「そう言うわけで、私は死んだように思われている。」
「悪い人間も居たもんだな。毒入りの酒とか、あり得ないな。」
宴会の中、二人で呑む。周りの奴等は気分が上がって、バカをやっている。しかし、その宴会にはあまり馴染みのない妖怪などもいる。河童や、神様等。そんな中、俺と萃香はその光景を背にして夜空を眺めながら、萃香の死んだことになっている経緯を聞いていた。
どうやら、萃香は鬼と言うだけであらぬ噂が独り歩きし、人間の女性を攫う恐ろしい妖怪だと言われているらしい。更には男の鬼だと言われている。実際はただ酒が好きで怪力なだけの女の鬼なのだが。その噂を利用して名をあげようとした輩が萃香に毒入りの酒を贈り、首を斬ったのだという。
「しかし、何故生き延びれた?毒が入っていたのだろう、対妖怪の。」
「あぁ、入ってた。だが、生きている。何故だろうね、この悪運っていうのかな。」
呆れるように酒を仰ぐ萃香に、俺は何となく寂しさというものを感じた。事実無根の噂で命を狙われているのだから、それはそんな哀愁も漂うだろう。
暫くの沈黙の後、萃香が口を開く。
「毒が回っている時、夢を見たのさ。」
「…!」
もしや目の前に大きい岩があるあの夢じゃないかと思い、無意識に眉が動いた。しかし、どうやら違うようだ。
「あそこにいる華扇が出てきたのさ。その、夢にね。」
「…ふむ」
「確か…『貴女に教えられたのです。希望の存在を、光に進む価値を、栄光を。幾度も貴女はふざけていて迷惑しています。ですが…そんな迷惑な貴女を失いたくない』ってね。」
「良い話じゃあないか。」
「馬鹿らしくなったよ。あぁ、もう死ぬかもなぁって思ってたから。」
萃香は少し恥ずかしそうに酒を飲んでいた。その頬の赤みは月明かりによってよく見える。たぶんその事を言ったら、本人は酒のせいだと無理な言い訳を言うだろう。
「私が目を覚めたとき、周りの仲間達は殴り、人間は刀で斬ってた。刀…それは私の首を斬る為に持ってきたものだと理解した。」
萃香の首を取ったところで、見た目は完全に幼い女の子だ。噂通りでは無いことはすぐに判断できたはずだが、人間は何故それでも実行したのか。後に引けなくなったのだろうか、それとも…
「鬼にも器用な奴はいてね。いつかそんな日が来るかもしれないって言って、偽の首を作っていたらしい。」
「そして、彼らはまんまと騙されたわけか。」
「そう言うこと。」
なんとも許し難い話だ。少し、人間に対して怒りを感じる。正式に戦い、勝つなら良いが…酒に毒を盛る。日出ずる国の者として恥ずかしくはないのだろうか?
「さぁ、私の過去は話したよ。次はアンタの番さ。」
萃香は頬杖を付いてニヤリと笑いこちらを見ている。そういう事かと、俺は溜め息を吐く。
「…分かった。話そう。」
俺は今までのことを話した。永琳との出会い、諏訪子達との出会い、青蛾や神子達との出会い、芳香と美鈴との出会い、輝夜との出会いと永琳との再会等々。
その、出会いの物語は次第に皆の興味を引き付けていた。
「そんな作り話みたいなのが…」
「いいえ、作り話じゃあありません。」
萃香のご尤もな感想に、美鈴がフォローしてくれた。俺でも、まるで物語の人物のようだと、たまに思えてしまう。
「分かってるさ、例えだよ。にしても、相当辛い人生だったろう?」
「まぁな、俺のせいで人の死んだことが二回あったからな。」
「別に貴方のせいじゃ…」
「俺のせいさ。な、芳香。」
「ん~?分かんないや。」
「そりゃそうかぁ。」
俺は芳香の頭に手を乗せ、撫でる。芳香は気持ち良さそうに笑顔になるが、その笑顔によって生前を思い出し、気持ちが苦しくなる。青娥も、きっと俺のために言ってくれたのだろうが、俺は俺を許すことは決してない。
すると、いつからか聞いていた勇儀が萃香の隣に座り、その大きな盃に入った酒を喉に通して俺に話しかける。
「あんたは長い年月生きているから、友人の存在に対して強い思いがあるんだな。」
「そう言うことだ。『深く広くの友好関係』を目指している。」
「零よ。お主ならその友好関係は築けられるぞ。」
「ありがとよ。」
鞍馬の言葉にはやはり言霊が宿っている気がする。本当に伝えたいと思っている鞍馬の言葉は、普段の無数のそれらとは比にならないほど重みがある。
俺は芳香に乗せていた手を下ろした。
「そういや、知ってるかい?軍が妖怪を雇ったって話。」
「知らないなぁ。」
勇儀の話が言葉通りならば、近いうちに妖怪と人間は共存できるだろうが、きっとそうもいかないのだろう。そんな単純な世界では無いのだから。
この先の未来に憂鬱を抱いて、俺は酒を口に含む。