東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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満月は光る Ⅶ 『満月』

 時は来た。月は満ち、夜は闇。見えるのは幾つもの行灯からの火。風はなく、辺りには弓矢を持った兵士や輝夜の部屋を護る兵士が居る。輝夜は渡さんと、輝夜の養父である讃岐造(さぬきのみやつこ)と、同じく養母の(おうな)は固い表情を浮かべていた。

 

「必ず返り討ちじゃ。月になど行かせん。」

「良いかい。ここから出るんじゃないよ。」

「…はい。」

 

 造と嫗は、にっこり笑うとそこから出ていった。1人ぽつんと部屋に残された私は、ただ静かに座っていた。

 

「来るかな。零と、永琳。」

 

 帝を色目で騙し、富士の山に不死の薬を授けるという体で処理したのだが、月人からそれを察せられないかが重要だ。

 

「来たぞッ!」

 

 外で待機している兵士の怒声にも似た呼びかけが聞こえた。ついに始まってしまったと、抑えていた恐怖が一気に押し寄せ、私は体を縮めて泣きそうな顔を隠すように埋めた。

 

____________________________________________

 

「射てぇッ!」

 

 先頭にいる兵士の言葉を切っ掛けに、雨のような矢が上向きに射たれる。だが、それは効かない。月の兎の妙な波長により兵士たちは気絶するように次々と倒れていく。

 

「良いぞレイセン。もっとやるんだ。」

「はい。」

 

 月の兎の赤い瞳により、ほぼ全ての兵士は倒れる。それに焦るように讃岐造は叫び始める。

 

「おい、お前ら、起きろ!目を覚ませ!」

 

 しかし、その声に応じる兵士はとうとういなくなる。すると、後ろの戸が開いた。開けたのは、輝夜だった。

 

「かぐや!?部屋から出てはなりません!」

「体が勝手に動くんです…」

 

 輝夜は苦い表情をしながら、迎えに来た月読命のところまで行った。その後ろには、永琳がいた。

 月読は咳払いして、輝夜を馬鹿にするようにニヤつきながら話しかける。

 

「これでわかったろう、汝の罪の重さを。穢れというのは辛いだろう?」

「…いいえ。」

「なに?」

 

 月読命の予想できなかった応えに、眉を顰める。そんな月読に、輝夜は許し難い理由を言い放った。

 

「地上よりもっと穢れているあなたの心が有る限り、ここは楽しい。」

「なんだと?我を侮辱しようというのか!」

 

 怒りに、顔を真っ赤にして歪ませている。しかし、なにかを思い出したかのように落ち着く。

 

「まぁ、いい。帰ったら人体実験をするつもりだ。お前を使ってな。」

「それが穢れた心だと言っているのです。」

「チッ。」

 

 月読は、腹立たせて輝夜を睨んでいた。反して、輝夜は目を閉じ、そこに正座し、なにか余裕を持っていた。いや、余裕を持っているような態度をしながら押しつぶされるような不安に耐えているのだろう。

 その後ろで、讃岐造が月読に向かって叫ぶ。

 

「輝夜を返せ!」

「返せ?逆だろう。返してもらうのはこっちだ。よし、見えた。今までずっと送っていた宝石や宝が欲しいからそう言っているのだろう?分かった分かった。これからも送ろう。」

 

 その言葉に、讃岐造は何も言わなくなった。それを見た嫗は居ても立ってもいられずに、月読に頭を下げて懇願する。

 

「輝夜を返して下さい。お願いします、私の娘なのです…」

「娘?フフ…貴女のではないですよ。血が繋がってないのになにを言っているのです?」

「血は繋がってない。そうです。ですが、それでも家族です。」

「お母様…」

 

 嫗のそんな娘想いの美しい姿を、月読は嘲笑うように見下す。

 

「フッ、くだらない。さあ、行こう。永琳よ。…永琳?」

 

