「連れ出せって言われてもな。」
「お願いします!」
輝夜はその場に正座し、床に手を着いて懇願してきた。想像もしていなかった展開になってきた。
「取り合えず、その敬語やめてくれ。」
「あ、うん…」
連れ出せといっても、一体なにから連れ出せば良いのか。この屋敷からか、この都からか。そもそも、なぜ連れ出してほしいと思っているのか。これらをハッキリさせなくてはならない。
「なぜ連れ出してほしいんだ?」
輝夜はその質問に答えづらそうな表情を見せつつも、ゆっくりと口を開いた。
「私は、不老不死の薬を飲んだの。」
「不老不死!?」
後ろにいる美鈴や青娥は目を大きく見開いて驚く。俺は静かに思考しながら、輝夜の真剣な表情に目をやった。
不老不死。老いることも死ぬこともない薬。薬となると、恐らく永琳が作ったのだろう。
「薬は『
「八意思兼神?」
「あ、永琳のことよ。」
「あいつ、神になったのか。」
「えぇ、知恵を司る神にね。」
あいつにピッタリの神だ。
永琳は今でも研究はしてるだろうから、もうあいつの方が知恵の量は上だろう。前までは教えたりしていたが、恐らく次に会った時には逆に教えられる側になる。
「それで、その薬を飲んだからなんだっていうんだ?」
「重罪なのよ。それを飲むのも、作るのも。」
「永琳は何故創ったんだ。」
「そ、それは………」
輝夜は今度こそ口を閉じた。これは、本人に聞くしかないのだろう。俺は、目を閉じて軽く息を吐く。
「重罪か。それで、地上に逃げてきたということか?」
「いえ、それが罰よ。」
「どういう事だ?」
「地上で暮らすことが罰なの。月では、地上は穢れた世界っていう認識をしているのよ。」
それこそ、俺が永琳たちを守るために妖怪を核爆弾で大量に殺したあの事件が原因だ。放射能、妖怪の血、怨念、それらがこの地球上にばらまかれ、この星は穢れてしまった。
逆に、月にはそれが無いから、永琳達がまだ生きている。それでは、俺は何故生きているのか。今まで不老と言っていたが、老いない薬を飲んだわけでもないのに、何故穢れたこの地で生きている?寿命はなぜ来ないのか。脳に100%の負担がかかれば早くて一日で死ぬはずだ。
全ては、俺が元々何だったのかが分かればいい。何者なのか、今は考えても仕方がない。
「…その罰も終わりが近いから、月人が迎えに来る。それらから連れ出せと言っている。そういうことか?」
「えぇ、理解が早くて助かるわ。この星が好きになったから、帰りたくないの。でも、男に言い寄られるのはもうコリゴリ。どこか静かな場所で暮らしたいの。」
輝夜は心の底からそう願っているようだった。月のない空を恨めしそうに睨む。俺のいない間に、一体何があったのか。
「良いぜ。月人は俺が何とかしよう。きっと顔見知りも居るだろうよ。」
「ありがとう!」
恨めしそうな目からは打って代わり、今日見せた表情で一番輝いていた。その名にふさわしい笑顔だった。
「本当に、零はお人好しね。」
「いや、そんなことねぇよ。」
青娥の褒め言葉には素直に感謝しつつも、それを否定する。これは俺の為だ。輝夜はついでに、という考えだ。
永琳は最高の役職に就いているはず。そして、その不老不死の薬を作ったのも永琳だ。責任感からか、別の思惑か、どちらにせよ永琳は必ず輝夜を迎えに来る。
「さて、話が変わるが、なんで俺が月でそんなに有名なんだ?」
「だって、素敵じゃない。恋人と仕事仲間、そして暮らしていた人々を救うべく、自らの命が危険にさらされても戦うなんて。」
「お、おぉ…」
俺のしてきたことをまるで英雄の話をしているかのように語る輝夜に、俺は反応しづらかった。どうすれば良いのか。
得体の知れない困惑に悩んでいると、美鈴が顔を覗き込んできた。
「照れてます?」
「な…!そんなわけないだろう!」
「露骨ね。」
今までの反撃のつもりか、青娥は面白がるように言い放った。輝夜はそんな光景に苦笑いをしている。
俺は大きく咳払いをし、話題を変える。
「何故、俺が神田零と信じた?」
「どう言うこと?」
「そのままの意味だ。もしかしたら、嘘をついているかもしれないじゃないか。」
「まぁ、そうね。」
意外にも、アッサリ肯定した。
「では、何故?」
「そうね…力かしら。貴方の言霊の力と言うか。」
言霊。俺はそれに関しては一切分からないのだが、もしかしたら永琳が研究で新たに発見した力の一種なのだろうか。
「貴方は無意識でしょうけど、言霊に霊力や神力がこもってる。普通の人間は神力は持ってないし、そもそも言霊に霊力をこもらせるのは困難。出来るようになっても、一言一言に膨大な霊力を吹き込まなきゃならない。なのに、貴方はそれを意識もせずに、まるで呼吸や瞬きのように平然とやるの。そんなことをできるのは月人の上級の人達ぐらいしか出来ないのよ。そこに神力も入っているから、もう『
意識していないから気が付かなかった。普通ならばありえないのだろうが、俺は溢れるほどそれらを持ち合わせている。いや、文字通り溢れたのだろう。溢れたものが言葉に付随したのだろう。
「へぇ…今まで気が付かなかった。」
「だから、師匠が言ったことを信じちゃうんですね。」
後ろの面々も納得するように頷いている。
「とりあえず、わかった。それで、迎えはいつ来るんだ?」
「次の満月の時よ。」
「もうすぐじゃねぇか。」
今夜は新月だ。それから満月の時まで2週間ほどだ。
「しかしそうだな…迎えが来る丁度、俺はお前を連れ出す。」
「今じゃダメなの?」
「輝夜が月に帰ったと言うことにして逃げる。そうすれば男から言い寄られることはないだろう?」
我ながら良い考えだ。輝夜もそれに納得してくれたらしい。
「決定だな。」
それまで、都で観光か。楽しみだ、どう過ごそうか。美味しい食べ物や綺麗な街並みをゆっくり見ていくとしよう。
「あなた達がいつでもここに入れるように言っておくわ。」
「おう、分かった。それじゃ、またな。」
そう言って立ち上がり、3人を俺に捕まるように促し、『瞬間移動』で塀の外へと移動をした。すると、丁度見張りが戻ってきた。何をしてたの?と輝夜が言うと、何も答えなかったので心の中で笑ってやった。