俺が諏訪大社で神になってから、丁度499年の月日が経った。体が1億年も眠っていたからか、あまり長いとは思えなかった。何より、諏訪子がとても面白い子であるため、退屈しなかった。しかし、俺も行かねばならない。永琳に、再び会いに行くために。
なのだが───
「
「諏訪子、鼻水垂らしながら抱きつくな。」
「
毎日これを繰り返している。正直面倒だ。いや、もちろん嬉しい気持ちもある。でも、流石に毎日は面倒だ。
「泣くなよ。500年だけって約束しただろ?それに、まだ1年もあるじゃないか。」
「
非常に聴き取りづらい。俺はちり紙を彼女に渡すと、彼女は受け取り鼻をかむ。これで少しはマシになっただろうか。
「だからさ、この1年間で思い残したことをやろうぜ。なにか俺としたいことは?」
「あ"ーう"ーぅぅ…」
諏訪子は少し俯いて考える。鼻をすすり、涙を拭い、思い付いたのか、俺の顔を見上げた。
「な"い"ぃー。」
確かに面倒だとは思ったが、俺としたいことはないって言われると、この俺でも傷付く。
諏訪子の頭を撫でていると、玄関の扉を叩く音が聞こえた。来客だろうか。
「諏訪の神は居るか。」
「少し待っていてくれ。」
言い方から察するに他の地域の神だろうか。涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている諏訪子を見せる訳にはいかないため、俺が代わりに行くことにする。
「はい、どちらしょう?」
「私は大和の神の遣いだ。手紙を預かっている。」
「手紙?」
そう言われ、1つの手紙を渡された。神の遣いは要件を済ませたようでそのまま大和へと帰って行った。俺はとりあえず預かった手紙を諏訪子に渡すとしよう。
「諏訪子、大和から手紙だとよ。」
「ぞん"なごどよ"り…へ?今なんて?」
「大和から手紙。」
「えええええええ!?」
「落ち着け。」
諏訪子は驚きのあまり勢いよく後退していき、障子を破って裏庭までぶっ飛んだ。一体何がそんなに驚くことなのだろうか。大和とは一体なんだ?
「ひーひーふー…落ち着いた。さて、読もう。」
「お、おう。」
彼女のテンションに付いていけないが、諏訪子と一緒に手紙を読むことにした。手紙にはこう書いてあった。
『我ら大和は汝らの国、諏訪の国の信仰を譲渡せよ。でなければ、国を襲おう。』
とだけ、書いてあった。大和が例え物凄く大きな組織であったとしても、この文はなんだろうか?神の依代である信仰を奪うというのは、どういう意味であるか分からないのだろうか。
「………諏訪子、お前には思い残しが無くても、俺にはある。」
「なッ!?零!?」
「出掛てくる。」
「出掛けるってまさか…」
「あぁ、大和に。」
諏訪子は顔を真っ青にして俺の肩を力強く掴んだ。ここまで諏訪子が焦っているのは初めてだ。相当引き止めたいのだろう。
「危ないよ!私は平気だからさ!」
「嘘だな、信仰が無くなれば諏訪子は死ぬ。」
「で、でも…」
「おい、諏訪子。俺を誰だと思ってる?細胞の神様だぜ。安心しな。」
諏訪湖の頭に手を置き、そして俺は瞬間移動で大和へと向かった。
────────────
背の高い建物が並んでおり、永琳が住んでいた都を思い出した。しかし、あの都に比べて少し退化したように思える。最新技術は全て月に持っていったことを示している。
「ここが大和か…『ナビゲーター』。」
脳から波長を出して、帰ってきた波形からどこに誰がいるのかを見る。技名がないのも不便なため、『ナビゲーター』と命名した。
一番大きな建物の最上階、そして手前から3番目の部屋に、
「探知した。『瞬間移動』。」
瞬時に移動し、木造の床を足で踏む。一応の確認で波形を見てみるが、ここが目的の場所で間違いない。目の前には大きな扉がその部屋を隔てており、俺は躊躇なくそれをゆっくりと開く。
中には大男が胡座をかいてお猪口を持っていた。傍にはお酌をしている女性もいる。彼は特に驚く様子もなく、ニヤケ顔で酒を仰いでいた。
「もう来たか。早いな、諏訪の者よ。」
「あぁ、来た。」
「ふん…さて、一応用件を聞こう。」
どうやら、答えは予め分かっているらしい。それもそうか、俺の表情から進行を譲渡する意志など微塵も感じられないだろうから。
「諏訪の信仰を貰うとの事だが、断る。」
「なら攻めこもう。」
「それも断る。」
「ふん、我が儘な神よ。」
「自己紹介か?」
流石に俺の返しに腹が立ったのか、少し睨みながら鼻で笑った。
「自己中心で何が悪い?我はお前らと違って格が違う。お前に何が出来る?」
「お前のような神、幾らでも殺せる。」
「ふむ、なら、殺ってみろ。」
須佐之男は神力と殺気を放つ。確かに、諏訪子など比にならないくらいの力量だった。しかし、これだけか。
「ふはは、どうした。やってみろ。」
「………」
「恐怖で言葉が発せんか。だろうな。お前とは格が違うのだ。お前に力など有るはずが…ぬッ!?」
俺は須佐之男の10倍程度の神力と殺気を放つ。それには奴も眉をひそめた。
「驚いた。我ら上位の神と同等の力を持つと言うのか。」
「まだ1割、こんなのは序の口だ。」
「我は1割も出しておらんかった。」
反論の仕方が子どもじみている。大和の神は皆こうなのだろうか。
「だからなんだ。貴様を殺し、諏訪の平穏を保つだけだ。」
「祟り神の国の神がなにを言う。」
どうやら、埒が明かないらしい。そう思ったのはあちらも同じなのか、何かを思いついたように口を開く。
「ふん…仕方がない。なら、こうはどうだ。大和の神、
「ふぅん…考えさせてもらう。」
「3日後、答えを聞こう。」
「良いだろう。それまでに済ませよう。」
俺は奴に背を向け、瞬間移動で大和から去った。
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諏訪大社の前で、俺はどうしようか悩んでいた。諏訪子に心配をかけてしまった。もしかしたら怒っているかもしれない。衝動的に大和に向かった上に、勝手に話を進めてしまった。
仕方がないか。俺は覚悟を決め、戸を開ける。
「ただいま。」
「れ"い"ぃぃぃ!!」
「うおぉ!?」
中に入るや否や、諏訪子は俺の鳩尾を目掛けて飛び込んできた。衝撃で俺の体内の空気が全て抜け、鈍い痛みが俺を襲うが、何とか持ちこたえる。
「ご、ごめんな?」
「ウワァァァァァン!!」
今日で何度目か。泣きじゃくる諏訪子の頭を撫でる。
一騎討ちの件は、どうしたものか。今の諏訪子では確実に勝てないだろう。とりあえず今はそれ所では無いため、明日にでも話そう。