東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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空の雲は輝いて Ⅶ 『処理』

 ユーベは片腕の断面を抑えながらも、まるでちょっとしたゲームを楽しむかのように笑っていた。その不気味さ、そして狂気に嫌悪感を抱いていた。

 

「フフフ……貴方のフルネームと、『元々の名前』を知っている理由を教えてほしいんですね?そうなんでしょう?」

「『元々の名前』っていうのはなんだ?俺が何者か分かるのか?だとすれば、何故お前のような妖怪に俺の正体が分かる?」

 

 俺の質問を聞いているのかいないのか、ユーベは落とされた腕を拾って、まるで元は自分の物ではなかったかのように、気持ち悪がって指で持ち上げた。

 

「他人のものには興奮するんだけどなぁ……うわぁ、エグいな…」

 

 汚いものを触っているようだった。それを適当に投げ捨てる。繋がっていた腕の断面から赤黒い血が滴っているのだが、反対側の手をかざすと血が止まった。

 

「…それで、何故知っているか、ですね。良いでしょう。教えてあげれる所までは教えましょうか。」

 

 ユーベに嘘をつこうという意思は感じられなかった。しかし、念の為と『ディア』を使ってみたのだが、何故かノイズがかかり、それを覗き見ることが出来なかった。

 

「さて、まず……というか、全部そうなんですが、貴方の名前を知ったのは『黄泉』で知りました。」

「なに?つまりお前は…」

 

 ユーベは俺の言いたいことを悟ったように、話した。

 

「はい、死んでいます。そして、一時的に生き返りました。黄泉の入口が塞がっていたって、隙間がありますからねぇ。僕のような体を虫に変身できる者や、物を遠隔操作出来る者は出入りが出来るんですよ。勿論、黄泉の中と外では環境が違いすぎて、中にいる人にも悪影響が及ぶんです。出られる者は極わずか。」

 

 もしかすると、布都を操った妖怪も黄泉から来たのかもしれない。布都曰く、その妖怪も執拗に俺を殺すように仕向けていたらしい。そしてこいつも、黄泉から来た。

 しかし、須佐之男は違うだろう。しかし、アイツも俺のことを捜していたようだった。

 

「それで、なんで俺のことを知ってる。」

「ダメダメダメダメダメ。これ以上は教えられませんねぇ。」

「は?」

「これ以上話せば『あの人』に殺されてしまうのでね。」

 

 やはり『あの人』か。件の妖怪も、真実を話せば『あの人』とやらに殺されると言っていた。話から察するに、『あの人』が俺の命を狙う黒幕だろう。俺を殺せば、コイツらに何かしらの利益をもたらすのだろう。

 いや、こんなことを考えている場合ではない。早く、この屑を殺さねばならない。

 

「あ~あ、僕のもげた腕が視界に入るなぁ。潰そ。」

 

 そうすると、ユーベは生々しい音をたてながら転がった腕を足で思い切り潰した。そこには血が飛び散り、広範囲に広がっている。

 今までの敵の中で一番何がしたいのか分からず、狂気じみていた。コイツは生かしてはいけない。殺さなくてはならない。俺は拳を構える。

 

「『熱の細胞』。」

「おやおや、またそれですか。それ結構熱いんですよ。私のような妖怪じゃなければ一瞬で溶けているでしょう。」

「そりゃ結構。狙ってやってるんだよ。」

 

 俺の拳が赤く発光し、徐々に熱が増していく。それに比例し、赤い拳は白へと変色していく。

 

「全く…黄泉に帰す気ですか?」

「いい勘してるじゃあねぇか。」

「良いでしょう、かかってきてください。」

 

 思いきり地面を蹴る。今までで最速の速さ。奴の顔面を掴み、廃墟の壁に叩きつける。この屑の顔面から骨が見えるほど溶かしてやる。

 

「アアァァァアアアァアッ!!」

 

 ユーベはあまりの熱に顔を溶かしていく。しかし、ソイツは逃げもせず、俺の腕を掴んだ。そして、コイツはまたしても笑い飛ばした。

 

「捕まえたぁ!」

 

 文字通り顔を歪ませながら、俺の手の中でそう叫んだ。その瞬間、視界がグニャリと変形していく。吐き気がする。これは、コイツの呪いか?

