東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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椿の香り ⅩⅠ 『原罪』

椿は今までの敵とは比にならないほど強い。能力だよりの力ではなく、美鈴すらも相手にならない彼女の潜在的な力が非常に厄介だ。さらに、皮肉にも椿は俺の事を熟知しており、決して驕らず警戒している。

 椿への迷いを、俺は捨てなければならない。だが、どうしても思考に迷いが生じる。

 

「零様、だんだんと動きが鈍くなってきていますよ?」

「クソッ…」 

 

 椿の攻撃を防いで、防いで、防いで…それを繰り返してしまっている所為で俺の体力が削れていく。一方、椿は激しい打撃を延々と与え続けているにも拘らず、息が軽く上がっているだけ。

 椿は俺の顔面を目掛けて拳を振るい、それを紙一重で避ける。しかし殴りぬけることはなく、彼女は勢いのまま俺の腕を掴んだ。

 

「つーかまーえた。」

「『空中分解』ッ!!」

 

 何かをされる前に、俺は萃香の技から参考にした『空中分解』を唱えた。細胞一つ一つを切り離し、空に分解する。

 椿の手から逃れることができると、俺はすぐに細胞を集合させて元の形へと戻る。

 

「すごーい!奇想天外な技を魅せていただけるのですね!」

 

 悔しがる訳でも無く、まるで奇術師の技を間にした時のような無邪気な反応をする。コロコロと変わる椿の表情に、なんとも言えぬ悲しみを抱いてしまう。

 それが、迷いに繋がってしまうというのに。

 

____________________________________________

 

 美鈴と結界を張って30分程が経った。零は強い。いつもなら短時間で全てを終わらすのだが、彼の霊圧は未だに収まらない。

 私たちは手助けをすることは出来ない。これは、彼の意思である。彼らしいし、彼らしくない意思だった。彼はいつもどこか人間的で、どこか機械的な思考をしている。しかし、今回のこれは人間的な感情のみの判断だった。

 いつものような彼の強みは、欠けて言っているような気がした。それほど、椿の死と蘇りが彼にとって堪えがたい傷となってしまったのだろう。

 私に、何か出来ることは無いのか。私は彼に、何をしてあげれる?彼の淀んだ瞳が頭から離れずに、私の思考の邪魔をする。

 私が深いため息を吐いていると、美鈴が私に話しかけてくる。

 

「青娥さん、誰か来ました…」

「え?」

 

 顔を上げると、遠くの方にこちらへと向かってくる人影が見えた。女性の方だろうか。 

 

「すみません、ここから先は危険ですので通せないです!」

「美鈴さん、なにか彼女おかしいですよ。」

 

 美鈴が人影に呼びかけるが、丸が警戒を促す。私は目を細め、その風貌を詳しく見ようとする。

 杖をついているが、老婆のように腰が曲がっている訳では無い。というより、地面に杖を続きながら歩いている。目元が布で覆われており、茶色の髪をした女性だった。

 なにか、既視感を感じる。

 

「お初にお目にかかります。零様の、ご友人の方ですね?」

「貴女は一体…?」

 

 丸が彼女に問いかける。すると、その足を止めニヤリと口角を上げる。 

 

「私の名前は───」

 

____________________________________________

 

 椿の猛撃からの防御も限界が近くなってきた。防ぎきれなかった拳が頭蓋骨の右側を捉え、俺の眼球が潰れてしまった。左目だけで戦うしかない。

 どうすればいいのだ。彼女は未だ笑っている。

 

「零様、どうしたのですか?貴方様の本気を魅せてください。分かっているのですよ、貴方様が本気になれば私なんて一瞬だってこと。」

 

 彼女の言っていることは間違っていない。最初こそ、彼女も容赦がないように捉えていたが、これだけ攻防が逆転しなければ察してしまうだろう。

 

「やっぱり、零様は私を傷つけたくないのですね。意を決したのも、続かなかったのですね。私に未練がおありで?」

「………」

「フフ、無言は肯定と捉えますね。」

「椿の言う未練とは違…」

 

 全てを言い終える前に、俺の体は動かなくなった。

 まただ。またあの時のように、身体がビクとも動かなくなった。それ見た椿は妖しく、ゆっくりと近寄ってくる。

 椿は俺の頬に手を添えて、息を漏らすように笑う。彼女は囁くように、俺の耳に向かって話しかける。 

 

