「用はなんだ。」
「自分の意思についてだ。」
「わかった、聞こう。」
こいつは、明らかに『布都ではない』なにかだ。妖怪が取りついているのか?いや、うまく隠れている。何かは分からない。それこそ、神子や屠自古は分からない程に。
「疑問なんだけど、自分の意思を貫くってさぁ、それはただ回りの意見を聞かない自分勝手な人間になれって意味じゃあない?」
口調も大分違う。なぜそこだけ騙し方が荒いのだろうか。布都のことを調べずに憑いたのだろうか。それほど相手に時間的余裕がない。ということか。
「そうは言ってない。俺が言ってるのは、自分の意思を心の中に仕舞わず、ちゃんと回りの人にわかってもらえって言ってるんだ。」
「そっかぁ…」
布都の姿をしたそれは、椅子ではなく机に腰かけて足を組んだ。品がどんどん悪くなっている。
「じゃあ、私も自分の意思を示そうかなぁ。」
「………」
「テメェを殺してやるぜぇ!!」
正体を表すのが早い。それこそ憑いている意味が無いほどに。そうか、コイツは油断させることが目的では無い、これは人質だ。こちらからは攻撃ができないと思っているのだろう。
「かかってこいよ。」
「死んで、悔やめ!」
「何を、してるのですか…?」
そこに神子が居た。書斎の扉に手を付けて、そこにいた。
「え…あぁ、み、神子様じゃあないですか。これは…あれですよ。戦闘の練習です。より本当の戦いに近づける為に演技をしてましてぇ。」
「そうですか。もうひとつ、良いですか。」
「ええ、なんなりと。」
「
その言葉で布都は…否、妖怪は青ざめた。俺からすると当たり前だろと言いたいが、神子が説明してくれるだろう。その間に、俺は俺の事をしよう。
「し、質問の意図が分かりませんね。」
「そのままです。言葉通りの。」
「私は、布都ですよ。認知症ですか?」
「貴女は本物の布都と、性格が違う。態度が違う。雰囲気が違う。そして、私の呼び方も違うのですよ。本物は『太子様』と呼びます。貴女は『神子様』と呼びました。」
妖怪は理解したようだ。自分の荒さに。とはいえ、あいつは人質を持っていると思い込んでいるから、目の前の神子を襲うことだろう。
「ド畜生がァァァァッ!!」
「俺からしたら、ド畜生はテメェだよ。」
俺は妖怪の振り上げた布都の右腕を掴む。する妖怪はこっちに振り返ったが、顔面の真正面に掴んだ逆側の手をかざし、波長を流す。不協和音のような波長は、布都の中にいる妖怪のみを吹っ飛ばした。つまり、布都の体に干渉し、直接妖怪に攻撃をした。
妖怪に意識を奪われていた布都はその場で倒れそうになったところを、俺が抱きかかえる。
「貴様らァァァッ!!」
動揺。どうやら俺が想像以上の強さだったようだ。吹っ飛んだ妖怪は狐のような尻尾を生やした男性だった。尻尾の数が少ないから、人質を取るようことをしたのだろう。
すると、騒ぎを聞きつけたのか、屠自古が慌てた様子でやってきた。
「何事だ!?」
「……ッ!」
妖怪はすぐに立ち上がり、屠自古の首を腕で軽く絞めた。
「こいつの命がなくなってもいいのか?」
「ハァ…」
本当に、コイツは何も調べていないようだ。
「溜め息?頭がおかしいのか?こいつは、人質だぞ!?」
「私のような高貴な人間が人質になるわけないな。」
「はあ?」
「もし私が、雷を扱える人間だったら?」
「な...!?」
その時、書斎の中が光と爆音で満たされる。数秒それが続き、収まった頃には、妖怪は白目を向いて黒く焦げていた。妖怪はヨロヨロと倒れ、解放された屠自古は服についた汚れを払う。
腐っても妖怪、まだ息はあるはずだ。俺は黒焦げの首を掴んで指から出した青く輝くそれを動脈の近くに置いた。
「質問だ、お前はなぜ俺を狙った。」
「フフ……」
「あ?」
「フハハハハ!!」
ソイツは突然、笑いだした。穴という穴から血が吹き出しながらも、笑う。
「『あの人』の事を言うわけがないだろうが!そしてまだ、俺は負けてないぜ?」
