「すう……すう……」
「んん…」
芳香はあの後すぐに寝てしまい、離れられずにいたのは分かるのだ。何故、美鈴が芳香とは逆側の腕に食っていて寝息を立てているのだろう。
しかも、美鈴とは青娥を挟んで寝ていたはずなのだが。昨日初めてあった女性2人に抱きつかれるのは、今後の人生でこれきりだろう。
「ふわぁ…おはよ……なんか増えてるわね。」
「あぁ、嬉しい苦行だね。」
「若い娘が好きなのね!プンプンッ!」
「………お前が抱きついてこなくて良かったよ。」
「酷くないかしら。」
俺は青娥の可愛こぶる態度には、冗談でも見たくはなかった。精神的にキツイものがある。俺は込み上げる吐き気を何とか耐えながら、2人を起こさないように動かないでいる。
これの光景を、永琳が見てなくて良かった。こんなの、洒落にならない。
身も震える恐ろしい想像をしていると、耳元で何かが動く音がした。目を向けると、昨日の虫がいた。
「また、この虫か。昨日のやつだよな?」
「えぇ、最近増えてるの。えぇっと…蛍かしら?」
「水辺でもなんでもない、人だらけの場所によくいられるな。」
眠っている芳香は寝息を立てたまま。今起きたら昨日の騒動が蘇るだろう。
「この国の王様が虫の妖怪に呪いをかけられたことは話したわね?」
「あぁ、話してた。」
「この蛍。もしかして、虫の妖怪の手下なのかなって思ったりして…」
蛍はブゥーンとした音とともに羽を広げ旅たとうとする。俺はそれを霊力を飛ばして握りつぶした。緑の液体を流しながら床に落ちる。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ!?蛍をいきなり潰して…」
「こいつ……害虫だな。」
「え?」
青娥は酷い人間を見るように顔を引き攣らせていた。蛍は苦しみ悶えながら足を動かしているが、そんなこと気にも止めず、話を続ける。
「明らかに不自然だろう。お前がこの蛍のことを『妖怪の手下』と思っていることを話したら、こいつは羽を広げ何事もなかったかのように飛んでいこうとした。」
「たったそれだけで…」
「んな訳ねぇだろ。コイツ自身からは無いが、奥の方から殺意や殺気を感じれる。お前も仙人だろ?ちょっとぐらいは感じられるだろ。」
そう言われて、青蛾は精神統一をし始めた。暫く目をつぶっていると、突然ハッとしたように目を見開いた。
青娥も感ぜられたのだろう。極わずかだが、完全に悪意のある殺気が。
「あ、消えた。死んじゃったのね。にしても、よくこんな小さな殺気を…」
「まぁな、これでも師匠なので。」
俺も青娥に感心した。腐っても仙人らしい。どんな小さくても、一応は感じれたようだ。邪仙は撤回してやらんでもない。
ただ、殺したのはいいが、弟子と虫嫌いが邪魔で動けない。
「なぁ、コイツらのせいで動けないんだ。この虫の処理、お前に頼んでいいか?」
「え~?乙女に虫の処理を頼みますか、普通…」
そう言いながら青蛾はガラガラっと戸を開け、外の空気を吸いながら処理を始めた。結局やってくれるところに、俺は青娥らしさを感じる。
しかし、一体どんな妖怪だろうか。一体何が目的で王を呪い、何の目的で俺たちを盗み見ていたのだろうか。思考を巡らせていると右腕から芳香の声が聞こえる。
「零……?」
「お、どうした?」
「ムニャムニャ…」
また寝息を再開する。どうやら寝言だったらしい。思
「…かわいい顔してやがる。さっきも思ってたんだが、一緒に誰かと寝るこの行動で、永琳を思い出させてくれる。」
芳香、そして美鈴の寝顔を見て、昔の永琳との生活を思い出した。しかし、そんな思い出は虫の死臭により邪魔をされてしまった。この不快感に腹が立つ。
ついでだ、その妖怪も俺が退治するとしようか。そう、軽く考えていた。それが過ちだったのだろう。