東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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心の隙間の温かみ Ⅴ 『排煙』

「まさか、君の式が船に弱いとはね。意外だよ。」

「ふふ、気にしないであげて。心配をしたら落ち込むから。」

「う、うっぷ。」

 

 藍は海に真っ青な顔を向け、口から出しそうな顔をしている。それを見て、紫はニコニコ笑っている。鬼なのか、コイツは。

 俺も海に体を向け、懐から煙管と少し湿った干し草を取りだし詰めた。

 

「『熱の細胞』。」

 

 干し草に火がつき、紫煙が空に溶ける。俺は口をつけて煙を吸い、喉を焼く。肺胞の隅まで煙で満たして味わい、脱力感を感じながら息を吐いた。

 

「煙草は体に悪いのよ?」

「よく知っているな。だが、俺の体はこんなもんじゃ弱らない。」

「フフフ、それもそうね。」

 

 口と煙管から出る煙は海風に流れていく。それを見ていた芳香は何を思っているのか、ただただずっと見ていた。何も、喋らずに。

 

「どうしたの、芳香。」

「わからない。」

 

 いつもとは違う芳香の様子に、青娥は心配そうな顔を見せる。

 

「あの煙…焼かれた蟲に似てる。」

 

 焼かれた蟲。ユーベ=ナイトバグのことだろうか。俺の『熱の細胞』で焼かれた奴。

 すると、芳香は急にその場に座り、汗を大量に流している。近くにいた青娥や俺は駆け寄る。

 

「芳香!?」

「どうした!?」

「う、うう…」

 

 苦しそうな顔をして、目を瞑った。

 俺は芳香のこめかみを指で触れ、何を苦しんでいるのかを探す。重ねて『ディア』も行う。

 

「…記憶がまた少し戻ったようだ。」

「記憶が…?」

「うう、零…辛いよ…痛いよ…恐いよぉ………」

 

 俺は芳香の頭を撫で、安心できるように囁いて抱える。痛いという感覚がある。それは死んでいるはずの芳香には本来無いはずの感覚だ。ならば何故「痛い」と言ったのか。

 もしかしたら…首だけだった時、彼女は生きていた?分からない。憶測に過ぎない。

 暫く続けていると、痛みは彼女を襲って来なくなったようだ。芳香はぐっすりと眠りについた。

 

「…どうやら、彼女には自身も知らぬ真実があるようだ。」

「真実?」

「確実ではないが仮定がある。今はまだ言えないが。」

 

 紫も心配するように芳香の顔を覗く。藍の心配はしないくせに、と少しおかしくて笑う。

 芳香を部屋に運び布団に寝かせる。その後、俺は藍の方へ行き、背中を擦った。

 

「少し落ち着いたか?」

「あ、ありがとうございます……その、芳香さんが大変な状態なのに御心配を御掛けして申し訳ないです…」

 

 分かりやすく落ち込む。本当だったようだ。紫は「あ~あ、やってしまった。」と呆れるような顔をした。鬼みたいな奴だ。

 俺は擦る手を止め、藍と一緒に遠くの景色を見る。煙を改めて吸いたかったが諦めることにしよう。

 

「心配?まさか。君は強いんだから、心配する必要性がない。俺はただ、落ち着いたかどうかを聞いただけだ。」

「え、あーその…慣れては来ました。あと、その、恐縮です。」

 

 恐縮ですの声が震えていた。絶対慣れてない。今にも吐きそうな顔をしている。なんとも面白い娘だが、流石に今弄るようなことはしない。

 相変わらずの真っ青顔の藍を背にして自分の部屋へと戻った。

 

「……おえ…」

「なにが慣れてきたよ。」

「ス、スミマセン……うっ!うう…」

 

 藍の呻き声は一日中、オホーツクの海に響いていた。

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