丸を旅に連れるようになって初めて諏訪に帰った時の事だ。
「ただいま~」
「うわぁッ!?か、帰ってくるの早くない!?あぁぁ、寝癖がぁ!!」
「うむ、今回ははやく帰ってきた。」
「うむ。」
諏訪にも流石に慣れた芳香はいつものように俺の言葉を反復する。そして、毎度恒例の諏訪子の叫び声に耳を抑え、本殿の中へと入っていく。
初めて諏訪に訪れた丸は緊張した面持ちで中を覗いている。
「お、お邪魔します。」
「新しい仲間だ。おー、男だ。珍しい。」
どう言う意味だ。
久々の諏訪子のテンションに苦笑いをしながら頭を撫でてやっていると、襖の向こうからドタドタと騒がしい足音を立てながら何かが近づいてくる。
その音源が襖を勢いよく開き、その勢いのままに迫ってくる。
「零さまーーーッ!!」
「へぶらッ!?」
「うわぁ、痛そう。」
俺は長生きしているため、ちょっとの帰省程度だが、椿にとっては久しぶりに会った。そういう感覚なのだろう。
俺を見るや否や、腹に飛び込んできた。痛いです。そして、青蛾の他人事な言葉に腹が立つ。
「お帰りなさいませ~。」
「た、ただいま……」
消えるような掠れた声で返事をし、椿を撫でた。
「えへへ……」
「……」
鳩尾が痛い。その感情を全力で抑え込んで、ニコッと笑った。思えば、出会った当初は人見知りだった。一緒に遊んで信頼を得た。よく一日でここまで懐かれたなと自分で自分を褒めてやりたい。旅再開の時はギャーギャー泣いてた。
「お、大きくなったな。」
「ハイ!!」
チラッと前を見る。
「なんで私を見るのさ!?」
諏訪子は越えたな、確実に。
「やあ、今回は早いな。新しい仲間も連れて。」
「何となく帰ってきた。今回は長く居座るかもしれん。」
「聞いてないけど。」
呆れたように俺を見る。俺がいつも無計画なのは今に始まったわけではない。
一年はここに居ようか。などと考えていると、椿が俺を見上げながら満点の笑顔で話しかけてくる。
「零さま!!私、お料理練習しました!!」
「なら、今日は椿の手料理だな。」
「ハイ!」
「この子、凄く上手になったんだから。」
まるで我が子を自慢するように、えっへんと腰に手を置いて言った。いや、諏訪子や神奈子にとって、今までの歴代巫女は娘同然なのだろう。
「あーッと、椿?そろそろ離れてくれるか?身動きがとりづらくてな。」
「じゃあ、頭を撫でて下さい。そしたら離れます。」
とてつもなく可愛い。反抗期は来ないでほしい。
反抗期が来た巫女は何人もいた。その度に落ち込んでしまうんだよなぁ。これが、子を持つ父親の気持ちなのだろうか?
「幾らでも撫でてやるさ。」
「あーうー……」
頭に手を置いて撫でると、たまに諏訪子が言う『あーうー』と言う謎の言葉を発する。椿が真似してたら口癖になっちゃったやつだ。寧ろ、本人より言ってる。
「ずるいなぁ…」
「……諏訪子、こっち来い」
「!」
察したようで、嬉しそうに近寄り頭を差し出してきた。
「ほい!!」
「よし…」
諏訪子を撫でたのは久々な気がする。
気持ち良さそうに笑顔で顔を緩めた。青蛾がガン見してくるが、無視しておこう。
「それじゃあ、ごはん作ってきますね。」
「おう、期待してる。」
離れるときに残念そうな顔をしていた。まだ反抗期は来ないはずだ。
「にしても、諏訪子は本当に零が好きだね。」
「まーね。夫になってほしいぐらいよ。」
その言葉に、心臓が大きく跳ねる。
「あー……えっとな…」
「分かってる。零が一途だってことは。」
「損だよな~、一夫多妻だよ?神の世界は。いや、人間も偉い奴は皆そうだ。」
それが、俺は好かない。女性は一つの方向を愛するのに、野郎はあらゆる方向を愛する。それが気に食わない。気持ち悪いだ。
諏訪子や、青蛾は、自惚れでなければ、俺のことを好いている。が、俺は永琳と同じように愛せるか?と言われれば、無理だろう。理解ができない。多くの女性は愛せない。
青蛾をチラッと見る。いや、やはりできない。俺は、永琳ただ一人。青蛾を好きだと想うことは多分ないだろう。
俺が永琳以外の女性を好くなど、砂漠に落ちた米粒を見つけることと同じぐらい難しい。
「まぁ、お前の考えは理解できなくもないがな。珍しい奴だよ。全く……」
「世間がおかしいのさ。」
絶対、将来的には俺の考えが当たり前になるはずだ。
____________________________________________
神奈子も参戦し、暫く雑談に花を咲かせていると、奥の方から鼻をくすぐる香ばしい匂いが神社内に充満する。椿の料理だろう。
「出来ました!!どうぞ召し上がって下さい!!」
「やべぇ、めっちゃ旨そう。いただきます。」
「いただきます。」
煮物、緑野菜の素揚げ、サンマの塩焼き、お吸い物、玄米と、庶民的なものなのに、見た目が高級な食べ物並みに旨そう。
煮物の人参を口の中に入れてよく噛む。すると、ほのかに温かく、中まで味が染み込んでいて、柔らかすぎずに味も食感も美味しい。
素揚げもパリパリして、塩はつけておらず素材そのものの旨味が伝わる。しかも、その伝わり方が衝撃的だ。塩もなにも付けてないのに、旨味が溢れるように分かる。どう調理したらこうなる?
他の献立も非の打ち所もない旨さだった。永琳と一位二位を争う。
「ご馳走さま。」
「はやッ!?」
「旨かった、マジで旨かった。」
「えへへ、ありがとうございます!」
諏訪子が自慢してきたのも納得がいった。この成長具合は、育ててきた諏訪子からしたら、この上なく嬉しいのだろう。
「こんなにもうまくなったなら、『あれ』を教える時が来たか。」
椿は首を傾けてこちらを見つめる。諏訪子や神奈子は「ついにか…」と感慨深そうに頷いていた。
「あの、『あれ』とは?」
「まぁまぁ、ちょっと台所に来てみな。あ、諏訪子、鰻ある?」
「あるよ!」
椿と一緒に俺が開発した『鰻の蒲焼き』を教えることにした。が、ここで椿が魚を捌くのが苦手と言うことが分かり、完成には少し時間がかかった。
時間がかかったことに、椿は酷く落ち込んでいた。
「うぅ…」
「別に椿が下手な訳じゃない。ちょっとずつ、出来るようになろうぜ?」
「はい…」
「さ、食いな。食ったら気分も上がるもんさ。」
そう言われ、パクッと食べた椿。瞬間、驚いたようで、暗い気分どころではない。すぐに笑顔になり、嬉しそうにまた一口、また一口と、箸は止まらずどんどん進む。
「零さま!これ美味しいです!」
「だろ?」
こんな一時がずっと続けばいいのにな。そんな遠い未来になりそうな夢を見ても意味はない、分かってはいるが…
ご馳走さまでしたと、笑顔な椿の頭を撫で、無理に笑顔になった。
ご閲覧していただき、ありがとうございます。作者の薬売りです。
リメイク前の東方化物脳に追いつきました。そのため、これからは一から文章を作る形になるので、一日一本のペースは出来なくなります。私のリアルのこともあるため、不定期更新になると思われます。それでも読んでいただけると幸いです。
これからも東方化物脳をよろしくお願いします。