諏訪信仰の蛙 Ⅰ 『信仰』
暗い。目をつぶっているからだろうか?俺はゆっくりと目を開けた。だが、やはりくらいままだった。星が見える訳では無い。もしかして、ここは地中か?とりあえず、地上まで『瞬間移動』をしよう。口をゆっくりと動かし、土が若干入りつつも唱え、俺の体は地上のどこかへと移動した。
視界は切り替わり、青空が目の前に広がっている。とても綺麗だ。が、それよりも、酷く、身体中が痛い。まるで体が痛覚を思い出したかのように、痛みが駆け巡る。
俺は、自分の体を見た。皮膚は黒く、そして剥がれていて、少し動いただけでボロボロ落ちる。しかし、驚きはしなかった。それは当たり前だからだ。妖怪達を、俺と一緒に核爆弾で討伐したのだから。
幸い、いや、皮肉にも俺は妖怪よりも外れた人外のため生きていられる。
「……ぁ…ぇ……………」
喋れない…これも当然だ。どうやら細胞で回復するしかないらしいが、生憎、もう技名を唱えるほどの気力はなかった。
────────────
一日を費やし、漸く体の全ての器官が完全に治療された。しかし、同時に半端ない眠気が襲っている。流石に疲れ果てた。ここで寝てしまおう。
「お休みなさい。」
こだまする訳がないことを知っていながらも、その言葉を言い、眠りについた。
────────────
目を開くと、目の前には木造の天井があった。流石に動揺し、体を起こす。
「あ、起きた。」
俺が起きた瞬間、誰かの声がした。女性…いや、女の子のような幼い声だ。右にその声の主がいた。目玉の付いた帽子をかぶり、足を伸ばしてその少女は寛いでいる。
「ここはどこだ?」
「ここは諏訪の国さ。」
どうやら、この少女が住んでいる『諏訪』という国らしい。しかし、何故そんなところに俺はいるんだ?
「俺は何故ここにいるんだ。」
「私が運んだからだよ。」
放射能が漂っているあそこから…?にわかには信じ難いが、事実、俺は建造物の中で目が覚めた。
「どうして俺を運んできたんだ?」
「どうしてって…散歩の道中に人が倒れてたら、流石に放っておけないでしょ。」
「そうか…ありがとな。」
どうやら、この少女は倒れてた、もとい、眠ってた俺をここまで運んでくれたのか。
「ムフフ、もっと褒めて良いよ?」
「よし、もっと褒めてやる。」
子どもはかわいい。よく都の道でケンケンパをして遊んでいる子どもなんかを見て、思わず微笑んでいたのを覚えている。懐かしい。暫くロケットを造っていたから、都に降りることが少なくなっていた。
俺は言われた通り、10分程褒めまくった。
「そこまで言われると照れるな~。」
「ハハハ、可愛いな。」
「え、そう?可愛いのか~、照れるな~。ムフフ。」
子どもとこうして相対して関わることはロケットの製作前でもそうそうなかった。これを機に、めいっぱい可愛がろうとしたが…
「君は…」
「もうそれ以上言ったら照れすぎて死ぬからもう良いよ。」
どうやらギブアップのようだ。
俺は布団からやっと外に出て立ち上がり、軽く体を伸ばす。どうやらどこも異常はないらしい。自分でも化け物じみていると思う。
「そうだ、君の名前を教えてくれないか?」
「洩矢諏訪子だよ!ここの国の祟り神をやってる。」
「そうか、祟り神。え?祟り神?」
この少女が、祟り神?
「うん、皆からは、『御社宮司様』って呼ばれてるよ。」
確かに、人間は神すらも創り、祀った。神はそれぞれ信仰心に比例した神力を持っているはずだ。なのだが、彼女からそれを感じ取ることが出来ない。だからか、彼女が神であることが分からなかった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。そんな事より俺の名前を言ってなかったな、俺の名前は『神田零』だ。宜しく。」
「神田零か~、宜しくね。」
俺が手を差し伸べると、諏訪子はその手を掴み握手をする。それにしても、御社宮司様か。聞いたことがない。いつから存在する神なのだろうか。神力のこともあり、少し気になる。
「ところで、諏訪子。」
「ん?」
「君はいつから存在する神なんだ?」
「大規模な爆発がこの近くであったらしいんだけど、その後に生まれた。」
大規模な爆発とは、恐らくロケットのことだろう。そういえば今更ながら、この地球から穢れがそこいらから感じ取れる。もしかして、あの爆発により大量の妖怪が死んだことによって、異常な程の穢れが地球を蔓延しているのだろうか。非常に興味深いな。
「零はいつ生まれたの?」
「俺か?俺は正確にいつ生まれたかとかは分からないけれど、この星が滅ぶ遥か前には既に生まれてるよ。」
「いや、なんだその冗談。」
「冗談じゃないぞ?」
確かに、この地球で生まれたからには、それ相応の物差しでしか測れないだろう。彼女が困惑するのも無理はない。
諏訪子は人差し指で皺の寄った眉間を押さえる。
「えっと、本気で言ってる?」
「あぁ、本気だ。だから力もあるぞ。」
「へ、へぇ?じゃあ、見せてくれない?」
なんだか、永琳と出会った時の頃を思い出した。彼女も自分の物差しで測りきれない俺に対してどう接するべきか分からないようだった。
「あぁ、良いぞ。『亜空間の原子』。」
そう呟くと、諏訪子の目の前の空間が歪み、そして切れ目が生まれ亜空間が発生した。実は、亜空間は2種類扱うことが出来、一つは俺の荷物置きにも使っており、もう一つは攻撃手段として使っている。今広げているのは荷物おきの方だ。
「ス、スゲー…」
諏訪子は目を輝かせているが、そんなにスゴいのだろうか。俺としては最初からできる能力であるため、よくわからない。だが確かに、永琳も興味深そうにしていた。特殊相対性理論がどうとか、なんだかブツブツと独り言を言っていた。
「種族は地球に来た時に人間に変えたけど、元々何だったのかよくわからないんだ。」
「種族を変えた!?じゃあ、『神様』に成ることは出来る?」
「まあ、やろうと思えばできるけど。」
俺の発言に、諏訪子は分かりやすく声色を明るくした。
「じゃあ、神様に成ってこの神社の一柱になってよ!」
「え?」
勢いよく俺の手を掴み、キラキラと輝く期待を孕んだ瞳で俺を見つめてくる。ここから、俺は新しい一歩を踏むことになる。しかしその一歩は、一体どこへ向かうのだろうか。