握手を交わした紫が少し二人で話したいと申し出たので、近くにあったボロボロの建物で話し合うことにした。念の為、ということで、俺と紫以外の五人は外で待機してもらうことになった。
寒い中で待たせるのは申し訳ないので、適当な枝を集めて『熱の細胞』で火をつけて焚き火を作っておいた。
「その…零、本当に良いのよね?」
「あぁ。というか、さっきからそう言っているだろう。理論上は可能だしな。」
「創るのにも膨大な霊力と妖力、それに神力が……」
「膨大に有り余ってるよ。」
「……うん。」
改めて訊いてきた紫は、俺の返答を聞くと口を綻ばせた。
「取りあえず、広い土地を結界で囲めばいい。探してくるよ。その後に、俺が色々な力を使って小さな異世界を創る。」
「あ、貴方にそこまで負担はかけたくは…」
「君が誘ってきたんだろう?」
「うぅ、でもぉ…」
何をそんなに遠慮してるのか。やはり、俺が忘れているだけで過去にこいつと何かがあった?
だとしても、思い出せない。
「ああもう、めんどくせぇ!んだったら、霊力が豊富な神社の巫女や神主も誘ったらどうだ!?」
「え……?」
「その世界。出来た後はどうなる?」
「後?」
計画性がまるでないな。良いだろう。手伝うと契約を結んだんだ、折角なら助言をしてやるとしよう。
「いいか?その世界を創って永遠に平和がくるわけじゃない。平和は只じゃないんだよ。」
「…なるほど、必ず『異変』が起きる。」
「そうだ。結界で孤立した世界だぜ?妖力と霊力で溢れて仕方がない。暴れたい妖怪も出てくるさ。」
「…それを解決するために『巫女』、もしくは『神主』と言うわけね。」
理解したようだ。
「しかしだ、油断してはならない。」
「え、なんで?」
「その異変を解決する者自身が異変を起こすかもしれない。」
「……」
「異変を解決する者は二人以上であり、そして親しい仲や犬猿の仲等の様々な関係性を持たせた方がいい。」
紫は納得したように頷いた。それと同時に肩をすくめた。
「しつこいようだけど、本当に覚えてないの?」
「すまない。やはり、君の顔を見たことはないと、俺の脳が判断している。」
「そう…昔はこうやって意見を言い合ってたのに。用意周到なのはいつでも変わらないのね。」
そんな懐かしむように言われても、分からないものは分からない。なんとも言えないやりづらさを感じる。
この際だ、あやふやにするのも気持ちが悪い。俺は紫に問う。
「俺達が出会ったのはいつのことなのだ?」
「…いえ、いいわ。もしかしたら、同姓同名の顔が似た人なのかも。」
「そんな人、いるのか?」
「存在の否定は出来ないわ。」
「確かにそうだ。」
俺は肯定したが、心の中では否定した。少なからず、顔のパーツは何処か違うだろうし、久しく会ったにしろ、抱き付くほどの仲の異性の顔を間違えるだろうか?雰囲気だって違うだろうし、態度だって違うはず。
そう思考をしていると、後方の戸が開く。振り返ると青娥の姿があった。
「零、ちょっと来て。」
「分かった。すまん、少し空ける。」
「いいわよ、気にしないで行ってらっしゃい。」
俺は後ろ手で戸を閉め、青蛾の用事を伺う。
「気になったのだけれど、何故彼女の計画に参加したの?」
「何故って?」
「きっと、永琳達を匿うためと、彼女のこと。記憶にないから償う気持ち半分で乗ったのだろうと思うけど、その他に理由があるんじゃないの?」
鋭いな。流石青蛾だ。伊達に何百年も共に旅をしていない。
「何故そう思う?」
「……勘?」
「結構。ならば教えよう。」
青蛾は少し前屈みになった。
「自身の正体を知るためさ。」
「なにか関係が?」
「力を結界で閉じ込めていれば、自と住民は強くなるだろう。その人達に頼んで一緒に正体を暴いてほしい。」
それを聞くと、青蛾は少し驚いた様子だった。
「うむ、自分勝手なのは分かっている。だが…」
「意外…」
「え?」
青娥は口に手を当て、わざとらしく驚く。というか、流石にわざとだ。何か嫌味を言うぞ。
「意外と気にしてたのね…自分の正体なんて気にも止めてないのかと。」
「おい、それどういう意味だ。」
「そう…でも、それは私達だけじゃ不満かしら?」
「い、いや、そういう訳では…」
漸く気がついた。これは、青蛾達に対して力不足だと言っているようなものであると。しかし、今となっては断れない。身勝手すぎる。
「すまない…だが、多い方が早く分かると思い…」
「ふふ、良いのよ。別に悪気があったわけじゃないでしょうし。」
「……」
何故、こんなことをしてしまったのだろう。俺はなんて酷い人間なのか。
自己嫌悪に陥っていると、青娥は俺の肩をトントンと叩く。
「ほら、彼女の顔を見て。」
「え?」
青蛾が指差したのは芳香だった。
芳香は芋虫の行動に興味を示している。前まではあれほど虫を嫌っていたのに、不思議なものだ。
「彼女、実は生前の記憶をほんの少しだけ取り戻したそうよ。」
「なに!?」
「いつも蝶に戯れてたでしょう?それで、良い記憶じゃないけど『ユーベ』を思い出したらしいの。」
「………」
「貴方も、見つかるわ。」
そうだな、と応えた。しかし、俺の心は晴れない。
「もう、いつまでもイジイジしてたらこの青娥ちゃんが抱き付くよ!」
「…お願いだ。」
「え?」
「…少し、人肌が恋しい。」
俺の返答に、青娥は驚きつつも冗談めかして笑う。
「ダーメ。紫さん、放っておいてイチャつくのは悪いわ。後、本気にしちゃうから止めて。貴方にはもう居るでしょ?」
「…そうだな」
もはや、精神が歪んできているのかもしれない。俺には永琳がいるのに、何をしているのだろう。俺は最低だ。
「じゃあ、納屋に入ってらっしゃい。」
「あぁ、分かった。」
俺は背中に何か重荷が乗っかるような苦しみを味わいながら、建物に戻った。