東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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玉の緒の刀
玉の緒の刀 Ⅰ 『天狗』


 小鳥の声が聞こえる。木々の声も聞こえる。それに相反して遠くから聞こえる、さざめいた笑い声達。人がいるのか、それとも妖怪か。

 俺達は今、山にいる。旅には迷うことが多い。いや、『ナビゲーター』を使えばいいのだが、このように迷うと強き者共と出会うことが多い。だから、声のする方へと進む。

 

「近くですね。」

「うむ、約一里程だろうな。」

 

 後ろの青蛾は疲れ果てたような顔をしているが、関係なしに進む。暫く休憩はとっていない。あるのは、睡眠だけだ。

 ある程度歩いていくと、その気配が近くなってきた。この気配は妖怪だろう。どうやらあちらも俺たちの存在に気が付いているらしい。

 

「待て、そこの旅人。」

 

 声の方に目を向けると、顰めっ面な烏天狗が、木の枝の上に立っていた。

 

「何だ?」

「ここは通してはやれん。引き返せ。」

 

 そうもいかない。空は赤く染っており、今引き返せば青娥の足は石と化してしまうだろう。流石に休ませてやりたい。

 

「もう、日も傾いてきている。泊まらせてはくれないだろうか。」

「…待っていろ。」

 

 その烏天狗は、指笛をならし烏を呼ぶ。その烏になにかを呟いて、放した。飛んだ方向は先程から声のする方。

 

「確認をしている。暫し待っておれ。」

「休憩!?足を休めて良いの!?」

「あぁ、良いぞ。」

「ヤッタァァァ!」

 

 諸手を上に広げ、最高の笑顔で叫ぶ。不覚にも可愛いと思った。俺や美鈴も適当な石の上に座り、芳香は足を伸ばして地面に座った。

 時は経ち、先程の烏が戻ってきた。その烏は手紙を口に加えていた。その手紙を天狗が読み、暫くすると俺たちの方を見た。表情は相変わらずの顰めっ面だ。

 

「入れ。許可を得た。この紙を持っていろ許可証の代わりだ。」

「礼を言う。」

「その代わり、鞍馬様に会いに行け。貴様に話があるらしい。」

「俺にか?その鞍馬って奴がか。」

「鞍馬様は、貴様らが来るのを予知していたらしい。」

「予知だと?」

 

 何やら面白そうじゃあないか。予知の能力は俺も持ち合わせていないため、実に興味深い。会って色々と話してみたいものだ。

 それに、天狗も中々強いはず。美鈴の練習相手になるかもしれん。

 

「ふむ、分かった。行こう。」

 

 俺たちが腰を持ち上げ、その声の方向へと進む。

 

____________________________________________

 

 辿り着いたそこは、天狗の住まう小さな都のような場所で、その建築法や食べ物から見るに独自の文化が根ずいているようだ。

 その中心まで歩くと大きな寺が鎮座しており、厳かな雰囲気に感動を覚える。案内をしてくれた烏天狗が寺の入口の前で止まり、中にいる誰かに向かって声を張る。

 

「鞍馬様、例の旅人が。」

「入れ。」

 

 戸が開く。すると見えたのは、妖力の豊富な天狗、幼くあどけない少女の烏天狗、明らかな殺気を放つ青年がいた。その青年はどうやら人間のよう。

 

「よう来たのう。ワシャ鞍馬と言う。まぁ、とりあえず座れ。」

「俺になにか用があるのか?」

 

 促された畳の上に座り、彼に目的を問う。

 

「お主、神田零じゃろ?」

「そうだ。門番が言うに、予知をしていたそうだな?」

「カッカッカ、本当に来るとは思うておらんかったがな。」

 

 鞍馬は心底愉快そうに笑う。部屋に色々な感情が入り乱れ、なんとも混沌とした空間だ。思わず苦笑いしてしまう。

 

「おっと、そうじゃ。気付いてはいるじゃろうが、この『牛若丸』は人間じゃ。」

「あぁ、知っている。」

 

 しかし、どうやら他の三人は気が付かなかったようで、驚いたような表情を各々見せる。

 

「え、そうなんですか!?」

「カッカッカ、嬢ちゃん妖怪じゃろう?人間の区別はできんと、後先大変ぞぉ。」

「いえ、彼の殺気が人間独特の気を掻き消しているので、てっきり…」

 

 そう、強い殺気。常人じゃあ、気絶するほどだ。何故彼がここまで俺たちに向けて殺気を向けているのかは、まるで分からないが、面倒なのであまり触れずにいよう。

 

「え、じゃあ彼女は…」

 

 メイリンが目を向けたのは、牛若丸のとは反対側に座る少女の烏天狗。先程から何か緊張をしているようだが、一体どうしたのだろう。

 

「『射命丸文』。烏天狗です…」

「コラ、もっと愛想よくせんか。」

 

 叱るべきなのはその逆側にいる牛若丸だと思うのは俺だけか。

 それにしても、この烏天狗はまだ幼いと思うのだが、それにしては妖力の量は比較的多いように思える。

 

「…君、相当強いな。」

「ッ!」

 

 俺の呟きに、少女は笑った。しかし、それに気付いたのか、恥ずかしそうに顔を片手で隠す。

 

