東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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玉の緒の刀 Ⅸ 『霊魂』

 俺達はその光景に絶望した。そこはもう、死体が沈む火の海だった。悪臭が周囲を立ちこめる。

 

「これは…」

 

 言葉を失う。この中に牛若丸がいるのだろうか。青ざめていく俺を見て、青娥は背中を擦る。

 

「彼なら大丈夫よ。捜しましょう。」

「…そうだな。」

 

 再び『ナビゲーター』で位置を確認する。どうやら屋敷に居るらしい。しかし、その道中で大量の妖怪がその屋敷に向かっている。軍が雇った妖怪だ。

 何故義経がこんな目にあわなければならないのだろう。あまりの悔しさに感情が飲まれそうになるが、俺は目を閉じて心を落ち着かせる。

 

「牛若丸は屋敷に居るが、途中で大量の妖怪がその屋敷に向かっている……殲滅しながら急いで向かう。」

「分かりました。」

「行くぞ!」

 

 瞬間、風をも追い付けぬ韋駄天の如く俺達は走った。目の前にそれらが現れたのならば、右手の前腕から青に輝く鉱石のようなものを出す。

 そして、斬った。何度も斬る。速すぎで血なども着かない。あぁ、あまりの速さに体が裂けそうだ。

 軽く100を超える数の首を飛ばしながら進んでいると、目的地が見えてきた。

 

「…な、んだと?」

 

 だが、その目的地は火に覆われていたのだ。直ぐ様ドアを開け、『冷の細胞』で消火する。

 そうして分かる。中には人が居るらしい。そちらも気付いたようで構える。

 

「何奴!?これ程の火を消す等とは……」

「義経はどこだ!?生きているか!?」

「その慌て様、敵ではないな。私は『弁慶』だ。義経様に一生涯付いて行くと決めた者だ。」

 

 牛若丸の家来か。この落ち着きようは、牛若丸が生存しているのだろう。どこにいるのかも分かっているのか。

 なるほど、この火は牛若丸が死んだように見せるための演出なのか。俺はやっと落ち着きを取り戻す。

 

「そうか、生きているんだな?」

「あぁ、生きている。地下に隠れているのだ。」

「良かった…」

 

 その言葉を聞いて漸く安心した。自分の頭の理解だけでは安心など出来ない。胸を大きく撫で下ろす。

 アイツはここで死ぬべき人間ではない。彼は生きるべきなのだ。弁慶は床に通じるドアを開き、着いてくるように手を大きく招いて中に入って行った。

 

「義経様、私です……返事がないな?」

「……!?まさか!!」

 

 刹那、俺は走った。追いかけるように後ろの四人も付いてくる。

 嫌な予感。それが俺の心の中に渦巻いていた。どうか杞憂であって欲しい。そう願っていても、その光景を見てしまった。

 

「…そんな。」

 

 その嫌な予感は当たっていた。

 血の臭いが漂っていた。光景は残酷だった。あの頃から成長した牛若丸、つまり源義経の体に刀が刺さっている。人を圧倒する程の殺気は、塵ほども感じることは出来なかった。

 俺に続き、後ろの4人がそれぞれに彼の死を認識して、それぞれに反応を示す。美鈴は手に口を当てて青ざめ、青娥は歯を食いしばって俯き、芳香は目を大きく見開いて動かず、弁慶は震える手を義経に刺さった刀に伸ばした。

 

「これは、この刀は、この人のものだ…」

「なに!?」

 

 自分の刀に殺されたと言うことになる。しかし、一体どう言うことなのだ。

 思考を巡らせていると、その刀を握っていた弁慶が苦しそうに胸に爪を立ててしまう程強く掴み、その場に崩れ落ちる。

 

「…!?な、なんだ、これ、は…!くるし…い…」

「おい、どうした!?」

 

 弁慶は苦悶の表情を浮かべ、瞳の光を失い始める。荒々しい呼吸は薄れていき、やがて彼は全身が脱力して動かなくなった。

 弁慶の唐突の死。その奥から心底愉快そうに笑いながら俺らの方に向かってくる。コイツが元凶か。

 

「フッフッフ…久しぶりだなぁ。」

「……誰だ。」

「あぁ?忘れたってのか?そりゃねぇぜ、兄弟。俺達の仲じゃねぇか。」

「お前など知らん。顔を出せ。」

「そうだな…良いだろう。俺の顔さえ見れば分かるだろう。」

 

 そして、そいつは影から抜け出し、その顔を見せた。

 

「お前は…!?」

「ハッハッハ!!驚いただろう?当たり前さ、一、二億年前に殺した妖怪がいるんだからな。」

 

 そいつは昔、永琳を拉致した妖怪だったのだ。あの時に、確かにこいつは殺したはずだった。なのに、何故そこに存在するんだ。

 

「おーおー驚いているなぁ!!立派になりやがって、可愛い弟子まで居るじゃねぇか。」

 

 いや、きっと黄泉から来たのだ。

 ユーベ・ナイトバグ、そして屠自古を殺した妖怪も黄泉から来たらしい。あいつらの言う『あの人』という者が俺の命を狙っている。つまりコイツもか。

 

「あぁ、そうだ。俺の名前、知らないよな?」

「興味はない。」

「まぁ、聞けって。」

 

 何故、名前を言いたいのだ?不思議に思うが、今はそれどころではない。

 

「俺は『ユナ・ネイティブ』だ。」

「…だからどうした。」

「あれ、分からない?そのキョンシーを見る限り、蟲野郎には会ったよなぁ?」

「………」

「答えろよ……あぁ?」

 

 こいつはなにがしたいのだ?分からない。ユーベ=ナイトバグがなんだと言うのだ?

