俺はクレーターを後にして、青娥たちの所へと『瞬間移動』をした。そこには傷だらけの三人と、刃こぼれした丸の刀が地面に刺さっていた。
「零…さん!目が…いえ、生きていただけで…何より、です。」
三人は気絶しているが、丸は辛うじて意識を保っていたようだ。俺は丸の柄頭に触れ、霊力を送る。すると、刃こぼれはまるで嘘かのように消え失せ、いつもの鋭い刃と輝いた。
「ありがとうございます。実は…」
「わかってる。彼女も椿と同じ『黄泉からの刺客』だ。」
「そうなんですね。」
俺はそれぞれ三人の身体に触れ、『治癒の細胞』で傷を癒す。土なんかは付いているが、傷はひとつ残らず消えたことを確認する。そして漸く、俺は自分の傷を治した。視界が元に戻る。
「丸、帰るぞ。」
「はい。」
俺は青娥と美鈴を背負う。その際、丸は自分が背負うと言ってくれたが、丸には芳香を背負うように指示をした。
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諏訪大社に戻り三人を寝室に寝かした後、事の顛末を諏訪子と神奈子、そして紫と藍と丸に話した。皆は俺の言葉を遮ることなく、静かに聴いていた。
「これが、今回の出来事だ。」
「…そっか。」
諏訪子は驚く様子もなく、椿の正体を受け入れた。彼女も覚悟していたのだろう。しかし、同時に悔しさが込み上げていることを俺は知っている。それも、俺以上に。
諏訪子は、椿の育ての親だ。小さい頃から今まで全てを知っている諏訪子にとって、椿の変貌は言葉では表せないほどの悔しさでいっぱいなはずだ。
「俺は今回のことで、自分の情けなさを痛感した。」
「零…」
「奴らの狙いは俺だ。その俺を中々殺せない為に、椿は利用されたんだ。」
畳の目を見詰めながら、今の俺の素直な気持ちを吐露する。俺の性格を知っている皆は、頭ごなしに「そんなことは無い。」と言わずにいてくれる。こんなにも人に恵まれているのに、俺はそんな彼女らを護れないのだ。
最初は永琳に会うための旅だった。そして、今は自分が何者かを知るための旅。長い時の中を歩いている内に、俺の旅はいつしか俺だけの旅ではなくなった。俺の、大切な友人との旅となった。そんな彼女らを、俺は守れる自信がなかった。奴らの『特典』の力に対抗出来る力が俺には無い。
「丸、そして紫。」
俺が声をかけると、二人は俺の目を真っ直ぐと見つめてくれる。
「俺は、これから暫く修行をすることにする。『黄泉からの刺客』から皆を護るための修行を。」
「では、旅は一度止めるということですか。」
「あぁ。青娥、芳香、美鈴には丸から説明してくれ。紫には、申し訳ないが俺が力を付けるまで『東方Project』の件は全て任せていいか。」
俺の言葉に、二人は頷いた。しかし、そんな光景を見て神奈子は慌てるように口を挟む。
「ちょっと待て。丸に彼女らへの説明を頼むということは…お前、1人で修行をするということか?」
「そうだ。」
「…青娥たちが納得すると思うか?」
「だから、丸に頼んでいるんだ。青娥たちが目覚める前に、山に俺自身を封印する。」
その言葉には、流石に頷いた二人も驚いているようだった。神奈子は浅くため息を吐き、呆れるような目を向ける。
「お前、身勝手が過ぎるぞ?」
「なんと言われても構わない。だが、今の俺には奴らから皆を護るための力がない。恨まれてもいい、嫌われてもいい。皆を護りたいんだ。」
「…ハァ。」
神奈子の言うことも理解している。寧ろ、彼女の言うことは全て正しい。しかし、俺と関わる人間は不幸になる。思い込みでは無い。現に、そうなっているのだ。
ならば、誰にも関わらず俺一人で修行をして、俺一人が力を付けるのが一番誰にも不幸は訪れないのだ。
「皆、零のしたいようにさせてあげよう。」
「諏訪子…」
「零は頑固だからね。そう言ったら曲げない人だから。修行から戻ってきたらみんなで1発ずつ殴ろう。」
「え?」
そういうと諏訪子は拳に大量の神力を纏う。俺の頭の形が変わる程の力に、冷や汗が垂れる。
「それぐらい良いよね?」
「あ…はい。」
この場にいる全員が俺に対する怒りで満ち満ちている気がして、気圧された俺は素直に従った。そう怒るのも、無理はないことだ。
「この裏にある山、使って。」
「いいのか?」
「うん。修行から終わっても私の拳から逃げられないためにね。」
「あぁ、はい。」
終始笑顔の諏訪子が酷く恐ろしいと感じるのは俺だけだろうか。
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木々をくぐり抜け、木漏れ日が俺の視界にチラつく中に大きな石がポツンと寂しく鎮座していた。ここら辺が、修行をする場所に相応しいだろう。
俺は歩みを止めて後ろを振り返る。諏訪子と丸と紫も、それに従い足を止めた。神奈子と藍は青娥たちを看てもらっている。
「暫く会えなくなるが、俺は必ず帰ってくる。だから、それまで待っていてくれ。」
「分かりました。」
丸に続いて二人も頷く。それを確認して、俺は紫の方へと顔を向ける。
「『東方Project』の件、改めて謝らせてくれ。すまなかった。」
「ううん、いいのよ。」
「ありがとう。修行を終えたら、結界やらの霊力は任せてくれ。全力で取り組む。」
「えぇ。」
紫は優しく微笑んだ。それに安心してしまう辺り、俺はまだまだ未熟な存在なのだろう。俺自身が頼れる存在にならなくてはならない。
「それと…頼みがあるんだ。」
「何かしら?」
「八意永琳と、その同居している人に俺の事を伝えて欲しい。暫く会えなくなることと、その理由を。」
「…わかったわ。」
その瞬間、紫の目が一瞬だけ曇ったような気がした。しかし、それは気の所為なのだろうと思わせるように、元気に親指を立てる。
「それじゃあ、また会おう。」
「えぇ、また。」
「待っていますよ。」
「またね、零。」
俺は地面に手を付き、霊力を解放する。ここら一体を封印し、その封印された空間で修行を行う。眩い光が辺りを覆う。視界が光のみになった頃、人の気配はなくなった。
光が収まる。ここには俺だけが存在する。動物も虫も微生物もいない。しかし、青い空だけが俺の上で揺蕩っていた。