東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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心の隙間の温かみ ⅩⅠ 『現実』

「ありがとうな。」

「うん?なにが?」

 

 生きていてくれて、ありがとう。それしか、言葉は見つからない。何も知らない青娥に、ありがとうと伝えられることに感動すら覚える。

 

「いや、なんとなく伝えたかっただけ。」

「そう…?」

 

 青蛾は可愛く首を傾げ、不思議そうにポツンとこちらを見ている。

 

「さて、みんなの所に行くか。」

「大丈夫?」

「平気、平気…よっこらせ。」

 

 しかし、その瞬間に視界がグニャァと歪み、俺は体のバランス感覚を失う。立ち眩みだ。

 

「え!?ちょ、ちょっと……」

 

 視界が回転している上に、思考が止まっている。今、自分がどういう状態なのかが分からない。ただ、何となくだが青娥の声が近くに聞こえる気がする。

 

「ど、どうしたのよ?」

 

 段々と、霞みがかった視界がクリアになってくる。思考力も復活してきた。そして、理解する。今、自分がどういう状態かを。

 

「……ごめん。」

 

 俺の顔のすぐ近くに、頬を赤くしている青娥がいた。まだ、妄想の中なのではないかと疑う程、俺は運が良い。唇と唇が触れ合いそうな程の近さ。

 俺は、青蛾に抱き付きながら後ろに倒れたらしい。後ろは布団がある。つまり、俺は青娥を抱きながら一緒に布団で寝ている状態になっている。

 青娥の柔らかい感触が伝わる。

 

「その、どうしたの?」

「立ち眩みが…」

「貴方にも立ち眩みはあるのね。」

「そりゃあるだろ。」

 

 失礼なことを言う割に、青娥の表情は変に艶かしい。瞳が潤んで、頬を赤らめ、ついには足を絡めてきた。

 

「……」

 

 青蛾の顔がこんなに近い。妄想の中にいた時よりも、ずっと近い。

 青蛾は俺の顔から目をそらす。しかし、逃れようとはせず、互いの頬を頬を密着させ、吐息が俺の耳にかかる。

 

「…人肌、恋しいの?」

 

 心臓が跳ねた。掠れるほど小さく甘い声が、俺の鼓膜をくすぐる。段々と青娥の息が荒くなっていくのを感じる。

 青娥は顔を離し、しかし近い距離で俺の目を見つめる。

 

「零なら…いいわ。」

 

 それが何を意味しているかなど、容易に想像ができた。だが、俺には永琳がいる。その誘いに乗る訳にはいかず、つまり断らなければならない。

 しかし、どうしてもその言葉を発することが出来ない。

 

「大丈夫、誰にも言わない。私たちだけの秘密…」

 

 そう言って、顔を近付けてきた。今度は唇と唇が付きそう。先程耳にかかっていた吐息は、俺の下唇に当たっている。

 青娥は俺の手を握り、指と指を交差させる。もう、逃げられない。俺は彼女に身を任せ───

 

「零さーん!漢方薬出来ましたー!!」

 

 元気なノックと元気な声で、俺と青娥は慌てて立ち上がり離れた。俺は声を裏返しながら「入っていいぞ。」とドアの向こうに居る美鈴に声をかける。

 

「あれ、青娥さんもいたんですね。」

「え、えぇ。少し心配でね。」

 

 青娥は自身の髪を指でクルクルさせながら美鈴と目を合わせようとしない。そんな青娥に首を傾げながらも俺に目を向ける。

 

「それにしても、もう元気そうですね。」

「そんなことは無い!!」

「元気じゃないですか。」

 

 先程までの青娥とのやり取りのせいで頭が混乱してしまっている。墓穴を掘った。

 

「まぁ、とりあえずここに漢方置いておきますね。お大事にー。」

 

 そうして、美鈴は部屋から出ていった。

 沈黙が重いとこれほど感じたのは、初めての経験だ。あちらも、俺の事をチラチラと見ている。この空気は耐えられる気がしない。

 

「あー、そう言えば、紫達は悪神を調べに行っているんだよな?」

「え、あ、うん。」

「そうか。その、心配だから俺も行ってくる。」

 

 これは、決して逃げなんかでは無い。理由は、まだアンダインが死んだとは限らないからだ。

 アイツは確かに消滅したかのように崩れていったが、飽くまで俺の妄想の中。死んだと思い込ませているだけかもしれない。そう仮定すると、彼女らが危ない。

 俺は急いで戸を開けようと取っ手を持つ。が、それは勝手に開いたのだ。

 

「あら、もう起きていたのね。」

「え?…よかった、俺の考え過ぎか。」

「なにが?」

「いや、なんでもない。」

 

 紫は不思議そうな表情を浮かべつつ、調査の報告をしてきた。青娥も部屋を出るタイミングを逃したようで、なんとも言えない微妙な表情をしている。

 

「結果から言うと、何かが分かる前に分からなくなったわ。」

「というと?」

「あの核、消滅したのよ。」

 

 やはり、その場から消滅したか。

 

「しかも、消え方が気持ち悪くて…」

「すまないが、詳細に教えてくれるか?」

「悪神が核を破って飛び出してきて、毛穴からウジ虫が蠢きながら呻いていたわ。」

 

 ユーベ・ナイトバグは関係しているのか、それともしていないのか、それはまだ判断できない。同じ黄泉の者だということしか分からない。

 

「その際、『見るな!!』って叫んでた。」

「なるほど。」

「その瞬間、地面から黒い手のような何かが、悪神を…多分黄泉に引っ張っていたわ。」

「何故、黄泉と分かった?」

「生気のない殺気が私を襲ったわ。正直、もう味わいたくはないわね。」

 

 紫は苦い顔をしながらも丁寧に話した。

 それにしても、『生気のない殺気』か。思い当たるものがある。神子の所にいた時に見たあの夢。あのウジ虫だらけの女性から、それを感じれた。そして、ウジ虫という点で、奇妙な一致をしている。

 興味深い。それと同時に怖い。まるでトラウマをずっと見ているかのような、そんな恐怖が襲う。

 

「この島は酷く穢れてしまったようだ。穢れをある程度除くには相当な時間が必要になる。50年ぐらいだろうか、それほどはかかる。」

「そうね、この島は諦めましょう。」

「それじゃあ…次は白馬村?信濃の。」

 

 青娥の言葉に俺は頷いた。

 信濃か。諏訪子や神奈子に顔を見せてやろう。

 

「行くか…アイツら呼びに行くぞ。」

「はーい。」

「分かったわ。」

 

 そういうと紫は部屋から出ていく。俺もそれに続き部屋を出ようとすると、袖を引っ張られる感覚があり、そちらに目を向ける。青娥が恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうにしている。

 

「その、ごめんね。気にしないで。」

 

 そうして、青娥は俺より先に部屋を出ていった。一人残された俺は、最後まで行わなかったことは正しいのだと自分に言い聞かせる。しかし、どうにも青娥の最後の表情は俺の心に引っかかる。

 正しいはずなのに、どうしてこんな気持ちになっているのだろう。考えても、考えても、俺には分からなかった。いや、分からないふりをしているのかもしれない。

 俺はその場にしゃがみ込み、深いため息を地面に這わせた。

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