 永琳は、そこに立ったまま、俯いて何もしなかった。どうやら、永琳は行動を移そうとしているらしい。月読が永琳に気を取られている今が、その時だ。

 

「うぐッ!?」

 

 一匹の兎が苦しんだ。それを最初に、ある程度雑魚の者はどんどん苦しむ。何故、雑魚だけか。水の弓矢が文字通り雨のように飛んできたからだ。強いものは回避した。

 

「なんだこれは……?」

 

 百も居た兎は、一羽しか立っていない。その他に強者が二人と、月読と永琳、輝夜の三人の計六人だけが残った。

レイセンと呼ばれた者。

 

「やあ、輝夜。この前に会ったきりだったな。」

 

 俺の出番だ。後ろに青娥立ちを引連れて、俺らは奴らの目の前に立った。

 

「お、お前は…神田零か。」

「え…?」

 

 月読が呟いたその名を聞いた周りの者たちは驚いた。なにせ、死んだと思われた人物がノコノコと水の弓矢を挨拶がわりに射ってきたのだから。

 

「噂は本当だったとは…神田零よ。私と来ないか?君は良い戦力になる。」

「断るよ。なにせ、この地より穢れた心のあんたに従うのは、地獄の他ない。」

「なんだと?」

「もしかして、輝夜がさっき言い放った言葉は挑発だと思ったのか?違う、本心さ。」

 

 明らかに顔を赤くして、睨む月読命。神々は無駄にプライドが高いから扱い易い。

 

「永琳…やれ。」

「……」

 

 永琳は持っていた弓矢を、敵に向けた。そして、射った。()()()()()のだ。

 

「何を…している?」

「私は、敵に矢を射っただけです。」

 

 月読は、永琳が射った矢を空中で掴んでいる。永琳は恋人を選んだ。

 

「久しぶり、永琳。」

「久しぶりね…零。」

 

 永琳は涙を浮かべていた。安心したように、笑っていた。そうか、永琳だけは俺が生きていると信じてくれていたのか。彼女のみは驚かず、こうやって笑っていた。

 しかし、月読は空気は読まずに剣を永琳の首元に向けた。

 

「貴様、私を裏切って生きていられると思うなよッ!」

「五月蝿い。」

「なッ!?ぐふッ!?」

 

 俺は『瞬間移動』で奴の背後に周り、背中から青く輝く右手を腹部に貫通させる。

 

「生きるよ。なんとしてもな。愛した者と一緒に生きる。」

「ふ……ざけ…る……なよ…!」

「いいえ、ふざけてなどおりません。貴方が邪魔だから、貴方を殺します。」

 

 月読はその場に倒れる。圧倒的の強さを誇っていた月読が、呆気なく負けた。その姿に、一拍置いて弓矢を避けた強者二人がハッとして駆け寄る。

 

「月読様!」

「大丈夫さ、神は信仰が有る限り死なない。」

 

 俺は亜空間を開け、永琳と輝夜を連れて、移動しようとする。

 

「待て。」

 

 二人の女性が、俺を呼び止めた。

 

「なんだ?」

「私達と勝負をしなさい。」

 

 その二人それぞれ刀と扇子を構えている。その姿に、永琳は静かに辞めるように促す。

 

「依姫、もういいわよ。貴女に教えることはなにもないわ。」

 

 しかし、依姫と呼ばれた女性は、剣を仕舞うことはしなかった。俺をジッと見据えている。

 

「皆、先に行っててくれ。」

「ですが、零さん…」

「久しぶりに動きたい。月読が呆気無さ過ぎてつまらなかった。」

 

 その言葉に、永琳は思わず笑う。

 

「フフ…後で、今までの話を聞かせてね。」

「いいぜ、じゃあまた後でだ。」

 

 亜空間を閉じた。

 

「我が名は『綿月依姫』ッ!」

「我が名は『綿月豊姫』。」

「え、あ、『レイセン』です!」

「神田零だ。」

 

 そう言うと、三人は構えた。

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