東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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玉の緒の刀 IV 『必殺』

 青空の下で、遊戯に睨まれている俺は体を伸ばしながら先程の勇儀のように分かりやすく煽る。

 

「まずは誰からだ?それとも全員同時に掛かってくるか?」

「コケにしやがる…」

「お互い様だろ。」

 

 俺の言葉に、勇儀の眉間の皺はより深くなる。そんな勇儀の震える拳を、萃香が手を添えて静止させる。

 

「私が行くよ。」

「分かった。」

 

 伊吹萃香という鬼。人からは『酒呑童子』と恐れられているらしいが、そんなものどうでもいい今は鞍馬の侮辱を取り消させる。それしか考えていない。

 人間だって素晴らしいものだし、妖怪も素晴らしいもの。確かに、妖怪は人間に悪さをして、人間は自身を護るために妖怪を退治する。その繰り返しが続いているが、絶対に人間と妖怪が共に生存できる世界があるはずなのだ。できるはずなのだ。

 しかし、殆どの奴等は無意識に匙を投げている。「どうせ無理だ」と。

 それが許せない。一種の八つ当たりであるのは自覚しているが。バカにしたことには変わりない。

 

「いくよ。」

 

 先制は萃香。高速のスピードで拳を突き出す。中々に良い拳であるとは思うが、甘い。次の動きの予測をしていない拳だ。こっちが簡単に予想をできてしまう。

 例えば、次は右のアッパーだ。

 

「オラァ!!」

 

 俺は彼女の手を掴む。なにやら驚いたような顔をしているが、特に反応を示さずに骨を折るつもりで捻る。

 折れた振動が伝わって来ない?俺は彼女の顔を見上げると、汗をかきながら「あぶねぇー。」と口パクをしている。

 

「怖いねぇ。私にこの能力がなかったら骨がバッキバキだったよ。」

「…なるほど。」

 

 彼女の肩から先が霧状になっている。どうやら、彼女は霧状になれるらしい。正確に言うと、体の密度を小さくして霧状になったのだろう。まだこの程度の文明を生きているのだから、本人にもよくわかっていないのだろうが。

 腕から広がるように彼女の身体は霧状になっていく。そして、とうとう彼女の姿はなくなった。

 辺りが霧が籠っている。

 

「そういうことさ。あんたは私に攻撃できない。」

 

 霧は一ヶ所に集まって行き、萃香の形を型どってゆく。

 

「なにせ霧状になるから。」

 

 萃香は声を大きく張って、自信満々な瞳でこちらを見ている。周りの妖怪も、まるで圧倒的な存在に遭遇したかのような反応を示している。

 

「そうか、それで?」

「え?」

「いや、霧状になれるから何ができるんだ?」

「え、いや、だから…」

 

 そう言うと、萃香は明らかに口ごもる。鬼はもっと堂々としている印象があったのだが。それとも、俺がおかしな事を言ったからだろうか。

 どちらにせよ、困った姿は普通に女の子に見える。角がなかったらな。つまりその威風堂々の風格は、堂々とした風の格なのだろう。

 

「えぇい、めんどうだな!」

「あ、諦めた。」

「ウヌォラァァァッ!」

 

 ヤケクソに放たれたその拳は予備動作がなかったために反応が少し遅れてしまった。俺は直ぐに腕で受け止めるが、なんという馬鹿力だ。ガードしていても響く。技術で戦う美鈴とは真逆の力任せな拳だ。

 ならば、俺も拳を振るう。だが、案の定萃香の身体は霧状になった。

 

「絶対に勝ってやる。」

 

 その意気込みは素晴らしいが、俺はそんな萃香の言葉に対して息を漏らすように鼻で笑う。

 

「無理だよ。」

「なんだって?」

 

 深呼吸。そして目を瞑り、手を広げて後ろに倒れる。俺の背中が地面に着いた瞬間、俺の身体は霧散した。見方によれば俺が地面にめり込んでいったようにも見てるだろう。

 

「え!?」

 

 萃香と同じような反応をその場にいる者全てが、同じ反応をしている。それもそうだ。急に消えたのだから。

 だが、実際は消えていない。逆に、目の前にいるのだ。

 

「う!?何だ…?勝手に私が集まってく…何かに押し込まれてる!?」

「俺だよ。」

「な!?」

「あんたの能力、借りたぜ。俺の細胞を空気中に舞わせた。」

 

 霧が一ヶ所にどんどん集まっていく。それは徐々に形を作っていき、二人の男女の姿へと変化していった。

 最終的には、俺が建物の壁を背にした萃香の首を右手て掴むような形に留まった。萃香はその手を外そうとするがビクともしない。

 

