「太子様!朗報ですぞ!」
「どうしたのですか?」
布都は神子がいる部屋の扉を開けた瞬間、心底嬉しそうな声色で叫んだ。その興奮した布都の顔を見て、神子は体を跳ねさせた。
「なんと、零殿が隋の人を呼んでくれたらしいのです!」
「隋!?」
布都の反応が面白く静かに笑っている青娥はゆっくりと丁寧にお辞儀した。俺からすれば胡散臭すぎるのだが、第一にこの礼儀正しさを見てしまうと信用してしまうのだろう。
「ご機嫌よう。私、霍青蛾と言います。」
「え、あ、ごきげんよう。豊聡耳神子と言います。」
「早速、この小さな島に来た理由をお話ししたいかと思います。その方が本題に入りやすいので。零さん、少し豊聡耳様と、その部下達と話させてください。」
完全にペースを掴みにきているな。布都は完全に信用しているし、神子はナヨナヨしている。我が強い俺がいてはスムーズに進まないのだろう。
「…分かった。」
「あら、すんなりと受け入れますのね。まぁ、しつこい男は嫌われますものね。」
お前に嫌われた所でどうということは無い、という言葉は言わないでおく。
俺は踵を返して都の商店街へと向かう。昼飯時だ、食事処にでも行こう。
────────────
なかなかどうして、思い通りにいかないものだ。いや、俺がお節介なだけでもあるが。冷めたことを言うと、神子たちと俺は雇い雇われの関係であり、霍青娥とかいう怪しさ満点の奴にどうと言われようが関係はないのだ。しかし、見ていられない。これが俺の性分のようだ。
適当に歩き回っていると、営業中の食事処があった。あそこで腹を満たそう。
「いらっしゃい!」
中は満員で、空いている席はほぼ見当たらない。困ったな、一人でゆっくり食べたいのだが、店員に訊いてみることにしよう。
「あーっと、すまない。空いてる席はないか?」
「すいませんね。相席しかありません。」
仕方がないか。
「どこだい?」
「あそこです。でもあの席に座っている人は、結構地位の高い人ですぜ。」
店員が指さした方向には見た事のある緑髪が静かに座って食べていた。高い地位に就いていてもこういう庶民派な店で食事を取っているのか。
「あぁ、知り合いだ。気にしなくて良い。」
「えぇ!?そ、そうなんですかい…?」
「あぁ、心配ありがとう。」
そう言い、喧騒の中をカニ歩きで移動する。屠自古が座っているテーブルに手をついて、にこやかに話しかけた。。
「やあ、独りか?」
「……いきなり無礼な事をニヤケ顔で言う奴だなと思ったら、お前か。何だ、私を口説きに来たか?口説き方間違ってるぞ?」
「安心しろ、俺には恋人がいる。」
得意顔で真正面の席に着き、足を組む。
「自慢か?」
「半分な。おーい、オススメ一つお願いだ!」
「まいど!」
屠自古は少し不機嫌そうに顔を顰めながら言葉を発した。
「何の用だ?」
「この店で飯を食おうと思っていたら、空いてる席がここしかなかっただけだ。お前に用なんてない。」
「ふん、確かに混んでいるな。」
ここ以外満席だ。位の高い奴と一緒に飯を食いたくは無いからだろうが、傍から見たらハブられている可哀想な奴だ。実に面白かった。
「お前もここで飯か?ちょうど良い、奢ってやるよ。」
「え、いや良いよ。何か企んでるのか?」
「お前の中の俺のイメージはなんなんだよ?」
「ズル賢い、嫌な男。」
「そこまでド直球で、しかも真顔で言われると逆に清々しいな。」
『ディア』で心を読む気にもならなかった。というより、なぜそんなイメージが付いているのだ。前の嫌味を引きずってるのか?心の小さい奴だ。
「だが、なにも企んでいないのなら、奢られても構わないぞ。」
「前々から思っていたが、何故そんなに上からなんだ。」
「強い上に偉いからな。」
なんて傲慢なんだ。
「まぁ、体は人間だから、その点は妖怪とかに比べれば貧弱だよな。身体を捨てたら最強なんだかな。」
「ヘイお待ち。」
すごい思想をしてるやつの横から店のご飯が出てきた。
美味そうな飯だ。魚の油が照っており、米も1粒1粒が立っている。ここが大盛況な理由がひと目でわかる。
「いただきます。」
────────────
「ふう、旨かったな、あの店のは。」
「追加でいっぱい喰いやがって。」
「奢ると言ったのはお前だ。」
「分かってる。男に二言はないって言うだろ?」
「さてどうかな。」
何に張り合ってるんだコイツ。
「着いたな。お前と話していると時間が長い。」
大分こちらの台詞ではある。
屠自古が扉を開けると、何やら考え込んでいる神子と布都が居た。青娥は一体何の話をしていたんだ。
「どうかしたか?」
「え、あ…いえ、なんでもありません。」
「なら良いんだが…」
確実になんでもなくはない。申し訳ないが、『ディア』をすることにした。全くもって反省していないことに目を瞑り、その悩ましい2人の心を覗き見る。
『どうすればいいのでしょう。零さんには心配かけたくないし…でも、人が何故死ぬのかの研究が続けられる。でも、怖い…い、いや、臆してはダメ。』
なにかに恐怖を抱いているようだ。だが、それを乗り越えれば人が死ぬ理についてを追求することを続けられるらしい。布都は何を考えている?
『太子様に万が一の事があったら…その為には私が最初に実験台として…太子様の為なら死など怖くない。』
なぜ、死を意識しているんだ。青娥は一体なんの話しをしていたのだ。『ディア』で心を覗いた時は仙人にするという抽象的なことしか分からなかったが、それと死がどう直結するのだ。
「神子、布都。」
「え、はい?」
「な、なんじゃ?」
「アイツに何を言われた?」
瞬間、2人はあからさまに瞳孔の開いた目が泳ぎ、動揺している。波長を流さなくとも、心臓の動きが大きくなったのが伝わる。
「え…あの…」
「隋の戦術や文化について話し合っていたんじゃ!」
「相当衝撃的な内容だったんだな。2人とも震えているぞ。」
「おお、そうじゃ。隋は進んでおった。衝撃も走る!」
青蛾は確か道教を薦めに、この国へ来たと言っており、『ディア』からもそれは確認済み。しかし、道教の内容は確かにショッキングなものがあったりもするが、話を聞くだけで顔面蒼白になるほどのものではない。
死ぬことが前提で、死ぬ理を追求することが出来る。死んでしまえば普通は追求など不可能だ。『道教』『死』『仙人』、そして2人の思考。
もしかして、彼女らは付け入られたのだろうか。俺の道教に対する知識が間違っていなければ、答えは────
「尸解仙か…?」
その一言だけで十分だった。答え合わせはいらない、彼女らの目が、何よりも物語っていた。青娥の目的は、仲間を増やすことだったのだ。尸解仙の仲間を。