中編 プロローグ
学校はとても楽しい所です。友達もいるし、勉強も部活も充実しています。学校帰りにはみんなとカラオケに行って、ラーメンを食べたりしています。家では学校で流行ってる曲を聞いたり、流行ってるゲームをプレイしたり、流行ってる漫画を読んだり、流行ってるドラマを見たり…それを次の日の学校で友達と話すんです。
勉強はできた方が友達に頼られるから毎日しています。必ず共通の話題にもできますから。部活もみんなの足を引っ張らないために空いているポジションに必要な技術を磨いています。カラオケは流行りの曲を歌えた方が盛り上がります。
「それで?」
「え?」
目の前の男性はつまらなさそうにタバコの煙を吐いた。
「君はそんな最大公約数的な処世術を実行している訳だが…君自身のことは?」
「僕自身?」
和服なんて古風な服を着ているのに、メビウスを吸っている男性が煙を肺に含み、ため息のように煙を吐いた。
「…君の好きな科目は?」
「えっと…」
「サッカーのどういうところが好き?」
「あの…」
「好きな歌は?」
「ちょ…」
「好きなラーメンの味は?」
「ちょっと待って!」
畳み掛けるように質問をしたと思えば、またつまらなさそうにメビウスを吸う。
「もう一度問おう。君のことを教えてくれ。」
僕は───
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「上嶋。どうだ、目覚めの気分は。」
「…なんか悪夢を見た気がします。」
「正夢かもな。授業終わったら職員室に来い。」
僕は目を擦り、ぼやけた黒板に目を凝らす。すると次第に目のレンズが調整されて、板書された漢文とレ点が顕になる。隣や後ろからは抑えるような笑い声と哀れだという感情を乗せた視線が刺さる。きっと後で弄られることは間違いないだろう。
それにしても、僕はどんな夢を見ていたのだろうか。あまり覚えていない。酷く焦燥感に駆られ、不安の渦に臓物が巻き込まれていたような気がする。
僕は汗を拭う。今は春だ。暑いはずは無いのだが、額から滲み出た水滴は僕の顔のラインを象った。
「来年に受けることになる共通テストには漢文にルビなんて書かれてないからな。気をつけろよ。」
教師の言葉に文句を垂れるクラスメイトの声が重複する。
「それじゃあ、上嶋。寝てた罰だ、この文の意味を答えろ。」
指名された僕は立ち上がる。寝ていたのだから分かるわけが無いのだが、何とか予習した知識から無理やりにでも思考を巡らす。
しかし、どうもおかしい。普段ならスっと答えられるのだが、脳が覚束無い。それに、教室が歪んできている。
「おい、上嶋?」
教師に名前を呼ばれた。僕は返事をしようとしたが、どうも喉から言葉が出てこない。そういえば、先程まで黒板を見ていたはずなのに、今は教室の天井が見える。
教師の顔が僕の顔を覗いている。もしかして、僕は倒れているのか?
「しっかりしろ、上嶋!!」
あぁ、でも、これで職員室に行かなくて済むのか。それなら、少し眠っていよう。僕は心配の声に囲まれて瞳を閉じた。