「全力で行くよ。」
「おう、来い。」
やっと、コイツの番が回ってきた。鞍馬への侮辱を撤回させるために拳を構えているのだが、同時に俺はこの戦いを楽しんでしまっている。悪い癖だというのは俺も理解している。ただ、感情ってのはそう簡単に制御できるもんじゃない。
「四天王の二人が誰かに負けるなんて初めてでねぇ…本気で行かせてもらうよ。」
「そうか。ならば、俺も。」
俺は右手から、青く輝く刃物のような物体を出した。そろそろこれに名前を付けたい。でも、どうにもしっくりくる技名が思いつかない。
そんなどうでも良いことを考えていると、鬼達はこれに反応した。萃香や華扇は驚愕した眼差しを向け、勇儀はジッとそれを見ていた。
「…アンタ、神殺しだね。」
「人聞きの悪い。神は信仰が有る限り死なないんだよ。」
「でも、結局は戦って勝ってきたと。」
コイツは一体何が言いたいのか。含みを持つような言い方をしていて、なんともむず痒い。取り合えず、顔を縦に振って肯定する。すると、勇儀は片手で顔を隠すように俯いた。
「…フフ。」
「…?」
「ハッハッハッハッ!!」
唐突に勇儀は盛大に笑い出す。その笑い声に俺らや天狗達は勿論、相手の鬼達も困惑していた。
「ハッハッハッ!!いやぁ、だったら当たり前だわ。」
「は?」
「そりゃ負けるよ。あー腹痛い。」
開き直りってやつか?まだ戦ってないのに。あまりの拍子抜けな展開に、俺は構えを解いた。
勇儀は涙を人差し指で拭って話し続ける。
「だけど勝つよ、アンタにね。そんな気持ちで戦わないと失礼だしね。」
「お、おう…」
勇儀はそう言いながら、笑って乱れてしまった呼吸を整え始めた。
「フゥ…ハァアッ!」
またも、予備動作なしで勇儀が拳を突き出してきた。萃香の時のこともあり、瞬時に避ける。そのついでに『痺の細胞』を使い、勇儀にカウンターをくらわせようと顔を掴もうとする。
勇儀はカウンターの存在に気付き、手で受け止めるが意味無し。触れた瞬間、体が痺れる。
「アアァ!?」
ズシンと渡る激痛が全身を駆け巡っているだろう。だが、勇儀はそれを耐え、俺の腕を掴む。そして引っ張り、地面に叩き付けた。
「グッ!」
地面に寝転がっている俺の顔面目掛けて殴りかかるが、首を傾げて回避。
俺の真下に『亜空間の原子』を開き、そのまま落ちる。俺の出鱈目な能力に周りは驚いた。もちろん、勇儀も。
気になったようで、勇儀は亜空間を覗き込む。そんな彼女のその真上に、一つ亜空間が開いた。
「一緒に来るんだ。」
下に落ちた俺が上から降ってくる俺にビックリしたのか、口を開いていた。
そんな勇儀を掴み真下の亜空間に入る。ループだ。 どんどん加速して行く。そして、一瞬で真下の亜空間が閉まり、勇儀を地面に叩き付けた。
「ガハッ!?」
最後に閉め技。これで身動きがとれない。勇儀は観念したのか、俺の背中をポンポンと叩き、ギブアップのサインを出した。
「あ~あ、直ぐに負けちまった。」
「ほら、立てるか?」
「ありがと。」
俺の手を掴み、立ち上がる。
「神は殺して私は殺さないんだね。」
「だから殺してねぇって。」
勇儀は大きく息を吐き、負けをしみじみと実感しているようだった。
「領土の事だね。分かった、諦めるよ。」
その発言に、天狗達の喜ぶ声が聞こえた。中には鞍馬や文の声、俺の仲間も混じっている。
「本物の鞍馬はいるかい?」
「ワシだ。」
「領土は諦める。ただ、友好的にアンタ達と接したい。」
ここまで宣戦布告をして…という無粋な横槍は入れない。これは、天狗の代表である鞍馬が決めることだ。鞍馬は顎に手を置き、眉を顰める。
「うむ、それなら構わない。」
「い、いいんですか!?」
その反応は文のみではなかった。他の天狗たちも驚いていたが、俺からすれば納得の判断だった。変に溝を深めるより、友好を築いた方が、天狗としても今後の動きがスムーズになるだろう。
「こやつは本気で諦めたようじゃ。コイツらよりは弱いが、コイツらよりは長く生きている。目で分かるわい。」
流石、と言って良いだろう。この鞍馬のカリスマ性は尋常じゃあないだろう。根拠がないが、何か説得力がある。こいつもきっと、言霊ってやつが実っているのだ。言霊は余り感じにくい物だな。
「んじゃ、記念に呑むか。」
「お、いいねぇ。」
「みな、今宵は宴じゃ。酒を倉から出せ!」
俺の提案に、勇儀も鞍馬も大賛成する。緊迫していた空気は嘘のように、明るい活気のある雰囲気になった。思わず笑みがこぼれる。
そんな中、萃香が俺に話し掛けてきた。
「あのさ、私は人間には死んだってことにされているからさ…」
「あぁ、言わないよ。」
「そう…ありがとう。」
その言葉を聞いて、俺は亜空間から酒を取り出した。