「私の蹴りを指で止めるなんて、一体貴方は何者なのですか?」
美鈴の目線と構えた手の延長線に俺を捉えている。組手も視野に入れているような構え方が、面白い。
「旅人だ、日本のね。」
「へぇ、あんな小さな島のような国にもこんな強いお方はいるのか…」
「神様にもなったことがあるぜ。」
「こりゃ期待が出来そうだ…なッ!」
美鈴は俺を目掛けて拳を振りかざす。見事に俺の右頬に当たった…ように見えるだろうが、俺は顔を逸らして受け流す。その勢いを利用して回転すると、俺が裏拳で殴ってくると予想したのか、美鈴は左腕で受け止めようとした。
「ガードのタイミングが早い。バレてるぞ。」
「なッ!?」
俺は拳を引っ込めて、回転の勢いを殺さずに美鈴のガードした腕に沿って背後に回る。そして、美鈴のガードした腕を巻き込み首を軽く絞める。反対側の手で美鈴の空いている手も掴み、美鈴は足しか使えない状況だ。
足にも警戒をしておこう。もし地面を蹴って頭で顎を壊そうとしようものなら、勢いのまま仰け反って地面に叩きつけてやる。
「…お強いですね。」
負けた声をしていない?足を見るが蹴る素振りを見せないどころか、力も入れていない。
...なるほど。
「お前は、俺の閉めている腕に『氣』を送り込み、この状態を逃れようとしてるな?」
「ッ!?」
何故バレた?と言う顔をしている。『ディア』は非常に便利だと思う。戦闘中はあまり使わないようにしてるが、あまりにも余裕の声質で話していれば、流石に気になってしまう。
そして、バレたことによって、相手が対処法を知っていると思い込む。実は考えていないがな。唯一の逃げ場は無くなる。
「ハァ……ハァ……」
危機、それが彼女の頭に過っている言葉だろう。彼女がヤケクソで氣を使ったらピンチ。つまり、俺も危機の言葉が過ってる。
しかし、俺は彼女がヤケクソを起こさないことを知っている。どんなに雑魚にも戦った後に一礼をする武闘家だ。彼女は戦闘のベテラン。ヤケクソは流石に起こさないだろう。
「君は、一つの拳を俺に向けた。それだけでほぼ敗けの状態だ。つまり、俺と君の差は目に見えているだろう?ここは、潔く認めた方がいい。」
「…99999戦中、99999勝でした。初めて敗けを味わい、誠に光栄です。『降参』です。」
その言葉を聞いて、俺は腕を離す。その腕は濡れていて、どうやら彼女の涙のようだ。
「お手合わせ、ありがとうございました。」
「素直に敗けを認める君は、嫌いじゃあないぞ。悔し涙もまた闘い。次に向けての力になるんだな。」
「……はい。」
初めての敗け。それを認めたことで悔し涙を流す。これが彼女のいい経験になっているを願うが、女の子を泣かせたことに、不快を感じる。
複雑な感情の中、側で見ていた青娥が話しかけに来る。
「スゴいわね。芳香ちゃんと同じ…いや、それ以上かも知れないわ。」
「芳香ってそんな強いのか?意外だな。」
「武術を独学ね。」
「へぇ…」
今度、手合わせ願いたいな。
ふと空を見ると、赤く染っていた。戦闘はほぼ一瞬で終わったし、意外と時間をかけて飯を食らっていたらしい。野次馬に混じった遣隋使達も同じように驚いているようだ。
「そろそろ帰りましょう。宿の手配はしているらしいから。」
「そうだな、そろそろ…」
「待ってください!」
呼び止められ、振り返る。そこには先程俺に負けた美鈴が地面に膝を着いていた。
「どうした?」
「そ、その…で、弟子にしてください!」
「…え?」
1億年この星にいて初めて言われた言葉だった。美鈴は頭を地面に着け、懇願している。別にいいのだが、俺は日本人だ。俺の弟子になるということは、彼女はこの母国を離れることになるのではないだろうか。
「日本にでも、地獄でも天国でも…どこへでも付いていきます!」
それはそれで怖い。だが、そう言うことならば断る理由は持ち合わせていない。
「良いぜ。」
「あ、ありがとうございます!」
師匠か。少し、にやけてしまう。別に、彼女の真剣な気持ちを、軽い気持ちで受け入れる訳ではないが、にやけるもんは、にやける。
横にいる青娥が俺のニヤケ顔をジトーっとした目で見ていた。本当に軽い気持ちではないのだ。本当に、軽くないのだ。軽くはないのだか、謝っておこう。こんな師匠でごめん、美鈴。