。」

 

 ふと、声がした気がした。前に聞いた気がする、この言葉。果たして、何処で聞いたのだろう。

 

「水は斬れないが、水が斬ることはできる。」

 

 斬ることが?

 

「君が、細胞を操るように、水も操れば良いさ。」

「一滴一滴の雫が石を削るだろう?それと同じように…」

 

 俺の背後に誰かがいる。しかし振り返ることが出来ない。見てはいけない、なにかが居る。

 正体不明のそれは、その手で俺の頬を撫でるように沿わせ、耳元で囁いた。

 

「相手ヲ貫ケバ良イノサ。」

 

 悪寒が全身を襲う。恐ろしい、考えだ。嫌な汗を一つ、顔のラインに従って垂れた。瞬間、その悪寒は背後の気配とともに消え去った。

 正面の須佐之男を見る。奥に転がる神奈子と諏訪子を見る。俺は、今、妙に落ち着いていた。スローモーションが、普通の速度となった。

 

「…なんだ…と?」

 

 須佐之男の持っていた剣は、2つに分断され、1つは地面に突き刺さっていた。

 俺の青く輝くそれに覆われた右腕は、更に水で纏われていた。

 

「この水、どっから取ったと思う?」

 

 零はさっき殺した神を見る。その目線の動きから、須佐之男もつられてその神を見る。そこには、干からびた神が居た。

 

「なん…」

「余所見すんなよ。」

 

 俺は須佐之男の鳩尾を蹴り飛ばし、血を吐きながら地面に転がる。今の衝撃で、諏訪子と同じように全身の骨を折ったようだ。

 苦しむ須佐之男を余所に、俺は右腕に纏っていた水で弓矢の形を作る。

 

「さぁ、初めての弓矢。当たるかな?」

 

 的はデカい。初心者には優しい練習台だ。俺ははち切れそうな弓を解放してあげる。とても弓矢とは言い表せることが馬鹿らしい程の スピードで、矢は放たれる。全身を骨折した体では避けることが出来ない。

 須佐之男は本来使う予定のなかった名刀を取りだした。かの有名な、ヤマタノオロチを倒し、手に入れた剣で、それを跳ね返そうと振るった。しかし、矢はいとも容易く剣を削ったのである。そして、須佐之男の眉間を貫いたのだ。

 『水威矢』と名付けよう。実に良い技の練習台だった。興奮による心臓の速さは、それを境に段々と落ち着いていき、今の状況を思い出す。

 

「諏訪子!神奈子!直ぐに治す!」

 

 すぐに神奈子の両腕を拾い、断面と断面をくっ付ける。

 

「『治癒の細胞』。」

 

 すると、神奈子の両腕は繋がり、治った。諏訪子にも同様に『治癒の細胞』を施し、全身の折れた骨を接着させる。

 

「これで大丈夫だ。2人とも、意識はあるか?」

 

 反応はない。しかし、息はあるためただ気絶しているだけだと分かるだろう。

 

「仕方がない。神奈子と諏訪子を神社まで運ぶか。」

 

 動揺を隠せない大和の神の群れは、俺が近付いてくると勝手に道を開けた。最強だと思われていた神に勝ったのだ。それはそれは恐怖の表情で染まっている。少し面白いなと感じつつも、俺は帰路に着いた。

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