永琳の部下らしき豊姫と依姫、そして俺の『水威矢』を唯一避けることが出来た月の兎のレイセンに戦闘を申し込まれた。永琳の影響があるのか、豊姫と依姫は敵対とは違い、尊敬のような眼差しがあってこそばゆい。
「それにしても、月の民の科学は着々と進化しているようだな。」
「はい、神田様が居なかったらここまでは進んでいなかったはずです。」
「神田様は、止めてくれないか?」
「え、ですが…」
「やりにくいんだよ。」
豊姫と依姫は、少し考えてから顔をこちらに向けた。
「断ります。」
「同じく。」
「えぇ、なんで?」
予想に反する反応に戸惑いが隠せない。しかし、本人たちもどうやら真剣に応えているようで、あまり無闇に否定的な態度は取れない。
「私達は、あなたに憧れて部隊に入ったのです。」
「目指す人物に無礼があってはなりませんわ。」
「……やれやれ。」
永琳の部下にしては堅すぎる。仮にも月の神である月読を倒した敵なのだが、この態度を見るに月の神は月の住人に慕われていなかったらしい。
「俺は、月読を倒して、永琳を拐って、堂々と悪人役になった俺を憧れているのか?」
「はい。」
なんの迷いもなく、二人は頷いた。後ろで微妙な顔をしている兎の彼女が、本来正解だろう。仲間を大量に倒されたされたからな。
「じゃあ、目指されている者として、アドバイスをやろう。」
その言葉に二人は、顔をパァっと輝かせた。幸い、師匠のような態度になるのはもう慣れている。
「はい!」
心地よい返事には感心する。
「君はどうする。」
「え…あ、はい。」
自分よりも位の高い豊姫と依姫がノリ気な手前、拒絶できないのだろう。気をつかって訊いたのは失敗だったかもしれない。レイセンに心の中で謝る。
さて、少し目的とズレたが、アドバイスも兼ねての戦闘だったら良いだろう。
「取り合えず、来い。攻撃をしろ。お前達の実力を見る。」
三人はそれぞれ違う構え方をする。最初に攻撃は、依姫だ。しかし、彼女は刀を地面に突き刺すという不思議な行動をとった。
「…?」
「『祇園様の力』。」
刹那、俺の周囲には無数の刀が地面から生え、鋭い刃がこちらを向いた。
「なるほど。下手には動けんな。」
「よし。」
「だがしかし…」
俺はその無数の刃に構わず前に進む。依姫は慌てながら俺に静止するよう呼びかける。
「う、動いてはなりません!」
刃がこちらを刺そうとしてくる。しかし、瞬間で右手に硬く青いモノを生やし、それを全身に纏った。
「これは…!?」
刃を弾いたのだ。
「まぁ、地上の人達からすりゃ人溜まりもない。だが、硬化系の妖怪等だったら効かない。いや、技名から察するに、祇園の力を借りているから効かないこともないだろうが、望ましい結果はないだろうな。」
依姫は目を大きく開かせて、驚いている。開いた口が塞がらないという表現にピッタリな表情だ。
「考えろ、どう倒すかをな。」
依姫はハッとして、俺の言葉から思考を巡らす。暫くの時間をかけ、やっと口を開いた。
「柔らかい部分を、刺す?」
「そうだ。たぶん共通して柔らかいのは目だ。」
「目、ですか。」
「目には水分がたくさんある。柔らかいはずだ。」
全身の青いモノを、一瞬で消した。
「あらゆる攻撃にも言えるものだが、相手の弱点を狙う事が重要だ。と言ってもどうすりゃいいか分からないだろう。だったら、『弱者に共通するモノを探せ』。」
依姫は納得したような表情をして、静かにおれに礼をする。そして豊姫に譲るようにその場から退いた。
豊姫が前に出ると、静かに扇子を広げて空を扇いだ。
「お願いします。」
武器が、扇子?珍しいその武器に興味が湧き、注意深くそれを観察する。一体どのような攻撃を仕掛けてくるのだろうか。
すると、豊姫の武器に、依姫は慌てるような表情を見せる。
「お姉様!?」
「私は、信じているからこそ、やるのです。『消えたら』それまでの人だった。」
「…?」
なにをやる気なのだろつかと考えていると、瞬間的に距離を詰めて、俺に扇子の風をあびせた。
「…残念です。」
「……」
神田零が、その場から消えた。
「この扇子は森を素粒子レベルに浄化させることもできる。貴方を浄化させました。」
