この島の殺気は静かだ。
多分、この殺気に気付いているのは、俺と気を扱う美鈴と仙人である青蛾。この三人だけだろう。いや、紫も微妙な表情をしている。
殺気と言うのは基本、大きければ大きいほどその者は強い。しかし、この殺気は小さい訳ではないのだが、この島全体をまるで縄張りを示すように覆っているのだ。しかも、この殺気はわざと気付かれないようにされてる。そんな器用な事を出来るのは───
「どうやら、この島は呪われているようだな。多分、悪神かなにか。」
「悪神…?」
「霊魂が島の中心に集まってる。更にその中心に神力を感じる。」
先程、『ナビゲーター』でこの島を調べた。奇妙なことに霊魂が悪神を中心として神力を纏うように集まっている。というより、支配して集めさせている。人間の反応を少なく、最早その命ももう僅か。ここまで来ると祟りに近い。
「死者をなんだと思っているんだ。」
「…命の尊さを知らぬとは、愚か過ぎるな。」
丸と俺の言葉に周りの者は揃って頷いた。人の死に何度も触れてきた俺は、この悪神を許すことは出来ない。
「でも、相当強いわ。油断はならない。藍、この島に悪神が逃げないよう結界を張りなさい。」
紫の言葉に藍は従い、結界を張り始める。その様子に美鈴はソワソワし始め落ち着きがない。
「そんなことしたら悪神に存在を気付かれてしまうんじゃ…」
「宣戦布告さ。こんな幼稚な愚神、小さな挑発にも乗るだろう。いや寧ろ…」
瞬間、俺の足元に矢が刺さった。
「もう乗っているだろう。」
その矢から黒いオーラのようなものが溢れ出て、そこから霊が出現した。美鈴や紫、藍や青蛾はその場で構えた。が…
「成仏せよ、親不孝者共。」
「え?」
芳香の、突然の発言に皆も俺も驚いた。先程から黙り混んでいた芳香が開いた口から出てきた言葉は芳香らしからぬものだった。
「………」
「親に産んでもらい育てられ、それらを護るべく自らは戦士となったのだろう?それを途中で目的を忘れ、いざ死んだら恨めしくこの世に参ってくる。」
異様な光景だった。芳香のそれは怒りから作られた言葉。何処か八つ当たりのようにも聞こえる。
「恥を知れ。」
「………!!」
「お前を冥土で待っている親をいつまで待たせるのだ?悲劇ぶるなよ。どうすることも出来ない者の方が余程悲劇なのを思い知れ。」
その言葉に、霊は刀を降ろした。そして、その姿は薄れゆく。消える直前にみせたその表情は、言うなれば懺悔をしている顔だった。
それよりも、俺は芳香に恐る恐る話しかける。
「お、おい。芳香…?」
「……うん?どこ、ここ?」
そこ瞬間、表情や仕草など、全ていつもの彼女のものとなった。やはりだ。彼女は、生きていた時に戻ろうとしている。記憶を呼び覚まそうとしている。
「零~頭撫でて~。」
俺はいつものように彼女を撫でる。いつものように暖かい芳香の身体。一体どういうことなのだろう。彼女は死者。しかし、死者とは程遠い。
死者であり、死者ではない存在。近い内、彼女は記憶を完全に取り戻すのかもしれない。そしたら、今度こそ彼女の精神は崩壊しかねない。
俺は芳香の笑顔を見つめながら、不穏の手が心臓を撫でているのを感じていた。