東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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永琳の苦労 Ⅴ 『後悔』

「出来たーーーーー!!」

 

 私の大きな声に周りの部下や、都の住民でさえ歓声を上げていた。私の鼓膜が歓声を味わうと、今までの重荷がふっと軽くなったような気がした。同時に今までの疲れを自覚した。

 私、こんなに頑張ったのか。巨大なロケットを見上げて、私は私を褒めた。

 

「終わったわね!」

「あぁ、そうだな…」

 

 零の顔はなんだか浮かない表情をしていた。なにか、心配事をしている時の表情だ。

 

「どうしたの?」

「え?あぁ、考え事。良かったよ、完成して。」

「そうね…」 

 

 零は歓声の中をひっそりと歩き、研究所へと帰って行った。どうしたのだろうか。

 

────────────

 

「乾杯!」

 

 ロケットが完成したということで、製作陣チームと部下達とで打ち上げをすることになった。だが、やはり零は何かを考え込んでるような難しい顔をしている。ここまで考え込んでいる零は久々に見た。

 

「本当にどうしたのかしら…」

 

 心配している中、宴は構わず行われた。いつものように部下たちがバカ騒ぎをし、製作陣チームもつられてバカ騒ぎをする。酒の強さで勝負をする人はこぞって外で吐きに行った。薬剤を取り扱う者たちとは思えないほど、急性アルコール中毒を考えていない。師匠として怒るべきだが、それは明日にしておこう。

 そして夜も深け、例のごとく部下たちが酔いつぶれた頃、彼のことを思い出し、その姿を探した。

 

「あ、いた。」

 

 そこには空の盃をもって机に顔面を置いている零の姿があった。彼の周りには酒瓶が数え切れないほども転がっており、致死量の約50倍程の量だった。

 

「………ヒック。」

 

 いや、バカでしょう?おおよそ、何か考え事をしてて、いつの間にかこんなに飲んでたのだろう。ホント、バカだ。ていうか、バカだ。

 

「それにしても、この人は一体何を考えていたんだろう?」

 

 あんなに長考していたのだから、きっと難しいことだったのだろう。若しくは、きっと零の事だから「風呂とかどうするんだろう」とか考えていたのかもしれない。零はお風呂好きだから。

 

「さてと…」

 

 周りを見ると皆、床やテーブルに寝っ転がっている。いびきがうるさい。流石にこのまま寝かせたままにするのは、師匠として許せない。私は一人で部下たちを背負い、全員を隣の部屋まで運んだ。

 

──────────── 

 

 いよいよ、この時が来た。ロケットがあと少しで出発する。私たちはロケットの中に入り、真空や超高熱にも耐えることの出来るガラスからもぬけの殻になった都を眺めていた。

 

「ロケット発射まで1時間前です。」

 

 機長のアナウンスが流れた。もう1時間前だ。時の流れは早い。私たちは時間をかけて創り上げたロケットが動き出すその瞬間を、身をもってして体験できるのだ。

 

「楽しみだな~。」

「なぁ、永琳。」

「なにかしら?」

「お前は、俺の事が好きか?」

 

 いきなりの発言に、心臓が跳ねる。少し動揺してしまい、目をあちらこちらに泳がせながらも、最後には彼の目を見る。

 

「そ、そりゃあ、好きよ?」

「そうか、俺もお前が好きだ。」

 

 どうしたのだろう。いつになく真剣な眼差しで、私のことを見つめる。

 

「ハグしていいか?」

「え、えぇ、良いわよ?」

「ありがとう。」

 

 本当にどうしたのだろう。彼は私を強く抱き締め、私は彼の胸に顔を埋める。彼の匂いがする。彼も、私の匂いを感じてくれているのだろうか。花の匂いだと言ってくれた。

 

「恋人になる前にも言ったが、俺はお前に出会えて本当に良かった。俺の目的が、とかではなく、八意永琳という君に出会えたことが何よりも幸せだった。」

「うん、私もよ。」

「本当は、この時が来て欲しくなかった。俺の杞憂で終わってくれれば良かった。だが、奴らは来た。」

「え?それってどういう…」

「さよなら永琳、ずっと愛してるよ。」

 

