東方化物脳 Re:make   作:薬売り

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苦い血液を啜る離脱症状 Ⅱ 『不安』

 八雲紫は扇子を閉じると、目を閉じながらその口を開く。

 

「まず、不安要素を潰したい。」

「不安要素?」

 

 俺を見て、まるで「そんなことも分からないの?」とでも言うようにフッと笑う。思わず眉を顰めると、奴は得意気な顔をして続けた。

 

「陰惨異変というは誰かが何者かに囁かれ、暴走してしまう。それは分かるわね?」

「えぇ。」

「そして、その暴走した者は一様にして何か悩みを抱えていたり、若しくは不平不満を抱いているの。」

 

 確かに、お燐や妖夢は悩んでいた。お燐は僕との関わり方、妖夢は師匠の言葉が理解できないということ。しかし、悩みというものは誰でも持っているものだ。バーナム効果と言うやつだろうか、途端にあの得意気な顔が滑稽に思えてきた。

 

「紫。」

「何かしら、零。」

「もう直人君を馬鹿にするのはやめたらどうだ?」

「…分かったわよ。」

 

 なるほど、非常に不愉快だ。

 

「けど、それらを狙った異変であることも事実ではある。データとして、悩みが強いほど暴走の強さを増すことが分かっているわ。」

「…?妖夢はお燐よりも悩んでいた様子でしたけど、お燐の方が凶暴でしたよ?」

 

 そういうと、いきなり隣から横腹にパンチを食らった。ビックリしてそちらに目を向けると顔を赤くして睨んでくるお燐がいた。

 

「妖夢は、まだ囁かれて時間が経っていなかったようね。恐らく、すぐに貴方が暴走を停めたんじゃない?」

「…確かに、ついさっきまで普通の対応だったのに、急に刀を降ってきましたから。」

「お燐も、囁かれた直後は暴走をしていなかったのではないかしら?」

「そ、そうですね…」

 

 つまり、時間が経てば経つほど凶暴になる。そして、悩みが強ければ強いほど暴走する力は増す。それらが相乗効果として現れた場合、計り知れないほどの被害が出てしまう。

 

「だから、不安要素を潰す。」

「そう。貴方達にはこれからその不安要素を孕んでいる所に行ってもらうわ。」

 

 非常に厄介だが、確かに無意識の世界に行ける僕が選ばれるのもわかる。いや、正確にはこの場にいるはずのこいしさんも選ばれているのだろう。

 

「それは何処ですか?」

「場所は『紅魔館』よ。」

「紅魔館?」

「吸血鬼の住む館のことよ。」

 

 和服の妖怪や幽霊ばかり見てきたが、西洋の妖怪もこの幻想郷にいるのか。

 それにしても吸血鬼か。人間ではなくなったため、血を吸われる心配もないだろう。

 

「あそこには吸血鬼の姉妹が住んでいるのだけれど、妹が少し特殊でね。」

「特殊?」

「彼女の能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』というものなの。」

 

 なんともインパクトの強い能力だ。思わず身震いをしてしまいそうだ。

 

「彼女は姉によって地下に幽閉され、暴走しないよう定期的に玩具を与えられ何とか制御をしているわ。しかし、陰惨異変というものがある以上、それで良しとすることはできないわ。」

「そこで、僕らが何かしら不安要素を取り除く。」

「そういうことよ。」

 

 妖怪になったとはいえ、僕らがそれを担うにしては重すぎる内容だ。僕は元々相談役が上手いわけでもないし、聡明な人間だったわけでもない。

 僕が悩んでしまいそうだ。しかし、これも神田零を討つ為の準備だ。やらないわけにもいかない。

 

「分かりました。ただ、念の為お燐に攻撃が及ばないように対策していただけますか?不可侵条約が通じる相手とも限らないので。」

「ふぅん、まぁ、分かったわ。」

 

 隣からキラキラとした視線を浴びせられている気がする。まったく、感情が激しい猫だ。

 

