鬼と天狗の同盟を組み、予定以上のに円満に終わった会合を終え、数日が経過した。
相変わらずの青空の下、牛若丸が生き別れた母親を探しに旅へと出ることになったらしい。ついでに、俺たちも旅を再開することにして荷物を背負い、牛若丸と一緒に天狗達に見送られていた。
牛若丸は天狗たちに深々と礼をする。
「皆さん、今までお世話になりました。」
「立派に育ちよって…」
「死ぬんじゃあないわよ。」
育ての親である鞍馬は涙を流し、隣にいる文も涙こそ流さなかったが優しい表情で牛若丸を見ていた。二人はまるで、姉弟のようにのように育ってきたという。その温かい見送りに牛若丸は決意をしたような瞳をして、皆に安心してもらうために笑顔を向ける。
「そして、零よ。お主には感謝してもしきれん。」
「そうか、そういってくれると嬉しいぜ。」
「鬼達に領土を渡さず、更にその鬼達との交流もできた。本当に感謝するぞ。」
鞍馬のように、まるで気の置けない友のような妖怪に出会ったのは初めてだった。俺はこの別れを惜しみながらも力強く握手をする。
それに続き、文も俺に向かって言葉を贈ってくれた。
「私も、ありがとうございました。その、そう。アドバイスとか…」
「どういたしまして。これからも稽古頑張れよ。」
「はい!病気とか気を付けてくださいね。」
「おうよ。文も、元気でな。」
文だけでは無い。天狗たち全員に向かって改めて別れの言葉を贈る。この旅に、また新たな故郷が出来た。大勢の天狗たちが俺たちのためにここまで盛大に見送ってくれているのだ。感動の二文字に尽きる。
「まぁ、定期的には戻ってくるよ。」
「勿論じゃ。いつでも戻ってこい。」
鞍馬は牛若丸に向き直り、真剣な表情で彼を見つめる。その表情に、牛若丸も背を改めて伸ばす。
「牛若丸よ…」
「はい。」
「お前は戦闘の天才として、人間の先端を生きることとなるじゃろう。時にはそれが重荷となったり、お主を利用しようとしする輩も、きっと現れる。とても、生易しい世界だとは言えん。」
鞍馬は人間特有のドロドロとした薄汚いそれを、知り尽くしているようだった。その言葉の重み、つまり言霊の重さはいつにもなく大きく感ぜられた。
「じゃがな…」
鞍馬は牛若丸の肩をがっしり掴んで、目を真っ直ぐに見つめて言葉を放った。
「自身の意思を貫くのだ。今、人間が失った大切な心を取り戻せ。お前がこの世の光となるのだ!」
「…!はい!!」
男達は固く誓った。全く美しいものだ。鞍馬の言葉により、牛若丸の勇ましい顔つきに、更に強い決意が漲っているようだ。
「牛若丸、そろそろ行こう。」
「はい、行きましょう!」
青娥達に並び、牛若丸は一時的にも俺と共に歩みを共有することとなった。出会った当初の殺気は向けられておらず、その代わりに信頼のような眼差しを向けられていることが分かる。
「また会おう。」
そう言って俺達は故郷に背を向け、山の一本道を歩き始める。いつまでも後ろから聞こえる天狗たちの声に、笑みがこぼれる。牛若丸と目が合うと、どうやら彼も俺と同じようだった。
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山を歩き続け、天狗たちの声も聞こえなくなった頃、牛若丸は俺に話しかけてきた。
「零さん。」
「なんだ?」
「私は出会った当初、貴方のことをあまり信用してなかったです。」
「うん、知ってる。」
その言葉に、牛若丸が少し苦笑した。
「でも、鬼との戦いを見たとき、感じたんです。貴方は素晴らしいお方だと。」
「………」
「今までのご無礼、誠に申し訳ありませんでした。」
「フ…」
「え?」
「フフフ…ハッハッハッハ!」
突然の爆笑に牛若丸は驚く。他の皆は慣れたのか、何も反応はない。というより、また始まったと呆れたような空気が伝わる。
「あー、おかし。あのな、そんなん気にしてたら天下取れねぇぜ?腐りきったこの平安をぶち壊せ。」
「は、はぁ…?」
「例えば…」
俺は道に染み込んだ水分を取りだし、『水威矢』を作る。他の皆は疑問符を頭上に浮かべる。みんな、まだまだだな。
俺は気にせず、真横にそれを射る。
「ウグア!?」
「話に集中するだけじゃなく、周りに敵が居ることも集中するとかな」
俺の攻撃を境に、木の影から何十人もの妖怪の集団が現れ、俺達を睨み付けている。その場にいる全員がが構える。
「…何用だ?」
「あんたを殺すよう、上から言われているのさ。」
一人の妖怪がそう答える。しかし、その妖怪は社会的な組織を作るような妖怪では無い。
「上から?もしかして、軍が妖怪を雇ったってのと関係があるのか。」
「その通りだ。まぁ、もう気にしなくて言い。何故なら…」
「お前が死ぬから」
妖怪の言葉を奪った牛若丸がその妖怪の首を斬った。目にも止まらぬ速度で斬った。伊達に天狗の弟子ではない。
これは、俺も負けていられないな。
「ウオオオオッ!」
俺の地面を揺らすほどの雄叫びに察して、美鈴達は牛若丸を抱えて飛んだ。それを確認した俺は、思い切り地面を殴る。
「『痺の細胞』!!」
その電撃は地面を伝わり、一瞬にして多くの妖怪達を倒していった。だが、美鈴達を見て飛んだ妖怪もいる。しかし、そんなことは想定内だ。
「ハァァアッ!」
「テイヤァッ!」
美鈴と青娥は、空を舞いながらそれらの妖怪を蹴り散らかす。
二人の蹴りの範囲外にいる妖怪は、芳香が弱そうに見えたのか、嫌らしくニヤケながら囲っている。しかし、手助けは無用だ。
「…イナクナリナサイ。」
「…!?」
妖怪達は芳香から溢れる形容しがたい恐怖に、尻を着かせた。汗が大量に吹き出している。次第に恐怖に耐えられずに意識を失い、その場に倒れる。
「ハッハッハ~勝ったぞ~。」
「よしよ〜し、芳香はいい子だ強い子だ〜。」
芳香の頭を撫でる。すると青娥がハエのように集ってくる。
「あ、私にもして~?」
「は?」
「どして…」
落ち込んでいる青娥の横で、美鈴は身体を伸ばしている。
「良い体操になったな。」
俺らのいつも通りの日常を見て、牛若丸は先程までの決意の堅い瞳はなくなり、呆然としていた。
「…マジかよ。」
妖怪の返り血を浴びながらふざけ合っている俺達に対して後に「かなり恐怖を感じた。」と述べていた。