「何をするつもりだ?」
何かをする前に、仕留めることにしよう。そう思い、動脈を切ろうとした時、屠自古が叫んだ。
「ッ!?体が…動かないッ!?」
屠自古はなにかに縛られた様な体勢で、動けなくなっており、眠っていた布都の体が勝手に起き上がる。そして、布都は近くにあった刃物を持ち、屠自古に近づいていった。
「布都!!」
神子は布都を抱きしめて止めようとするが、それをものともせずに進み続ける。
「無駄だよ!こいつは今、俺が妖力で遠隔操作してんだからな!妖力に人間の貧弱な力が勝てるわけねぇだろ!」
そう、妖怪が言い終わった瞬間、布都の動きが止まった。
「なんだ?早く動けよ。」
「俺も遠隔操作出来たとしたら良いのになぁ。」
首を掴んでいない方の手から霊力を放ち、妖力に対抗する。今こいつを倒せば、妖力で繋がっている布都にも影響を与えかねない。
「何だと……テメェ、どこまで俺の邪魔をしやがる!」
「どこまでもだ。」
「クソが!だが、テメェには能力が大量にあるから、それぞれに分散した力が弱いんじゃあないか?ほら、ちょっとずつだがこの女に近づいてるぜ!」
俺の弱点が分かっている?能力が大量にあることを、コイツがなぜ知っているのだ。
それよりも、このままでは屠自古が殺されてしまう。俺は霊力を強める。
対抗していると、近くに神子がやってくる。手にはどこから出したのか、小型の刃物を持っている。妖怪を殺そうとしているのか!?
「神子、止めろ!」
神子は驚き、その振り下ろした刃物を止める。
「おっと、神子さぁん…今俺を攻撃してみろよ。操っている間に俺が死んだら操っていた対象もお陀仏だぜ?」
「そんな...」
「零くぅん。そろそろ操ってる右手が限界じゃあないか?右手が千切れそうだよ?ン?」
浮き出た血管から赤い血が吹き出し、床に溜まっていく。同時にゴキゴキと、嫌な音も聞こえてくる。皮膚が千切れ赤と白の筋肉が見え、それも千切れ始める。
「もう、テメェの腕は終わりだよ。」
なにかがまた千切れた音がした。その瞬間、腕から先の痛覚がなくなった。腕が取れた。
「アッハハハ!死んでしまえ!」
布都は持っていた刃物で、屠自古は両足を切断された。
「グァァァッ!!」
「いい悲鳴だぁ!!さあ死ね!」
「やめろおおお!」
俺の叫び声は、それを止めさせることはできなかった。グチュ、グチュ、グチュ、グチュと、何度もその肉の形が変わる血の音が耳に入る。
刃物は、何回も屠自古に刺さる。屠自古の表情は次第に消えていった。
「ギャハハハハ!!次は神子様だぜぇ?こいつも血を流しすぎたからな、もう動けんだろ。」
力ない俺を、妖怪は払って床に転がす。
怒りでなにもわからなかった。今見た光景は、本当に現実なのか。俺は腕を生やし、屠自古から血液のように流れる霊力を、自分の中に溜め込む。
そして、立ち上がる。
「あ?おいおい。なにやってンだよ。なんで疲労してる状態でたてるんだ?それに...なんで手が生えてるんだ?」
体の中にある霊力、全てを解き放つ。俺を中心に突風が吹き始める。その姿に、妖怪はようやく身の危険を感じた始めたようだ。
「近づくな!俺に寄るんじゃあねぇ!!」
神子に妖力を流そうとしている。その前に、霊力でその流れを打ち消した。
「なんなんだよ...お前なんなんだよ!!」
超音波に霊力を乗せて、それを妖怪に一点集中させる。
「は?な、なん…だ?痛いぞ。痛い…痛い痛い、イタイイタイイタイイタイッ!」
妖怪の中から、破壊する。苦しみを与える。ただそれだけに全てを霊力を使う。
「ウガァァァアアアッ!!」
次の瞬間、妖怪は木っ端微塵になった。高音に耐えられずに割れるガラスのように、跡形もなく破裂した。髪の毛のひとつも、残っていない。奴の穢れた血のみが飛び散っていた。
「零さん…」
「守れなかった。な…にも……」
霊力が枯渇した俺は、意識を手放した。