 いや、待てよ。何か引っ掛かる。

 

「まぁ、いいや。死ねよ。」

 

 刹那、俺は吹っ飛ばされた。腹部に鋭い激痛が走る。今の攻撃や過去の戦いから察するに、やつの能力は『物を移動させる能力』だ。

 奴は、予め持っていた石か何かを俺の腹に高速移動指せたのだ。手は動かさず。

 

「さっきの弁慶の顔見たか!?最高だったよなぁ!苦しむ顔、最高だ!只の毒殺だぜ!?能力なんて使ってもいない!」

「うるせぇ…」

「あ?……なッ!?」

 

 俺は奴に石を返した、『熱の細胞』付きを。砂埃を破って高速で突き進むそれは見事命中し、奴も吹っ飛んでった。

 

「アッチィィィィッ!?クソが!!」

「はぁ、はぁ…奴を殺すぞ。」

「勿論です。」

「えぇ、喜んで。」

「…」

 

 俺は水威矢を創り、そして射る。ユナは咄嗟に右に回避するがしかし、その先には美鈴の足がユナの顔を捉えていた。

 

「テイヤァ!」

「ガハァッ!!」

 

 美鈴の蹴りを顔面に食らい、口内から血ヘドように吐くユナに更なる追い討ち。

 

「ちょっと残酷だけど、許してね。」

 

 簪を投げて、ユナがもたれかかった壁に刺し、青娥がギリギリ通れる程の穴を開ける。青蛾はその穴の中に入り、外側から二点の穴を開け、そこからユナの頭を持つ。

 そのまま思い切り、壁に叩き付ける。何度も何度も、頭の形が変形するほどに。ユナが漸くその手を殴ろうとすると、青娥はその手を引っ込めて、ユナは自分を殴る形になる。

 青娥は別の壁から戻ってくる。

 

「…チッ。」

 

 その舌打ちと共に、横に居た弁慶の死体が何にも触れられていないにも関わらず、青蛾と美鈴にぶつかった。

 多分、死体を移動させたのだろう。

 

「あぶねぇなぁ。」

 

 ユナは不意の拳をガードした。その拳は芳香のものであった。たまに見せる、芳香の刺すような殺気の籠った拳に、ユナはニヤリと笑う。

 

「嬢ちゃん。キョンシーなんだろ?その割には、生前の感情が残っているなぁ、いや、実は全部覚えていたりして。」

「………」

「なんだ、本当に忘れているのか。ただ、少し感情が残っていることは事実だな。」

 

 ユナは大刈りで芳香を転ばし、腹にパンチをする。芳香にはあまり効かないが、分かっていても腹が立つ。

 

「んじゃあ、俺のターン。」

 

 瞬間、奴は自身の体を高速移動させ、美鈴と青娥の前に現れる。二人は構えるが、遅い。その時には既にそれぞれに二十発程殴られていた。

 

「フッフッフ。成長か…素晴らしい。残りは…オマエダ。」

「ッ!?」

 

 刹那、重力が俺に対して強く働く。重い。何だこれは。

 

「おお!!これが『あの人』の言っていた特典か…」

「なに、しやがった…!」

「フッフッフ…」

 

 奴は俺に近付き、しゃがみこんで不気味な笑みを浮かべる。

 

「あん時の借りを返すぜ。お前を後でなぶり殺してやるよ。今は、あんたの弟子達を強姦でもしてるから、そこで勃起させながら見てろ。」

「……や…めろ…!」

「あぁ?やめろだぁ?おっかしいなぁ…敬語がないように聞こえたなぁ。」

 

 ユナはわざとらしく耳の裏に手を当てて俺に向ける。俺は血反吐を吐きながらもゆっくりと言葉にする。

 

「やめ…て……くださ…い…」

「う~ん、ゴメン無理。」

「ッ!?」

 

 ユナは高笑いしながら、美鈴達の方へ進んでいく。

 俺は死んでもいい、だから、彼女達だけは汚さないでくれ。また、俺のせいだ。

 俺が居るから、周りの人は地獄を見る。俺が居なければ、彼女らは幸せだったのだ。俺が死ねばよかったのに…俺が……

 

死ネバヨカッタノニ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことはありません」

 

 声が聞こえた気がした。聞き覚えのある声だった。

 

「零さん、私はここにいます。死んでしまいましたが、霊として」

 

 いや、気の所為ではない。確かに聞こえた。義経はいる。ここにいる。

 俺は目を開いた。そこに居たのは浮遊する玉の緒。

 

「私の緒を持ってください。そして、挑んでください」

 

 義経…いや、牛若丸。お前が居てくれて良かったよ。

 

「その言葉、そっくりそのままお返しします」

 

 いつの間にか、重力の重みが消えた。俺は立ち上がり、牛若丸の玉の緒を掴んだ。

 

「おい、腐れ外道。」

「なにッ!?」

 

 ユナは驚きながら後ろを振り返る。そこには、鋭い刀の形をした牛若丸の魂を持った俺が立っている。

 

「お、お前、何故立っている?」

「二人だからだよ。」

「は?」

「もう、痛みも重さも無い。傷や負傷は、友によって書き消された。」

 

 俺は構える。鋭い目付きを奴に向け、剣の道筋を見る。

 

「行くぞ、丸!!」

「はい!」

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