「神になれって言われてもな。俺は人間のままが良いし、人間っていいなだし。」
「そこをどうにか!!」
神になってくれと神に頼まれたのは、おそらく地球上で俺一人だろうな。しかしながら、俺を神にすることで、彼女にどのような利益があるのだろうか。神についてはあまり詳しくは無いため、予想があまりつかない。
「なんで俺を神にしたいんだ?」
「神は多い方が信仰が増えるんじゃないかなって。ダメかな?」
それで果たして信仰心が強まるのかは疑問だが、とりあえず目的は分かった。俺としても、やることが無いため特に断る理由もない。
永琳がいる月に向かうには、人手も能力も足りないのだ。前の種族に戻ればいい話ではあるのだが、その元の種族すら分からない。宇宙を彷徨うことの出来る種族など、調べても出てこない。というより、天文学的な数値が出てくる程には、そんな生物は存在しないとすら言えるぐらいなのだから。
「じゃあ、500年程度なら良いよ。」
「本当に!?ヤター!」
「でも、何の神をやれば良いんだ?」
「あ…」
どうやら、考えていなかったようだ。諏訪子の無計画さが少し面白く、少し笑ってしまった。諏訪子はそれに口を膨らませて怒っているぞと分かりやすく表現してくれた。本当に面白い子だ。
「それじゃあ、『細胞の神』ってのはどうだ。」
「お~、良いね!でも、細胞って何?」
「え?」
神には細胞の概念はないのだろうか。しかし、永琳や部下達は皆知っていた。それだけでなくとも、都に住んでいた一般の人間も常識的に知っていた知識だ。だというのに、どういうことだ?
都の人が何もかものデータを持っていったとしても、そんなすぐに忘れられるものでは無いだろう。
「なぁ、諏訪子が生まれる前に起きた大規模な爆発って、どれぐらい前の話だ?」
「あ〜、一億年ぐらい?」
その言葉を聞いた瞬間、視界が歪んだ。一億年だと?俺は一億年もの間、眠りこけていたのか?月には穢れがないため、永琳は生きているだろうが、それにしても、一億年も彼女を待たせてしまっているのか。
「え、どしたの。」
「いや、な、なんでもない。それより、細胞が何なのか、だよな。」
「あ、うん。」
「細胞というのは…」
そこから10分程の軽い説明して、なんとなく理解したようだ。腕を組みながら深く頷き、俺の話を真剣に聞いていた。
「へ~、面白いね。それで『細胞の神』だっけ?カッコイイじゃん。」
ちゃんと伝わったようで何よりだ。自分の中で常識的なことを説明するのは意外と難しいからな。
「ところで、諏訪子も神なんだよな?」
「もちろんですとも。」
「じゃあ、もちろん強いんだよな?」
「まあ、人並み…じゃなかった、神並みには。」
言い淀むことなく、堂々と答えた。それならば神力を感じとれなかったのは、どういうことなのだろうか。
「そうか、それなら軽く諏訪子と戦ってみたいのだが、良いか?」
「いいよー。」
「よし、じゃあ早速…」
言葉の途中で俺は辺りを見渡す。木の匂いがするこの建物で戦いは、流石に気が引ける。というより、最早無礼の域を超えている。
「ここじゃ、ダメだね。違う所でやろうか。」
「そうだね、それじゃあ良い草原が近くにあるから、ついてきて。」
俺は諏訪子に続くように外に出た。彼女の神力のことを知る良いチャンスだ。
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「ここでいいんじゃない?」
「そうだな。」
まわりには建物も何もなく、どこへ行っても太陽の光が照らしてくれる草原が広がっていた。心地よい風が俺の肌を優しく撫でた。ここなら純粋な力を見るのに最適な場所だった。俺と諏訪子は程よい距離を保って相対してる。
俺は転がっている適当な小石を持つ。
「これを上に投げるから、落ちた瞬間スタートな。」
「え、でも、ここ草原だから合図の音聞こえなくない?地面草よ?」
「あぁ、大丈夫。転がってる小石とぶつかる様に投げるから。」
「えぇ…?まぁ、分かった。」
諏訪子は戸惑いながらも了承してくれた。俺は彼女の目を見て準備が出来ていることを確認する。どうやら大丈夫のようだ。
俺は持っている小石を軽く空に向かって投げる。その小石は弧を描き、そして丁度俺と諏訪子の間の地面に着き───
カッと、乾いた音をたてた。
「『冷の細胞』!」
先制したのは俺だった。いや、先制と言うより、威嚇だ。威嚇をするからには相手が予想する力を上回らなければならない。結果的に、俺の威嚇に諏訪子は舌を巻いた。
何をしたか。俺は周囲に生えている草を、『冷の細胞』で凍らせた。ものの一瞬で。
半径10m程の綺麗な円ができ、この空間は一気に冷気を帯び始める。
「どうした、諏訪子?口が開いているぞ。」
「ッ!はあ!!」
諏訪子は気合いを入れるように自分を鼓舞し、先ほどのほんわかした彼女とは打つまで変わって、神に相応しいオーラを、つまり神力をどこからともなくその体に纏い始めた。
どうやら、妖力や霊力のように、常に纏っているものでは無いらしい。感心していると、諏訪子は鉄の輪のような物を出した。あれが武器のようだ。
「これを避けられるかな!」
諏訪子はその鉄の輪を、俺の方へ一直線に投げた。そのスピードは恐ろしく速い。触れていない草が鉄の輪の軌道に沿って散っていた。普通の人間なら当たるだろうし、当たればひとたまりもない攻撃だ。普通の人間なら、だが。
「よっと」
俺は避けずに、その高速に飛んできた鉄の輪を掴んだ。手の平にジリジリとした痛みを感じる。掴んだ衝撃は予想していたよりも少し強かった。
「これは鉄か。諏訪子も能力持ち?」
「そうだよ、坤を創れるよ。」
「なるほど、面白い。」
坤とは大地のことを意味し、彼女は大地を操っているということとなる。使い方によっては非常に化ける能力だ。そう考えながら、俺は掴んだ鉄の輪を諏訪子に投げる。そのスピードは、諏訪子が投げたスピードの凡そ10倍。突風を巻き起こす。
「あぶなッ!?」
流石、神なだけあってギリギリではあるがなんとか避けたようだ。しかし、彼女はそれで安心してしまった。
「諏訪子、もう少し自分の能力に対して工夫をしてみたらいいぞ。そしたら、俺みたいに出来たのに。」
「え?…ッ!?」
俺の言葉に首を傾げる諏訪子首に、俺が投げた鉄の輪が当たる。実は、帰ってくるように工夫をしたのである。鉄の輪を少し変形させ、ブーメランの容量で帰ってくるようにしたのだ。
諏訪子が地面に倒れ、うつ伏せになる。白目を剥いており、気絶してしまったようだ。
「しょうがない、一回神社に帰ろう。」
俺は諏訪子を背負い、神社に帰ることにした。凍った草の上をシャリシャリと良い音をたてながら考える。諏訪子をもっと強く出来ないかと。背中で寝息を立てている少女は、未完成な力であるように思える。これは、指導のし甲斐がある。
凍っていない草を踏み始めた辺りから楽しくなってきたと、ステップを踏みたい気分で帰路に着いた。