「ハァ…これはもう、負けたね。完敗だよ。」

「よし。ほら、立てるか。」

 

 素直に負けを認めた萃香に手を伸べると、彼女は驚きつつもその手を掴み体重を預けて立ち上がる。

 

「ん、ありがと。」

 

 立ち上がったあとは、持参していた瓢箪を口に付けて中に入っているであろう酒を飲む。すると険しい表情は一気に柔らかくなる。

 その時に気が付く。コイツは酒を飲んだ方が強いということに。つまり、コイツは本気で戦っていなかったのだ。そうでなくては困る。鬼はそこそこの強さだと勘違いする所だった。

 

「次は誰だ?」

「私です。」

 

 茨木華扇。『茨木童子』と恐れられている…筈なのだが、何となく鬼のような雰囲気を纏っていない。

 敬語で話し、行儀が正しく、驕るような態度でもない。いや、これは鬼への偏見だったのかもしれない。気を付けなければ。

 それにしても、包帯をグルグルと腕に巻いているのは一対どのような理由なのか。怪我だろうか。としたら、風邪の奴よりも休んだ方が良かったのではと思ってしまう。

 

「いきます。」

「おう。かかってこい。」

 

 萃香との戦いで少し身体が温まってきた。思う存分戦ってやる。俺は手を前に出して平を空に向け、クイクイっと四本の指を曲げて挑発する。先制は相手にくれてやる。

 

「ハァァァッ!」

 

 華扇は地面を蹴り、猛スピードで接近。拳を振り上げる動作から、俺は力量を見るためにも防御の体制をとる。しかし、彼女は俺の予想に反する行動をとる。

 

「フッ!」

「通り過ぎた?」

 

 俺は彼女の姿を目で追おうと振り返る。しかし、その姿はどこにも見当たらなかった。綺麗さっぱりと、その姿は消え失せた。

 直ぐに脳波を飛ばし『ナビゲーター』を発動する。しかし、その姿は捉えられない。まさかと思い、俺は後ろを振り返る。

 

「バレた!?」

「…やはりか。」

 

 居るはずのない、後ろからの攻撃。すぐにその殺気の籠った拳を避ける。

 彼女が何をしたのか理解した。それは、俺も使える能力だからだ。

 

「『瞬間移動』、だな?」

 

 華扇の眉がピクリと動いた事を見るに、どうやら当たりのようだ。正解した喜びに口角が上がるが…

 

「久しく血を流した。」

 

 頭から少しだけ流れる血。飛鳥時代以来、流していなかったものだ。腹の底から湧き上がる高揚を感じる。

 華扇はその能力が俺にバレても尚、体勢を整える。

 

「フッ!」

「またか。」

 

 華扇の殺気が至る所から感ぜられる。今度は横から。と思うとまた瞬間移動。横から、前から、横から、横から、後ろから、横から、後ろから…そういう作戦か。

 俺は目を閉じ、その姿を波形から捉える。今度は、前から来た。

 

「ハァァァァッ!」

「『瞬間移動』。」

「な、消えた!?」

 

 実に面白い戦術だ。こんなに面白いものを見せてくれたお礼に、逆にやり返すとしよう。その瞬間移動の速さは末恐ろしく、相手からすれば俺がが二人、三人、四人と増えた残像が自分に殴りかかっているかのように見えているはずだ。

 これは華扇にも出来ないだろう。伊達に長生きしていない。

 

「うぐ!」

 

 一回殴り、そのまま瞬間移動を続ける。二回、三回、四回…どんどん回数が増えていき、比例してスピードも増していく。

 この光景だけを切り取ってみたら、同じ顔の集団が、一人の女性を殴っているように見えるのだろう。なんともシュールだ。

 

「オラァァァ!」

 

 敬意を込めて、俺は彼女の鳩尾に拳を容赦なく入れる。華扇は悶えながら床に寝転がり、腹を押さえる。息を整えながら、ゆっくりと口を開き、寝そべった状態で俺に言葉を投げる。

 

「ま、負けました…」

 

 驚いた。まさか喋れるとは思わなかった。流石、鬼といえようそのタフさには、感心せざるを得ない。

 華扇は萃香に支えられながら後ろに下がった。

 

「よし。最後は…」

 

 そんな二人とすれ違うように、俺に向かって歩いてくる鬼が居る。ソイツはある程度近付くと立ち止まり、仁王立ちでこちらを睨む。

 

「最後はあんただな、勇儀。」

 

 他二人とはちがう、本気で殺そうとしているその重みのある殺気を放ち威嚇する。肌がヒリヒリと焼けるような感覚さえ覚える。

 本気で挑ませていただこう。そう思い、俺はニヤケながら汗を拭った。

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