「お主の言う通り、射命丸は中々強い。力じゃあ負けんが、速さはワシ以上じゃ。」

「フフ、顔が子の自慢をする親のようだ。」

「ン、すまぬ。」

 

 牛若丸の鋭い眼差しのおかげで敵対されていると思っていたが、どうやらこの雰囲気を見るにそうでも無いらしい。恐らく、鞍馬もそれを示すために自己紹介を兼ねた雑談をしてくれたのだろう。だか、それも十分だろう。

 

「それで、本題に入ろうか。」

「うむ、そうじゃな。」

 

 気になる点は幾つかある。

 

「まず、俺は何故ここへ呼ばれたのか、教えてくれるか。」

 

 鞍馬は愉快そうな笑顔からは一変し、真剣な表情で俺を真っ直ぐに見つめた。

 

「そうじゃな。お主には頼みたいことがある。」

「なんだ?」

 

 鞍馬は改まって、少し崩れていた座り方を直し、その手を膝の上に置いた。その姿勢に、俺の背筋も伸びる。

 

「『ワシのフリ』をしてくれぬか?」

「…あんたの『フリ』?」

「そうじゃ。ワシらの山は、見ての通り天狗が仕切っておる。じゃが、先日に大江山から手紙が届いてのう。」

 

 大江山。確か、鬼の住まう山だ。詰まり、鬼から天狗の所に手紙が届いたと言うことか。あまり穏やかでは無いような雰囲気だ。

 

「その内容は、領土の引き渡しの交渉じゃった。二週間後に直接交渉しに来るそうじゃ。」

 

 やはり、その手紙の内容はあまり楽観出来るものではなかった。鬼と天狗の力の差を考えると、それは脅しの様に捉えられる。

 

「ワシでも、鬼には勝てのじゃ。じゃがお主。お主は、神をも倒す旅人じゃろう?情けないのは分かっておるが、どうか聞いてはくれんか。」

 

 ここで断る理由は無い。悪い言い方になるが、天狗に恩を売ることもできるし、妖怪の中でも名が高い鬼に勝てばより世渡りに融通が効く。

 それに、単純に鬼と戦ったことがなかった。一度手合わせ願いたいと思っていた所だ。

 

「いいぜ。」

 

 この楽しみが腹の底から込み上げてくる感覚は、いつまで経っても好きだ。俺はここ最近で1番口角が上がっているだろうと自覚する。

 

「次の質問だ。何故、俺らがここへ来ると分かっていた?」

「うむ…」

 

 これが一番の気になる点だ。『予知』のような能力を持ち合わせているのなら、実に興味深いのだが、鞍馬のこの質問へのリアクションは、どうやらそんなに単純なものではないようだ。

 

「鬼からの手紙を貰った日の夜、ワシは夢を見た。」

「夢を?」

「暗く、薄気味悪い場所にポツンと…老妖怪のワシが立っていた。寿命かと思ったわい。じゃが、どこか違う。頭を整理している時に、いきなり記憶が入り込んできたのじゃ。否、お主の顔が、頭の中に出てきたのじゃ。」

 

 つまり、予知夢と言うやつか。あまり期待していたような返しではなかったが、実際に俺たちはこうして訪れたのだ。何か因果はあるだろう。

 しかし、何かが引っかかる。

 

「…この顔は見たことがある。確か、生きる伝説と言われた男『神田零』じゃ。そう、理解した。じゃが不思議じゃった。何故、お主の顔が出てきたのか。すると後ろから、女の声がしたんじゃ。『神田零は貴方を救いにやって来る』とな。」

「おい、それもしかして!?」

 

 あまりにも聞き覚えのある話。そして、記憶の中にある経験と酷似していた。俺は固唾を飲んで、口を開く。

 

「…その夢、目の前に大きな岩があったか?」

「なんじゃと!?やはり、偶然ではなかったか!ああ、有ったぞ。」

「なんてことだ…」

 

 時折見える、あの女は一体誰なんだ。まるで呪いのように付きまとわれているような、悪寒が走る。

 

「いや、気にしないでくれ。」

「そうか…一先ず、引き受けてくれたこと、感謝いたす。」

「…堅苦しい爺さんだ。」

「お主は気楽すぎるジジイじゃろうて。」

 

 今まで生きてきて初めての返しに、思わず笑ってしまった。見た目の若さもあって、そのように言われたことは無かった。後ろの青娥も笑っているため、後でお仕置をするとしよう。

 すると、若手と思われる烏天狗が中に入ってきた。手には盃が二つ。なるほど、雰囲気といい、タイミングといい、実に良い待遇だ。

 

「呑もう、零よ。これは、仲間の印じゃ。」

「そうだな。」

 

 その透き通る黄金色に輝く日本酒を、互いに互いの酒を酌み、腕を組み合いながらその方の手で呑む。喉の奥がカッと開く感覚が、なんとも美味しい。

 飲み干した頃には、お互い愉快に笑い合う。すると、鞍馬が小声で喋る。俺にしか届かない声。

 

「あの射命丸。お前に憧れて、強くなった。んで、お主の前で照れておる。良くしてくれ。」

「分かった。」

 

 そちらに目をやると、射命丸は未だに片手で顔を隠していた。

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