「貴方様は私を性的な目で見られないのですよね。それは、仕方がないですよね。貴方様にとって私は娘のような存在。大丈夫、分かっていますから。怒ってしまってすみません。」

 

 それにしては、誘惑するような熱っぽい声色で囁き続ける。

 

「でも、もう安心してください。その認識から、私が解放してあげます。私のことしか考えられないようにしてあげますから…」

 

 椿は頬に添えている手とは逆の手を、俺の胸に置いた。それを滑らすように下に移動させる。寒気が背筋を走る。このままでは、俺の精神が保てられない。

 俺の心の弱さが、彼女をこのようにさせてしまったのだ。俺の所為で、俺の関わる人間は不幸になるのだ。これは、俺への罰なのだろうか。生まれた罪への罰。

 ならば、俺はこの心を捨てなければならない。ただひたすらに絶望し、虚無感を抱き、償うことにした。俺に関わってきた者たちへの償いを。

 ニッコリと笑った椿は、生前の輝かしい表情と何一つ変わらなかった。

 

「抵抗しようとしなくなりましたね。貴方様の目に、決意が失われました。ふふふ、分かっていただけたのですね!」

 

 そういうと、俺の身体が動き始めた。

 

「えへへ、ずっと一緒ですよ。零様…」

 

 椿は目を閉じて、俺の顔を寄せようとした。そんな彼女を、俺は思い切り殴りぬける。椿は強い衝撃波を纏いながら後方へと吹っ飛んでいき、何度か地面に衝突しながら転がった。

 

「え…?」

 

 理解ができていないようだった。しかし、関係ない。俺は『瞬間移動』で彼女の上まで移動し、予備動作なく両手両足を殴る。骨が砕ける音が4回響き、それぞれが曲がるはずのない方向へと曲っている。これで、椿は開放されることに従順になる。

 

「え、え?なん…」 

 

 椿の顔面を掴み、軽く持ち上げる。それを地面に叩きつけると彼女を中心に半径50m程のクレーターが出来上がった。地響きは数秒後に収まり、内蔵がぐちゃぐちゃになったであろう。これで、椿は苦しみの声を上げなくて済む。

 

「もう、苦しくなくなるからな。」

 

 これら全ては、俺の責任だ。俺の心の弱さ故の罪と、それに伴う罰。俺は償っても償いきれない。ならば、せめて椿をこの大きな苦しみから解放してあげよう。今度は俺が彼女の頬を摩った。俺の大きな愛を持ってして、彼女を終わらせてあげよう。

 そうして、俺は拳を振るう。

 

「あ〜ら〜?いけませんよ、零様。」

 

 体が動かない。空を向いた俺の拳は、彼女の脳みそを破壊することは無かった。そして、聞き覚えのある声が後方から聞こえる。

 その声の主は俺の横を歩き、椿に跨いで俺を見下ろしているようだ。目さえも動かせないため、その声の主の足しか見えないが、いや、彼女の杖も見える。

 

「どうして、お前がいる?」

「貴方様に会いに来たんですよ。それと、この未熟な娘を回収しに来たんです。」

「そうじゃない。あれから歳月が経って、人間なら寿命を迎えるはずだ。それなのに、なんで生きている?『空蝉 菜々』。」

 

 彼女の名前を呼ぶと、本人は息を漏らすように笑う。

 

「私が、あなた達の言う『黄泉からの刺客』だからです。」

 

 そういう事か。椿を苦しめることとなる直接的な原因の手下が、俺の前に立っている。

 

「この娘も、私の存在に気付いたから最後の力を振り絞って特典の力を使ったようですね。」

「青娥たちはどうした。」

「んー、まぁ、死んでませんよ。構ってたら時間がなくなって零様がこの娘を殺していたでしょうし。」

 

 殴りたい、この女を。しかし、俺の拳は椿の特典の力により動かすことが出来ない。

 空蝉は椿を担ぎ、俺の後ろへと歩いていく。

 

「ふふふ。さて、私はこれでお暇させていただきますね。また、会いましょうね。私の愛しい人。」

 

 そう言い、空蝉は俺の頬にキスをして去っていった。それから十分程経過し、体は動き出して俺の拳は何も無い地面を殴った。

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