オホーツクの波が聞こえてくる所までやって来た。やはり冬も近いため、肌で感じる潮の香りは震えるほど冷たい。
俺は『創造』でそれぞれの個室があるぐらい大きな船を造り、北方領土に渡る準備を終わらせる。
「零って『生きる伝説』なだけあってなんでも出来るのね〜。」
「その呼び方止めてくれ。むず痒い。」
恥ずかしいことこの上ない。紫はニヤニヤしながら話していた辺り、わざとだろう。俺の扱い方を分かっているような態度だ。
本当に俺の事を知っている?
「それじゃあ、早速いきましょう!」
「待て待て、俺達も久し振りに来た。昔からの友人たちに挨拶をさせてくれ。」
「友人たち?」
オホーツクの近くには旅の中で仲良くなった友達が居る。来ているのに顔を見せないのは申し訳ない。
俺達は紫と藍に付いてくるように言って、森の中へ入る。森の樹々は入り乱れて躓きそうになるも、何とか奥へ進んだ。
暫く歩き続けていると、藍が俺に話しかけてくる。
「一体何処まで…」
「静かに。」
「………」
耳をすますと声が聞こえる。ここら辺だろうと、俺はその声に向かって声を張る。
「イランカラプテ!」
「え?」
「こんにちはって意味よ。」
困惑する藍に、紫が翻訳を伝えてくれた。意味を知らなければ唐突に変な言葉を叫んだヤツだ。
暫く待っていると、俺たちに向けて話しかける声が聞こえた。声は下の方からだ。
「誰だ?」
「神田零だ。仲間を連れた来た。」
「合言葉は?」
「
「零ぃ!久しいな!」
すると目の前の地面がいきなり空いた。それまでは踏んでも跳んでもただの地面だったのにと、藍は驚いている。
その穴から、小さな人間が現れた。コロポックルだ。
「久しいな、一尺。」
「おいおい、その名前は嫌いなんだ。背はそこまでないし、俺の器にしては小さいからな。」
「はいはい、今まで通り『シャク』って呼ぶよ。」
シャクは腕を組んで白い歯を見せながら笑う。コロポックルの戦士で、俺が今まで会ってきた戦士で五本の指に入るほど強い。
「シャクさん、お久しぶりです。」
「おお、義経じゃないか!久しい面がこんなにも…そこのベッピン達は?」
紫は至って平常に自己紹介。対して藍は唖然としながらも、自己紹介を始めた。
「八雲紫です。こちらは私の式の…」
「や、八雲藍です…」
「紫さんに藍さんね…美人はしっかり覚えとかなくちゃあな。というか寒いだろ。早く入りなよ!」
「おう、分かった。」
俺達はシャクに続いて中へ入っていった。
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「綺麗……」
「だろう?何せ我らが先祖、少名毘古那様から授かった理想郷だからな。」
「何度見ても絶景だな。」
「そうね。」
「え?初めて来たんじゃないのか?」
「え、あぁ、絶景って所に共感したの。」
「なるほど。」
そこは幻想的な風景が拡がっていた。町を照らす炎の光、天上に滴る小さな雫、それが落ちた緑の泉、所々に生えた草、全てが美しかった。
これから理想郷を創る紫にとっては刺激的な世界だろう。
「大きい人用の通り道はこっちだ。」
決して広くはないが、確かに通れる道。実は俺が来た時の為だけに作ってもらった道なのだ。
「でも、地面に理想郷を作ってよかったの?もし、地面が掘られたら……」
「ハッハッハ、いらん心配さ。此処と彼処は異次元の場所にあるのさ。」
「そうなの。だからか…」
「ん?どうかしたか?」
「いえ、なんでも。」
しばらく歩くと、開けた場所に出た。人間が人数いても座れる程に広い場所。ここは元からあった場所だ。
「さぁ、座りな。」
シャクの言葉で皆は腰を下ろした。芳香は足を伸ばして座ってる。気付くと周りにはコロポックル達が大量にいる。
「それで、どうして蝦夷なんかに?」
「いやぁ、ただの里帰りさ。」
「お前の里は幾つ有るんだっての。」
「ハハハ。でも、別の目的が此処で出来ちゃってね。な?」
「えぇ。」
紫はゆっくり頷いた。
「へぇ、聞かせちゃあくれないか?」
「わかったわ。」
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「ハァ、幻想郷ねぇ?」
「はい。」
「良いんじゃないか?零も付いてるんだし。実現するさ。」
コイツ適当に言ってるな。話長くて途中で飽きてたぞ。
「にしても、まさか俺らもその幻想郷に招待する気じゃあねえよな?」
「そうしたいですが、嫌なら構いません。」
「押しが弱いねぇ。ま、でもそうだね。その船になる気はねぇな。俺達は蝦夷で充分さ。」
「分かりました。」
イペタムに土下座してまで幻想郷を創りあげようと思っていた割にはすんなりとしている。協力者が出来たことにより余裕ができたのだろうか。
「にしても…『一寸』は元気かねぇ。」
「さあな。」
「え、あの…一寸って、あの一寸ですか?」
「なんだ嬢ちゃん、御伽だと思ってんのか?チッチッチ、実話だよ。」
「え!?」
藍は分かりやすく驚いた。手を地面に着け、前屈みにシャクの言葉に興味を持ったようだ。一寸のファンか?
「俺の息子である『少名一寸』の本当の話、聞きたいか?」
「息子!?」
「おうよ、息子さ。実はだな、奴を姫様の所に送ったのは俺達なんだぜ。」
「御地蔵様が老夫婦に授けたんじゃなかったんですか?」
「そんなの話の誇張さ。いや、逆か。膨大な話を抑えたんだ。」
一寸自身がそうやって語っている。
「お父さんに迷惑は掛けたくないんだとよ。親孝行な奴だよなぁ。」
「そうだったんですか…」
「昔は『零さんのような強者になりたいです!』なんて言っててな!」
「そうそう!あの頃は泣きそうになったね、嬉しくて。」
「俺も泣きそうになったな、妬ましくて。」
シャクの視線が痛い。
「やっぱり零さんってお強いのでしょうか…?」
「ッたりめーよ!なまら強いぜ。なんてったって、性格に似ねぇ『神殺しの零』って二つ名を持ってんだからな!」
俺の二つ名ありすぎるだろ。何故全てもれなく恥ずかしいのだろうか。
それにしても、先に話していた幻想郷の話はどこかへ行ってしまった。紫も困っている様子で、なんだか可哀想な気がする。
俺は紫の方に顔を向けた。
「そうだ。なんならこれからについて話そうか。シャク達の意見も聞いてさ。」
すると、紫は俺の顔を見てニッコリと笑う。俺の発言にシャクも乗っかる。これで話の軌道修正はできただろう。