「…うん、ある程度は話は煮詰まったわね。それじゃあ皆を呼びましょうか。」
「あぁ、呼んでくる。」
俺は戸を開け、焚き火で暖を取る青蛾達に呼び掛けた。青蛾達はそれに気付き、こちらの方へと向かってくる。
「終わりましたか?」
「あぁ、中に入ってくれ。」
「お邪魔しまーす。」
建物は思ったより広いので、あと二、三人は入れるぐらいのスペースはある。そうして、俺らは火を灯した蝋燭を円陣で囲むように座った。
すると、青娥が早速計画の内容を訊いていた。
「それで、どういう話になったわけ?」
「まず、私の理想郷を創るためには土地が必要。出来れば山奥が良い。」
「旅をしてきた俺達は土地には詳しい。だから候補を挙げた。」
候補は二つ挙げた。一つは北方領土のどれか。国後島とか良いかもしれない。そして、白馬村の山。信州にある山に囲まれた村だ。それぞれ大きいから半分にしてその理想郷を創ろうという魂胆だ。
「妖怪と人間の共存する世界。しかし妖怪がいなきゃ意味がない。だから、全国から妖怪を集める。そして、その理想郷を創るわけだ。」
「その理想郷の名前は『幻想郷』というの。」
「幻想郷…」
美鈴がその名前を聞いて復唱した。
「これは膨大な計画だ。治安を守る巫女や神主を幻想郷の主要人物に決めたり、しかしある程度悪さを働く妖怪や人間も必要だ」
「悪さを働く?またどうして。」
案の定の質問が来た。
「皆が善人で世界が長続きすると思うか?」
「えぇ、私はそう思うけど…」
「いいか?善人であることは良いことだ。しかしだ、言い方を悪くすれば刺激がない人間だ。」
「刺激がない?」
まだ俺の伝えたいことが伝わっていないようで、もう一度それを聞き返してきた。
「優しさに刺激があると思うか?無いな。人間は誰しも刺激を欲する。つまらないからだ。人生を退屈しないためにな。」
皆は「なんとなくは理解した」と言うような顔で頷いた。喜びというのは悲しみがあるから感じられる、表裏一体の存在だ。感情のない世界は、俺は理想郷とは言えない。
「これは日本各地を廻って行う計画だ。そうだなぁ…この計画を『東方Project』と呼ぼう。」
「東方ぷろ…何?」
「東方Projectよ。Projectの意味は計画って意味。」
俺の命名に、紫が補足した。青蛾は納得したようなしていないような、そんな微妙なラインでの頷きを見せた。
すると更に、美鈴からの質問が来た。
「何故『東方』なのですか?日本全国なのに。」
「日が昇るのは東からだろう?日本は日が昇る国。つまり、世界の東方に存在する国って訳だ。」
「あぁ、成る程!」
こちらは凄く感心した上で理解したようだ。
「取りあえずだ。まずは土地の確保だ。」
「先に北方領土に行きましょうか。」
「そうだな。」
行先が決まった。北方領土にも何度か足を踏み入れており、友人もそこに居たりする。
美鈴もその目的地を聞くと嬉しそうに頬を緩ませた。
「北方領土かぁ、懐かしいですねぇ~。」
「今度こそコロポックルを見るそー。」
「芳香、もう何回か見ただろう?」
いつもの雰囲気で、まるで観光をしに行くように話しをしているが、このプロジェクトはこの人生で最も最難関なものになるだろう。しかし、面白味も詰まっている筈。楽しみで仕方がない。
俺は薄氷が張った土を踏みながら、蝦夷の風を感じる。