「このお菓子、美味しいわねぇ。」
「そうですね!」
俺達は満月の夜の日まで時間が有り余っているため、都で観光をしている。こうして都に並ぶ木造建築たちを眺めていると、ほんの僅かな時でよくここまで築き上げたなと人間の力に感動を覚える。氷河期を含め、俺の放った核爆弾で二回滅んだにも拘らず、こうして美味しいもんはあるし、風情ある建物もある。
「はは、食い急ぐな。喉を詰まらせたら大変だからな。」
「はーい。うぐッ!?」
「言わんこっちゃない…」
喉を詰まらせる美鈴に呆れながらも笑ってしまう。青娥もつられて笑い、詰まらせる苦しみを知らない芳香は不思議そうにしながらお菓子を口に放り込んだ。
こういう一時を生きることに幸せを感じる。普通が一番だ。
「ゴホッゴホッ…す、すいません。」
「気を付けろよ。と言うか今思ったが、マナー的にどうなのさ。」
「ハイ、スミマセン。」
「青蛾を見てみろ。大人しく食ってるぞ?」
「うう…」
ちなみに、上手く隠していたが青娥は喉に詰まらせかけていたことを俺は見逃してはいなかった。『ディア』をしてみれば俺の言葉に冷や汗をかいていることが分かる。これだから青娥はを弄るのは止められない。
そんな思考に頬を緩めていると、一人少女が話しかけてきた。安い着物を着た少女。
「ねぇ、あんた。」
「ん?どうした。すまないが、道案内は出来ないぞ。俺、旅人だから。」
「知ってる。」
「そうか。じゃあ何用かな?」
「貴方、神田零でしょ。」
やはり、有名になってしまっているようだ。それもそうか、元々旅人としても名を知られていたのに、加えて輝夜は俺たちの屋敷への入出を許可したわけだ。フラれた貴族どものプライドは更にズタズタだろう。
「そうだ。」
「依頼とか、受けたりしてるんでしょ?」
「あぁ、依頼か。なんだ、妖怪退治か?」
旅には金が必要だ。そう言うわけで、このように依頼を受けながら旅をしていることが多い。普通は町や都からの依頼が多いのだが、このように個人的に、そして少女からの依頼というのは珍しい。
俺は少女の方に体を向ける。
「依頼の内容は『かぐや姫を殺してほしい』の。」
「え?何を…」
少女からの予想だにしない依頼内容に、隣でお菓子を楽しんでいた美鈴は驚きの声を漏らす。
「理由は?」
「父に恥をかかせたから。」
もしや、この娘は貴族の娘だろうか。見た目からは考えられなかったが、内容的にそうなのだろう。輝夜に無理難題を押し付けられて、諦めさせられた貴族の中の一人がこの少女の父だ。
「どうやって、恥をかかせられた?」
「かぐや姫に無理難題を求められた。父の難題は『蓬莱の玉の枝』だった。そんな難題は無理だから職人に造らせたの。持っていってこれで嫁にできると思ったときに、職人が押し掛けてきた。父は大きな恥を負った。」
なんとも間抜けな話だ。
「それは、輝夜は悪くないな。」
「悪いだろ!あの女が無理難題を求めなければ、欲にまみれた要求をしたから、父は恥を負ったんだ!」
なるほどな。何やら勘違いをしているらしい。少女はこちらを睨み、歯をガチガチさせている。
俺は背筋を伸ばし、真剣な表情でその少女を見つめる。
「なぁ。」
「なんだ!」
「俺と結婚しよう。」
「…え?」
瞬間、その一辺の時間が止まった。俺以外の…俺と芳香以外の3人はその言葉を理解するのに時間を十分にかけた。そして理解をすると、今度は少女の顔がだんだん赤くなってきた。予想通りに面白い反応だ。
「え、あ、いや…は!?」
「落ち着け。」
前言撤回。予想以上の反応だった。
「まぁ、そう言うことだな。」
「どういうことですか!?」
「そうよ!ちゃんと説明して!?」
過去一に動揺している二人を見て、流石に込み上げる笑いを抑えることが出来なかった。
「皆、顔赤いぞー。タコみたーい」
芳香の言葉には激しく同意をしておこう。
俺は大きく笑いながらも少女に視線を戻し、伝えたいことを伝える。
「好きでもない男に結婚してくれなんて言われたら、断るだろう?」
「ま、まぁ…」
「だから、無理難題を押し付けた。結婚しない為にな。」
少女はどうやら欲望から無理難題を押し付けたのだと勘違いをしているようだった。しかし、口だけでは理解してくれない可能性もあるため、こうして実践したのだ。半分は反応を見てみたいという俺の私益のためだが。
「…普通に断れば良かったじゃあないか。」
「貴族は無駄にプライドが高いからな。そのプライドを折らないと絶対諦めない訳さ。」
少女は黙り込んではいるものの、何も言おうとしない辺り、納得してくれたのだろう。
「よって、依頼は承れない。」
「…うん。」
「一応、名前を聞いておこうか。」
「『藤原妹紅』だ。」
藤原か。結構有名じゃあないか。輝夜もそんな貴族に、結構度胸があるもんだな。
「さて、さっきから気になっていることを聞いていいかな?」
「答えられるものなら。」
「貴族のあんたがそんな服装でこんな町中を歩いて、一体どうしたんだ?まさか、俺に依頼をする為とかじゃあないよな。」
妹紅は、無言のまま後ろを振り返り、去っていった。彼女にとっての答えらる質問ではなかったようだ。
俺は腰掛けている椅子に深く座り直し、お菓子を口に入れた。
「まぁ、今の話の限りじゃあ藤原の奴も悪い訳じゃあないな。どっちも悪くない。」
「それにしても、驚きましたよ。いきなり、結婚してくれなんて。」
「私、言われたことなんて一度もないのに。」
「お前には絶対言わない。」
再び、よく見る光景に戻った。我ながら切り替えが早いと思う。そして、安定の芳香は無限の胃袋にお菓子を詰めていた。