遣隋使を護衛することが正式に決まったため、その護るべき人たちの紹介をしている。それぞれ、この都の発展を願って日々勉学に励んでいるようで、加えて思慮深い者達ばかりだった。
「こちらが小野妹子さんです。」
「貴方が神田零殿ですな。私が小野妹子です。」
「神田零だ。よろしく。」
中でも、この小野妹子という人物は一際優秀であるよう。しかしながら、妹子という名前の割りには髭オッサンな外見だ。しかも、目付き悪い。どういう人間か、妹子に『ディア』をして基本的な志しを見たところ「太子様のために勉強するぞ!」ということしか頭になかった。見かけによらないのはいつの時代も変わらないな。そして、無闇に人の心を見るもんじゃない。反省し、今度から気を付けるとしよう。
遣隋使との挨拶を終え、軽く世間話をしていると、遠くの方で妖怪の臭いを感じ取った。波形から人間らしき存在と寝転がっている妖怪がいるようだ。これは、俺の出番のようだ。というのも、今はこの国を無償で護っており、言わばボランティアのようなことをやっていた。
「妖怪が国の近くにいる気配を感じる。追い返してくる。」
「なんと、護衛をしてくれているとのことは本当だったとは。ありがたい。」
本当に良い奴だな。小野妹子とは仲良くやっていけそうだ。そんなどうでもいいようなことを考えながら立ち上がり、首を鳴らした。
「『瞬間移動』。」
誰かからの「ありがたい」というこの一言を嬉しく受け取れない奴は、嫌味と受け取らない限り存在しないだろう。実際、その言葉があるからこそ金銭を求めず守っているのだ。
目的の場所に着いた。しかし、その場所の景色は少しばかり予想外だった。
「妖怪の臭いが妙に強いと思ったら、血肉が飛び散ればそれは臭いが強いわけだ。波形から寝転がっているように見えたのも納得がいく。」
そして、僅かながらに自然エネルギーも残留している。自然エネルギーというのは、自然から発せられる力であり、それを駆使する代表例は仙術だ。
「仙人か?殺り方に容赦がないことをみれば、戦闘好きな仙人か、仙人と言うことを悪用した邪悪なる者か。」
「どちらでしょうね。」
後ろから声がする。先程、波形からみたもう1人の方だろう。顔を向けると、そこには青髪の淑女が立っていた。
「隋から来たのか?」
「ええそうよ。霍青娥。よろしくね。」
「神田零だ。それで、なぜここに来た?」
俺は警戒しながらも、彼女の目的を伺う。
「ここに、人が死ぬのは何故なのだろうと悩んでいる偉い人がいるらしいから、道教を薦めてみようかなって思って来たのよ。」
偉い人?神子のことだろうか。欲を見通せる者故の疑問なのか。
一応、俺は不老不死だが、寿命がないってだけで、攻撃や衝撃による死はある筈だ。そんな俺だが、その事について疑問になったことはない。
「貴方ではなさそうね。でもお強いのよね?」
「まあな、道教はこの国にはあまり向かないと思う、一応案内はするが…」
「あら?簡単に信用していいのかしら?」
「嘘をついてないからな。分かるんだよ、そう言うの。」
単純に『ディア』をして思考を覗き見ただけだが。妹子の時の反省が全く活かされなかった。
「ふ~ん。まあいいわ。案内してくれるのは嬉しいわ。」
「こっちだ。」
ここから都までそう遠くは無い。青娥が俺を掴んで瞬間移動をしようかと迷ったが、そんな距離でもないし、それに未だ信用している訳ではない。手の内は明かさない方が吉だ。
「にしても、貴方からスゴいエネルギーを感じるわ。何者よ?」
「旅人さ。」
「何故、旅を?」
「俺の恋人に会うために。」
「行方不明なの?」
「いや、居場所は分かっている。だが、会えない。」
青娥はその掴みどころのない回答に首を傾げている。全て事実だから、他に言うことは無い。
永琳は今、何をしているのだろうか。俺は瞬間移動は出来てもある程度距離があったらそこへは行けないし、物を創造することは出来ても、ロケットのような細部までしっかりやらないと動かない、機械系の物を造ると完成より前に生命エネルギーが枯渇する。
「それで、幾年もの間1人で旅をしているのね。強くて硬い、誰にも壊すことの出来ないその愛が、貴方をそうさせているのねぇ。」
「やめろ、恥ずかしい。わざわざ口にしなくていい。ほら、ここだ。」
青娥に茶化されながらも、どうやら国についたようだ。番人がこちらを訝しんている。隣のコイツだろう。
「零様、そちらの方は…?」
「こいつは…「恋人よ」…は?」
コイツ、今なんて言いやがった?
「恋人なのよ!ね?」
「そうでしたか、失礼しました。どうぞ。」
門は開かれ、青娥は俺を引っ張るようにして中に入る。都の中では青娥が俺の腕にくっついている。
「おい、なんのつもりだ?」
「恋人のつもりよ。」
「俺には恋人がいる。一人しか愛せない。」
「夫は妻を何人ももっていいのよ。」
分かって言ってやがるな。コイツの性根が腐りきってやがることは十分にわかった。
俺は彼女を無理やり引き剥がし、軽蔑の眼差しで睨む。
「俺はそれに反対する人間なんだ。離れろ。」
「女に向かって離れろなんて、私綺麗なのに。」
「心は汚いけどな。」
「全く分かりませんわ?」
「邪仙が。」
「じゃ、邪仙はひどくありません?」
一矢報いることはできたようだ。俺は彼女を無視して神子の所へと向かう。置いてかれそうになった青娥は慌てて俺について行く。
なにか青娥が話しかけているように思えるが、全て無視する。コイツと話してて碌なことがない。
「わ、わかったわよ。ごめんなさいね。」
「よろしい。さて、もうそろそろ着く。あの大きい建物がそうだ。」
「へえ、そんな大きくはないわね。」
「まあ、こんなもんだろ。」
隋はもっと大きいようだ。中に入り、波形から神子がどの部屋にいるのかを確認しながら木目の床を歩く。
「それにしても、よくここまで来たよな。船は大丈夫なのか?」
「ええ、運良く波は少なかったのよ。」
「なるほど。」
目の前には神子がいる部屋の扉があった。俺は静かにノックし、中に入る。布都は俺を見るや否や、目を輝かせて出迎えてくれた。
「おお!おかえ…り?その方は一体なんだ?」
「私は零の…」
殺気を放つ。
「友人です…」
「おおそうかそうか。にしても…もしかして、隋の者か!?」
「え?ええ、そうよ。」
「零!!私達の為にワザワザ隋の人を呼んでいてくれたのか。どうやって連絡したかは分からんが、どうでもいいこと。ありがとう!!」
何やら勘違いをしてしまったらしい。前々から思っていたが、布都は思い込みが激しい。確か、永琳の研究していた心理学から引用すると、確証性バイアスが人よりも強い傾向にあるのだと思う。
「さあこっちじゃ。太子様に紹介せねば!」
なんとも上機嫌で俺たちを先導する。
「この娘、少しおバカな娘ね。」
「そっとしといてやれ。」
だが、そこが良いところでもある。
「さあ速く!!善は急げ!」
「分かった分かった、行こうか。」
青娥もつられて笑っている。コイツのことを警戒しなくてもいいのかもしれないな。ただ、性格が悪いだけだろう。
いつでも出せるように、得意の青く輝くそれを準備していたが、それを引っ込めて布都について行った。