東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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空の雲は輝いて Ⅴ 『死骸』

 我が師匠の零さんが隋に来てから1ヶ月、蝉の鳴き声が至る所から聞こえてくる。

 私は、もう日課になっていた修行を終え、散歩を兼ねてそこらの妖怪と闘っていた。その内に感情が昂ってしまい、なんだか楽しくなってきた。鼻歌交じりに森を歩く。

 

「それにしても、暑いなぁ。こんな炎天下でも虫は元気に飛び回ってる。」

 

 最近、虫が多くなってきている気がする。夏だからというのもそうだが、隋の王が虫の妖怪に呪いをかけられていることから、少しきな臭くもある。

 ここら辺は特に虫が多い。バッタや蜂は勿論、百足やカミキリムシなどのあまり頻繁に出てくることの無い虫すらもいる。この付近は虫嫌いな芳香さんの勤務先付近である。可哀想に。

 しかし、この調子ならカブトムシもいるかもしれない。ついでに捕まえてみるのもいいだろう。

 

「そこのお嬢さん。」

「はい?なんでしょう。」

 

 周りの木にカブトムシが居ないか目を凝らしていると、男性が話しかけてきた。道を塞ぐように立っており、コイツも戦いたいのだろうと察する。

 

「おやおや、思いの外美しいですね。」

「ナンパですか?間に合ってますよ。」

 

 嘘だけど。

 

「大丈夫ですよ。」

 

 会話が成立しない。少し発音に引っかかる。顔も彫りが深く、この国の人間とは思えない。外国人だろうか。

 男は優雅にお辞儀をし、胸に手を当て自己紹介を始めた。

 

「『ユーベ=ナイトバグ』と申します。以後お見知りおきを。」

 

 彼が現れてから、虫の様子がおかしい。活発になってきており、共食いすらも起こっている。もしかすると、この男は例の...?

 

「…おや?非常識な人ですね。名乗らないのですか。」

「信用してないので。」

「マナー知らずには罰を与えなければ。」

 

 不敵に笑う男に、私は身構える。それに構わず、奴は指を鳴らして森に反響させる。しかし、何が起きる訳でもない。奴は一体、何をした?

 目の前の男のみを睨み、視線の直線上に自分の拳を置く。いつ、攻撃してくる。後ろからか、横からか、上からか?全方向に意識を向ける。

 しかし、そのどれでもなく、足に何か違和感を感じる。何が這うような、違和感。

 

「ッ!?」

 

 目を向けると、大量の虫が足から登ってくる。ゲジゲジ、百足、ゴキブリ、蛆虫等。一般的に気持ちが悪いとされている虫が私の足を登っていた。

 動揺を誘っているのか?

 

「驚かないのですね。虫がお好きですか?これは気が合いそうですね。でも残念です。貴女は私の好みじゃあありません。」

「虫の妖怪か…王様を呪ったのは貴方ですか?」

「正解ですよ。」

 

 やはりだ。そうと分かれば、相手は相当に強いはずだ。奴から何も纏う力を感じないのは、妖力を上手く隠せる力量があるから。

 

「なぜ、王を狙ったのですか。宣戦布告ですか?」

「いや、たまたまそこに居たんで襲いました。」

 

「「嘘だけど」」

 

「おやおや。」

「結構単純ですね。流石、虫なだけありますね。脳も虫けら並みなのでしょう。」

「そりゃあ、虫ですから。」

 

 いつまでも余裕綽々なのが鼻につく。私を相手にしていないような態度だ。目的は一体なんだ?なぜ私の前に現れた。

 

「宣戦布告…ということは、殺す気ですか?」

「物分かりが良いようで。」

「そりゃあ、虫じゃあないですから。」

 

 奴は気持ちの悪い引き笑いをすると、私を一瞥して、また笑う。何が可笑しいのだ。

 

「虫に動じなかったのが、仇になりましたね。」

「……?」

 

 奴は何を言っている?動けるし、思考もできる。何が仇になった?何も感じないのに、何をいっている。いや、何だこの違和感は。

 

『何も感じない?』

 

 力が抜けた。その場に座り込み、体の痺れを感じる。雪崩のように襲ってくる吐き気、目眩、痙攣。どうやら吐いたようだ。気持ち悪い。頭が痛い。訳がわからない。

 

「白眼向いて、涙と鼻水を同時に垂らして、胃酸と中身を吐き散らかして…汚ねぇ顔をしますね。」

 

 何事にも動じぬ心が、仇になった訳か。意識がかすれてくる。弟子になったばかりなのに、もうお仕舞いか。我が生涯は、何も得れぬものだった。そう、諦めた時、何かが遠くから迫ってくるのが、かすれた視界に映る。

 

「ウゲェ!?」

 

 奴の間抜けな声と同時に視界がクリアになる。

 

「何を……ッ!!」

「私の友人に何するのさ。」

「よ、芳香さん?」

 

 芳香さんが飛び蹴りを食らわせたらしい。怒っているのか、その目つきは見たこともないほど鋭かった。

 しかしおかしい。蹴りを食らったユーベは怒ることも無く、むしろ喜んだ表情で立ち上がる。

 

「よ…芳香ちゃんッ!!会いたかったよ!!」

 

 会いたかった?言われた本人も首を傾げる。知り合いというわけでも無さそうだ。

 

「何を言っているの?」

「はい!」

 

 虫野郎が芳香さんになにかを見せる。すると、芳香さんはそのまま背中側に倒れるように気絶した。もしかして、芳香さんに虫を見せたのか?なぜ、彼女が虫嫌いであることを知っている?

 

「これから一緒に過ごそうね。芳香ちゃん?」

 ユーベは芳香さんを担ぎ、去って行く。体が動かない。追いかけたいのに、上手く力が入らないのだ。また、意識が……

 

____________________________________________

 

「……りん…………いりん……美鈴ッ!!」

 

 私を呼ぶ声が聞こえる。目を開くとそこには、心配するような表情を見せる我が師匠の顔があった。

 

「零さん……?」

 

 私は何をしていたのだろう。森の中、寝転がって空を仰いでいた。確か、妖怪に対峙していたはずだ。誰かに助けられ───

 

「そうだ!芳香さんが拐われました!」

「えぇ、そのようね。彼女からの連絡が一切ない。」

「芳香の場所は『ナビゲーター』で分かる。行こう。」

 

 青娥さんと零さんは険しい顔をしながら私のことを腕で支える。何も出来ないままでは弟子として不甲斐ない。意識が朦朧としていた時、その前のことを懸命に思い出す。

 

「奴は虫の妖怪です!名は『ユーベ=ナイトバグ』、男です!」

「虫…王様に呪いを掛けた妖怪か。」

「はい。強かったです。」

 

 零さんの眉間の皺がより深くなる、なにかを考えているようだ。青娥さんはそんな零さんの肩を叩く。そんな暇はないというように首を振ると、零さんはすぐに私たちの顔を見る。

 

「とりあえず、行くぞ。俺に掴まれ、『瞬間移動』をする。」

 

 零さんの言う『瞬間移動』が何なのかは分からないが、私と青娥さんは零さんの腕に掴まる。すると空間が歪んでいき、森の中にいたはずが、様々な色が流動的に混ざりあう世界へと変化した。

 そんな零さんの異様な能力に触れながらも、私達は芳香さんの所へと向かう。

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