「さて、他に聞きたいことは?」

「紅魔館に住む人達の名前を教えていただいても?」

 

 大事なことだ。これから紅魔館に行くとしても館の主人の名前すら知らないのは無礼にも程がある。

 八雲紫は特に変わらない口調で話す。

 

「紅魔館の住民は───」

 

____________________________________________

 

 夏にもかかわらず涼しさを感じる湖付近、僕は神田零から借りた大きなボストンバッグを持って歩いていた。八雲紫曰く、どうにか泊めてくれるよう紅魔館の主人に頼んだらしい。

 さとりさんからは休暇をいただき、代わりに神田零が脅した妖怪を働かせることになった。しかし、嬉しいことに僕の働きが良いらしく、早く帰ってくれるとありがたいという旨の言葉を頂いた。僕も早く帰りたい気持ちはあるため、さっさと終わらせることを目標にする。

 

「ねぇまだー?」

「もう少し。」

「ぜんぜんじゃん…人型やめるから運んでってよ。」

「自分で歩け。」

 

 適当にお燐の駄々を無視していると、遠くの方に霧に覆われた大きな館が薄らと見えてきた。名に相応しく紅いレンガで構築された西洋風の館だ。

 

「見えたよ。」

「ホント!?もうクタクタよ…」

 

 そういうと、まだ着いてもいないのに猫の姿に変わるお燐。注意するのも面倒なため、仕方なしにその状態のお燐をボストンバッグの上に乗せて運ぶ。

 徐々にその館は大きくなっていき、最終的には見上げるほどに高く、視界に入らないほどに広く聳えていた。

 

「地霊殿くらいの大きさかな…」

 

 そんな感想を述べていると、真正面の方向から声がかかる。

 

「あれ、もしかして八雲紫様から遣われた方ですか?」

 

 非常に不愉快な文章ではあるものの、その声の主には悪気は無いため歯を食いしばって反応する。

 

「そうです。」

「あぁ、お待ちしておりました!ようこそ紅魔館へ、私は門番をしております『紅美鈴』と言います。」

「上嶋直人です。それと、この猫は火焔猫燐ですね。」

 

 そういえば、誰かと会う時は毎回お燐が猫になっている気がする。その所為で僕がお燐の紹介をしなくてはならないのが、何となく腹立たしい。

 

「えっと、ししょ…じゃなかった。神田零様はご一緒ではないのですか?」

「いえ?」

「そうですか…」

 

 言いかけたことから考えると、美鈴さんの師匠なのだろう。あんな奴の弟子と思うと少し離れたい気持ちが湧く。僕がその師匠を討とうとしているのだから。

 

「あの、中に入ってもよろしいですか?」

「あ、そうですよね!どうぞどうぞ…よろしければ荷物を持ちますよ。」

「では、よろしくお願いします。」

 

 一度ボストンバッグを地面に下ろし、それの上に乗っているお燐を抱えて美鈴さんに持ってもらう。

 あんなに怯えていたとは思えないほどグッスリと眠っているお燐にため息をつきながらも、案内する美鈴さんの後ろに付いていく。庭は噴水があったり美しい花が咲いていたりと、これまた感動するほどの景色だった。

 ふと視線を上げると、4階の窓から翼の生えた人影が見えた。暗くてよく見えないが、その人は僕らを見ているような気がする。不意に悪寒が走り、目線を逸らした。

 

「さて、紅魔館に入る前に一つご忠告があります。」

「なんでしょう?」

「紅魔館のご主人様は、例え八雲紫様の遣いの方であろうと機嫌を損ねてしまえば許されることは無いでしょう。どうかご無礼のないよう、よろしくお願いします。」

 

 先程の悪寒も相まって、その忠告を真摯に受け止める。不安があるとするならば、この猫だ。

 

「…わかりました。」

 

 僕が頷くと、美鈴さんはニッコリと笑う。

 

「それでは改めて、ようこそ紅魔館へ。」

 

 そうして、玄関の扉が開かれた。

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