東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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幻想の園に夢の花を
幻想の園に夢の花を Ⅰ 『苦労』


 明治18年。徳川の統制は終わり、西洋の文化を取り入れた街並みに、彼はどんな反応を示すのだろう。もちろん、封印されている辺りは自然で溢れているものの、街へ降りればそれを拝めるだろう。

 しかしその前に、彼を1発殴らなければならない。私を散々待たせたのだ。

 

「永琳、もうちょっとで着くわ。」

「ありがとう。彼を殴れるのが楽しみだわ。」

「私も楽しみだよ。」

 

 紫が私の所に来て零の話をしてきた時には、悲しみで涙が溢れかえったが、今となっては彼の身勝手さに腹が立って仕方がない。それは、私の隣を歩いている諏訪子というこの地域の神も同じようで、私たちは目線を合わせてイタズラっ子のような笑顔をお互いに見せる。

 

「それにしても、彼の旅を共にした彼女たちは何処へ?」

「青娥は怒り狂って芳香を連れて旅へ出たため、今何処にいるかは分からない。美鈴はあの後、西洋の妖怪に拾われてメイドをしているそうよ。その館の主が我儘でね、本当は来たいらしいのだけど、許可は得られなかったらしいわ。」

「義経さんは…」

「ここにいますよ。」

 

 紫の持っている刀から声がする。少し驚いたが、どうやら彼は具現化するタイプの霊魂のようだ。

 義経さんは育ての親の所へと帰省し、彼の復活をそこでずっと待っていたらしい。育ての親は鞍馬天狗らしく、零の親友だという。私の知らない間に、友好関係は計り知れないほど広がっていたようだ。

 

「さて、目的の場所に着いたわ。」

 

 木漏れ日が落ちたところに、大きな石が寂しそうに存在していた。風に揺られ木の葉が歌う。ここに、彼がいるのだ。

 

「封印が、緩んでいるのね。」

「そうなんだよ。だから、そろそろかなって思ってね。」

 

 今にも解けそうな紐を見ているようだった。少しの弾みで、この封印は解け、彼が現れる。

 

「まさか封印の中で死んでいるなんてことないよね…?」

「それは無いわよ。彼は…零は生きているわ。」

 

 諏訪子の疑問もご尤もだが、零は生きている。身勝手な人だけれど、彼は約束を破らない。私がこの世にあり続ける限り、彼は生き続ける。つまり、彼が死ぬことは無い。私を置いていかないのを、私は知っている。

 その時、時空が歪み始めた。封印が、解ける。

 

「キタキタ!!」

「えぇ、やっと彼に会えるわ。」

 

 時空は上下左右がグチャグチャになり、三半規管も頼りにならないほどの目眩や吐き気が私達を襲う。しかし、そんなことよりも彼に会える期待が勝り、誰一人として顔色を変えなかった。

 眩い光が辺りを包む。暫く目が開けられずにいたが、次第にその光は薄まっていき、ついにその光は鎮まった。

 私は、ゆっくりと目を開ける。目の前には、一人の男がいた。

 

「…久しぶりだな、永琳。」

 

 気が付いたら、私は彼に抱きついていた。彼を殴ろうとしていたのに、説教をしようとしていたのに、笑って許そうと思ったのに、私は身体が勝手に動いて、泣きながら彼の温もりを感じていた。久々に嗅いだ、彼の匂い。懐かしく、そして落ち着く匂いだった。

 私の泣き声が山の中に響く。紫や諏訪子も、それを涙ぐみながら微笑んで見ていた。

 

____________________________________________

 

「何か言うことは?」

「すみませんでした。」

 

 瘤を三つ作った零は諏訪大社の床の上に正座している。義経さんにも殴るように勧めたのだが、遠慮していた。

 

「私たちがどれだけブチブチにブチ切れたと思ってるの?私の銀髪が白髪になっちゃうわよ。」

「いや、もうほんと、すみません。」

「青娥なんてもう、今まで見た事がないほどキレ散らかしてたからね?」

 

 諏訪子は恐怖に身体を震わせる。その様子を見て、零は青ざめている。

 

「あ、あの〜、青娥さんは今どこにいらっしゃるのでしょうか…?」

 

 零がいつにもなく怯えながら訊くと、紫が呆れながら青娥と芳香、それと美鈴のことについて説明をする。それを聞くと、零は吐息混じりに「そうですかぁ…」と声を漏らした。

 

「後で謝罪巡りさせていただきます…」

「そうしなさい。」

 

 そう言って、私はもう1回彼を軽く殴った。瘤のところを。

 

「でもその前に、紫との約束を守らなくちゃな。」

「そうよ、ずっと待ってたんだから。いつでも取りかかれるわよ。」

 

 そう言って、紫は腰に手を当てフンと鼻息をわざとらしく吹く。

 

「ありがとう、紫。」

「フフン、どうってことないわ!」

「それなら…早速取りかかるか。」

「え、今?」

「いつでも取りかかれるんだろ?」

「まぁ、そうだけど、修行が終わったばかりじゃない。」

 

 流石に疲れているだろう?と、紫はあたふたとし始めたが、そんな彼女を見て零は納得したように笑った。

 

「大丈夫だよ。最後の方はずっと瞑想していたから。そんなに疲れてないよ。」

「そうなのね…因みにどれぐらい瞑想していたの?」

「あ〜…ざっと一億年かな?」

 

 …うん?

 

「ちょっと待ってくれない?なんて言ったの、今。」

「え?だから、一億年ぐらいかな。」

「修行期間は300年弱でしょ?一億年なわけないでしょ…?」

「封印した空間は時間の流れをできる限り遅めたからな。」

 

 彼のぶっ飛んだ発言に、この場にいる誰もが思考を停止させた。開いた口が塞がらないという言葉の真髄を噛み締めている気がする。

 

「えっと…だとしたら、貴方は一体どれだけあの空間にいたの?」

「1兆年。」

 

 幼い子どもが言ってそうな数字が出てきた。にわかにも信じ難い、とも言えないのが零の不思議なところである。この人なら有り得そう。

 

「だから寂しかったよ〜、えーりん。」

「待って、私の脳が貴方を受け付けようとしていないから。」

「え、酷くないか?」

 

 化け物のような彼の行動力を改めて実感した。月の脳では処理しきれない程の歳月だ。

 

「それほど、貴方は本気で皆を護ろうとしているのよね。」

「…あぁ、もちろんだ。」

 

 ふざけたような態度をしていた零も、その言葉だけは力強く口にした。その目には今までに見た事もない程の、零の決意を感じた。

 

「ハァ…分かったわ。貴方って本当に極端よね。」

「だからこそ、昔の比にならない程の力をつけたぞ。」

 

 そういうと、彼は指先から一瞬だけ霊力を放つ。私たちに向けられている訳でもないのに、その霊力を感じるだけでその場の全員が心臓を突き刺されるような恐怖を抱く。

 

「な?」

「貴方、極めすぎよ…」

 

 白髪どころか髪が抜け落ちるかと思った。今執筆している『永琳の苦労』という本に、新たなエピソードが加わることになるだろう。

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