東方化物脳 Re:make   作:薬売り

59 / 106
椿の香り Ⅱ 『料理』

 椿が帰ってきて、彼女はそのまま台所へと向かった。今のところ、彼女に殺気は感じられない。どうしたものか…

 

「椿が生き返ったとき、あの子思いっきり私達を抱き締めて泣いていたの。」

「ふむ…」

 

 疑わしい。何が、と言われれば分からないが、強いて言うならば彼女が偽物だと言うこと。いや、正確には半信半疑なのだ。彼女が本物と信じ込ませるために、そうやって抱き締めたのかもしれない。

 視界ジャックをしたときも、もしものために言葉を隠していたのかもしれない。

 彼女がもし、俺を殺すために黄泉の世界から来た者なら、『ディア』をしても意味はないだろう。きっと俺の能力はバレている。今まで、色々な技を見せてきた。当然である。きっと何かしらの対策を練っているに違いない。

 しかし、ならばどうするか?

 

「はーい、零様の好きな鰻ですよ。」

「ありがとうな。」

 

 俺の好物も、その俺流鰻の料理の手順も知っている。この料理のやり方は代々巫女に伝わっている。俺流というように、俺が考えた調理方だ。

 簡単さ。鰻を開き、等間隔で身と皮の間を串で刺し、秘伝のタレを塗りたくりながら火で炙る。それを飯に乗せ、最後に追うように秘伝のタレをかける。これで完成だ。

 しかし、予想じゃそろそろ世間もやり始めるな。そんな気がする。

 

「にしても、椿は魚を捌くのは慣れたか?まだ魚屋に任せてないだろうな?」

「あ、あはは……」

 

 椿は都合の悪い時、苦笑いをする。昔の椿と差異はない。寧ろ、同一人物かのように思える。

 

「ハァ…分かった。俺が後で教えてやる。生きた魚買ってくるから。」

「まさか、〆るところからやるんですか……?」

「当たり前だ。」

「あーうー…」

 

 諏訪子の真似をしてたらなった口癖も、彼女が苦手とするものも、質問する時に首をちょいと傾けるのも、すべて生前の彼女だ。明らかに一致する。しかし、明らかに違う。

 どこか、暗い。もっと明るかった。彼女の一番良いところは明るいところだ。

 昔、彼女にそれを言ったら激しく喜んでいたのを鮮明に覚えている。そんな彼女が、こんなに悲しい目をするだろうか?否、あり得ない、余程の事がない限り……いや、あった。彼女には余程なんてもんじゃあない死があった。

 だからと言って、生き返ったのならば明るくなれるのでは?とも一瞬思ったが、それは人による。

 駄目だ、考えたら考える程分からなくなる。

 

「零様?お口に合いませんか?」

「え、あ、いや、違う。考え事をしていたんだ。」

「そうでしたか、てっきり……」

「椿のご飯は俺の好物だ。合わない訳がない。」

 

 そう言って、つい昔のように頭を撫でてしまった。

 

「えへへ……」

「ッ!?」

 

 今、確信した。彼女は東風谷椿だ。間違いない。頭を撫でたときの、声、笑顔、動作。すべてが東風谷椿だ。

 だとしたら、そもそも何故、彼女は生き返ったのか?どうやって生き返ったのか?

 分からない。やはりどう考えても───

 

「ごちそうさま、美味しかったよ。」

「お粗末さまです。」

「お粗末なんかじゃあないさ。旨かったぞ。」

「えへへ、ありがとうございます。」

 

 一瞬、彼女の悲しい目は消え失せ、昔のように笑った。そうだった。彼女はそういう人だった。人前では華奢な姿を見せ、女性から憧れの存在として目を向けられていた。が、諏訪子や神奈子、俺の前では甘えん坊になるのだ。

 諏訪子や青蛾が羨ましそうに見ている。そんなに椿の頭を撫でたいのか。

 

「それでは、私は器を洗いに行きますので、おくつろぎ下さい。」

「手伝うか?」

「いえ、家事は私のお楽しみになので。」

 

 なら、お言葉に甘えさせていただくか。俺は腰を持ち上げて部屋に戻り、考えることにした。

 布団の上に胡座をかき、正面に丸が座った。

 

「零さん、彼女は……」

「椿は間違いなく、椿だ。あぁ、間違いない。」

「そうですか…しかし……」

「あぁ、丸の言いたいことも分かる。」

 

 どうやって生き返ったか?ということ。

 先にも言ったが、彼女には生き返る身体がない。考えられるのは、『黄泉からの刺客』として現れた。

 それなら無いことはないのだ。言い切れる理由は、ユナ・ネイティブを最初に殺した後、俺は奴を完全に燃やした。骨が溶ける程、熱く。

 しかし、奴は再び目の前に現れたのだ。

 

 それを考えると、彼女が目の前にいるのも納得がいく。彼女の死は、決して忘れない。あの不幸を、忘れるわけにはいかないのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。