失望感。それしかないだろう。失望感と言うのは残酷なもので、人の向上心の華を削ぎ落とす。だがもし、華を削ぎ落としたフリをしていて、それを本人達が知ったら、華はさっきよりももっと成長するだろう。
「つまり、こういうことだ。」
「…参りました。」
何があったか、順を追って説明しよう。
まず、扇子を観察していくとそれの特徴が見えたのだ。そもそも広げた時点で風は起こる。空気中の水蒸気が
何故、俺が消えたか。『遠隔操作』を使って水蒸気を纏ったのだ。水蒸気を纏い、光の反射で消えたように見せた。ただそれだけ。
そして、彼女の首元に青い右手を向けている。
「そういうことでしたか。」
「そう。君は扇子の扱いを注意した方がいい。ただでさえ珍しい武器なのだから、馬鹿じゃない限り警戒するぞ。とは言え、空気中の水蒸気が浄化するのを感じれるのなんて、俺以外居ないがな。」
二人はなかなか強い。俺は右手を下ろし、豊姫の拘束を解く。豊姫は満足気な表情で礼をした。
最後にレイセンだ。レイセンは前に出るや否や、いきなり攻撃を仕掛けてきた。とは言っても、その攻撃というのはその赤い瞳による狂気の波長。
「…クッ!?」
酷い目眩。酷い吐き気。酷い怠さ。
全てが俺を襲う。この感覚は、ユーベ=ナイトバグの能力に似てた。
「レ、レイセンッ!止めなさい!私達にまで…」
「…仲間の仇だ。」
やはりか。仲間を殺されたと勘違いしているらしい。レイセンは、俺に人差し指を向ける。そして、その指から何かを放つ。
「うぐッ!?」
それは、俺の心臓を貫いていた。
なんだこの感覚は?もしかしたら、俺の弱点なのかもしれない。この、吐き気のする感覚。トラウマのような、何かが俺を襲う。
なんだ、この、見たことのない光景は?
頭痛が酷い。寒い。意識の朦朧とした中、女性が見えた。それは、豊姫でも依姫もでレイセンでもなく、ましてや、知った顔ではない。だが、どこかで見た顔。
あぁ、蛆虫が穴という穴、毛穴からも湧いて出てくる。全身を蝕んでいる。
なにか、女性は喋っている。生憎、読唇術はない。ただ、何となく言っていることは分かる。俺は…
いつの間にか吐き気もなく、頭痛もなく、心臓には穴も空いていない。レイセンが狂気の瞳から恐怖の瞳へと変わっていた。俺に対する恐怖だろう。
「……フフフ。」
「神田…様?」
思わず笑ってしまう。何かも分からない女性から人間じゃないと言われただけ、にも拘らずこの悪寒と絶望はなんだ?
薄々は気付いていた。脳を100%使う?馬鹿馬鹿しい。そんなわけない。俺は誰だ?俺は誰だ?おれはだれだ?オレハダレダ?俺波誰打?俺ハ誰ダ?
おれ スペース エンター は エンター だれ スペース エンター だ エンター はてな スペース スペース エンター
エラー エラー エラー
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「私の敗けです。やっぱり御強いですね。」
俺は一体何をしていた?気付けば俺はレイセンに跨って殴り掛かるような姿勢をとっていた。俺は慌ててその身体を退ける。
「神田様が怒るのも無理ないわ。反省しなさい。幾ら仲間の仇とはいえ。」
「いや、俺も悪かった。無慈悲に君の仲間を攻撃してしまって。」
ダメだ。いくら脳を巡らせても分からない。記憶が飛んでいる。
「まぁ、兎たちは死んでないがな。」
「え!?」
「水の衝撃で気絶させただけさ。時期に目も覚める。」
須佐之男の時のような威力は、流石にここでは出さない。仮にも永琳が世話になった者たちだ。
「なんだぁ…なら最初からいってくださいよぉ~。」
「うむ、すまないな。」
予想外のことがあったが、無事に終わった。久しぶりに面白い戦闘ができた気がした。
しかし、レイセンの幻覚で見たあの女性は一体何だったのだろうか。見たことは無いはずなのだが、なぜだか知っているような気がしてならない。今は、考えても分からないだろうが。
「そろそろ、俺は永琳に会いに行く。じゃあな、また会うことがあればその時はよろしくな。」
「はい、ありがとうございました!」
俺は、亜空間を開き三人に、永琳のいる場所へと向かった。