満月は光る Ⅰ 『竹取』
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。名をば、さぬきの造となむいひける。
その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。
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青娥、芳香、美鈴が旅に同行するようになってから、幾年の月日が経った。四人で旅をしてきて、元々名の知れた旅人だったがもっと有名になった。俺に関する神話さえ出てしまったぐらいなのだから。
しかし、これまで本当に色々あった。神に喧嘩売ったり、諏訪の地に戻ったり、旅先で困っている人を助けたりした。
そんな中、最近では都に美しい姫様が居るとか、いないとか。なんとも、貴族のアプローチを無理難題を押し付けて求婚を拒絶すると言う、中々肝の座った者のようだ。名は何だっけな…そうだ、確か『かぐや姫』だ。
無論、野次馬の俺は見に行く。四人も賛成だった。しかし、現実は甘くない。誰もが注目する話題のかぐや姫には、案の定会えないようだ。
「あ~あ、やっぱりダメね…」
「そうだろうよ。今、貴族の全員な大注目するぐらい美人の姫らしいしな。そうそう会わせてはくれないだろ。」
青娥のガッカリした肩に手を置く。分かりきってはいたものの、どうしても気になるらしい。
「じゃあ仕方ありませんね。食料を調達して旅を続けましょうか。」
「え、なんで?」
我が弟子は、何故か諦めて旅を続けようとしている。俺と青娥はそんな美鈴に首を傾げる。
「え?いや、だって会えないんじゃ仕方が…まさか…?」
「屋敷に忍び込むだろ?」
「うわ、やっぱりですか。」
美鈴は俺たちに呆れたかのような視線をぶつける。俺の弟子であるはずなのだが、妙に真面目で困る。
すると、芳香は俺の肩に顎を置いて曲がらない腕を身体に回す。
「レイ、なにするんだー?」
「不法侵入。」
「そっかー。」
「ハァ…もう慣れましたよ。分かりました、今日の夜ですね。」
「お、美鈴もやっと分かってきたな。そうでなくちゃあな。」
深く溜め息をつき、「やれやれ」と諦めた声。俺との旅でようやく俺の性格が分かってきたか。
さて、そうと決まれば夜まで時間でも潰そう。今日は晴れ。このまま晴れれば月が見れるかもしれない。でも今日は新月だったか?それなら月明かりがないため、俺たちの姿がバレにくい。丁度良い。
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予想通り、星が見えるのにも関わらず月の姿は無かった。俺たちは闇に紛れて、噂のかぐや姫が住むという屋敷が囲われた塀の外にいた。
「零さん、本当に行くんですか?」
「当たり前さ。もう入り口は目の前だぜ?」
「はぁ…」
「いいか、芳香。声を出すなよ?」
芳香は口を真っ直ぐに閉じ、首を縦に振っている。大丈夫のようだ。
さて、『ナビゲーター』で確認した見張りは、正面に二人、池に三人、かぐやの部屋の前には……十二人!?幾らなんでもこれは多すぎる。過保護と言うか、何かあったのか?
そして今気がついたのだが、かぐや姫の霊力に、なにか懐かしさを感じる。なんだろうか。まさか……いや、そんなはずは…
いや、今はいい。さて、まずどう中に入るかだ。塀を越えて入るか…そうしよう。比較的かぐや姫の部屋に近い所から潜入しよう。
「よし、此方だ。」
三人を引き連れて、目的の位置まで来た。塀を挟んだ先には池がある。そこの見張り三人はどうしようか。池があるならば、それを利用してやろう。
俺は地面に手をつける。十分に湿っている。
「『水威矢』。」
俺は水の弓矢を作った。これを使って、今から怪奇現象を起こす。俺は落下地点を計算し、見張りの目の前に落ちるように水威矢を空に射った。地面に落下すると、それはピチャッと音を立て、跳ねた水が見張りにかかる。
「うわ、濡れちまった。なんだ?誰か落っこちたかー?」
そういい、見張りの男は手を差し伸べた。その差し出された手を何かがしっかりと掴む。
その辺で、他の見張り二人がその男に駆け寄る。
「なにやってんだよ、なにかあったか?」
「いや、誰か池に落ちたはずなんだが…」
「俺ら三人だけで見張っていたろ?て言うか、そっちに池はねえよ。お前の真後ろじゃあねぇか。寝ぼけてんのか?」
池の見張りは三人。しかし、その全員がその場にいる。ならば、この捕まっている手は一体何なのだろう。見張りは声を上ずらせた。
「そ、そんなはずは…だってほら、誰かに手を掴まれてるんだぞ?見えねえな…ちょいと灯をくれ。」
「ホラよ。」
「おお、ありが…!?」
彼の手を掴んでいたのは、地面から飛び出した半透明の手だった。水威矢を『遠隔操作』で手の形に変えただけの即席幽霊だが、何も知らない奴らからすれば立派な幽霊だろう。
「ば、化けもんだ!」
「逃げろォ!」
すたこらさっさと逃げる見張り。そのザルな警備に鼻で笑いながらも、人がいないその内に侵入する。四人全員が塀を飛び越えると、すぐさま草に紛れる。
「付いてこい。」
屈みながら進んでいたが、後ろを振り返ると芳香は関節を曲曲げられずに飛び跳ねながら付いてきているため、ほぼ意味はないだろう。俺はツッコミたい気持ちを抑えて立ち上がり、真顔で移動した。
兎も角、壁に身を隠しながらも部屋が見える所まで辿り着いた。この大量の見張りはどうするべきか。思考していると、足元に木の枝が落ちていた。それを拾い上げ『熱の細胞』をつける。それを『遠隔操作』で浮かせると完成。なんちゃって火の玉。
それを飛ばしてみると、見張り共は「う、うわぁぁぁぁぁ!?」とか言ってどっかに行く。
結構アッサリだな。等と思っていると、部屋の戸が開いた。そこにいたのは……
「誰かいるの?」
美しい、きれいな女性がいた。