空の雲は輝いて Ⅰ 『歴史』
長い船旅の末、向こうから陸が見えてきた。あれが、隋だ。港には大勢の人が出迎えてくれている。
「着いたな。」
「ええ、そうですな。」
妹子は緊張しているのか、口をへの字にし、眉間に皺を寄せながらゆっくりと近付いてくる隋を眺めている。
船が港に着き、青娥が先導して船を降りる。俺や妹子それに続いて船を降りる。すると、隋の人々は明るく歓迎してくれた。
「ようこそ、我が隋へ!」
出迎えてくれた人々の中から、女性の方が前に出てきて歓迎の言葉を述べてくれた。この雰囲気に、妹子は安心したように口の端を緩ませる。
「久しぶりね、芳香。」
「おお、青蛾じゃあないか。久しいな!」
どうやら、この女性と青娥は知り合いのようだ。
「青蛾、彼女は?」
「この娘は『宮古芳香』、私の親しい友人よ。芳香ちゃん。この人は遣隋使の護衛を担っている『神田零』よ。」
「よろしくお願いしますね。零さん。」
「ああ、宜しくな。」
差し出された手を掴み、握手をする。本来、この立ち位置は妹子のはずなのだが、妹子は妹子で別の方と挨拶をしているようだから、良いだろう。
しかし、いい雰囲気の国だ。楽しそうというか、我が国より発展してるようだ。
「さて、我々は隋の王に挨拶をしに行くとしましょう。」
「あぁ、それなんですが…」
妹子の言葉に、芳香は歯切れが悪そうにしている。すると、青娥が変わりに説明してくれた。
「今の王様は、虫の妖怪に呪いを掛けられているの。」
「呪い?」
「そう、呪い。どんな呪いかは王様自身が口止めしてるから、貴方には言えないわ。」
「そうか。」
なぜ口止めされているかが気になるが、それよりも妖怪の方が気になるな。わざわざ王を狙う辺り、相当強い妖怪なのだろう。王を狙えば、隋の優秀な陰陽師に首を狙われるはずなのだから。
「その為、会うこともできないのよ。」
「ふむ…そうなのですね。それでは、隋の技術を勉強させて頂きたい。」
「分かったわ!でもその前に、お腹空きましたよね。案内しまーす!」
芳香の明るい言葉と提案に、妹子を含めた遣隋使達は芳香の方へと寄って行った。俺は護衛として外から見守るとしよう。
「フフ…」
「どうした、青娥。」
「あの娘、可愛いでしょう?」
「そうだな。」
「もう可愛くて可愛くて仕方がないわ!」
青娥の勢いが凄いが、確かに、諏訪子と初めて会った時のような、元気であどけない印象を感じる。
────────────
「この『素麺』ってのが美味しいな…この『箸』というのも、手を使わないから衛生面が良い。」
「毎回毎回思うけど、沢山に食べるわねぇ。」
芳香が遣隋使達と食事をしている隅で、俺は青娥と一緒に隋の食事を食べていた。
青娥は素麺を一玉食べているのに対し、俺は今30玉を食べ終えた頃だ。後で、饅頭という甘い食べ物も食べてみようと思う。
「いや、普通だよ。寧ろ少なくて逆におかしい。仮説ではあるけど、俺は『脳を100%活用できる』んだ。でもその為には栄養も摂る必要がある。100%に値する栄養がこれだけだったら、少なく感じないか?」
「そう考えれば…あなた少食ね。」
「少食どころじゃあない。普通の人間じゃあ米を三十粒食べて腹一杯って言ってるようなもんだぜ。」
「そんなの、死んじゃうわ。」
「栄養失調でな。過労死や老化はない。俺って不老だから。」
「あら、私と永く過ごせるじゃない。」
「お前のような邪仙とはお断りだ。」
30玉目を完食した俺は席を立ち、俺の分の代金を払う。遣隋使達は隋の文化について話の花を咲かせている。店の外で待っているとしよう。青娥も俺についてきたようだ。
建築物などを見ようかと思っていたが、それよりも先に目に入って来た光景は、さっきの言葉に怒ってプンプンしている青蛾…の奥にいる柄の悪い男3人に囲まれている少女の姿。
「嬢ちゃん。チョイと俺らの所に来ねぇか?良い店知ってるぜ。」
「ヒヒッ、可愛い顔してんじゃあねぇか。」
絵に描いたような輩だな。対して、囲まれている少女は臆することなく、正面にいる男の目を睨んでいる。
「……貴殿方、お強いですか?」
「そりゃあな。見た目でわかるだろ?この筋肉とか…ゲブッ!?」
少女の正面にいた男は筋肉自慢を始めた瞬間、後方へと飛んでいった。理由は、少女の拳だ。風を切る拳には、思わず詠嘆の声が漏れる。
「なんだ…弱いじゃないですか。」
「テメェ、何しやがる!」
少女の右側にいた男は、右ストレートを放つ。しかし、予知していたかの如く、少女はしゃがみ、そのまま立つ勢いを利用して右足の裏を男の顎に食らわせる。
それを見た残りの男は勝てないのを悟ったようで、スタコラと逃げていった。
「お手合わせ、ありがとうございました。」
少女は、その場で礼をした。面白いな、動きが独特で、恐らく隋に伝わる体術か何かだろう。
俺は居てもたってもいられなくなり、少女に話しかけに行く。
「素晴らしい拳だ。」
「次は、貴方ですか?」
「別に相手になっても良いのだが、単純に君に興味がわいてな。名前は?」
「私は『
「そうか、俺は『神田零』だ。」
俺は握手を求めると、少女は警戒する素振りも見せずにその手を取る。俺はその手をこちら側に軽く引き、美鈴の耳元で囁く。
「君、妖怪だろ?」
その瞬間、何か巨大な岩と岩が衝突したかのような地響きがその一帯を揺らした。それには、建物にいた人間全員が外に避難してきた。
砂埃が舞っている。それが落ち着いた頃に、それが見える。
「おいおい、人の話は最後まで聞こうぜ。」
「貴方は…強いようだ!」
美鈴は俺に回し蹴りを入れたのだが、俺はそれを指で止めていた。美鈴は一度俺と距離を取り、腰を落として戦闘態勢に入った。
「手合わせ、お願いします。」
「負けても泣くなよ。」
俺は応えるように、いつもの戦闘態勢へと入った。
以降の回からは、1日1本の投稿ペースにさせていただきます。