東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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心の隙間の温かみ Ⅸ 『揶揄』

 俺が予想するに布都を襲った妖怪、名前は知らないが、その遠隔操作系の能力を持ったあの妖怪が人間だった頃の悪神に囁いたのだろう。いきなり入り込んできた記憶の中の声、男に話しかけていた声が一致する。

 アイツは俺が息の根を止めたはず。しかし、この島がこのように祟られたのは恐らく最近だ。アイツに襲われたことのある人間が死後、悪神となりこの島を支配しているのだろうが、そうなるとアイツが再び蘇ったということになるのだろうか。

 考えても考えても、その答えに行き着く気がしない。

 

「零さん。中心部はどの様な状況でしょうか?」

「急かすな、待ってろ。」

 

 考えながら『ナビゲーター』で状況を確認していたせいで、少し藍に冷たく当たってしまった。申し訳ない。

 

「ハァ…」

「…?」

「いやなに、そこまで強くないように思える。」

「でも、この殺気…」

 

 俺の反応に、紫が疑問符を浮かべている。他も同様の反応だ。

 

「取り巻いている霊達、集められていると言うより『護らされている』ようだ。」

 

 まるで細胞。核を核膜が覆っているように、悪神を霊魂達で覆っている。そしてこの島は細胞質基質。悪神の殺気が細胞膜。そう例えられる構図だ。

 

「とりあえず、近付くだけだったら危険ではないらしい。」

 

 皆は俺の言葉を聞き、耳を疑った。

 何故、そう言えるか。俺達は悪神のテリトリーに入ってきているのに、確りとした攻撃を受けてない。さっきの矢も当てる気はない上に、そこから出てきた霊も説得如きで成仏だ。それに中心部の悪神、まるで生きてる気がしない。こう言うときは大体、敵を目の前にして戦う気がない時である。

 

「うーん、じゃあ行きましょう。」

「もう少し慎重になった方が…」

「藍は臆病ねー。」

「むぅ…」

 

 紫は自分の式の扱いに慣れている。藍はその一言で、向きになって島の中心部へと足を進める。紫は俺にウィンクをして藍に付いて行った。俺達もそれに続く。

 中心部に迫れば迫るほど景色は不気味になってゆき、雲の色が青紫になったり、木から血液が出てきたりしてる。決して竜血樹じゃない。白樺だ。

 そんな景色を数分見ながら歩いて、中心に着いた。そこには、紫色の大きな卵のようなものがあり、中に人影が薄らと見える。コイツが、悪神だ。

 

「これが…」

 

 先程、悪神がまるで生きてる気がしないと言ったが、ちゃんと生きてるし、証拠に膨大な殺気がある。戦う意思がないのに殺気だ。

 この不思議な感覚、どういうことなのだろうか。

 

「にしても、殺気はもうないのね。」

「え?」

 

 紫ほどの妖怪なのに、この殺気を感じられない。もしかして、俺単体に向けての殺気だろうか。

 その時、不思議な感覚が蠢く。蠢きながら、蝕むような気がした。

 

「零?」

 

 意識が遠退くような気がした。まるで何者かに崖から突き落とされたような感覚。視界が完全にブラックアウトした。

 

____________________________________________

 

「零、目が覚めた?」

「ん……」

「大丈夫?」

 

 気絶いていたのか。確かに殺気は強いが、この俺が気絶をする程ではない。一体、何が起きたのだ。

 目の前には青娥の顔がある。

 

「…あー、すまない。心配をかけてしまって。大丈夫、俺は元気だ。」

「そう、良かった。」

 

 それよりも、なぜ俺は彼女に膝枕をされているのだろうか。まぁ、心地が良いし、別にいいか…いや、良くない。俺には永琳がいるっていうのに。

 俺は体を起こそうと、地面に手を着く。

 

「どっこいしょ。」

「まだ寝てて大丈夫よ。」

「え?」

 

 青蛾は俺が起きようとするのを止めた。

 

「今、美鈴達が漢方薬作ってくれているから、疲労回復のね。」

「俺のためにか?」

「えぇ、そうよ。だから、まだ寝てていいわ。あの悪神は攻撃しないらしいし。」

 

 その悪神に背を向けている青娥は、俺の顔をジッと見詰めてそう言い切った。

 …今日は、彼女に甘えよう。これは、決して浮気ではない。絶対に。

 俺は起こした頭を再び彼女の太股に置いた。女性特有の良い匂いが漂いながら、柔らかい感触が後頭部に伝わる。

 

「フフ、それは何よりよ。」

「え?」

「口に出てたわよ。」

 

 この場に永琳がいなくて本当に良かったと思う。浮気と勘違いされそう。…勘違いだから。

 というより、女性の太股に対し「柔らかい」って、なんだか変態みたいだ。俺は決して変態なんかではないから。性欲は人並みだし、変態ではない。

 でも、前から人にこうして甘えたかったという願望は、少なからずあった。それは認めよう。

 何故か今は青蛾のことを綺麗に思える。いや、元々綺麗な顔立ちだし、近くに顔があるからそう思えるのか。

 

「可愛いわね。」

「む、嬉しくないな。」

「でも、貴方ってカッコいい…って部分もあることはあるけど、顔は物凄く可愛いわ。男としてね?」

「よくわからない。」

「そう?ざーんねん。」

 

 不意に彼女はニコッと笑った。その行動に心臓が跳ねた。可愛いと、そう思ってしまった。顔が赤く染っていくのを感じる。

 

「………」

 

 こんな、まるで妄想のような出来事が、あっていいのだろうか。永琳がいるのに、どうしてこのようなことに…

 すると、青蛾は無言で顔を近付けてきた。

 

「口付け…していい?」

「お前……」

「二番でも良いから…貴方のことが…」

「……」

 

 ある意味、絶対絶命である。

 しかし、なんだか考えるのが面倒になってきた。もういいやと、俺は目を瞑る。

 

「………」

「………」

「………」

「………?」

 

 中々来ない。いや、別にその、口付けを待ってた訳ではないが。ただ、なんというか、いや、墓穴を掘っている気がする。

 しかし、気になるは気になる。俺はゆっくりと目を開けようとしたが、半分空いた瞬間にそれをが見えてしまい一気に見開いた。

 

「…う………」

「せい……が…?」

 

 彼女が血を吐き出しているのだ。横目からは青蛾の腹が見えるが、そこからは緋色の液体が服を伝い、中心には鋭利なものが突き出ている。

俺は急いで頭を上げた。そこには悪神がいる核から突き出た何かが、青蛾を貫いていた。

 その何かはすぐに核へ戻る。そして、その場に倒れ込む青蛾の血が俺に飛び散った。勢いよく血は吹き出て、頭の中が真っ白になった。

 

「青蛾!!」

 

 俺はひたすら、彼女を呼び掛けた。『治癒の細胞』を傷口に垂らす。しかしその傷口は塞がろうとしない。

 

「そんな…青蛾!青蛾ァ!」

「零…」

 

 青蛾は俺の手をとる。

 

「もういいよ…貴方の『治癒の細胞』も効かないなら、私はもうダメね。」

 

 やめろ…

 

「今まで、貴方の力になれて良かったわ」

 

 やめろ

 

「ありがとう、零。」

「やめろォッ!!」

 

ごめんね、れい

 

「あああああああッ!!」

 

 青蛾が、喋らなくなった。眼の光はスッと消え、彼女のてから感じる鼓動も、今は届いてこない。

 彼女の手は一ミリも動かない。動かない。動かない。

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