 その瞬間、零は消えた。いや、瞬間移動したのだ。どこに?彼は「さよなら」と言った。慌てて私はガラスの向こうを見る。

 

「なに…あれ。」

 

 そこには大量の妖怪が都を囲うように攻めてきている。大妖怪が1体や2体なんてもんじゃなく、50や60くらい、いや、それ以上か。

 その時、私は誘拐してきた妖怪の最期の言葉を思い出す。

 

「俺達はロケットの事を知っている。」

 

 もしかしてあれは、ロケットが発射するこの日に襲ってやるという意味だったのか。ロケットには都に住む全ての人類が乗る。一点に集まっているため、囲うように襲撃されてしまえば、ひとたまりもない。

 零は、私たちを守るためにずっと考えていたのだ。例え、それを報告した所で、妖怪の大襲撃が無くなる訳では無い。都の人間全員を別の土地へと移動させるのは、むしろそちらの方が時間がかかり、守りきれない。死者を一人も出さないためには、零だけが足止めをして、ロケットを発射させることだった。

 私は一瞬で、全てを理解した。

 

「ここを開けて!」

「分かりました!」

 

 部下は急いで非常用出口を開けようとするが、開閉のボタンは反応を示さない。

 

「開かない!?」

 

 零によってロックされてしまっている。設計士は、彼だった。電力と繋がっているように見せかけているのだ。製作している段階で気付けるはずなのに、彼の頭脳に追いつけない私たちは気付くことが出来なかった。

 悔やんでいると、ロケットがいきなり揺れ始めたのだ。

 

「なに!?」

「ロケットが発射します!」

「なんでよ!」

「発射のボタンが勝手に!」

 

 全て、彼が設計したのだ。彼は、設計していた数年間、私たちを守るために戦っていたのだ。誰にも言わず、ただ一人で。

 

「零!!」

 

──────────── 

 

「すまない、永琳。」

 

 窓の向こうに、大粒の涙を流しながら俺を呼んでいる永琳が見える。お願いだ、後悔しないでくれ。これは俺が選んだ道だ。決して、君が悔やむことでは無いのだ。

 それに、安心してくれ。俺は誓うさ。大きく息を吸い、妖怪共の中心で思い切り叫ぶ。

 

「俺は死なない!生きて、必ずまた君に会いにいく!!」

 

 妖怪共は俺の声に反応し、一斉に襲いかかってくる。これでいい。俺は前腕から青く輝く鎌のような武器を露にした。

 

「『亜空間の原子』!!」

 

 そう叫び、俺は目の前に亜空間を創り出した。そして、その亜空間から無数の黒い手が飛び出し、妖怪たちをそのまま引きずり込んでいく。

 金切り声を上げながら、次々と死んでいく妖怪。だが、妖怪も皆が雑魚ではない。

 

「ッうぐ!?…オラァ!」

 

 横っ腹が削り取られ、そこから俺の小腸が流れ出す。体の中身がなくなる感覚。空気が中身に触れる度に激痛を感じる。流石に動きづらい。

 俺は空を見上げた。ロケットはもう発射してる。100mくらいは飛んだだろうか。やっとロケットの爆風が俺を含め妖怪の所まで到着し、全員を吹き飛ばす。

 200…300…400…500……………1000……………………2000m到達。そろそろだな。零は指を鳴らした。

 すると、空から…核爆弾が落ちてくる。

 

「じゃあな、永琳。また会おう。」

 

 俺の体は宙を舞い、紐状の臓物は竜巻のように渦を巻いている。その渦の中心にロケットの姿を捉えて、なんだか少し笑ってしまった。そして、視界が暗くなった。

 

 永琳、どうか後悔しないでくれ。俺はお前を愛している。お前も俺を愛していると言ってくれた。だから、また会える。愛しているから、また会える。お前が俺のことを愛さなくなっても、俺はお前を愛す。

 

 ただ、それだけだ。

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