 あまりの気持ちの悪さに、全身の力が抜ける。

 

「アッチィィィィィッ!」

「うッ...おぇ...」

「ハァ…ハァ…い、痛い。フフ…まぁ、いい。これでようやく術にかけれた。」

 

 爛れた皮膚を引き剥がし、筋肉が露呈した顔面を青娥たちに向ける。次は、二人を狙うらしい。

 

「神田零は呪いをかけられた。これで、もう脅威は去りました。次は、貴女達だ。」

 

 ユーベは、荒い息で二人に近づく。ゆっくり、ゆっくりと。まるでゾンビのように二人に迫る。

 しかし、その二人は何も焦らず、逃げようともしなかった。

 

「…いや、貴方は負けたようね。」

「は?」

「師匠の攻撃は続いている。」

「クク...ハッハッハ!何を言っているんですか!?零さんはここに倒れ込んで…え?」

 

 その姿は居ない。辺りを見ても居ない。俺の姿は、奴の目には映らなかった。慌てて俺の体を探す。

 

「ど、どこだ!?どこにいる!!」

「居るじゃあないの、貴方の近くにね。」

 

 ユーベは足を掴まれた。恐る恐る、下を見る。そこには、ダイヤモンドよりも硬い、青く輝く手が飛び散った血から出て、足を掴んでいた。

 

「なんだこれは!?」

「俺の手だよ。」

「何!?」

 

 俺は、まるでそこが深さのある泉のように、その血溜まりから身体を出した。ユーベの顔は、皮膚がなくなっていても分かるぐらい、驚きと恐怖で染まっていた。

 

「さっきお前、腕を潰しただろう?その時、血が飛び散った。その時思い付いたんだよ。『自分の細胞を分裂させ飛び散った血の中に潜り込む』ってね。」

「なんなんだ…貴方は!?私の呪いはどうしたんだ!?」

「俺は、細胞一つ一つが生きているんだ。全細胞を分裂させて、呪いという毒素が残った細胞を殺処分したんだ。新しい俺を創り、古い身体の俺を殺した。記憶だけを残してね。」

 

 自分でも、こんな狂気じみた方法はおかしいと思っている。しかし、狂気には狂気で対抗しなくてはならない。

 

「死んで償え。お前はこの世界に必要とされていない。」

「やめろ…」

「ダメだね。『熱の細胞』。」

 

 ユーベ=ナイトバグが溶けてゆく。体から出てきた油に火が付き、全身を火が覆う。その火達磨の足を引っ張り、暴れられないように廃墟の床に押さえつける。

 骨が見えても叫び続けていたが、息もできないそれは次第に静かになったいき、無様に死んだ。

 俺は手を放し、自分の細胞を集める。全てが終わると冷静さを取り戻していき、俺は芳香の存在を思い出す。

 

「…芳香。」

 

 芳香を見れば、付いていた虫はもう消えていた。当たり前だが、返事がない。死んでいる。元気であどけない芳香の瞳に輝きは宿っていなかった。

 

「…クソ!」

 

 俺は地面を殴る。何度も殴り、皮や肉が削れ骨が見えるまで殴り続けた。

 

「……零。」

「身近な人が死ぬのはこれで二度目だ。奴らは俺を狙っていた。俺が、芳香や屠自古に関わっていなければ死んでいなかった!」

「零、こっちを向きなさい。」

 

 青娥は静かに俺を呼ぶ。青娥の方に顔を向けると、彼女の目からは大粒の涙が零れていた。そんな彼女の手は、大きく振り上げられ、思い切り俺の頬を叩く。

 

「貴方のせいじゃない。全部自分のせいにしないで。大きい責任を一人で持ち込もうとしないで。貴方がその責任に押し潰されているのを見たくはないわ。私達が居るのよ。重い荷物を皆で持つように、大きい責任は皆で背負いましょう?」

 

 俺はその時、初めて泣いた。そんな俺を、青娥は強く抱きしめた。迷いなく、俺を抱きしめた。

 その光景に美鈴は驚いたが、視線を落とし、俺から視線を外す。

 

「安心して。芳香ちゃんは私が何とかするわ。」

 

 後悔の念を残して、俺達はその場を去った。

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